シナリオは、「筋書き」「脚本」といった意味で一般的に使用されている単語ですが、マーケティングにおいてはどのように活用されているのでしょうか。

今回は、マーケティングオートメーション(MA)におけるシナリオの概要や作り方、効果を出すためのポイントについて解説します。MAを導入し、いざ設定しようと思ったものの、どうしたら良いかわからないという方は、ぜひ参考にしてください。

目次

  1. マーケティングオートメーション(MA)のシナリオとは
  2. MAのシナリオ例
  3. MAのシナリオ設計の手順
  4. MAのシナリオ設計で効果を出すためのポイント
  5. まずは「データ取得のためのシナリオ」を
  6. 効果的なシナリオを作って成果につなげよう

マーケティングオートメーション(MA)のシナリオとは

まずはMAにおけるシナリオの定義や必要性について説明します。

顧客とのコミュニケーションの“筋書き”

MAのシナリオとは、見込み客が購入・成約に至るまでにとるであろう行動を予測し、その行動に対してどのようなアプローチをするかという計画・道筋を示したものです。

その筋書きに沿って、実行するアプローチ内容や発動条件などを設定することで、MAが特定のタイミングで自動的に施策を実行してくれます。

例えば、リードナーチャリングを目的としている場合は、見込み客がフォームを送信した後、数日後にフォローアップのメールを自動で送信するといったことが可能です。

シナリオはなぜ必要なのか?

シナリオが必要な理由は、アプローチをすべきタイミングを逃さず、見込み客を取りこぼさないためです。具体的にイメージするために、シナリオがないケースを想定してみましょう。

【見込み客が自社サービスのWebページを閲覧した場合の例】
見込み客は自社サービスに興味があると考えられるため、すぐにサービス紹介資料をメールで送ることで、より興味が深まる可能性がある。しかし、配信する内容やタイミングを検討しているうちに見込み客の興味が薄れてしまい、機会損失につながってしまった。

このように、シナリオがない場合はアプローチすべきベストなタイミングを逃してしまう可能性があります。一度顧客が興味を持ったとしても、興味をさらに強めるための施策を連続して打たなければすぐに忘れられてしまうでしょう。

MAのシナリオ例

ここでは、マーケティングオートメーションのシナリオ例をBtoBBtoCに分けて紹介します。

BtoB

BtoBのリードナーチャリングを目的としたシナリオの例です。MAから抽出した見込み客の情報をもとにメール配信を行い、そのメールへの反応によって異なるアプローチを行います。

メール本文に担当者の氏名を入れたり、「〇〇様 お申し込みありがとうございます」といった文言を入れることで、反応率の向上が期待できるでしょう。

MAシナリオ例_BtoB.png

BtoC・EC

ECサイトに訪れた見込み客に、商品を購入してもらうことを目的としたシナリオの例です。BtoBの例と同様に、見込み客が起こしたアクションをもとに適切なアプローチを実行することが重要です。

会員登録を促すためのメールを再送する場合は、何度も送ると悪い印象を与えてしまう可能性があります。そのため、再送しても反応がない場合はメールが配信されないよう設定しておくと良いでしょう。

MAシナリオ例_EC.png

MAのシナリオ設計の手順

MAのシナリオを設計する際は、以下の手順で進めていきましょう。

MAシナリオ設計の手順.png

順番に説明して行きます。

1. ゴール・目標を定める

まずは、「見込み客にどんな行動をしてほしいか」というゴール・目標を決めることが大切です。目標を決めることで、配信するコンテンツの内容や行うべき施策の方向性が明確になります。

シナリオの軸をブレさせないためにも、「商品・サービスを購入・契約してもらう」「資料請求してもらう」「無料トライアルに申し込みしてもらう」などのゴールを決めてからシナリオの設計に入りましょう。

2. 「誰に」を決める

次に、アプローチの対象となるターゲットを決めましょう。というのも、ターゲットが明確でないとコンテンツの内容や配信するタイミングなどを決められないからです。

ターゲットを決める際は、マーケティングオートメーションで管理している顧客情報を以下のような観点でグループ分けし、どのグループに対してアプローチするかを検討しましょう。

分類の軸 概要
ライフサイクル 「見込み顧客」「休眠顧客」「新規顧客」など、顧客と企業の関係を表す分類軸
行動 「展示会への参加」「ホワイトペーパーのダウンロード」「メールの開封」など、見込み客がとった行動
属性 性別、年齢、職業、役職、業種、所属部署など、顧客そのものが持つ情報

なお、顧客を分類する際はマーケティングオートメーションのスコアリング機能が役立ちます。スコアリングは顧客の行動に応じてポイントを加点・減点し、合計点で顧客の見込み度を測る機能です。

主観に頼らず効率的に顧客の見込み度を判定できるため、ぜひ活用しましょう。

3. カスタマージャーニーを策定する

ゴールやターゲットが決まったら、カスタマージャーニーの策定に移りましょう。カスタマージャーニーとは、顧客が商品・サービスを認識する段階から、購入、リピート・アップセルなどに至るまでのプロセスを可視化したものです。

顧客のカスタマージャーニーを考慮したシナリオを作成することで、顧客のニーズに合わせた最適なコンテンツを提供できます。

カスタマージャーニーマップの作り方については以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

関連記事:カスタマージャーニーマップとは?作り方や考え方、活用するメリットを解説!

