BtoBマーケティングが浸透してきた今、各種手法について検索すれば、情報は無数に見つかります。しかし、マーケティング・セールス担当者が切実に知りたいリアルな体験談や等身大のノウハウは、なかなか見つかりません。

そこで本コラムでは、読者に代わって、『ferret』運営会社である株式会社ベーシック パートナーアライアンス推進室 室長の持田が、活躍するBtoB事業者のキーマンに突撃インタビュー。BtoBマーケや営業組織作りの成功の秘訣を探ります。

今回のゲストは、株式会社FORCAS 執行役員CCO(Chief Customer Officer)田口氏。変化するビジネス環境に適応する組織作りに大切な考え方や、過去の経験則によるお話など根掘り葉掘りお聞きしました。

プロフィール

田口 槙吾(たぐち しんご)

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株式会社FORCAS
執行役員 CCO(Chief Customer Officer)

2016年にユーザベースへ参画し、SPEEDAセールスチームを経て、FORCASの営業責任者として着任。クライアントのABM(アカウントベースドマーケティング)の実践支援に従事する。2018年にFORCAS 執行役員 COO(Chief Operating Officer)を経て、2019年よりFORCAS 執行役員 CRO(Chief Revenue Officer)に就任し、2020年7月より執行役員 CCO(Chief Customer Officer)に着任。

持田 雄一(もちだ ゆういち)

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株式会社ベーシック
パートナーアライアンス推進室 室長

求人広告 / SEO / Webマーケティングに携わり営業10年程。アウトバウンド、インバウンド、インサイドセールス、フィールドセールスなど様々なセールススタイルを経験。 ベーシック初のSaaS事業「ferret One」においてセールス部を立ち上げ、LTV最大化のための営業方法を確立。セールス関連のイベントを多数主催/登壇。

FORCASが考える「カスタマーサクセス」は常にプロダクトに帰依する

持田:田口さん、本日はよろしくお願いいたします。田口さんは2016年にユーザベースに参画されたんですよね。

田口氏:はい。ユーザベースに入って約4年、FORCASに入って3年半ほどになります。

持田:田口さんの現在のミッションはどのようなものなのでしょうか?

田口氏:肩書でいえばCCO(Chief Customer Officer)です。簡単に言えばマーケティング以外の全てを見て、顧客満足にコミットしていくポジション、といったところでしょうか。マーケティングチームだけは「セントラルマーケティング体制」として、FORCAS・SPEEDA・INITIAL・MIMIRの4つのBtoB向けの4つのサービスのマーケティングを統合して行っています。

私は、FORCASでのマーケティング以外の、直接の顧客接点を持つカスタマーサクセス部門やセールス部門を統括する立場として、インサイドセールスからカスタマーサクセスまで全体的に管理することで、顧客の満足、顧客のビジネスのインパクトを与えることにコミットしています。

また、2020年7月からCRO(Chief Revenue Officer)からCCO(Chief Customer Officer)に私の肩書が変わったのですが、こちらは「ビジネス的な顧客満足戦略」という枠にはとどまらず、「プロダクトへのアプローチ」をより強化し、インサイドセールスやフィールドセールス、カスタマーサクセスチームのメンバーがプロダクト改善のオーナーになる、といったようなアクションを積極的に行っていきながら顧客満足を高めていく、という意図があります。

SPEEDA/INITIAL/FORCASは、あくまでもプロダクトの会社であり、プロダクトをユーザーと一緒に共創する、という会社の原点を軸に置いたカスタマーサクセスの考えを体現しています。

持田:なるほど。CROとして利益最大化のミッションにチャレンジしている過程で、やはり顧客の成功なくしては自社利益の最大化は成せない、という思考ですよね。だからこそ、顧客の成功に振り切れるように、顧客の声をプロダクトに反映しやすい体制へ変更したのですね。肩書き含めて名前を変えることって顧客への宣言も兼ねてますよね。名前で結構印象決まりますし、大事ですよね。

田口氏:そうですね。やはりこのような考え方の根本には「顧客のビジネスインパクトを上げる」というコア目標があり、そこから逆算したやり方を考えるとプロダクト思考に自然になっていった、というところです。

