2018年は、「日本におけるオンラインBtoBマーケティング元年」と言われた年でした。元年が明けた今、BtoBマーケについて検索すればまとめ情報は無数に見つかります。でも、マーケティング担当者が切実に知りたいリアルな体験談や等身大のノウハウは、なかなか見つかりません。

そこで本コラムでは、読者に代わって、『ferret』運営会社である株式会社ベーシック 代表取締役の秋山が、活躍するマーケターに突撃インタビュー。BtoBマーケ成功の秘訣を探ります。

今回のゲストは、今年2月に上場を果たした株式会社識学のマーケティング推進室 室長 小川氏です。

プロフィール

小川 大介

株式会社識学 識学開発部 マーケティング推進室 室長
人材業界およびテック系のスタートアップ企業等で10年にわたって法人営業を経験。2016年に識学に入社し、マーケティング未経験の状態からマーケティング担当に就任。現在は室長として、オンライン、オフラインのマーケティング施策全般を見ている。

秋山 勝

株式会社ベーシック 代表取締役社長
高校卒業後、商社に入社。2001年、IT系上場企業に移り、Webマーケティング分野の新規事業企画などを手がける。2004年に「世の中の問題を解決する」をミッションに、株式会社ベーシックを創業。設立以降、50を超えるサービスを生み出し、10件以上のM&Aの実績を持つ。

マーケ経験ゼロの初心者が、マーケ責任者に!?

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株式会社識学 小川氏

秋山:
今日は宜しくお願いします。小川さんと初めてお会いしたのは去年でしたっけ?

小川氏:
ちょうど1年前です。当社の「お客様の声」コーナーに掲載されている、秋山さんのインタビュー動画の撮影のときでした。

秋山:
小川さんは、入社されてどのくらいですか? 入社の経緯なんかも聞いてみたいです。

小川氏:
2016年4月に入社したので、3年経ちました。

当社社長の安藤とは、以前の職場で安藤が営業責任者として在籍しているときに数年一緒に働かせてもらっていました。安藤が退社した後もFacebookで繋がっていたので、識学という会社を立ち上げたことは知っていたのですが、2015年の暮れに突然、「マーケティング担当者を探しているんだけど…」と連絡をもらって驚きました。

当時の私は法人営業一筋で、マーケティング経験ゼロ。マーケのことはもちろん、識学という会社が何をするのかもよくわからない。でも、安藤の下で働いていたときに本当にお世話になったので、安藤には全幅の信頼を寄せていました。「この人が、自ら起業という選択肢を選んでまで広めようとしている識学って、多分間違いないものなんだろうな」と思い、入社を決めたんです。

秋山:
凄い決断ですね。「まさか、その3年後に上場するとは…」という急成長をされていますが、まだ、「識学」について知らない読者の方もいると思うので、簡単に説明してもらっても良いですか?

小川氏:
識学は、人間の意識構造に着目した、「組織マネジメント理論」です。組織の階層と責任を明確にし、それぞれの役割を全うしていけば、無駄のない、生産性の高い組織が作れるメソッドです。
株式会社識学は、そのメソッドを提供する組織コンサルティングを行っています。

上司がマーケのプロセスに、一切口をはさまない真意とは?

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秋山:
現在はマーケ担当者として、どんな目標の下に、どんな働き方をしているんですか?

小川氏:
マーケの責任者として会社の利益を達成するために、「これだけの予算で、○件のリードを集めてくる」という目標が課されています。
目標と予算は決まっていますが、プロセスは全くの自由。上司からは、一切口出しされません。

秋山:
どんな施策をいつまでにやるかは、全て小川さんの裁量次第ということですか?

