SaaSビジネスの事業効率性を測る重要指標のひとつである、LTV(顧客生涯価値)。その意味や算出方法など、最低限知っておきたい基本知識を解説します。

目次

  1. LTVとは
  2. LTVがなぜ重要な指標なのか
  3. LTVの計算方法
  4. LTVを高めるメリット
  5. LTVを高めるには
  6. LTV向上の成功事例
  7. LTVと関連する指標
  8. LTVの基礎をおさえて適切な施策実行を

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SaaSビジネスの重要指標とよくある疑問

SaaSビジネスの重要指標とよくある疑問

単なる用語集ではなく、よくある疑問への答えや、各指標を改善するためのポイントを、図解を交えてゼロからわかりやすく解説しています。

LTVとは

LTVLife Time Value:顧客生涯価値)とは、SaaSビジネスにおいては1顧客から契約期間中にもたらされる利益の平均値を表す指標のことで、SaaSビジネスの事業効率性を測る重要指標のひとつです。

LTVはもともと、1990年代頃のダイレクトマーケティングの世界から生まれた考え方です。当時は、売り切り型のビジネスにおける継続購入や、関連製品の購入などを測る指標でしたが、SaaSビジネスのサブスクリプションモデルにおいては、取引開始から終了までの間にもたらす利益を算出した数値を指し、事業の効率性を判断する重要KPIとなります。

LTVがなぜ重要な指標なのか

LTVは、1顧客の契約終了までの収益平均値を算出できるため、顧客保持の施策が事業として機能しているか、ビジネスとしてきちんと利益を出し成り立っているかの判断基準として重要視されています。

例えば、マーケティング施策が好調で月次経常収益が伸びていても、裏では解約率が上がり、結果としてLTVが下がっているかもしれません。そうした、単一指標では捉えにくい事業効率性を判断できます。

● LTVを意識するタイミングは?

ただし、ビジネス初期は顧客数が少なく数十社の場合は解約率も安定しないため、指標としては参考にしづらいという懸念があります。そのため、ビジネス開始後、顧客獲得効率や解約率がある程度安定し、事業が軌道に乗ったタイミングで指標として意識するのがよいでしょう。

LTVの計算方法

LTVは、求める値によってさまざまな計算方法がありますが、代表的な算出式は以下のようになります。一般的には、すべての顧客の平均値を基準に算出します。

LTV =(1ヶ月など期間単位ごとの)1顧客の平均売上金額 × 粗利率  ×  平均継続期間

図_LTVとは.png

1顧客の平均売上金額は、「ARPU」「 ARPA」「 1顧客あたりの平均MRR」のいずれかを用います。

ARPUは「1ユーザーあたりの平均売上金額」、ARPAは「1アカウントあたりの平均売上金額」です。1ユーザーごとに収益を考えるか、契約者(アカウント)ごとに収益を考えるか、というビジネスモデルによって、どちらで算出したほうがいいかが変わります。

MRRは「月次経常収益」で、1ユーザーあたり・1アカウントあたりの値ではないため、使う場合は「1顧客あたりの平均MRR」を用います。

なお、期間想定がなく平均継続期間がわからない場合は、解約率がわかれば「1/月次解約率」の式で平均継続期間(みなし契約継続期間)が推計できるため、

計算式は LTV = 1顧客の平均売上金額 × 粗利率 × 1/月次解約率  となります。

LTVを高めるメリット

LTVを向上させると、安定した利益確保が見込めるというメリットがあります。将来的な利益確保は、実施できるマーケティング・営業施策の選択や、先行投資をするべきかの判断に影響します。

マーケティング・営業施策の選択肢が広がる

LTVが伸びていれば将来の売上が見込めるため、コストをかけた良質なマーケティング・営業活動がしやすくなります。例えば、LTVが低い状態だと将来見込める売上も少ないため、顧客獲得にコストが割けず、リスティング広告のみなどの単一施策に留まってしまいます。
一方で、LTVが伸びていれば、広告に加えてイベントを開催したり、コンテンツ制作などの顧客施策に予算を投資できます。
また、LTVを把握することで、CPA(顧客獲得単価)として設定できる限界値の目安がわかり、正しく目標設定ができます。