4. 「何を」を決める

続いて、策定したカスタマージャー二ーや「顧客が今、何に興味を持つか」という考えをもとに、配信するコンテンツの内容を検討します。

配信するコンテンツの例は以下の通りです。

コンテンツ 概要
ブランド紹介 経営理念や特徴など、自社に関する情報を紹介
商品・サービス紹介 自社サービスの特徴や他にない魅力、導入事例、無料トライアルの情報などを紹介
ベネフィット 顧客に利益をもたらしたり、悩みを解決したりするのに役立つノウハウ

また、顧客をライフサイクル軸で分類したケースで、それぞれに最適なコンテンツを考えてみましょう。

  • 新規顧客にはブランド紹介でコミュニケーションをとり、親近感を根付かせる。あるいは、新規ならではのインセンティブ情報で特別感を演出する
  • 一般・優良顧客には活動更新の案内を配信し、関係性を維持する
  • 休眠・離反顧客にはインセンティブ情報を配信し、取り戻しを図る

一方的な売り込みのようなコンテンツでは顧客が離れてしまう可能性があるため、顧客が興味を持ちそうな内容を伝えられるようなコンテンツを作成しましょう。

5. 「いつ」を決める

どのタイミングでアプローチを実施するかを決めましょう。見込み客の行動や検討段階に適したタイミングでアプローチすることで、購入意欲の向上が期待できます。

アプローチのタイミングを決める際にも、管理している顧客情報が役立ちます。過去の顧客行動に注目し、「起点行動」から「目標行動」へと自然に移ったタイミングを分析してください。

以下は、起点行動と目標行動の組み合わせ例です。

購入→次回購入
資料請求→購入
Web閲覧→資料請求

起点行動から目標行動に遷移したタイミングからは、顧客が決断するタイミングが見えてきます。過去に多くの顧客が決断しているタイミングの少し前でアプローチをかけるとよいでしょう。

なお、MAを使ってメルマガなどを定期的に配信する場合は、配信する頻度・時間帯といったタイミングも検討しましょう。

6. 「どのように」を決める

最後に、どのような手段で顧客にアプローチするかを決めます。代表的なアプローチ手段は以下の通りです。

アプローチ手段(チャネル) 概要
メール 最も一般的であり、低コストで配信できる
メッセージアプリ・SMS 顧客に親近感を与えやすい
ダイレクトメール メールやメッセージアプリよりはコストがかかるものの、個人や法人が直接手に取れる形で配信できる
アウトバウンドコール 「アプローチできる時間が限られている」「コストが高い」といった問題があるものの、担当者が直接アプローチできるという強みもある
店頭・営業 コストの高さがネックであるものの、条件次第ではそのまま成約に持ち込める可能性がある

チャネルを決める際は、コストと顧客の趣向を検討してください。主力はメールですが、購買意向が高い顧客に対しては高コストなアウトバウンドコールや、訪問営業が有効な場合があります。

MAのシナリオ設計で効果を出すためのポイント

シナリオ設計にはじめて取り組もうとしても、何を意識すればよいのか見当がつかないかもしれません。ここでは、シナリオ設計で効果を出すためのポイントを紹介します。

コスト効率がよいセグメントに注力する

MAのシナリオ設計をする際は、コスト効率がよいセグメントに注力しましょう。というのも、すべてのセグメントに対してシナリオを用意すると、多大なコスト時間がかかってしまうからです。

そしてコスト効率がよいセグメントを見つけるには、「Web上でのアクション」や「オフラインでの接触」といった行動を軸にターゲティングするのがおすすめです。ライフサイクルや属性などでターゲティングすることも可能ですが、これらの情報だけでは顧客の興味関心や購買意欲までは把握しきれません。

【Web上でのアクション・オフライン接触の例】
・サイト訪問
・メール開封、リンククリック
・購買や成約
・問い合わせ
・資料請求、ホワイトペーパーダウンロード
・セミナーやウェビナーへの参加

上記のような行動を軸にターゲティングするとともに、「メール開封・サイト訪問などのアクションが活発な見込み客」や「高い購買履歴を持つ顧客」など、高い効果が期待できるセグメントに注力しましょう。

複雑なシナリオにしない

MAのシナリオを設計する際は、複雑なシナリオにならないよう注意しましょう。

時間や手間をかけて複雑なシナリオを作ると、実装や運用が困難になるだけでなく、シナリオに当てはまる見込み顧客がおらず十分な効果を発揮できない可能性があるからです。

特に、BtoBの場合はBtoCと比べて見込み客の母数が少なく、複雑なシナリオが無駄になってしまうケースもあるため注意が必要です。

そのため、まずはシンプルなシナリオを設計し、運用しながら手を加えていくと良いでしょう。

定期的に分析・見直しを行う

MAのシナリオは、一度設計して終わりにするのではなく定期的に分析・見直しを行うようにしましょう。運用した結果をもとに改善を重ねることで、より効果的なシナリオを作成できるようになります。

また、顧客情報を収集しているうちにターゲットのセグメントが変わった場合には、ターゲット設計を見直すことも重要です。

週次・月次などの頻度で分析・改善を行い、シナリオの精度を高めていきましょう。

まずは「データ取得のためのシナリオ」を

シナリオ設計のためには、豊富な顧客データが求められます。そのため、購入につながるシナリオを設計するための情報が不足していると感じる場合は、まず顧客に行動させるシナリオを設計し、属性・行動データを取得することをおすすめします。

売上には直結しないシナリオかもしれませんが、豊富な顧客データが取得できればそれだけで有益です。

MAツールの力は、管理されているリードの数によって大きく変化します。その後のシナリオ設計に役立つデータが得られると考えれば、コストと手間をかけて「データ取得のためのシナリオ」を設計する価値は十分にあると言えるでしょう。

効果的なシナリオを作って成果につなげよう

MAによってマーケティング業務の多くは自動化されますが、シナリオがなければ意味のない自動化になってしまいます。

ツールによってはシナリオが作りやすいUI設計になっているものもありますが、あくまでシナリオ自体は人間が作るものです。

シナリオはMAツールの価値を大きく左右することを理解し、慎重に設計しましょう。