マーケターにとってどのようなキャリアを形成していくかは死活問題。キャリアアップを目指すなら手掛ける領域や施策が幅広い企業は魅力的。そんなキャリアのマトリックスの広さを誇るのが、リクルートのマーケティング室です。

今回は2008年にリクルートへ転職し、人材領域において求人メディアやSaaSプロダクトにおけるマーケティングまで幅広く統括する金井統氏に、リクルート・マーケティング室でどのようなキャリアを築かれたのかお話を伺いました。

プロフィール

金井 統(かない・おさむ)氏
株式会社リクルート マーケティング室 中途領域マーケティングユニット ディビジョンオフィサー。
リクルートの人材サービス領域において、タウンワークやリクナビNEXT等の求人メディアに加え、人材サービス領域のSaasプロダクトにおけるマーケティングを統括。ブランディング、プロモーション、SEO、デジタル広告、アライアンス、CRMに至るまでの全ての統合型マーケティングを推進。

リクルートに入社するまでの経緯

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ferret:
はじめに、金井さんがこれまで歩まれてきたキャリアについてお聞かせください。新卒でNTTドコモに入社されたのですよね?

金井氏:
はい。当時、ドコモが行っていた、モバイルのインターネットサービスの先駆けである「iモード」に憧れて、2001年に入社しました。

当初は、モバイル端末の販売企画やマーケティングなどを行い、その後、社内公募に応募して「iモード」の部署に異動。そこでは、iモードのコンテンツ開発を中心に、コンテンツパートナーに対してモバイルに関するビジネスコンサルティング的なことを行いました。

ですがその後、iPhoneが登場したことで、「これはもう時代が変わるな」と思い、もっと幅広いデバイスでのインターネットビジネスに携わりたいと考えたんです。その頃に「それを実現できるのはリクルートに違いない!」と考え、転職を決めました。それが2008年のことです。

マーケター担当は一人?実績を積み上げキャリアの幅を広げる

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ferret:
やりたい方向性があって、自然な流れでリクルートに決められたのですね。転職時には、マーケターを志望されていたのですか?

金井氏:
はい。前職では7年間のキャリアの中で幅広い業務に携わったのですが、純粋に、マーケティングが一番楽しかったんです。やっぱり、楽しいことをやったほうがパフォーマンスは出やすいですよね。

ferret:
マーケティングと一口に言っても、『じゃらん』『リクナビNEXT』『タウンワーク』『SUUMO』など、リクルートは事業領域もプロダクトも非常に多いですよね。当初はどの領域を希望されていたのでしょう。

金井氏:
前職でも様々なジャンルを手掛けていたので、転職時は領域にあまりこだわりはありませんでした。そこで、面接のときに「課題がたくさんあるところに行きたい」と伝えたんです。そうしたら、人材事業に送り込まれました(笑)

その頃にあった、『FromA navi(フロム・エー ナビ)』のマーケティング担当になったんです。当時はリーマンショックの直後ということもあり、営業もマーケティングも現場は混沌としていて。そんななか、その部署のマーケティング担当は私ひとりだけという状況でした。

ferret:
いきなり大変な状況でしたね。そんな中で、どのようにキャリアを積まれてきたのでしょうか?

金井氏:
リーマンショック後の景気回復に伴って、求人需要も回復してくる中で、マーケティングによる集客ニーズも上がってきました。そこで応募数がもっと必要だということで、最初は、SEOやデジタル広告、アライアンスなどネットマーケティングのいろいろな手段を用いて、少しずつ応募数を増やしていったんです。

でも、どうしても目標に届かない。このままネットマーケティングの施策を積み上げているだけでは、目標に届かないことがわかり、全体の応募数を上げるにはどうすれば良いかを考えました。

分析して気づいたのは、競合に対しての認知が劣位になっていることで流入数のグロスが大きく減っているという課題でした。その課題を解決する為に、プロモーションテレビCM等起案の検討を開始しました。