先行投資ができる

LTVが伸びていれば将来の売上が見込めるため、売上原価を増やし、プロダクトの開発体制を増強して追加機能開発などの投資ができます。

LTVを高めるには

LTVを高めるには、計算式からもわかるように「1顧客の平均売上金額を上げる」「粗利率を上げる」「平均継続期間を伸ばす」のいずれかです。

1顧客の平均売上金額を上げるには

  • 商品・サービスのオプションメニューを作る
  • アップセル・クロスセルを行う
  • 商品単価を上げる
  • エンタープライズ企業を対象にする

粗利率を上げるには

  • 原価費用で削減できるものがないか見直す
  • 業務効率化する

平均継続期間を伸ばすには

  • Churn Rate(解約率)を下げる
  • オンボーディングに力を入れる
  • 解約率が低いセグメントに集中する

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SaaSビジネスの重要指標とよくある疑問

SaaSビジネスの重要指標とよくある疑問

単なる用語集ではなく、よくある疑問への答えや、各指標を改善するためのポイントを、図解を交えてゼロからわかりやすく解説しています。

LTV向上の成功事例

LTVを向上させるには、顧客のニーズをとらえ商品・サービスに反映させることが重要です。SaaSビジネスではありませんが、LTV向上に成功した事例を紹介します。

KIRIN Home Tap(キリンビール)

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「KIRIN Home Tap」は、毎月2回ビールが届くキリンビールのサブスクリプションサービスです。定期的に届けるこのサービスは買い忘れの心配がないこと、新鮮なビールを飲みたいという消費者のニーズにも答えています。また、会員だけが飲める限定ビールで消費者に「特別感」を与え、リテンションマーケティングでも成功を収めています。予約待ちが発生するほどの人気ぶりとなっており、安定した収益の獲得と顧客のファン化に成功しています。

参考:キリン ホームタップ

Oisix

スクリーンショット 2022-07-23 23.26.41.jpg

「オイシックス」は、安心・安全にこだわった食材の定期宅配サービスを行うことで定評があります。企業としてマーケティング方針を「長く続けられる仕組み」と掲げ、消費者に定期便を申し込んでもらうための「お試しセット」を展開、定期便利用者の利用率や購入回数を増加させる施策に力を入れています。退会する会員にはその理由を聞き出し、商品に解決策を反映させるなどの施策で現在では人気商品となるなど、顧客のニーズに寄り添った商品展開をしています。

参考:オイシックス

LTVと関連する指標

CAC(Customer Acquisition Cost:顧客獲得コスト)

新規顧客を1人獲得するために必要としたコストのことです。計算式は次のようになります。

CAC = 獲得に要したコスト(営業・マーケティング・広告費 など)÷ 新規顧客獲得数
CAC(顧客獲得費用)とは?SaaSビジネスの重要指標との関係や計算方法について解説

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SaaSビジネスの現場では、多くの指標(KPI)が共通言語として用いられています。CAC(顧客獲得費用)もそのひとつです。この記事では、CACの定義や重要性、計算方法や最適化の方法について解説します。

Unit Economics (ユニットエコノミクス)

ユニットエコノミクスは、SaaSビジネスの採算性や健全性を測るための、最重要KPIとなる指標です。LTVをCACで割って求めます。

ユニットエコノミクス = LTV ÷ CAC

一般的にユニットエコノミクスの目標は3以上とされています。数値が低い場合は、収益性が悪化しているという評価ができる反面、数値が高すぎる場合は新規顧客獲得のコストが生かされていない可能性があり、新たな顧客獲得の機会を失っているという見方ができます。

SaaSの重要指標ユニットエコノミクスとは?計算式や7つの改善方法を解説

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ユニットエコノミクスとはSaaSビジネスの成果を測る重要な指標です。SaaSにおけるユニットエコノミクスの計算式や目安、ユニットエコノミクスを改善する7つの方法についてわかりやすく解説します。

Churn Rate(チャーンレート:解約率)

顧客が自社の商品やサービスを解約した率です。顧客数ベース(カスタマーチャーンレート)と収益ベース(レベニューチャーンレート)で計測します。Churn Rate(チャーンレート)を下げることは、LTVを高める方法のひとつです。

チャーンレート(解約率)はなぜ重要?計算方法や目安、改善方法を解説!

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今回の記事では、チャーンレートの基礎概要を紹介します。計算方法や平均的な数値を説明するので、チャーンレートを分析する際の参考にしてください。

LTVの基礎をおさえて適切な施策実行を

LTVの考え方を誤っていると、利益が出るどころか損をしてしまう可能性があります。
例えば、5,000円の商品を売るための広告費は5,000円までしか出せない、と目先の利益だけで考えてしまっては、本来もっと集客できるはずの商品でも売り上げが低迷してしまう、という事態が発生してしまいます。

LTVを考慮することで、5,000円の商品を売るために10,000円の広告費を出して集客し利益を最大化する、といった最適な施策を考えることができます。

LTVを考慮することは、ビジネスを飛躍させることにもつながります。
そのためにも、まずは基礎知識をしっかりと固めることからはじめましょう。

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SaaSビジネスの重要指標とよくある疑問

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