「売らない店舗」が増えていることをご存じでしょうか?ネットショッピングが普及して通販サイト経由の購入が増加したことにより、リアル店舗の立ち位置が変わりつつあります。「店舗で実物を確認してからネットで買う」という購買行動が若い世代を中心に広まり、店舗が通販サイトの販促として活用されるケースが増えているのです。

こうした流れを受けて誕生したのがショールームとして機能している売らない店舗です。販売を目的としておらず、サンプル品などを置いて顧客の反応をリサーチすることもあります。今回は「売らない店舗」の戦略について、実例をもとに紹介します。

GU

ファーストリテイリングのカジュアルブランド「GU」が原宿に出店した「GU STYLE STUDIO」には、在庫もレジもありません。その実態は、デジタル技術を駆使した通販サイト連動型店舗です。

スタイリッシュなセレクトショップのような見た目で、自分に似せたアバターでコーディネートを試すことができます。もちろん実際に試着も可能で、試着室に持ち込んだ商品を無線タグを通じて試着室内のセンサーが読み取り、GUアプリに自動表示します。試着して気に入ったら、アプリ上でそのまま購入でき、最短で翌日に自宅へ配送されるという仕組みです。

実店舗と通販サイトを融合させることで両方のメリットを享受でき、「ネットショッピングのように手軽に実物を試す」ことが可能になります。「いちいち試着するのはめんどくさい」「服を持って帰るのが大変」といった不満を解消し、スムーズな購入を実現した新しいサービスで、インターネットの販売拡大につなげられるでしょう。

マルイ

氷河期に突入した百貨店業界では「マルイ」が売らない店舗を展開しています。以前から若者世代に向けたファッションを扱っているマルイは、現代の若者の購買スタイルに適応しなければ売り上げを維持できません。ネットショッピングが主流になりつつある若者が利用しやすいよう、新しく「デジタル・ネイティブ・ストア」をコンセプトに掲げ、売らない店舗を誕生させました。

たとえば、新宿マルイアネックスで電子ペンを扱っている「ワコム」直営店では商品は購入できず、体験だけ可能。実店舗をショールームのように活用しています。マルイは駅前の一等地にあるので、集客力は抜群です。店舗側からすれば「一等地で高い露出度を持ち、認知拡大や興味喚起に重点を置ける百貨店」として優位性を高め、購入はネットに誘導するという新しい形でビジネスの幅を広げています。

蔦屋家電+

「蔦屋家電+」もショールームとして機能している売らない店舗です。目的はマーケティング調査で、蔦屋家電+の店員がお客からニーズを引き出し、メーカー側の商品開発・改善に生かす仕組み。売り上げノルマがなくメーカーのスタッフでもないため、極めてフラットに第三者的な立ち位置でお客と接することができ、よりリアルな顧客ニーズを収集します。

商品の売り上げはすべてメーカーの取り分になり、蔦屋家電+は家賃収入を得るモデル。AIカメラが設置されていて、正確なマーケティングデータを分析できるのもメリットです。とても精度が高く「20代女性」「商品〇〇滞在時間●秒」といったデータも集められます。かなり精密なデータが取れるため、一般的な家電量販店より高い坪単価ですが、それでも高い人気を誇るとのこと。新商品が売れるかどうか確認するテストマーケティングに活用されるケースも多いようです。

ビッグカメラ

ビッグカメラは同様に体験に特化した売らない店舗を「ビッグカメラ・ドット・コム」を大阪府の商業施設に立ち上げました。やや小さめの店内ですが、あらゆる実機を試すことができ、約6,000枚ものQRコードで通販サイトへ誘導します。電子値札は通販サイトと連動していて、本部が価格変更すれば一括で反映されます。

最近の消費者はスタッフの接客トークよりも口コミを信頼しており、購入の判断基準は口コミになりました。実際に商品を試しながら通販サイトで口コミを調べることで、安心して商品を購入できるでしょう。通販サイトでの購入数が増え続ける今、実店舗の満足度を上げることと同じくらい「通販サイトで買いやすい環境を整え、販促に生かす」ことが重要になっています。実店舗が通販サイトの販促として活用されるケースは今後も増えていきそうです。