ですが、プロモーションへの多額な投資に踏み込むことは、当時の状況下では厳しく、私の提案は「本当にこんなに予算をかけるのか?必要か?」となかなか受け入れられません。プロモーションは大規模投資が必要であり、費用対効果を算出しづらい施策。リーマンショックを経て、コストカットをしていた人材事業にとっては中々踏み切れなかったのです。

そこで、この投資をした場合にはどのような効果が得られるか、応募数がどこまで上がるかなど、すべて分析・シミュレーションし、費用対効果もきちんと計算して、シナリオA・Bの2つを用意しました。この施策を打った場合と打たなかった場合、どちらの未来を選びますか?と説得したんです。

ferret:
緻密な分析と明確な数字で説得されたのですね。

金井氏:
ですが、いよいよプロモーションを開始しようとしていた時に、東日本大震災が起きてしまってすべての広告を止めることになりました。しかし、災害で大変な状況化でも世の中には求人ニーズがあったため、少しでも前に進むためには、誰かがプロモーションを始める必要があるのではないかと、社内で何度も議論しました。

そして、プロモーションを再開することになり、結果として媒体への応募数がシミュレーションを数倍上回ったことから、求人ニーズに応えることができたと実感しました。

この経験から、プロモーションとネットマーケティングの双方をうまく活用すること、成果を出す為には、手段に縛られずに課題に対して必要な打ち手を講じることの重要性を学ぶことができました。

その後、『タウンワーク』や『とらばーゆ』など複数のプロダクトのマーケティングに携わる中でもこれらの経験を活かし、課題をとらえて必要な打ち手を講じて解決の道筋を立てていきました。

その結果、ビジネスやマーケティング環境の変化に伴って、デジタル広告SEO、プロモーション、CRMマーケティング領域における様々な施策分野が広がっていった感じです。

金井氏が描く「掛け算キャリア」とは

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ferret:
転職の経験を通して、リクルートならではの企業文化を感じる部分はありましたか?

金井氏:
転職前には、リクルートに対して、個の強い人が集まって自由闊達な議論をし、色々なことにチャレンジしているという「群雄割拠」のイメージを持っていました。入ってみると、それはまさに当たっていましたが、良い意味で「意外と大雑把なんだな」という印象がプラスされました。

緻密に現状分析や課題の検討をする一方で、役職のある方が「本質的な課題をちゃんと捉えていれば、あとは現場に任せるよ」ということが多いんです。上の役割の人間は、どんな課題があるかを共に考えて、解決に関するところは情報解像度が高い現場を信じて任せる。多分、それがリクルートのボトムアップカルチャーなんですね。

例えば、年間の事業計画があって、そのうち広告宣伝費をこれくらい使い、これくらい応募数をとりましょうという計画はみんなで作り、実際に走ってからは現場に任せる。

目標をどういったHOWで達成するかを考えるのが、現場の面白みでもあります。現在は私もマーケティング全般を統括する立場ですが、数字にはコミットするけどHOWは任せるよというスタンスが大事だと思っています。

ferret:
リクルートでは、現場や個人の裁量権が思った以上に大きく、手掛ける領域や施策もかなり自由で、キャリアプランは多様ですね。

金井氏:
そうですね。基本的に、本人のやりたいことを尊重するカルチャーがあります。プロモーションばかりやってきた人が「プロモーション以外のこともやりたい」と希望すればサポートしますし、我々としてはそれもウェルカムです。

私自身もそうですが、今までやってきた強みを活かしつつ、ほかの強み掛け算をしていくという「掛け算キャリア」が非常に重要だと思っていて。例えば、プロモーションにSEOCRM広告のスキルを組み合わせることによって、どんどんレベルが上がっていく。

そういう意味で、リクルートは、キャリアの掛け算がしやすい環境にあると思います。多種多様な領域があることにより、様々なマーケティング戦略や戦術の違いも学べます。また、マーケティング手法も多様化するのでキャリアのマトリックスが広く、何かをやりたいと望んだ時にどこかで実現できる可能性が高いからです。

プロモーション×CRM、SEO×広告など多種多様なキャリアのマトリックス

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※リクルート・マーケティング室のキャリアのマトリックス。これだけ多様な職種を1つの部署で経験できる。

ferret:
これまで金井さん以外に「掛け算キャリア」を積まれた方はいらっしゃいますか?

