ACVAnnual Contract Value:年間契約額)は、SaaSビジネスを運営する上で重要な指標です。ACV(年間契約額)を算出すると、SaaSビジネスを評価したり、マーケティングやセールス施策の精度を高めたりできます。

この記事では、ACV(年間契約額)の計算方法や似ている指標との違い、ACV(年間契約額)を高める方法などについて解説します。SaaSビジネスに携わるマーケティング担当者の方はぜひ参考にしてください。

目次

  1. ACV(年間契約額)とは
  2. SaaSビジネスでACVが重要な理由
  3. ACVと混同されやすい指標
  4. SaaSのACVを高める方法
  5. ACVとあわせて覚えておきたい指標
  6. ACVをSaaSビジネスの運営に活かそう

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SaaSビジネスの重要指標とよくある疑問

SaaSビジネスの重要指標とよくある疑問

単なる用語集ではなく、よくある疑問への答えや、各指標を改善するためのポイントを、図解を交えてゼロからわかりやすく解説しています。

ACV(年間契約額)とは

ACV(Annual Contract Value:年間契約額)とは、自社のSaaSを契約している1顧客が1年間に支払う総額を表す指標です。月額や年額で発生するSaaSの利用料金だけでなく、契約時の初期費用や追加のオプション料金などもACV(年間契約額)に含まれます。

ACVの計算方法

ACVの基本的な計算式は次の通りです。

ACV(年間契約額) = SaaSの月間利用料 × 契約期間(最大12か月間) + オプション料金

オプション料金には契約時に発生する初期費用や、コンサルティングなど付帯サービスの料金も含まれます。

例えば、ある顧客が月間利用料10,000円のSaaSを8ヵ月間利用し、オプション料金が35,000円だった場合のACV(年間契約額)は次の通りです。

10,000円(月間利用料)×8ヵ月間(契約期間) + 35,000円(オプション料金)=115,000円

ACV(年間契約額)は、あくまでも確定した契約をもとに計算します。そのため、「仮に12か月間利用した場合」といった予測値ではなく、実際に利用された期間で計算しましょう。

SaaSの契約更新期間が月単位ではなく年単位の場合は、「月間利用料×契約期間」の部分を年間利用料に置き換えます。

2年単位、3年単位などの長期プランがある場合には、1年あたりの利用料への換算が必要です。例えば、2年ごとに20万円の利用料というプランなら、1年あたり10万円として計算しましょう。

SaaSビジネスでACVが重要な理由

ACV(年間契約額)を計算すると、SaaSビジネスを運営する上で様々なメリットが得られます。SaaSビジネスでACV(年間契約額)を計算するべき主な理由は次の通りです。

ビジネスの評価

一般的に、SaaSビジネスは月単位などのサブスクリプションモデルで運営されます。そのため、契約を獲得した単月の売上だけでは、ビジネスの規模や収益性を評価することができません。1年間を通じて得られた顧客当たりの金額を表すACV(年間契約額)なら、ビジネスを適切に評価することが可能です。

ACV(年間契約額)は、SaaSを提供する企業が自社の状況を確認する時だけでなく、投資家にも参考にされます。SaaSビジネスを客観的に評価するための指標として、ACV(年間契約額)が重要です。

収益性の高い顧客属性の把握

顧客ごとのACV(年間契約額)を算出すると、収益性の高い顧客属性が把握できます。ACV(年間契約額)が上位の顧客に共通するポイントがわかれば、マーケティングやセールスに活かすことが可能です。

例えば、特定の広告媒体から獲得した顧客のACV(年間契約額)が高い場合、その広告媒体への予算配分を高めるなどの施策が考えられます。顧客をセグメント化し、マーケティングやセールスのヒントを得るためにACV(年間契約額)が重要です。

施策の効果検証

SaaSビジネスで行う様々な施策の効果を検証する時にも、ACV(年間契約額)が参考になります。

SaaSの機能改善やオプションの追加などを行い、変更前後でACV(年間契約額)が上がっていれば成果が出ていると考えられます。また、マーケティングやセールスのプロセスを強化した時も、ACV(年間契約額)で成果を確認することが可能です。

施策の成果を測るための指標として、ACV(年間契約額)が役立ちます。

ACVと混同されやすい指標

SaaSビジネスに関する指標には、ACV(年間契約額)と混同されやすいものがあるため注意が必要です。

ここではACV(年間契約額)と区別するべき指標として、TCV合計契約額)とARR年間経常収益)を紹介します。

図_ACVとTCVとARRの違い.png

TCV(合計契約額)との違い

TCV(Total Contract Value:合計契約額)とは、顧客がSaaSの契約開始から解約までに支払う総額を表す指標です。TCV(合計契約額)とACV(年間契約額)は、計算の対象となる期間が異なります。

TCV(合計契約額)の計算方法は次の通りです。

TCV(合計契約額) = SaaSの月間利用料 × 契約期間(解約までの全期間)+オプション料金

ACV(年間契約額)の計算式と同様に、オプション料金には初期費用やコンサルティング費用などが含まれます。

例えば、ある顧客が月間利用料10,000円のSaaSを24ヵ月利用し、オプション料金が50,000円だった場合のTCV(合計契約額)は次の通りです。

10,000円(月間利用料)×24ヵ月間(契約期間)+ 50,000円(オプション料金)=245,000円

平均継続期間などのデータから予測値として算出されるLTV(顧客生涯価値)と異なり、TCV(合計契約金額)は実際に確定した契約をもとに算出されます。

ARR(年間経常収益)との違い

ARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)は、企業が毎年定常的に得られる年間の収益を表す指標です。ACV(年間契約額)が顧客ごとの契約額を表すことに対して、ARR(年間経常収益)はSaaSを提供する企業が全体として得る収益を表すという違いがあります。

