ビッグデータなどのデータ活用が広がり始めたことで、あるターゲットの平均的なニーズは、本人から聞き出さずともおおよそ把握できるようになりました。サービス開発の際、調査会社の定量的なデータを参考にする方も多いのではないでしょうか。

一方で、ダイバーシティの広がり、外国人やシニア層の労働参入などにより、人々の働き方や暮らし方は多様化しています。このような、平均的なデータには表れにくい少数派ニーズに応えるためのサービスデザイン手法を、「インクルーシブデザイン」といいます。

また、そういったサービスを展開するためのマーケティング手法を「インクルーシブマーケティング」といいます。

今後も多様化する消費者のニーズに合わせたサービス開発をしていきたい場合には、どちらもぜひ抑えておきたい手法です。今回は、「インクルーシブデザイン」「インクルーシブマーケティング」とは何か、企業でどのように活用されているのかを解説します。

インクルーシブデザインとは

インクルーシブデザインとは、これまでのサービスや商品のターゲットから除外されていた人々を、サービス開発の初めから巻き込んで、一緒に構想するデザイン手法です。

インクルーシブは、「除外(Exclude)」の対義語である「Include(含める)」が語源です。これまでのメインターゲットから外されていた人々がターゲットです。

高齢者や子ども、障がい者など身体的なものに限らず、状況によっては外国人や、経済的に困窮している人なども含みます。アメリカで暮らす英語が話せない日本人なども対象になりえます。

そのようなターゲットと、サービスを生み出す段階から「一緒に」構想していく手法であることが大きなポイントです。

ターゲットは「リードユーザー」

インクルーシブデザインを進める際にターゲットとなる人のことを「リードユーザー」と呼びます。

サービス開発者は、リードユーザーが施設やサービスを利用している様子を観察したりインタビューしたりして、課題を抽出します。実際にリードユーザーの目線で体験を共有することで、気付かなかった視点や問題点を発見できます。

例えば、施設の2階に車椅子用トイレが設置してあるのに、階段だけでエレベーターがないなど、実際に利用していなければなかなか気付けない問題点にも気付くことができます。

ユニバーサルデザインとの違い

インクルーシブデザインと似た意味をもつ言葉に、「ユニバーサルデザイン」があります。ユニバーサルデザインとは、可能な限り全ての人にとって利用しやすい機能をもった商品やサービスのデザイン手法を指します。

ユニバーサルデザインは7つの原則に沿って定義されています。ただ、あくまで指標であり、全てを守る必要はありません。

【1】公平性…全ての人が、時と場所と場合を選ばず同じ方法で利用できる。
【2】自由度…利き手に左右されないなど、自由度高く利用できる。
【3】簡単さ…ひと目見ただけですぐに使い方が理解できる。
【4】明確さ…利用者が求める情報を分かりやすく理解できる。
【5】安全性…万が一利用方法を誤っても危険が及ばない。
【6】持続性…長時間利用しても体への負担が少ない。
【7】空間性…利用者の体型や利用時の環境に関係なく利用できる。

参考:
[ロン・メイスの7原則|コクヨ株式会社](http://www.kokuyo.co.jp/creative/ud/aboutud/ud_principle.html)

ユニバーサルデザインもインクルーシブデザインも、機能面へのこだわりは同じです。ただ、インクルーシブデザインは始めから原則は作らず、リードユーザーと一緒にサービスを創り上げていきます。

インクルーシブデザインはたった1人の課題に向き合ってデザインする点が、大きな違いです。

インクルーシブデザインの事例

スラム地区から発信するユニークなデザイン

タイ最大のスラム地域から生まれたブランドFEEMUE(フィームー)が、2017年度のグッドデザイン賞を受賞しました。FEEMUEはスラム地区の日常を表したデザインで、現地の生活雑貨や民族文化の刺繍があしらわれたバッグなどがあります。

貧困や麻薬の蔓延といった問題があるスラム地区での生活をユニークに捉えてデザインにして発信することで、タイや日本の若者にアピールする目的があります。商品のひとつひとつにスラムで生活する人々のストーリーがあり、高い評価を受けています。

参考:
FEEMUE(フィームー)が「2017年度グッドデザイン賞」を受賞|時事通信社

インクルーシブマーケティングとは

インクルーシブマーケティングとは、インクルーシブデザインをマーケティング手法に当てはめたものです。これまでメインではなかった少数のターゲットの視野に立ち、消費者一人ひとりの多様性を重視した手法です。

日本のダイバーシティを推進する目的で発足した電通ダイバーシティ・ラボは、2017年から、これまで推進してきたソリューションを「インクルーシブマーケティング」の概念のもとで体系化し、サービスを提供すると発表しました。

参考:
電通ダイバーシティ・ラボ、「インクルーシブ・マーケティング®」のサービス提供を開始|株式会社電通

ターゲットを限定する排他的なエクスクルーシブマーケティング

インクルーシブマーケティングと対立した手法として、エクスクルーシブマーケティングという手法もあります。大多数のターゲットを除外する手法で、高級クラブの会員限定で展開されるサービスが例として挙げられます。

インクルーシブマーケティングの事例

機内で赤ん坊が泣くと、乗客が笑顔になるサプライズ

アメリカの格安航空会社JetBlueが、母の日キャンペーンとして、あるサプライズキャンペーンを実行しました。それはフライト中に赤ん坊が1度泣くと、次回のフライトが25%OFFになるというものです。4回泣けば、次回フライトは無料になります。

赤ん坊を連れて飛行機に搭乗したことがある方は、いつ赤ん坊が泣き出して周りの乗客に迷惑をかけてしまうか不安になった覚えがあるかもしれません。そんな不安と後ろめたさを解消し、乗客全員が笑顔になれたキャンペーンとして話題を集めました。

参考:
機内で赤ちゃんが泣くたび乗客が笑顔に 米LCCの母の日企画に驚き
|livedoorNEWS

まとめ

ユーザー目線でしか見えない課題に気付き、明確な解決策をサービスとして開発することは、インクルーシブデザインやインクルーシブマーケティング以外でも重要なポイントです。

競合と差別化したサービスを開発したいときは、一般的なデータだけでなく、目の前の1人に焦点を当てて考えてみてはいかがでしょうか。