街中にある看板やスポーツスタジアムの広告看板など、通常の掲示広告は「物理的に実在する」ものです。しかし、最近ではバーチャル空間内に掲示するバーチャル広告」が登場。

2023年には世界最大級のソーシャルVR「VRChat」内での広告掲載サービスがスタートし、話題になりました。そこで今回は、新たな広告の形として注目されている「バーチャル広告」に焦点を当てて紹介していきます。

メタバース空間で広告を掲載する「VRコウコク」

世界を代表するVR・メタバース空間を提供する「VRChat」。近年大手企業も同サービスのメタバース上でイベントを開催したり、「ワールド」と呼ばれる空間を提供したりと、企業からの注目度もアップしています。

最近では株式会社サンリオが約1ヶ月に渡るイベント「SANRIO Virtual Festival 2024 in Sanrio Puroland」を開催。イベントが開催されてから3週間で総来場者数は236万人を突破したとして話題になりました。

同サービス内で2023年に提供された「VRコウコク」では、「VRChat」内の建物などに広告を掲出することができます。メタバース上には遊園地や博物館、綺麗な景色が広がる世界など、様々な雰囲気の異なるワールドが作られているため、ブランドに合った世界観を持つワールドで宣伝することも可能です。

クリエイターの収益化も

VRコウコク

また「VRコウコク」はVRコンテンツの一部として広告が表示されるため、ユーザーのVRへの没入感を邪魔しないようになっているのも特徴のひとつ。

さらに「VRChat」内では企業が制作するワールド以外にも、個人クリエイターが自身のワールドを作成して公開しています。ウェブサイトやブログ広告を掲載するのと同じようなイメージで、自身のワールド上に広告を設置することによりワールドの収益化も可能。

同サービスでは広告配信による閲覧者の集計や広告主との契約なども代行してくれるため、クリエイターにとっても手軽に広告を掲載しやすい環境になっているようです。

VRChatのワールドを収益
出典:VRコウコク

VRChat

ちなみに、2023年11月23日に「VRChat」は、「有料サブスクリプション」機能も実装しました。これにより、クリエイターが自身のワールドにサブスクリプション用のギミックを設置することが可能に。例えば、「ワールド内の特別な部屋に入ることができる」など、課金したユーザーだけがそのギミックを楽しむことができます。

サブスク収益の一部がクリエイターにも支払われる仕組みになっており、「VRコウコク」と合わせ、メタバース上でクリエイターが収益をあげられる機会が増加。今後ますますメタバース上での経済が活発化するのではないかと注目を集めています。

現実のスポーツイベントでもバーチャル広告が

メタバース上だけではなく、現実の世界にもバーチャル広告が取り入れられている事例もあります。2021年5月7日にはソフトバンク株式会社が「スポーツバーチャル広告」の提供を開始しました。これはスポーツの試合中継映像に、実際の会場には掲示されていない広告を掲示できる広告サービスで、B.LEAGUE(Bリーグ)やプロ野球の中継で実際に使われています。

バスケの試合の場合、コート上に4つの広告枠が設定され、配信画面上に広告が表示されます。コート上なので試合中は選手やボールの動きに応じてカメラアングルが激しく変わるような場面がありますが、最先端の技術を駆使し、選手と広告が重ならないよう映像処理が可能です。

また、「シュート直後など注目が集まるタイミングで広告を表示」「コートの地面からキャラが飛び出してくる」など、バーチャルだからこそできる演出も。ロゴや車、ブランドキャラクターをCGで再現する演出など、実物の広告に比べて自由度も高く、より具体的な訴求が可能になります。

プロ野球では福岡ソフトバンクホークス、中日ドラゴンズ、オリックス・バファローズ、千葉ロッテマリーンズがすでに同サービスを導入。Bリーグでも約30を越えるチームが導入しています。

一般的な看板広告よりもバーチャル広告の方が有効?

デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社は、2023年にゲーミングメタバース「Roblox」で、メタバース空間内の広告配信サービスの検証実験を実施しました。実験では日産自動車株式会社と連携し、同社の企業広告を配信。検証結果の発表によると、広告接触者のブランド認知や好感度などが、非接触者に比べて平均5ポイント以上アップしたという結果になりました。

メタバース空間内の広告配信サービスの検証実験
出典:DAC、全世界2億人超が利用するゲーミングメタバース「ROBLOX」で
日本初となる広告配信サービスの効果検証を実施

さらに同実験は、第三者調査機関であるニールセンスポーツジャパン株式会社の「クオリティ・インデックス(QI)スコア」(画面上で広告看板が占める割合や露出位置、1回あたりの秒数、他の広告看板の個数などをもとに算出)という指標でも検証。すると、一般的なサッカー中継の看板広告の平均値と比べた場合に、2~5倍のQIスコアが算出されました。

総務省によると、メタバースの世界市場規模は2021年に4兆2640億円だったものが、2030年には78兆8705億円まで拡大すると予想されています。メタバース市場の拡大に伴い、今後も「バーチャル広告」の需要は高まっていくのではないでしょうか。