BtoBマーケティングが浸透してきた今、BtoBマーケについて検索すれば、まとめ情報は無数に見つかります。でも、マーケティング担当者が切実に知りたいリアルな体験談や等身大のノウハウは、なかなか見つかりません。

そこで本コラムでは、読者に代わって、『ferret』運営会社である株式会社ベーシック 代表取締役の秋山が、活躍するマーケターや成長企業の経営層に突撃インタビュー。BtoBマーケ成功の秘訣を探ります。

今回のゲストは、Webマーケティングの分析・改善提案ツール『AIアナリスト』を提供する株式会社WACUL(ワカル)の取締役CIOである、垣内氏。所長を務める、「WACULテクノロジー&マーケティングラボ」で発表される鋭い指摘満載のレポートは、業界でも話題です。今回の切れ味鋭いトークも必見。

プロフィール

垣内 勇威(かきうち ゆうい )

現場が語る、BtoBマーケの最前線02.jpg
株式会社WACUL 取締役 Chief Incubation Officer
東京大学経済学部を卒業後、株式会社ビービットに入社。大手クライアントのWeb改善コンサルティングに多数携わる。2013年に株式会社WACULに入社後、取締役に就任。AIを活用したWebサイト分析サービス『AIアナリスト』の立ち上げに関わる。現在は『AIアナリスト』を基盤に新たな価値創造をすべく、新規事業インキュベーションを担う。

秋山 勝(あきやま まさる)

現場が語る、BtoBマーケの最前線03.jpg
株式会社ベーシック 代表取締役社長
高校卒業後、商社に入社。2001年、IT系上場企業に移り、Webマーケティング分野の新規事業企画などを手がける。2004年に「世の中の問題を解決する」をミッションに、株式会社ベーシックを創業。設立以降、50を超えるサービスを生み出し、10件以上のM&Aの実績を持つ。

同じ説明を繰り返すのが嫌で、『AIアナリスト』を作った

秋山:垣内さんは、いつ頃WACULに入社されたんですか?

垣内氏:弊社は2010年に設立していて、私が入社したのは2013年です。まだ、色々と試していた時期で、ほぼ創業期ですね。今はもう、事業も何もかも全然違う会社になっています。

秋山:現在の主力サービスである『AIアナリスト』は、どうやって誕生したんでしょう?

垣内氏:私の、「車輪の再発明はもう嫌だ!」という思いからですね。
以前は株式会社ビービットというWebのコンサルティング会社で、UIUXについて様々な企業の支援をしていたんですが、Webサイトには成功する「型」があります。弊社に移って別のお客様を支援していても、Webサイトの課題はほぼ同じでした。
だから同じアドバイスを、色々なところで繰り返すことになります。15年間Webコンサルティングをやっていますが、ずっと同じ課題を解決し続けているんですよ
ある日、こんな風に世の中が変わっていないことが嫌になってしまったんですよね。
「自分はまた同じこと言っているのに、この知見を得るためにクライアントは数百万円を払うのか」と思ったとき、この非生産的なループを終わらせようと思いました。

秋山Webサイトの同じ課題を解決し続けているというのは、具体的にはどういうことなんでしょう?

垣内氏:あくまで一例ですが…。人材紹介サービスのWebサイトを例に挙げると、「A:求人が見られず、とりあえず会員登録しかできないサイト」と、「B:求人検索ができるサイト」、どちらの方が、CVR(コンバージョン率)が高いと思いますか?
もう、勝ちパターンは決まっているんです。答えは、「A:求人が見られず、とりあえず会員登録しかできないサイト」。
10年以上前から、Aの方が3~4倍もCVRが高いことがわかっています。でも、未だに「B:求人検索ができるサイト」の方が良いんじゃないかと、AからBに戻すケースがあります。

秋山:部門トップの人事異動があったりしたタイミングなんでしょうか。

垣内氏:そうなんですよね。Bで成果が出なかったからAに変えて、数年経ったところに、事情の知らない部長が新しく入って、またBに戻すといったことが起きているんだと思います。
でも、その組織の中でも、世の中的にも、一度「正解はA」とわかっているのに、同じ間違いを繰り返してしまう。
これは、自分がずっと関わってきたWebサイトやデジタルマーケティングの最大の問題だと思います。私は潔癖症のところがあるので、「人々はわかりきっている事実を忘れて、また同じことをやるのか」と思うと、耐えられなかったんです

