
MaaSとは? 次世代の「移動」の概念
- 2019年2月4日
- ニュース
国内でもUberが名古屋や大阪で日本企業と提携するなど、ライドシェア(相乗り)サービスが広がっています。
このような新たな移動のサービスは「MaaS(Mobility as a Service)」と呼ばれ、企業や行政がこのMaaSの推進に向けて取り組みを進めています。
今回はMaaSとはどのようなもので、何を実現するのかを紹介します。
MaaSとは
MaaSとは、「Mobility as a Service(=サービスとしての移動)」の略です。
MaaSは発達中の新たなサービスであるため、明確な定義が決まっていません。欧州のMaaS Allianceでは、「Maasは、色々な種類の交通サービスを、需要に応じて利用できる1つの移動サービスに統合することである」とされています。
この定義では、これまでは個別に運営・利用されていた鉄道やバス、タクシーなどの交通手段を、ICTを活用してクラウド化し、1つのプラット
フォーム
に統合することを指します。
一方で各交通手段の利便性を高め、データ連携を可能にする、プラットフォームへの統合を目指していない取り組みも、広義ではMaaSであるとされています。
例としては、自動運転やカーシェア、配車サービスなどが挙げられます。
MaaSが普及することで、利用者は公共交通や民営のタクシーなどから最適な移動手段を検索し、予約・乗車・決済を1つのサービスで完結できます。それぞれのプロセスが1つのサービスで完結することで、利用者は効率的な移動ができるようになるでしょう。
引用:
What is MaaS? — MAAS-Alliance
MaaSが解決する課題
Maasによって効率的な移動ができるようになると、以下のような問題が解決されると言われています。
都市・地域の問題
都市部では、公営、民営問わず移動の効率化によって公共交通機関の利用が増加することで、自家用車による移動が減少し、交通渋滞が緩和されると考えられています。それに伴って自動車の排気ガスが抑制でき、駐車場面積も減少するため、環境への影響が軽減されるでしょう。
一方、地方では人口減少による過疎化により、バスや電車が廃線になったとしても、自動運転のタクシーやライドシェアなどによって交通手段の維持が可能となります。
公共交通機関の運営効率向上
北欧などの都市では公共交通機関へのアクセスの悪さが課題となっており、MaaSによってこの課題が解決するとされています。公共交通機関のアクセスが増加することで、運賃収入が増加し、税金による公的資金の投入を抑えることができます。さらに、鉄道の維持が難しい地域で路線を廃止し、浮いた費用を自動運転車などへ投資することで、より効率的な運用ができるようになります。
個人の利便性向上
個人のMaas利用者は、複数の交通機関を1つのプラットフォームから利用できるようになることで、最適な移動経路を検索でき、支払い方法も統一されるため、よりスムーズな移動が可能になります。また、自家用車を所有する必要がなくなるため、維持費の負担が削減されると考えられています。
海外のMaaSの事例
MaaSは海外企業のサービスが発祥であると言われており、フィンランドやイギリス、ドイツなどでは、すでに統合型のプラットフォームが提供されています。
フィンランド「Whim」
Whimとは、フィンランドのスタートアップ「MaaS Global」社が提供するプラット
フォーム
サービスです。
2016年にヘルシンキで実証実験を行った後、正式にサービスを開始しました。2018年4月にはイギリスのウェストミッドランドにおいてもサービスを展開しています。
Whimでは電車やバスなどの交通機関のほか、タクシーやバイクシェア、徒歩、自転車などを交通手段として提示し、最適な移動手段を選択できます。検索・予約・乗車・決済までをスマートフォン1つで利用できるなどの利便性が利用者の増加に寄与しています。サービス開始後、公共交通の利用割合が48%から74%へ増加し、自家用車の利用率は40%から20%へ減少したとのことです。
サービス普及の背景には、フィンランドの主要大学やタクシー協会、民間企業など100以上の団体・組織が加入するITSフィンランドや運輸通信省などの協力があり、官民が一体となった体制構築があります。
参考:
総務省 次世代の交通 MaaS
国内のMaaSの事例
日本国内では統合型のプラットフォームのサービスは開始されていませんが、自動車メーカーや鉄道会社などの民間企業と国土交通省など、官民の双方でサービスの実現に向けた取り組みが始められています。
日本政府の取り組み
2018年6月に閣議決定された「未来投資戦略2018」では、重点分野の1つとして「次世代モビリティシステムの構築」が示されています。東京オリンピック・パラリンピックを見据え、2020年の無人自動運転サービスの実現を中心に、様々なモビリティ手段のあり方と共に、統合型サービスの実現化に向けて制度整備などが進められるでしょう。
参考:
未来投資戦略 2018
自動車メーカーの取り組み
トヨタ自動車は2018年1月にモビリティサービス専用電気自動車(EV)「e-Palette concept」を発表しました。移動といった本来の自動車の用途だけでなく、物流や物販など様々なサービスが自動運転によって提供されるようになります。自動運転を見据え、様々なサービスを提供する事業者が利用できるプラットフォームの構築を推進するとしています。
また、ソフトバンクと自動運転車を利用した移動サービス事業「MONET Technologies」を共同設立し、ソフトバンクの「IoTプラット フォーム 」と連携したMaaS事業を推進しています。利用者の需要に合わせた配車サービスなどを、全国の自治体や企業向けに展開していく予定です。
参考:
CES 2018 トヨタプレスカンファレンス豊田社長スピーチ
ソフトバンクとトヨタ自動車、新しいモビリティサービスの構築に向けて戦略的提携に合意し、共同出資会社を設立
鉄道会社の取り組み
小田急グループでは、「小田急MaaS アプリ 」の開発を進めており、スマートフォン アプリ を通じて鉄道やバス、カーシェアリングサービスの利用を可能にするだけでなく、目的地の飲食や宿泊の予約決済までを一括して提供するサービスの構築を目指しています。
また、JR東日本では利用者が様々な交通機関をシームレスに乗り継げるサービスの実現に向けて、120を超える企業や団体が参加する「モビリティ変革コンソーシアム」を立ち上げました。
参考:
「小田急MaaS」に関する企業間連携について
モビリティ変革コンソーシアム
これからのMaaS
スウェーデンのチャルマース工科大学の研究者は、MaaSを統合段階に応じて0〜4までの5段階のレベルに分類しました。
最も統合が進んだレベル4では、「都市計画やインフラ整備、
インセンティブ
などの施策が一体となって立案されている状態」とされています。現状ではこのレベルに該当するサービスや都市はまだありませんが、今後はこのように各サービスだけでなく社会全体として、「移動」のプラットフォームが構築されることが予想されます。
こうした社会全体を巻き込んだプラット フォーム 構築のためには、各事業者が連携し、さらに官民が一体となった取り組みが必要となります。各事業者が連携に必要なデータのオープン化を進め、法令の一元化を進めることが求められていくでしょう。
引用:
http://www.tut.fi/verne/aineisto/ICoMaaS_Proceedings_S6.pdf