金井氏:
たくさんいます。プロモーションで入ってきた人がCRMも手掛けているケースもあれば、SEOで入ってきた方が広告もやりたいと希望するパターンなど、今までやってきた強みを活かしつつ、ほかの強みも掛け算をしていくというキャリアの作り方をしている人が多いですね。

マーケティング領域から飛び出して別職種にチャレンジすることも、その人の“Will”次第でできます。

また、専門領域に特化したスペシャリストになりたいという人にも適しています。先ほどお話ししたリクルート特有の“現状分析の解像度の高さ”によって、デジタル広告SEO、プロモーション、CRMなど、すべてのHOWが磨かれるのです。このHOWと現状分析力が紐づくと、それぞれの専門領域をもっと伸ばしていけると考えます。

チャレンジする人と伴走するリクルートの人材育成

ferret:
はじめての領域にチャレンジしたいという人に、組織やチームでのバックアップはありますか?

金井氏:
はい、今のリクルートでは人材育成に力をかけていて、インプットが充実しています。
インプットは大きく、①経営情報のインプット②研修体制③フィードバックの3つがありますが、中でも③のフィードバックが最大の特徴かもしれません。

個人的には人が成長するのにもっとも必要なものはフィードバックだと思うのですが、それが自分の上長だけでなく、同期や先輩など多方面から得られる。例えば、隣の先輩を見ていて、「こういう風にやっているの?僕もやったことあるよ。こういう風にやったらもっとうまくいくよ」といったフィードバックをみんなが自然と行う会社なんです。そして、ナレッジシェアにも積極的で頻繁にマーケティング室内で行われています。

さらに、新卒の方にも中途の方にも担当メンターをつけます。上長以外にもメンターがセットとなり、きちんと一人立ちするまで伴走するという体制です。

ferret:
上長が指導するのではなく、同じ視点で伴走していくんですね。

私は、この時代において、役職というよりは役割だと認識していて、役割による上下関係の意識はあまり強くもたない方がいいと思っています。というのも、昔と違って、経験と実力の比例関係が少々崩れ、経験というものが必ずしも強みになるとは限らない時代がきたと思うからです。

非常にデータ分析に長けた人がいても、プログラミングコードをものすごく書ける人が入ってきたときに、その分野では敵わないかもしれない。そうなると、経験値を基にした上の役職の人間が全部を教えるというよりは、個の強みを引き出す役割というように置き直したほうがいいのではないかと。

ferret:
個人の裁量権が大きい分、失敗した時の責任も大きいように思うのですが、リクルートでは、失敗に対してシビアですか?

金井氏:
いえ、リクルートではあまり「失敗」という言葉を使いませんし、きちんと考え抜いて行った施策の結果であれば、失敗自体を責めることもほとんどありません。

私がよく言っているのは、「成功か学びかどっちかにしよう」ということ。もちろん成功しても振り返りますが、失敗したときの学びこそが自身の成長に寄与しますし、成功確率を上げていくことになるので。

それに、上の役割の人たちもみんなそれぞれしくじってきています。それを自認しているからこそ、人を責める気にはならない。

私自身も、マーケティングをやらせていただいている中で、それなりの額の広告費を扱ってきたと思いますが、そのうち8割くらいはしくじったといっても過言ではないかもしれません。振り返ると、「もっとうまくできたのでは?」と思ってしまうんですよね。

リクルートのマーケティング室だからできるやりがいとは

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ferret:
リクルートは他にない大規模な案件を手掛けられる印象ですが、どんな点が魅力だと感じますか。

金井氏:
私自身、マーケティングをする上での恩恵として実感しているのは、「データの量」と「広告投資の量」の大きさです。この2つの量が大きいほどマーケターが育つと考えています。データの量が増えることで分析や把握することが増え、学びの総量が変わってきます。そして、広告投資の量が大きければ大きいほどフィードバックも大きくなります。

さらにもうひとつ、リクルートの強みは、コーチの量です。パーフェクトな人間なんていませんから、素晴らしいコーチが1人いるよりは、たくさんの人の中から少しずつエッセンスを得られるほうがお得ですよね。リクルートでは、そんなコーチとなり得る人が非常に多いと思います。

ferret:
手本となる優秀な先輩、同僚がたくさんいるという環境的な強みがあるのですね。そのような環境において、金井さんご自身の強みの変化はありましたか?

