怪我の予防やチーム戦術など、スポーツ産業では、より良いチーム作りや選手のためにデータ活用は欠かせません。ですが、選手やチームの強化だけでなく、各チームはファンのエンゲージメントを高めていくためのデータ活用も進めています。

プロスポーツリーグ・チームがデータを活用してどのようにファンを獲得し、ビジネスに活用しているのでしょうか。

2018年11月2日、株式会社マルケト主催の「THE MARKETING NATION SUMMIT」で行われました。今回のその中でも、サッカーJリーグとプロラグビーチーム「サンウルブズ」のデジタルマーケティングについてのセッションをレポートします。

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登壇者

アジャイルメディア・ネットワーク株式会社 水口 麻希子 氏(モデレーター)
ラグビーチーム:サンウルブズ(一般社団法人ジャパンエスアール)野田 大地 氏
株式会社Jリーグデジタル 笹田 賢吾 氏

サンウルブズが取り組むデータ活用に向けた下地作り

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サンウルブズは世界最高峰のプロラグビーリーグ「SUPER RUGBY」に日本から参戦する唯一のチームです。 野田氏によると、サンウルブズの試合は世界120ヶ国以上で放映されており、これは日本のスポーツチームでも最大級と言います。それにも関わらず、サンウルブズは2016年の設立当初はチケットが売り切れたものの、その後伸び悩む来場者に頭を悩ませていました。来場者が少なければデータ収集も難しいでしょう。そこで実施した施策がファンクラブの設立です。

「2015年はワールドカップでの日本代表の南アフリカ戦勝利で五郎丸フィーバーが起き、社会全体でラグビーへの注目が大きくなった年でした。その翌年の2016年のサンウルブズ開幕戦はチケットがソールドアウトとなりましたが、社会からの注目が小さくなるにつれて、観客数も減少していきました。そこでサンウルブズのファンクラブでは、2017年終盤にラグビーワールドカップのチケット販売時期に合わせたキャンペーン施策を打つことで、会員数を前年対比倍増以上の9,000人まで増加させることができました」(野田氏)

しかし、「ファンクラブ会員は増えたものの、1試合あたりの来場者数はほぼ横ばいで増加していない」ことが問題でした。

プロスポーツの収入源の一つはチケットの販売です。来場者が増えなければグッズ販売も利益がでず、運営はうまくいきません。これまでの施策で会員という流入自体は増加したものの、流入した会員の分析が足りておらず、動線設計やアクティブにしていく施策に取り組めていなかったのです。当初の目標には達していないものの、会員数は増えたため、データ収集の下地はできました。今後はどうデータを収集し、ファンにアプローチしていくかです。

「現在は会員登録したものの試合を観戦しに来ないファン層をいかにアクティブ化していくかが課題になっています。今後はマーケティングオートメーションツールも利用して、自分のことをファンであると自認している層と、そうでない層にそれぞれのアプローチをしていこうと考えています。また、サンウルブズでは、日本での試合が年に6回しかないので、海外戦の間もファンを満足させるための施策も必要であると考えています」(野田氏)

Jリーグのデジタルマーケティング

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データの整理・統合をしてサービスへ落とし込む

Jリーグは2015年度か重点戦略として「デジタル技術の活用推進」を掲げており、これまでにSNSの積極活用やECの推進など様々な取り組みを実施してきています。

ただそうした取り組みの中でも顧客データや、ファンのJリーグを楽しむための体験価値向上への取り組みは遅れていました。株式会社Jリーグデジタルの笹田氏は「私がJリーグに転職した2015年にJ1・J2全クラブにヒアリングをしたところ、多くのクラブが顧客データを管理と活用に課題を抱えていました」と振り返ります。

「まずは顧客データを整理して、共通のデータベースに統合することから始めました。具体的には、JリーグID1つでチケットやグッズの購入やアプリの利用やスタジアムのWi-Fiの利用までできるようになっています。狙いは顧客体験の向上とビジネス機会の創出です」(笹田氏)

さらに、JJリーグでは得られたデータを元に、ファンを直近1年の来場回数と観戦経験の有無で6層に分けて分析しています。

分けたファン層に対して、それぞれ別のアプローチをすることでより細やかなマーケティング施策を打てると笹田氏は言います。

「我々が分けたこのファン層は熱量の違いによるものです。まだJリーグの試合を一度も観戦したことがない潜在ファン層から、いわゆるマニアと呼ばれるとても熱量が高い層までが含まれています。試合の観戦回数が少ないファンの方にまずは初回来場を促す企画や、コアファンに転換してもらうための施策をそれぞれの層に向けて打つことで、よりパーソナライズされたマーケティングをしていきます」(笹田氏)

集合研修を行うことでビジネスを拡大

Jリーグが取り組んでいるのはこうしたファン層分析だけでなく各クラブのデータ活用の能力向上です。笹田氏は月に一回クラブに向けて集合研修を実施していると話します。

「この業界にはまだデジタルに詳しい人材が少ないので、この研修は重要です。楽天大学やNBAの事例を参考にして、どうすればデジタルを活用してビジネスが拡大するかなど、ノウハウの共有を中心にしたコミュニティ作りをしています。任意参加ではありますが、全54クラブ中49クラブが参加しています。事例としては、クラブとパートナー企業の方が一緒になってアプリを経由したキャンペーンなどを行ったりしています。こういったファンとクラブとパートナーが「三方良し」の座組みを、我々がハブ役になって調整する取り組みを行っています」(笹田氏)

まとめ:ファンをデータからどのように分析するか

スポーツのファン獲得に向けたデータ活用は、まだ取り組み始めたばかりのものや、実際にトップダウンで取り組み初めているものの、各チームへの浸透に注力しているものまで様々です。

共通していることは、それぞれのファン層の興味関心がどうすれば向上でき、喜んでもらえるのかを考えることと言えそうです。こうした取り組みを地道に進めることがエンゲージメントを高めるための第一歩ではないでしょうか。