ARR(年間経常収益)の計算方法は次の通りです。

ARR(年間経常収益) = MRR(月間定額収益)×12ヵ月

MRR(月間定額収益)は毎月決まって発生する収益額を指します。例えば、MRR(月間定額収益)が300万円の場合、ARR(年間経常収益)は次の通りです。

300万円× 12ヵ月 = 3,600万円

ARR(年間経常収益)は定常的に見込まれる収益を表す指標のため、初期費用や1回限りのオプション料金などは含みません。MRR(月間定額収益)の詳しい計算方法については、後述の見出しでご確認ください。

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SaaSビジネスの重要指標とよくある疑問

SaaSビジネスの重要指標とよくある疑問

単なる用語集ではなく、よくある疑問への答えや、各指標を改善するためのポイントを、図解を交えてゼロからわかりやすく解説しています。

SaaSのACVを高める方法

SaaSビジネスでは、ACV(年間契約額)を高めることが収益性の向上につながります。ACV(年間契約額)を高めるための主な方法は次の通りです。

アップセル・クロスセル

利用料金がより高い上位プランのアップセルや、オプションサービスのクロスセルなどに成功すると、ACV(年間契約額)が高まります。

アップセルやクロスセルを行う時は、上位プランやオプションなどのメリットを訴求することが重要です。追加される機能や、解決できる課題などを伝えましょう。また、顧客のニーズを把握した上で、適切なタイミングでアップセルやクロスセルを行うこともポイントです。

解約の防止

既存客の解約を防止し、より長い期間SaaSを使ってもらうことがACV(年間契約額)の向上につながります。

解約を防止するためには、解約時のアンケートなどで解約理由を把握することが大切です。SaaSの機能に対して不満が見られた場合は、機能の改善に注力する必要があります。

また、既存客に対して情報提供を行うナーチャリングも、解約防止のために取り組むべき施策です。サービスの効果的な活用法や、よくある相談への回答など、ユーザーに役立つ情報を定期的に発信しましょう。

ユーザーが参加できるコミュニティを運営し、ユーザー同士で意見交換できる場を設けることによっても、解約防止の効果が期待できます。

ACVとあわせて覚えておきたい指標

ACVとあわせて、SaaSビジネスで把握しておきたい主な指標は次の通りです。

MRR (Monthly Recurring Revenue:月間定額収益)

MRR(月間定額収益)は、SaaSを提供する企業が毎月決まって得る収益額を表します。MRR(月間定額収益)の計算方法は次の通りです。

MRR(月間定額収益)= 前月の月間定額収益
+ 当月の新規顧客から得られる収益
+ 前月よりも取引額が増えた既存顧客から得られる収益
- 前月よりも取引額が減った既存顧客から得られる収益
- 当月にサービスを解約した既存顧客による収益

MRR(月間定額収益)には、初期費用やコンサルティング費用などは含まれません。SaaSの基本的な機能を提供することで得られる収益のみが、計算の対象となります。

MRR(月次経常収益)とは?種類・計算方法・改善方法まで徹底解説

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MRR(月次経常収益)は、主にSaaSビジネスに用いる経営指標の1つです。継続的に得られる売上を指し、企業の収益性や安定性の判断に役立ちます。この記事では、MRR(月次経常収益)の詳細、種類、計算方法・改善方法などを解説します。

ARPA(Average Revenue Per Account:顧客ごとの平均収益)

ARPA(顧客ごとの平均収益)とは、1アカウントあたりの平均売上金額のことです。ARRA(顧客ごとの平均収益)は次の式で計算できます。

ARPA(顧客ごとの平均収益)=期間内に発生した売上総額÷アカウント数

SaaSビジネスにおけるARPA(顧客ごとの平均収益)は、1ヵ月単位で計算することが一般的です。例えば、1ヵ月の売上総額が600万円でアカウント数が300件の場合、ARPA(顧客ごとの平均収益)は次のように計算できます。

600万円(期間内に発生した売上総額)÷300件(アカウント数)=20,000円

ARPA(顧客ごとの平均収益)の前月比などを算出することで、SaaSビジネスの成長性を評価することが可能です。

SaaS企業がARPA(アカウント単位の平均利用単価)を重視する理由。ARPUとの違いやポイントを解説

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「ARPAが上がらない」「ARPAがなぜ重要なのか分からない」などと悩んでいる方は多いでしょう。そこで今回は、ARPAとはどんなものなのか、ARPAやARPPUとの違いとともに解説します。ぜひ参考にしてみてください。

ACVをSaaSビジネスの運営に活かそう

ACV(年間契約額)を計算すると、自社のSaaSを契約している顧客が1年間に支払う合計金額が把握できます。ACV(年間契約額)をもとに、収益性の高い顧客属性や、施策の成果などを分析することが可能です。

TCV(合計契約金額)やARR(年間経常収益)など、似ている指標との違いを押さえた上で、ACV(年間契約額)をSaaSビジネスに活かしましょう。

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