金井氏:
一番の変化は、課題解決力がついたことだと思っています。私なりの解釈では、リクルートの大きな強みとして、“緻密な現状分析によって課題提起を間違えない”という点が挙げられると思っています。

戦国時代に例えると、戦の際に攻める方向が平地であれば「騎馬隊を行かせよう」と判断する武将がいるとします。ですが、リクルートの場合だと、「あそこは平地だけれど、石がどれくらい転がっていて、草がどれくらい伸びている?ぬかるみはある?川の長さは?」といった非常に解像度の高い現状分析をする。それによって課題の抽出を間違えずに正しい戦略を打てるのです。それらの観点を身に着けることで、課題解決力が鍛えられたと思います。

一緒に働きたいと思える人物像は“前のめりな人”

ferret:
金井さんご自身は、今後どのような人と働きたいですか?

金井氏:
そうですね、チャレンジに対して“前のめりな人がいいですね。リクルートのマーケティング室は、非常に変化の速い事業領域でのマーケティングを担うので、その変化を受け入れて少し前のめりにチャレンジしていこうと思える人のほうが、カルチャーフィットすると思います。

スキル面で言うと、何か一つでもいいのでこれができます!と言える人。なにも「SEO日本一」といった高いスキルを求めているわけではなく、「僕はSEOでこういう仕事をここまで考えてやってきました」と、自分なりの論を持つまで頑張ってきた方というのは強みになると思います。

ferret:
転職を考えてはいても、踏み切るのに躊躇している人も多いと思います。そんな方に、ご自身の転職経験や多くの採用面接をされてきた中で、アドバイスをされるとしたらどのようなことでしょう?

金井氏:
1つ目は、今いる自分移った時の自分という短いスパンではなく、転職して3~5年後の自分が成長しているのかどうかを考えてみては、ということですね。

もうひとつは、あまり失うものを気にしなくていいということ。例えば、とても福利厚生のいい会社に勤めていて、転職によってそれを失うことを考えると躊躇してしまうかもしれません。ですが、小さく失うものよりも3~5年後の自分をもっと大きく成長させることに向き合ったほうがいいと思います。

何も失わずに転職することなどほぼないと思うので、得られるものに目を向けたほうがいいのではないでしょうか。

ferret:
最後に、金井さんのこれからの目標や、将来的な方向性などがあれば教えてください。

金井氏:
私はまだリクルートの人材事業の中でもやりたいことがあります。ちょっと壮大になるのですが、日本の減りゆく人口の中でも生産性が上がる国になってほしいなと思っていて、そのためには、その人たちの強みを発揮できる環境が重要だと考えています。そして、それが、ジョブの機会と人々とをマッチングさせる人材事業の役割だと思っているんです。

また、その他にも日本で約99%を占める中小企業がもっと元気になってほしいインターネットやテクノロジーの活用によって、規模の大小を問わずビジネスを作り上げる環境が整ってきていると思うので、自分が学んできたことを活かして、何か中小企業のグロースを支援できるようなことをしてみたいなという夢もあります。

ferret:
素晴らしい夢です。リクルートでは、そういった個人の夢ややりたいことを「掛け算キャリア」で描き、それを実現するためのバックアップや環境、体制が整っていることがお話をお聞きしてよくわかりました。本日はありがとうございました。

インタビューを終えて

お話を伺う前のリクルート・マーケティング室は、大企業にありがちな一つの分野のみ担当する分業制の印象でした。しかし、インタビューを終えて、全く真逆の自由なキャリアのマトリックスが広がっていることがわかりました。「もっと大きな案件を担当してみたい」「自身のキャリアの幅を広げたい」などと自分を成長させたい方は、リクルート・マーケティング室でチャレンジしてみてはいかがでしょうか。