前回は、「『独自性』が見つかる消費者調査」の前編として、「Authenticity(本物)」、「Relevance(つながり)」、「Differenciation(差別化)」を導き出すために、どう定量調査を利用すべきかについて説明しました。

今回は、特に「Authenticity(本物)」、「Relevance(つながり)」を見出すうえで、どのように定性調査を活用できるかについて説明します。

▼前回の記事▼
その数値は何を意味する?『独自性』を見つけるための「定量調査」とは

定性調査の特徴

すでに設計された質問項目に回答していってもらう定量調査とは違い、インタビュー形式で行われる定性調査は、会話を通じて質問をしていくため、臨機応変に質問項目を追加できます。しかし一方で、インタビュアー(以後「モデレーター」)のスキルに依存する部分が非常に多く、モデレーター自身がそのインタビューから最終的に「どのような情報を得たいか」を明確に理解できていないと、本質的に必要な情報が手に入らないまま終わってしまう危険性があります。

また、消費者にだけでなく社員に対して定性調査を行うことで、ブランドに対する消費者と社内との間にある認識のギャップを見出すことができます。このギャップをしっかりと把握することで、消費者に対して発信するコミュニケーション・メッセージを、より効果的なものへと改善することが可能になります。

「Authenticity(本物)」を社内外から見つけ出す

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『Authenticity(本物):社内で保有する事実と能力に基づく明確な物語や根拠があり、且つ消費者の持つ(高い)期待に応えられるレベルのバリュー・セットを持っている』

「Authenticity(本物)」を見極めるには、2つの側面から深堀する必要があります。1つ目は「社内で保有する事実と能力」として社内から、2つ目は「消費者の持つ(高い)期待に応えられるレベルのバリュー・セット」として消費者からです。ここで重要なのは、「社内で保有する事実と能力」と「消費者の持つ(高い)期待に応えられるレベルのバリュー・セット」がイコールの関係になっているか、もしイコールの関係になっていないとした場合、どう対処すべきかを理解することです。

「社内で保有する事実と能力」を見つけ出す

社内で保有する事実と能力を消費者から聞き出すことは、残念ながらできません。そこで、社内定性調査(インタビューなど)やワークショップを使って、ブランドが保有する技術や能力を明らかにしていく必要があります。

社内で定性調査やワークショップを行う際に重要なのは、誰を対象とするかです。多くの場合、マーケティング担当や営業担当のみで構成され、結果的にウィークリーの社内ミーティングで出てくる結論とほぼ同じものになってしまうことがあります。そこで、もっと多角的な視点を入れるために現場スタッフや、直接プロジェクトに関わっていない経営者層なども交えて行うことをおすすめしています。

また、*会社の遍歴を知っているという意味でも、経営者層を入れるメリットは大きいです。*ブランドは、長年培ってきた実績に基づいて作りあげられるため、企業がどのような資源に投資をし、どのような技術や能力を伸ばしてきたかを理解することは、非常に大きなヒントになります。

では早速、ブランドが保有する技術や能力を見出していくために、以下の質問に答えてみてください。

1.ブランドの強みを、思いつく限り全て書き出す
2.その強みを育てるために、自社がどのような取り組みを行ってきたか考える
3.その強みを競合他社と比較し、どの点が消費者からより評価されているかを考える

まず書き出した強みのうち2、3を深堀できないものについては、コミュニケーション上の重視度を下げることをおすすめします。それは、「社内で保有する事実と能力に基づく明確な物語や根拠」からかけ離れてしまうからです。

では、ここで出てきた強みを、そのまま消費者とのコミュニケーション上で伝えるべきでしょうか。その判断を下すうえで非常に重要な役割を果たすのが、消費者を対象とした定性調査です。

「消費者の持つ期待に応えられるバリュー・セット」を見つけ出す

消費者に商品やサービスの価値を聞く場合、もっとも分かりやすい方法は競合他社の商品やサービスと比較させることです。消費者は、比較に比較を重ね最終決定を下す傾向があるため、比較できる対象があると、質問に答えやすくなるからです。

ただし、ここで気をつけなければいけないのは、インタビュアーの質問の仕方です。通常仮説を基に行われるため、どうしてもインタビュアーの頭の中には「理想的な回答」が無意識に用意されてしまう傾向があります。そして、その回答に近づけようと、インタビューが誘導的になってしまうことが多々あります。

そこで重要なのは、インタビュアーの選定です。最も避けるべきなのは、ブランドの担当者がインタビューを行うことです。そして理想的なインタビュアーの特徴は、回答者の発言をリピートしたり、「〇〇についてもう少し詳しく聞かせて」など深堀することだけに徹し、あくまでもインタビュー・フローに忠実に従ってくれる方です。

では、どのような質問をすれば、消費者の持つ期待に応えられるバリュー・セットを見つけ出すことができるでしょうか。

1.あなたがこの商品(またはサービス)を選んだ理由を3つ挙げてください。
2.1で答えた特徴のうち、最も評価しているものはなんですか。またその理由についてもお聞かせください。
3.1で答えた特徴は、競合他社の商品(またはサービス)にはないものですか。

なぜ商品やサービスを選んだ理由を3つ挙げてもらうかというと、最終意思決定には「価格」が大きく関わることが多く、本質的なブランドの特徴の話ができなくなってしまう可能性があるからです。また、もし商品やサービスを選んだ3つの理由の中に、社内定性調査やワークショップから出てきた強みが含まれていない場合は、以下の質問を追加でしてみてください。

1.あなたは、この商品(またはサービス)が提供する〇〇についてどう思いますか。
2.この商品(またはサービス)が提供する〇〇は、他社が提供するものと比べでどう違うと思いますか。
3.〇〇をどう改善したら、もっとこの商品(またはサービス)を使ってみたいと思いますか。

もちろんどのような強みが社内で挙げられたかによって質問の仕方等は変わりますが、社内で浮き彫りになった強みが消費者へちゃんと伝わっているかどうかを確認することで、ブランドを強化するうえで必要なコミュニケーション上の改善策が見えてくるはずです。