「声の ブログ」Voicyが伸びている。立ち上げからわずか3年で累計利用者数250万人を突破し、今年の2月にはベンチャーキャピタルや電通・TBSなどの事業会社から大型の資金調達を発表。ノンプロモでここまで ユーザーが伸びた背景には、「声」ならではの吸引力や拡散性がありました。今回はその秘密に迫るとともに、本格的拡大期に入るにあたってVoicyに必要となるマーケター人材について、また音声メディアではなく「音声プラット フォーム」を作っていくという壮大なビジョンについて、代表取締役CEOの緒方憲太郎氏に話していただきました。

 

インタビュー内容を副音声付きでお楽しみください!

記事中ではお伝えしきれなかったこぼれ話やエピソードが、Voicyでお楽しみいただけます

声のメディア「Voicy」その伝播力の秘密とは

ferret:本日はよろしくお願いします。早速ですが、ここまでの250万ユーザーはノンプロモで獲得されたそうですね。その伝播力の秘密は読者が非常に気になるところだと思いますが、「声ならでは」の何かがあるのでしょうか?

緒方氏
まず1つは日本では完全にブルーオーシャンの誰も入っていない「声」というマーケットを切り拓いたところ。目新しさの中で「これは何なんだ?」って記事やVoicyのまとめサイトがたくさんできたり、どう使えば面白いのかに関しての考察がかなり出ることで自然に伝播していきました。UIも「音声だからこそのデザイン・見せ方」に徹底的にこだわって、記憶に残って一言いいたくなるようなものにしています。

2つめの要因としては*声のメディアならではの「根っこの張ったポジティブな拡散性」*があります。声って熱量や想いが全部届くので、聞いていくうちにどんどん好きになっていくんです。また嫌いな人は途中で聞くのをやめるので、結局好きな人が最後まで聞いて、その感動を広めることでポジティブな拡散が起こっていきます。

それら一つひとつの深いコミュニケーションが積み重なり、「パーソナリティのことをまとめて理解してくれている」心強いファンコミュニティが形成され、伝道師の役割を果たしていきます。そもそもパーソナリティも厳選していて100人に1人くらいしかなれないので、パーソナリティになること自体が話題性につながった部分もあります。

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それら声のメディアならではの*ホットな関係性による「コミュニティマーケティング」*も非常に上手くいっているというのが3つめの要因です。昨年初めて開催した大型イベント「Voicyファンフェスタ」では2,000円のチケット600枚が一週間で完売しました。もともと「有料でも来たい」という人だけを集めたいという意図で2,000円にしたので、イベント前日にクレジットカード決済のキャンセルを出して、キャンセルチケットと引き換えに無料で入場できるようにしました。

その日に「それでもお金を払わせてほしい」と言ってくれたユーザーさんは、既にワンランク上の熱量になっているので「じゃあVoicyを一緒に広めてもらえませんか」と巻き込んでいける。ユーザーさんの熱量の度合いに合わせてサービスへの関わり方を設計することで、その人たちを基点にVoicyのファンコミュニティが広がっていきます。

「今」人々がボイスメディアを受け入れる理由

ferret:iPodが普及した10年前にも、日経ビジネス等の雑誌が一斉にポッドキャストを出した音声ブームがありましたが、その時と比べてさらに今「声」が求められるのはどんな背景があるのでしょうか?

緒方氏
まず(スマホの普及により)何から何まで情報が目から入ってくるので、10年前と比べるとみんな「目」が疲れています。文字や映画を見るのがつらいという人はいっぱいいますが、耳が疲れてもう聞きたくないという人はいない。同時に時間も不足してきているので、「ながら」で享受できる音声がちょうどいい。

またスマホで手軽に「いいね!」ボタンを押し合うだけのライトな人間関係が多くなり、ハートボタン=温かみという社会になってしまった結果寂しさを抱える人が増えてきている。そんな中*「個」の時代が到来し、魅力的な人が台頭*してきているという社会的背景が重なったのも大きいです。声はデジタルロスが少ないと言われていて、その人の(考え方や温かみなどの)本人性がロスされずに伝わるという特性が、それらの流れと上手く交差したということです。
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徹底して「パーソナリティーファースト」にこだわる

サービス設計でいえば普通は「リスナーファースト」が基本ですが、僕たちはその前に「パーソナリティーファースト」に徹底的にこだわりました。とにかく発信者が簡単に使えて面白いコンテンツを作ることに集中できれば、リスナーは聞きたくなる。そのために発信のハードルを徹底的に下げて、台本も準備せず編集もしないで発信できるようにしたことで、逆にパーソナリティの魅力がそのまま出た、というところが非常に大きかったです。

発信を簡単にすれば毎日投稿するようになる、というのはTwitterが証明していたので、Voicyも徹底的にそこを追求しました。結果、普段忙しいが本当に面白い内容を持った人を表に出せたというのも大きいです。経沢香保子さんやイケハヤさん、はあちゅうさんなどブログで強い発信者だった人も、声によって新たな魅力に気づいてくれるファンが増えていきました。文字は読み手によってリテラシーに差がありますが、声は誤解なく伝えることができるので炎上もほとんどありません。

日本においてはいかにこのような面白い話し手を増やすかが課題です。欧米の教育の柱は「リスニングとスピーキング」で、毎週教会に通う中で「自分にいい話は耳から入ってくる」という意識があるのに対して、日本は読み、書き、ときて「そろばん」なんですね。話したり聞いたりというということがまだまだ未開拓なので、そこをVoicyが変えていくようになればいいですね。

