RADWIMPSなど多くのアーティストグッズを手がける楽日に聞く「音源が売れない時代におけるアーティストグッズの役割」
月額制ストリーミングサービスが市民権が得てきている昨今。CD音源が売れない時代、ライブで収益をあげる時代という言葉をいたるところで耳にするようになりました。そのような中、ライブ収益において重要な役割を果たしているのがアーティストグッズです。
今回は「RADWIMPS」や「凛として時雨」など多くのアーティストのグッズ制作を手掛け、『BAND T-shirts Museum』を運営している、株式会社楽日の加藤晴久さんに、現在の音楽業界においてアーティストグッズが担っている役割と販売においてどのようにWebが活用されているのかについて伺いました。
プロフィール
バンタンデザイン研究所卒業後、デザイン事務所・アパレル商社を経て2007年に株式会社楽日を設立。2010年にギャラリーカフェ「LUCKAND」オープン、2017年より「バンドTシャツ展示会」を開催し、日本各所を巡回中。
“CD音源が売れない時代”は10年前から兆候があった
(楽日 加藤氏)
ferret:
アーティストは“CD音源が売れないのでライブで利益を得る時代”という言葉をよく耳にするようになりました。アーティストグッズを手掛ける楽日さんもそのような時代になったという実感はあるのでしょうか。
加藤氏:
ありますね。10年ちょっと前くらいから、その予兆は表れていたような気がします。
ferret:
10年ちょっと前…! もっと最近のことかと思ってました。
加藤氏:
サブスクリプションサービスの普及で“CD音源が売れない時代”と耳にする機会が増えましたよね。でもじつは、音楽配信サービスの開始時から予兆は表れてたんですよ。CDが売れないと、そこに関わる多くの企業に影響が生じてしまうので、表面化するのが遅かったんでしょうね。
ferret:
加藤さんは、業界の現状を客観視できていたのでしょうか?
加藤氏:
僕はもともと音楽業界の人間ではなく、どちらかというとデザイン・製造業界の人間ですから。このままいくと収益はリアルなライブシーンに移り、ミュージシャンの物販へ対する意識も変わってくるだろうなと思っていたんです。
「グッズ」がアーティスト活動を後押しする存在に
ferret:
ミュージシャンの物販へ対する意識が変わるとは、どういうことでしょうか。
加藤氏:
CDが売れる時代は、「自分たちは音楽で飯を食う」と考えていたミュージシャンばかりだったと思います。あくまでもグッズは記念品でした。しかし、時代の変化とともに、それだけで活動していくのが苦しくなってきた。そしてグッズは、ミュージシャンの活動を後押しするものに変わっていったんです。
ferret:
なるほど。
加藤氏:
グッズのポジションが確立されることで、ミュージシャンがそこへ向かう意識も高くなった気がしますね。彼らにとってグッズは、ただのTシャツやタオルではなくて作品のひとつ。アイデンティティーが込められた表現の一貫になったんです。そこまで考えられるようになると、もはやミュージシャンの域を超えてアーティストだよな…と。
ferret:
ミュージシャンとアーティストは別物なんですね。
加藤氏:
僕は別物だと考えています。音楽をつくり表現する人をアーティストと呼ぶことが多いと思うんですけど、本当に自分たちの世界を創っていくなら音楽だけでは物足りないはずなんですよ。自分たちの感覚をプロダクトにも踏襲していける、それがアーティストなのではないでしょうか。
ferret:
アーティストになるために必要な能力みたいなものはあるんですか。
加藤氏:
それがわかっていたら僕がなっていますよ(笑)
ただ、僕のポジションはミュージシャンがアーティストになっていくのをデザインやグッズ製作を通して促す役割なので、内側に入りつつも、バンドを客観的に見る目力を養っていますね。まだそのバンドの良さを知らない人に魅力を届けられるように、僕らも精進していきます。
大切なのは伝える角度
ferret:
Twitterでのグッズのアンケート以外にもSNSは活用されているのでしょうか?
加藤氏:
製作中のグッズをInstagramのストーリーでチラ見せしたり、モデルにグッズを着用してもらって、その写真をInstagramに投稿したりと、購買意欲をそそるアナウンスをしていますね。
我が社としては、アーティストのアフターフォロー的な形でも使っていますね。先にグッズ情報を解禁するのはアーティストです。僕らは後押し的なところでSNSが一役を担えたらな、と。
ferret:
後押しとは、どのようなことでしょう?
加藤氏:
これ見よがしなグッズの宣伝って、アーティストによってはやりづらいんですよ。「買って!」って頻繁に言われたら嫌じゃないですか?
ferret:
そうですね…。押し売りされてる感じがしてしまうかもしれません。
加藤氏:
ですので製作に携わった僕らの視点からちょこっとしたことをSNSで発信することがあります。「このグッズはメンバーが関わってデザインしたんだよ」とか。そのフォローが入るだけで、本人たちがちゃんとグッズに関わってることがファンに届くようになります。
そのお客さんの反応を見て次の制作に活かしたりできますしね。
ferret:
でも、これってアーティストとグッズ制作会社の関係だからできることのような気がします。この考えを応用して、他の業界でブランディングと製造・販売を切り分けるのは難しいと思うのですが…いかがでしょうか?
加藤氏:
そんなことはないと思います。結局はアナログとデジタルのバランスですから。
IT業界っていうとデジタルな感じがしますけど、その裏にある作業って極めてアナログじゃないですか。要は伝える角度の問題なんですよ。打ち出し方次第で、ブランディングと販売の両立はできると思います。
グッズとその創り手の魅力を伝えるメディア運営
加藤氏:
通販とSNS以外に、『LUCKAND』というメディアも運営しています。製造工場の職人さんに、工場や職人さん自身のこだわりなどを取材して記事にしているんです。
どんな人が作ってるってわかると急に身近になったりしませんか?
引用:LUCKAND(ラカンド) – モノづくりの本質を伝え 未来を共に創る LUCKAND [ラカンド]
ferret:
たしかに。道の駅で売っている野菜のパッケージに顔写真やエピソードをつけることで野菜の生産者が見える、というのと同じですね。つまりオウンドメディアを運営して、よりグッズが身近に感じてもらえるような環境を作っているという。
加藤氏:
そうです。バンドグッズって、本来はたくさんの人が関わって作られてる。その事実を知ってもらいたくて、僕らは情報を発信をしています。自分たちの仕事を知ってもらえるだけで、励みになる工場さんもありますからね。
グッズを買っていただいたファンの方も、そのグッズに込められた思いやこだわりを感じられれば、よりそのグッズに愛着が湧くのではないでしょうか。
これだけモノが飽和している時代なので、きちんと確かな目でモノを選んで使ってほしいという思いも込められています。
まとめ
「CD音源が売れない」と言われる今、収益において大きな役割を担っているアーティストグッズ。かつてはアーティストの活動とは切り分けられて制作されていたグッズですが、現在はアーティスト活動の一環として、彼らの活動を後押しするものとなっています。
また、その販売手法もただただライブ会場に来たファンに購入してもらうだけではなく、Webを活用して制作の裏側を多くの人に知ってもらうことで価値付けをしたり、Webの反応から生産数をコントロールしたりするなど、時代に合わせて変化しているようです。
- Twitterとは140文字以内の短文でコミュニケーションを取り合うコミュニティサービスです。そもそもTwitterとは、「小鳥のさえずり」を意味する単語ですが、同時に「ぺちゃくちゃと喋る」、「口数多く早口で話す」などの意味もあります。この意味のように、Twitterは利用者が思いついたことをたくさん話すことのできるサービスです。
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