私自身SaaSの営業のことを「セールス」と呼ぶことにあまりしっくり来ていなくて、何か別の呼び方でこの仕事を表現できたら、と常々思っていて。

持田:「セールス」と呼びたくない気持ちは私もよくわかります。売り込み感ありますもんね(笑)
最近自分が直接行う商談のことを私は「ディスカッション」と呼んでいて、顧客との長いお付き合いの最初の接点としてその時間をとらえるようにしています。

田口氏:その感覚は非常によくわかりますね。BtoB向けのプロダクトを開発・普及していくうえで、ビジネス的なコミュニケーションがいくら上手になっても、プロダクトが顧客のニーズから離れていれば解約は防げないと思っていて、やはり「売る」という短期的な観点ではなく、「プロダクトを共創し、顧客のビジネスインパクトを高める」という中長期的な観点で顧客の満足を追求していくべきだと考えています。

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FORCASの組織立ち上げ時に陥った「セクショナリズム」と解決のために行った思考法

持田:田口さんはFORCASの立ち上げメンバーですよね。立ち上げ時の苦労がありましたら教えてください。

田口氏:そうですね・・・あるあるかもしれませんが、インサイドセールスとフィールドセールスが別のKPIで動き、利害が一致せず確執のようなものが生まれた時期もありました。

持田:それはあるあるですね。弊社でもそのような時期がありました。田口さんはそのような状態をどう解決に導いたのでしょうか?

田口氏:私はまず、共通の目標を持ってもらうことが大切だと考えました。「セクショナリズムに陥ることなく、全体の利益を自分ごととして考えられる」ことって、言葉にすれば簡単ですが、組織に浸透させるのは難しいんですよね。

持田:確かにそれは、「言うは易し、行うは難し」ですよね。弊社も今でも試行錯誤しています。メンバーにそのような「自分ごと化」させるためにしている工夫などありますでしょうか?
 
田口氏:具体的にはインサイドセールスとフィールドセールスを同じKPIにしたこと、そしてターゲット企業を明確に共有したことで同じ方向を目指すようになり、組織間のひずみが解消されてていきました。

その他には、部分最適で考えるのではなく、必ず全体最適の観点で考えようということを伝えています。今日もインサイドセールスチームのメンバーと1on1ミーティングをしました。メンバーのキャリア開発をしていく上で「何が足りないのか?」という議論をする場面は多いのですが、そこでいつも私が話すのは、「経営者感覚を持つこと、そのために自分で事業を所有している感覚を持つこと」の大切さですね。事業を自分で保有している感覚が高まると、自然と自分の役割と他の人の役割の接点や、チーム全体のミッションや、会社全体のミッションとの連動性など、仕事が立体的に見えるようになってくると考えています。

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組織の問題解決力の源泉は「違和感に素通りしないで解決する姿勢」

持田:なるほど、「事業を自分で所有する感覚」が大きなキーワードかもしれません。その感覚が持てると、全体の中の一部として業務を捉えられるようになりますよね。

とはいえ、人から話を聞いてもなかなか自分の習慣や思考が変えられない、と思っている読者も少なくないと思うのですが、田口さんはこのような感覚を持つようになったきっかけはありますか?

田口氏:そうですね、いざ思い出すといつになるんだろう?過去にいた会社での経験でもいろいろときっかけはあるのですが、一番大きいのは、前職での経験かもしれません。

私はインサイドセールスとして入社したのですが、当時の目標は「1日2アポ必達」というアポ数に重きを置いたものでした。そうするととにかくアポを取るようになるんですね。当然フィールドセールスは、顧客のニーズが顕在化されていない状態でお客様に対峙し、受注しづらくなってしまう。アポ数を目標に置いているインサイドセールスとは力学が全く異なり、連携がうまくとりづらい状態でした。

入社して数週間経ったころ、当時の上司とごはんを食べているときに、「今の状況に違和感があるんですよね。例えばですが、インサイドとフィールドが、大きな1つの目標を考えて動けるユニット制にしたほうが良いのではないですか?」と提言しました。「そのアイデアいいじゃん!」という言葉をいただけて解決策を評価され、提言を実行実働し、結果も出し、評価が高まった経験が大きいですね。

持田:入社数週間で組織の構造から違和感に気づき、改善案・解決策を直属の上司に提言する。すごい胆力だと思いますが、田口さんだからできるのでしょうか。そのような「提言力」の源泉は何である、と自己分析をされていますしょうか?