そうだ! 正解をばら撒いてしまえば良い

現場が語る、BtoBマーケの最前線04.jpg
秋山:『AIアナリスト』は、数々のGA(Googleアナリティクス)のデータを自動分析して、コンバージョンが伸びるポイントを具体的に教えてくれるツールですよね。
垣内さんご自身に物凄い量の知見があると思うんですが、GAのデータに基づいた提案にしたのは、なぜですか? また、これまでのコンサルティングや考え方のレクチャーではなく、具体的な施策の提示にこだわった理由があれば、教えてください。

垣内氏:その当時、全く無名の私がただ経験値から定性的に言うよりも、「GAのデータがこう言っている」と定量的に説明した方が信頼されやすいと思ったので、ファクトベースにこだわって設計しました。現在は、3万件のWebサイトのGAデータを収集し、ベストプラクティスを見極めています。
また、車輪の再発明を止めるためには、大手企業だけでなく中小企業にも使ってもらいたい。でも、大手企業を支援するなかでマーケター人材育成の難しさは実感していたので、時間や予算が限られる中小企業では、もっと手っ取り早いソリューションが必要だとも感じていました。結果、「人材育成ができないなら、正解を配布してしまえば良い」と思い至ったんです。つまり、『AIアナリスト』というツールに落とし込んで配るということです。

秋山:垣内さんの代わりに正解を広めてくれるツールが、『AIアナリスト』なんですね。

垣内氏:そうです。『AIアナリスト』がマーケターの相棒となり、データを分析して改善ポイントをどんどん教えてくれる。特にBtoBサイトの場合は型が決まっているので、自分で型をゼロから作る必要なんてないんです。極端に言えば、おしゃれなサイトとか誰も求めていない。でも、ブランドを意識しちゃって、おしゃれなことを書きたいっていう気持ちもわかります。私自身もその罠にハマることがあるので。そんなときは、ビービット時代の同僚にレビューしてもらっています。
そうすると、「いつも、“こんな要素いらない”って自分で言っているじゃないですか。なんでこんなこと書いているんですか」って指摘されるんですよ。

秋山:垣内さんですら、主観的に考えるとそうなることがあるんですね。

垣内氏:だからこそ、私の役目は、現時点で正解だと証明されている答えをばら撒くこと、そして、マーケターの無駄な作業を止めることだと思っています。
私は、「ほとんどの企業のマーケターは、80点を目指せば良い」と思っているんですが、80点を取るためには無駄の排除が凄く重要なんです

秋山:無駄と言うと?

垣内氏: 例えば、「このページを改善しようと思っているんだけど」と相談されるページの月間UU(ユニークユーザー)が10人だったりします。そのページを改善するなら、もっとUUの多いページを改善すべきですよ。
「そんな余計なことはしちゃダメ」、「それは余計なことだよ」って言うのが、自分の仕事だと思っています。

秋山:10のところをやるか、1,000のところやるか。その時点で、成果が100倍違いますもんね。

サイトリニューアルも、ABテストも意味がない!?

現場が語る、BtoBマーケの最前線05.jpg
秋山:垣内さんは、BtoBマーケティングBtoCマーケティングの違いは、何だと考えていますか?

垣内氏:勝ちパターンという意味では、その2つに大きな差があるとは考えていません。私はいつも、「世の中には、18種類しかWebサイトがない」と言っているんですが、その中には「BtoB」や「BtoC」というカテゴリはありません。
それよりも、Webサイトで完結するタイプなのか、営業担当に繋ぐタイプなのかが、まず一番の違いだと考えていますBtoCの商材は、Webサイトで販売まで完結できるものが多いですが、保険や住宅のように、最後は営業職がクロージングする商材もありますよね。