小川氏:
はい。この役割分担は弊社が提供している、「識学のメソッド」そのものなんです。

識学では、上司の管理は「部下に対して目標を設定し、できなかった場合に次どうするかを約束させること」と位置付けています。
組織の上位者の一番の仕事は、決めることと責任を持つこと。具体的なプロセスは、現場のプレイヤーが自己裁量で決めていきます
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秋山:
上司は、最終的に責任を持つ監督みたいな存在ですね。責任を負う監督がいるから、プレイヤーはプレイに集中できる。

小川氏:
そうですね。識学はスポーツチームのマネジメントコンサルにも使われているので、監督と選手(プレイヤー)の例えは、しっくりきます。

一見すると丸投げのように見えるかもしれませんが、根幹にあるのは信頼と決断です
お互いに信頼していないとできない。私自身も上司から信頼されていると感じるし、上司を信頼しています。

上司がこれまで正しい決断をしてくれた積み重ねがあるから信頼できるし、新しい課題や施策に取り組むときも余計なことを考えずに、「まず、やってみよう」と思えるんです。

秋山:
なるほど。上司も部下もそれぞれ自分の役割に集中することで、信頼が生まれ、チームとしての総合力が上がるんですね。と言っても、施策のプロセスで迷うこともありますよね?

小川氏:
もちろん迷ったときは、上司の判断を仰ぎます。
目標までの道のりが長い場合は上司に相談してマイルストーンを設定し、小さくステップを刻ませてもらうこともあります。

秋山:
大切なのは、信頼と決断とブレない目標設定ということですね

暗黒時代からの脱出! そして、タレント起用のCM放映へ!

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秋山:
識学さんは、今までどんなマーケティングフェーズを経験してきたんでしょう?

小川氏:
識学のマーケとしては、大きく次の3つの段階がありました。
*「1:メッセージの決定」、「2:マンガを使ったLP」、「3:タレントを起用したCM」*です。

秋山:
メッセージの決定」とは?

小川氏:
入社した2016年当時は、世間的に識学の認知が全くなくて、暗中模索の日々でした。広告出稿先はFacebookに決まったものの、どんなコピーにするかが決まらなくて

そこで、いわゆるABテストをやってみたんです。ポジティブなコピーと、「モチベーション管理はいらない」という扇動的なコピーの2種類のクリエイティブを並走させたところ、扇動的なコピーの方が良い結果が出ました。

しかし、ここからが暗黒時代でした。

秋山:
暗黒時代というと?

小川氏:
LPに飛んだ後、コンバージョンに結び付かなかったんです

当時は、「メソッドを一部でも公開したら、お客様は全てを理解した気になってサービスを利用しないのでは?」と考えて、識学の概要がわかるものを一切出していませんでした。

しかし、それではせっかく誘導してきても、お客様はどんなサービスなのかがわからず、全くコンバージョンしてくれない。

秋山:
僕も最初は、「識学って怪しいなあ」と思っていましたもん。怪しいから妙に気になっていたんですけど、受講には至らなかった。
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小川氏:
そうですよね。そこで、どんなコンテンツを提示すれば良いのだろうと悩みに悩んだすえ、「識学の仕組み図」という、メソッドの一部がわかるものを公開することにしました。

すると、リード獲得件数がみるみるうちに増えて当初の3倍程になったんです。
広告のコピーとLPのコンテンツが繋がり、お客様にどんなメッセージを伝えるべきかが定まった瞬間でした。これが、「メッセージの決定」フェーズです。

秋山:
自分も、実際に識学を受講した経営者仲間の話を聞いた後、すぐに受講しました。中身がわかったから受講が決められたんだと思います。ケーススタディや具体例を見せることは大切ですね。
では、次の「マンガを使ったLP」について聞かせてください

小川氏:
マンガを使ったプロモーションは、広告代理店からずっと提案をいただいていたものの、「識学のターゲットである経営者層に、はたしてマンガが刺さるのか?」と躊躇していました。

しかし、「加速度的な成長を望むなら、もっと何かしなければ」と思い、2017年の11月にマンガを使ったLPを始めたら、リード獲得件数は2倍に、1万円前後だったCPAが6,000円になりました。