田口氏:自己分析・・・なかなかおこがましいですが、やはりキーワードは「仕事の自分ごと化」です。私には昔から仕事を自分に引き寄せて熱中して取り組むクセがあって、その中で熱中しきれない時ってどこかうまくいってない時なんですよ。その要素があると改善点を考える習慣があるんです。

例えば、学生時代は部活やバンド活動などに熱中していたのですが、試合に負けたら練習メニューを見直したり、楽曲のレコーディングごとに反省会をしたりしていました。抽象度をあげると、それって仕事にもまるまる言えることで、仕事がいつも熱中できる自分ごとなんですよね。

これは、大学在学中から参画していた1社目の経験が大きいかもしれません。事業をまるまる任され、自分の売上が会社の成長に直結する環境で、正解がない中で自分で施策を作って実施していくことがまさに部活やバンド活動のような楽しさがあり、そこで「仕事の自分ごと化」という姿勢は身についたように思います。

持田:さまざまな組織の問題に直面したとき、それを突破する力って「違和感に素通りしないで解決する姿勢」だということがよくわかるエピソードですね。仕事に熱中し、小さな違和感も自分ごととして捉え、アクションすること。こういった姿勢は全ビジネスパーソンに有用な考え方といえますね。

田口氏:あと、2つ目のキーワードとしては、私特有の思考の枠組みかもしれませんが、「ゼロベースで考える」というところがあるかな、と思います。仕事の自分ごと化にくわえて「ゼロベースで考え、既存の枠組みを疑う」ことから始めることで、改善点がよりクリアに見えるという点があります。前職でのインサイドセールスとフィールドセールスのKPIを変えた経験も、この思考が大きいと思います。「今までこうだったから」に固執せず、常にその時の最適解はなんなのか?を探していますね。

また3つ目として、ゼロベースで考えることに付随するのですが、*「一次情報を大切にする」ということを大切にしています。組織をマネジメントする中で、根拠のない憶測や簡単に在りものの言葉でまとめてしまい本質が見えにくくなってしまう場面があります。これも一種の「違和感」の正体ですが、私はそのような状況になることを防ぐために、必ず具体的な一次情報を取りにいき、情報や判断が濁らないようにしています。

例えばメンバーから、「競合がシェアを奪っているから失注した」という報告があったとします。でもそれはそのメンバーがたまたま数件続いただけかもしれない。では実際に何件バッティングしたのか?何件負けたのか?受注できた案件も基本的にはバッティングしていたのか?など事実を確認することで、判断を見誤らないようにするということです。

持田:まとめると田口さんの「違和感に素通りしない姿勢」というのは、

  1. 仕事の自分ごと化
  2. ゼロベース思考で考える
  3. 空気や憶測は排して意思決定するため、一次情報に必ずあたる

この3つの習慣がベースにあるんですね。

田口氏:そうですね。あらためて言語化してみると、特に最初の2つは1社目から変わらない自分の特質のようなものだと思いますね。そもそも現代のビジネスシーンは変化を前提として流れ動いています。

ターゲットややり方は常に変わるので、その変わることを前提に組織設計をすることが大切である、と思っていて、今持田さんがまとめられた3つの習慣は、変化に対応する組織を作っていく上で大切な習慣ですね。

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メンバーにも組織にも「伸びしろ」を意識して提言し、現実化していく

持田:田口さんのような視点を持って組織を見ていったときに、組織の改善点やメンバーの改善点が比較的クリアに見えてくると思うのですが、メンバーの改善点はどのようにフィードバックしてあげているのでしょうか?

田口氏:人間誰でも自分の欠点に向き合うのは嫌なものです。それを他人に指摘されるならばなおさらだと思います。なので、私は「伸びしろ」という言葉をメンバーへのフィードバックにはよく使います。

持田:なるほど。同様のシーンでは「課題はどこだと思う?」という会話が思い浮かびますが、あえて「伸びしろはどこだと思う?」と聞いているのですね。なぜ、「伸びしろ」という言葉を選ばれたのでしょうか?