秋山:なるほど。そのカテゴライズで言うと、BtoBは営業担当に繋ぐタイプの商材が多い、というわけですね

垣内氏:そうです。この場合、営業のコミュニケーションに柔軟性があるので、営業側で数字を伸ばせる可能性が高い。だから、コンバージョンポイントをもっと手前に変えることができる。そこが肝です。
また、同じBtoBWebサイトであっても、商材に対する顧客の知識量によって対応が異なることも、見過ごせないポイントです。
顧客の知識量がそれなりにあって、顧客自身で商品の絞り込みが可能な場合は、ある程度Webサイト上で説明する必要があります。反対に顧客の知識量が少ない場合は、早々に営業担当者に繋いで直接説明した方が良い。もっと言うと、エンタープライズ向けの商材の場合は、ほぼカスタマイズになってきますから、Webサイトで出来ることがほとんどなくなります。
それを何でもかんでも、「BtoBマーケ」と一括りにするのは違うと思っています。

秋山:なるほど。そうお聞きして、「これがBtoBマーケの常識」だと思っていたことが、覆る感じがしました。ほかにも、「多くの人が当たり前と思っているけれど、ファクトベースで見ると違う」という点はありますか

垣内氏:沢山あります。昨年、「WACULテクノロジー&マーケティングラボ」のレポートにも書きましたが、コンバージョンやCVR改善の観点からは、Webサイトリニューアルによって得られる効果はほとんどありません。
アトリビューション分析やABテストもおすすめしません。
MAU(月間アクティブユーザー数)が1千万人以上いるような巨大サイトなら、もちろんABテストも意味があります。でも、セッション数が少ないなかでAとBを試している暇があったら、良いと思う方に切り替えた方が早い。激減したら戻せば良いだけです。

秋山:まさに、そういうケースがありました。あるプロジェクトで、「ABテストをやります」と言うので、「結果が出るまでどのくらい?」と確認したら、「1ヶ月以上かかります」と。データを取るまでにそこまでかかっているなら、やっちゃった方が早いんじゃない、と。
現場が語る、BtoBマーケの最前線06.jpg

垣内氏:そうなんです。データを取るのに数ヶ月かかるということは、そもそも影響力がほとんどない部分なんです。データが足りない時点でその調査は終わりでOK。むしろ、「どっちでも良いことを調べようとしていたんだ」という自覚を持つことが大切です。

秋山:ほかにも、一般的には信じられているけれど実は違う、「マーケターの思い込み」ってありますか?

垣内氏:「Webサイトコンテンツによって、態度変容させる」ってよく聞きますが、ほぼ無理だと思います。
Webユーザーは極めて能動的なので、基本的には自分が見たいものだけしか見ません。極論を言えば、ユーザーが見たいものに合わせてコンバージョン設計するのが一番で、それ以外は何もいらない
態度変容が起きるには、心の隙がないといけません。心の隙がないときに、そうそう説得なんてされないんです。つまり、ボーっとSNSを眺めているときや、フォームで申込み完了をした直後など。
特にBtoB商材の場合、ユーザーは目的を持って何かを調べている場合がほとんどです。検索して流入した瞬間は、一番目的意識がハッキリしているときなので、ファーストビューで検索目的とは関係のない想いが熱く綴られていても態度変容しようがない。それよりは、ユーザーが検索してきたことに応えるコンテンツを置いた方が良いんです。
これは、500人規模のユーザー調査でも、日々のデータ検証でも結果が明らかになっています。

マーケターの本来の役割は、事業責任者

現場が語る、BtoBマーケの最前線07.jpg
秋山:サイトリニューアルも、アトリビューション分析もABテストも、ほとんど意味がない、と。では、BtoBマーケターがすべき業務は何だと思いますか?