お客様の心理的ハードルを下げることに成功したんです。思い切ってやってみたからこそ、得られた結果でした。

秋山:
そして、「タレントを起用したCM」に繋がるんですね。CM制作中に安藤社長が、「どういう結果になるかはわからん」とおっしゃっていたのを覚えています。識学さんとしても、大きな賭けだったんではないでしょうか。

小川氏:
当社は2019年2月にマザーズに上場したんですが、CM放映は、上場を見据えた経営判断でした。
特定のマーケットだけでなく、広く認知してもらうにはどうすれば良いかを考えていたところ、広告代理店さんから提案をいただき、2018年5月に、要 潤さんを起用したCM放映をスタートしました。

秋山:
CM放映に当たり、マーケ担当として反省点や今後の課題はありますか?

小川氏:
効果測定をするために、事前調査をちゃんとやっておけば良かったと思いました。

CM放映の一番の目的は認知です。
認知と理解が掛け合わさった結果、市場のシェアが取れるとしたら、「自社と競合の認知度と理解度はどのくらいなのか」を事前に調べておき、CM放映の前後で比較検証した方が良かったなと。

初心者マーケターがCPAを1/10にできた秘訣とは?

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秋山:
マーケ担当になってから約2年でCM放映を経験したわけですが、CPA等の数値はどう変わっていったんでしょうか?

小川氏:
2016年4月と2018年12月で比較すると、月間獲得リード件数は約10倍、CPAは1/10になりました。

秋山:
マーケ未経験にもかかわらず、そこまで成果が出せたのはどうしてでしょう。 意識して実践したことがあれば教えてください。

小川氏:

  • 「まず、やってみる」を、ひたすら繰り返しました*。
    案ずるより産むが易し。まずは、手を動かしてやってみる。数を打つことを意識して、どんどんPDCAを回しました。

秋山:
1回の施策の予算や期間は、どのくらいなんですか?

小川氏:
新しい取り組みは20~30万円の予算規模で、1~2週間のスパン。予算も期間もミニマムに始めます。
新たな施策を同時に何本も回すと効果がわからなくなるので、同時並行は多くても2本までと決めています。

秋山:
施策を実行するときに、気を付けているポイントはありますか?

小川氏:
施策を走らせる前に、必ず転換率等の目標を決めていることでしょうか。

新しい施策については、パートナーの広告代理店さんと、期限と目標値を握って小さく始めます。
途中で改善案をいただいたら、閾値に達するまで追加・延長することはありますが、基本的に目標そのものを変更することはありません。
最初に評価の基準を決めているので、期限を迎えたときにすぐ○か×かの判断がつきやすく、高速でPDCAを回せるんです。
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秋山:
目標を変えないことと、高速PDCAを回すことは2つセットでやってこそ、意味があるんですね

小川氏:
そうですね。私自身も、上司にコミットした結果を途中で変更することはありませんし、広告代理店さんと決めた目標も途中で変えたりしません。
だから、次々とPDCAを回していっても、終始一貫した姿勢で施策の可否をジャッジできるんだと思います。

秋山:
それは、識学の理論と深く結びついたメソッドですね。では、一般的に真似しやすいところで、初心者マーケターだからできたことはありますか?

小川氏:
マーケの素人だったからこそ、パートナーである広告代理店さんに積極的にアドバイスをいただきました。何も知らない素人がひとりで悩むくらいなら、プロに相談した方が有意義なので。初心者特権ですね。

秋山:
なるほど。これは、初心者でもすぐ真似できますね!最後に、小川さんがマーケで一番大切にしていることは、何でしょうか?

小川氏:
「まず、やってみる」、ですかね。

秋山:
今日は、長時間にわたってありがとうございました。

まとめ

法人営業からマーケティングへ突然の転身。社内にマーケの知識を持つ人間がいないなか、新人マーケターとして2年でCPAを1/10に下げた小川氏の成功の秘訣は、ブレない目標設定と、高速PDCAを回すことでした。

小川氏が高速PDCAを回すために使っていたWebマーケティングツールのひとつが、株式会社ベーシックの『ferret One』。サイト制作から顧客管理まで、その場で対応できるツールです。