田口氏:優秀なマーケターって、常に伸びしろを考えるクセがあるじゃないですか。限られたリソースの中でどこに配分すれば売上が伸びるか、つまり、伸びしろのあるチャネルはどこであるか正確に判断して、そこにリソースを投入できるマーケターが優秀なマーケターだと思うんですよ。

その思考を組織開発にも応用してるんです。細かい1on1のコミュニケーションでメンバーを正確に把握し、組織として伸ばすべき個人の伸びしろを本人に「伸びしろ」であると指摘する。この伝え方でメンバーに多くの気づきを与えるマネジメント方法をとっていますね。

また、この「伸びしろ」の考え方は、チームの配分や統廃合などを考えるときにも使っていて、「組織・会社としての伸びしろ」から判断決定をしています。

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組織における「提言力」の大切さ、提言力を鍛えるためのたった1つの方法

持田:管理職でもプレイヤーレベルでもそうですが、組織の中で「圧倒的に仕事を自分ごと化」し「ゼロベースで前提を疑い提言する」能力を磨くことの大切さが、ここまでのお話を聞いていて感じるところです。それでは最後に、提言力を磨く上での田口さんのお考えを教えてください。

田口氏:まず初めに言えることが、「そもそも提言したことがあるのか?」というところです。スタートアップなど比較的提言がしやすい環境ではなく、伝統のある企業に所属していて、決まったやり方を変えにくいカルチャーの中にいらっしゃる方も少なくないかな、と思います。

ただどのような環境であっても、現代の組織づくりにとって違和感や未来に対して「提言」することの大切さが日に日に高まっているのを感じます。

持田:そうですよね。私も日々の仕事の中で感じることが多いです。提言力や自走力は今後のビジネスマンのキーワードだと思います。具体的には、田口さんの提言力はどのような方法で鍛えられましたでしょうか?

田口氏:これはシンプルなのですが「ひたすら数多く提言する」ことに尽きるかな、と思います。私は思いついたときにすぐ提言します。提言したときに上司や仲間から「それは違うよ」と言われてしまうこともあるのですが、「自分が否定された」という考え方にはならず、次の提言を考えていくことの繰り返しです。

一つひとつの他者のコメントをその都度学びにすることで、提言の精度が上がっていきます。
提言した回数に比例して、提言力は上がっていく感覚ですね。

持田:提言を重ねることによって、自分ごと化を越えて、事業が本当に自分のものになってくる感覚でしょうか?

田口氏:おっしゃる通りです。自分で働いている環境の中で、「自分が事業を所有している感覚」を、提言力を磨く中で育ててほしいですね。

持田:シンプルですが、繰り返しやり続けることの力はやはり強いことをあらためて確信しました。

自分が事業を所有している感覚になるまで圧倒的に仕事を自分ごと化し、「違和感」に対して素通りせず、前提を疑いゼロベースで考える。一次情報にあたり、「伸びしろ」を組織にも個人にも見出し、常に新しいことを提言してビジネス環境の変化に対応していく。

私の今後のビジネスマン人生にも有益な内容でした。本日はありがとうございました。

ベーシック持田 あとがき

マネジメントとは「組織に成果をあげさせるための道具、機能、機関」である
by P.F.ドラッカー

田口氏は組織のTOPとして、まさにこの概念を体現している経営者の1人だろう。

  • FORCAS立ち上げ時に発生したインサイドセールスとフィールドセールスの確執をユニット制で解消。
  • CROとなり利益を重視する中であえてCSにリソースを偏らせる差配。
  • サービス特性上、より顧客に入り込んでいく方がサクセスすることが判明しCCOに。

事業フェーズごとのあらゆる問題を俯瞰して捉え、金筋の施策を見つけるまでの素早さと、金脈を見つけた時の深掘り方、またはそのアタリの付け方は、常に現場のことを把握していないとできない芸当だ。

「自分ごと化」という単語が多く出てきたが、仕事を仕事として捉えていない、という印象を受けた。部活、バイト、バンド活動・・・全てにおいて「もっとうまくやるにはどうしたらいいか?伸びしろはどこにあるのか?」を常に模索している。

田口氏にとって、仕事は人生をかけて楽しむゲームなのかもしれない。
だからこそ、もっとうまく、もっと先へ、もっとよくするには、を飽きることなく貪欲に思考し続けられるのかもしれない。

表現の仕方も秀逸だ。「課題」を「伸びしろ」と言い換え、ポジティブに変換する工夫をしている。この対談以降、私も意識して使っているが、思考が変わっているのを感じる。

事業を一から立ち上げ拡大させ、今もなお飽くなき探究心でひたすらビジョンに向かって邁進し続ける田口さんから、学べることは少なくない。