垣内氏BtoBマーケターの場合、インサイドセールスや営業、そしてその先のプロダクトまで見てマーケターだと思います
半日間、営業の仕事をして、残り半日でマーケの仕事をするくらいが、マーケターとしてちょうど良いバランスかもしれません。営業職は自分自身がメディアになる、最小単位のマーケターだと思うんです。
マーケターの一般的な業務だと考えられている、ボタンの色をどうすべきか、リスティングの文言をどうするか…等々も大切かもしれませんが、それ単体で見ても無意味です。そもそもお客様に向き合わないと、意味がありません。

秋山:おっしゃる通りですね。僕も経営者として、営業やマーケターがもっともっと事業成果にコミットして欲しいと思うことがあります。バリューチェーンと言いながら、バリューが繋がっていないときがある。

垣内氏:海外企業のCMO(最高マーケティング責任者)は、組織調整をしながらバリューチェーンを繋げて、組織として機能させていくという役目を負っています。
マーケターの仕事は、4P(プロダクト、プライス、プレイス、プロモーション)のプロモーション部分だけではありません。マーケターは、ほぼ事業責任者と同義だと思いますし、そういう業務で忙しくなるべきです。データの細かな整理や分析はツールなどに任せておけばいいんです。マーケターが本来行うべき高いレイヤーの業務に集中するのを助けるのが、『AIアナリスト』を提供する私たちの仕事でもあります。
だから、成果に大きな影響のない細々とした作業を、「そんな無駄なことは止めて、もっと大切なことにフォーカスしましょう」と発信して行くことが、私の務めだと思っているんです。

秋山:世のマーケターは、どうして細々とした作業の方に流れて行きやすいんでしょうか。

垣内氏:いくつか理由があると思います。
まず、全体像が見えていないので、どこに手を付ければ一番影響力があるのかがわからないこと。これには、組織設計が強固であるが故に自分の領域を狭く考えてしまう、という組織的な背景があります。
そして、これはマーケターに限ったことではありませんが、フィードバックがわかりやすくて簡単なものの方が手を付けやすいこと。
例えば、リスティング。クリエイティブや入札価格をいじるとすぐ結果が出て、「クオリティスコア上がった! 楽しい!」と、達成感を得やすいんです。
現場が語る、BtoBマーケの最前線08.jpg

秋山:でもそれは、マーケターの本分ではないということですよね。

垣内氏:はい。リスティングのクオリティスコアを上げるよりもコンバージョンポイントを変更する方が、影響力が大きいですから。
例えば、今は「お問い合わせ」に設定しているコンバージョンポイントを、「ホワイトペーパーのダウンロード」に変えるとします。そのためにはまず、営業メンバーを説得しなきゃならない。

秋山:コンバージョンポイントを変えてリードの数が増えたところで、質の低いリードばかりだと、営業からは「無駄なリードが多過ぎる」とクレームが来ますよね。

垣内氏:そこで、怒られる前に、リードの質を高めるプロセスを組まないといけない。
例えば、営業に対して、「仮にもソリューションを提案する身としては、ホワイトペーパーをダウンロードした人には、ホワイトペーパーについて説明しましょう。そうして先方がこちらの知識を信頼してくれた後に、サービス提案をしましょう」という提案をします。
面倒くさい仕事です。一気通貫させるための組織調整ですから。本当に面倒くさいでも、それがマーケターの仕事なんです
こうしてコンバージョンポイントを変えた結果、CVRが10倍に増えれば、リードの質が半減したところで十分にペイします。
とはいえ、「リードの質を下げても良い」と決断することは、凄く勇気のいることです。この判断ができるかどうかが、マーケターとして攻めていけるかどうかの分かれ目だと思います。

秋山:なるほど。これまでのお話をまとめると、マーケターとして良い仕事をするには、やるべきことを見極めてフォーカスすることが大事、ということですね。

垣内氏BtoBのWebマーケという視点で言えば、

  1. 常に影響力の大きいポイントを意識する
  2. ユーザーを理解して、振り返りを怠らない
  3. コンバージョンポイントを見直す
  4. コンバージョンポイントの文言を見直す
  5. コンテンツマーケでSEOを強化する

この5ポイントを押さえておけば、成功するのではないでしょうか。余計なことをやらない、というのは本当に大事です。

秋山:その通りですね。最後に伺いたいのですが、垣内さんにとってマーケティングとは? マーケティング is 何ですか?

垣内氏:「マーケティング is 事業運営」ですね。マーケターと言うからには、事業責任者としてサービス全体を見て欲しい。

秋山:本日はありがとうございました。