次のビジョンは音声のインフラを作っていくこと

ferret:これからのビジョンとしては、メディアだけではなく音声のインフラを作っていくということですが。

緒方氏
最終的には*「声」によってライフスタイルを変えていくこと*を目指しています。実は今家庭の中で「ファーストタッチ戦争」が起きています。昔は朝起きてまずテレビのリモコンだったのが、スマホに取って替わった。さらにスマートスピーカーの普及が進むとスマホを認証したりアプリをタップしたりすることすら不要になります。その時の主役は「」です。今回TBSがVoicyに出資をしたのも、スマートスピーカーに「テレビをつけますか?」と言ってもらうことでファーストタッチがとれるという狙いもあります。

また、スマホだけでなく、その前提の*「文字」自体を声がリプレイス*していくこともありえます。そもそも文字というのは距離や時間の隔たりを埋めるために作られたので、絶対的なものではない。今生まれる子どもは文字検索の前に声で検索して育つ世代ですし、大人だってどんどん文字が書けなくなってきている。

音声メインの直感的なインフラが整ったとき、情報量でも便利さでも劣る文字は一昔前のそろばんや馬車のような存在になっていくことも考えられます。日経新聞とも提携しているのですが、彼らの狙いもまさにここにあります。声が中心の社会になった時にも、ちゃんと日経がポジションをとっていられるように今から準備をしているのです。

ferret:事業を始めた頃は「今さら音声なんてアホちゃうか」と言われたそうですが、300社のコンサルをこなした緒方さんには勝ち筋が見えていたのでしょうか?

緒方氏
そもそも音声マーケットは海外では既にレッドオーシャン化してきていて、Web広告の40%は音声になっていくと言われています。またGAFAのGoogle、Amazon、Appleが投資をし続けていることからも将来性は明らか。日本は少しスマートスピーカーの普及が遅れているのですが、必ず来ます。Facebookが来た時は「実名は日本人に合わない」、iPhoneが来た時も「やはりケータイは二つ折り」とか言ってましたが、今やFacebookもiPhoneも世界のどの国の人達より使っている(笑)

そもそも「声」自体には昔も今も変わらず絶対的価値があります。PHSやポケベルは廃れても、ラジオはなくならないじゃないですか。イチローと会ったら素振りを見たいよりもまずしゃべってみたいでしょう。だから「声」が絶対来る、というのはわかっているので、あとは「価値に気づかせる」だけでいいんです。見せ方が非常に重要になってくるので、これからは優秀なマーケターやPRができる人を積極的にメンバーに加えていこうと考えています。

本格的な「声」の時代におけるマーケターの役割

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緒方氏
声の時代が来ると、マーケティングが2Dから3Dに変わります。企業の社内広報も採用広報も、オウンドメディアも全て声が主体になってくるでしょう。そうなった時にマーケターの果たす役割は代弁者ではなくて、「人」の魅力を引き出すエンタテイナーやファシリテーターのようなものになっていきます。声を中心に扱うことで、マーケターは世の中をよりカラフルにできる。そのさきがけとなれる人を今探しています。

ferret:「ポジティブな感情ベース」の新しい広告メディアをマーケターとして作っていくというやりがいもありますね

緒方氏
そうですね。電通がVoicyに出資をした背景には「PV至上主義からの転換」もあります。KPIに縛られるあまりクリックからのコンバージョンしか議論されてきておらず、これまでのWeb広告はあまりユーザーから愛されてこなかった。一方でVoicyのユーザーを見ると一日平均で44分聴取している。これまでTVCF等が担っていたブランディングは声を使うことでWeb広告でもようやくできるようになる。そのためにはこれからはPVに替わる「コンテンツの消費時間」など、新しい尺度でのメディア価値を作っていく必要があるということです。

声という新しいチャネルが増えるというのは、単にSNSが一つ増えるようなレベルの話ではなくて、手紙からFAXになったり、馬車から自動車になるくらいの話です。今「Google Home」のメディアニュースのうち25%をVoicyで提供しています。日経新聞、毎日新聞、スポ日、ITビジネスニュース、経済のニュース、野村證券など。そういうコンテンツがファーストリーチからものすごく刺さっている、という状況があります。各社とも連携しながら、究極的には「五感のひとつ(=聴覚)を全取りすること」を目指していきます

編集後記

「声はその人の知性やパーソナリティ、魅力が全て伝わるんです」と語る緒方さん自身、文字起こしをした女性スタッフが聴き惚れるほど圧倒的な「声」の魅力をもつ人物だ(緒方さんによる記事の副音声解説はコチラ)。「動画の時代に、本当に音声が来るのだろうか」と半信半疑だった私(とカメラマン)は、取材後の道玄坂ですっかり「声の世界」の住人になっている自分たちを発見した。圧倒的なビジョンと情熱に加え、300社以上の企業コンサル経験を通して磨き上げた勝ち筋を冷静に見極める目を併せ持つ緒方さん。彼のもとで、「世の中をカラフルにする」仕事ができるマーケターは、日本で最もエキサイティングな毎日を迎えることになるだろう。

緒方憲太郎氏プロフィール

関西で生まれ育ち、大阪で公認会計士として働く。29歳で1年かけて地球を2周放浪後、ニューヨークで2年働き、その後東京で数百のベンチャー企業をビジネスデザイン等で支援した後、音声ITベンチャーVoicyを起業。代表取締役CEOとして新しい文化と価値を社会に生む会社を、とにかく楽しく一生懸命働くメンバーと一緒に作っている。

 

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カメラマン/川原崎宣喜
取材・執筆/神保康介