マーケティング活動においても、日々のお買い物や食事代などでも、我々の日常と切っても切り離せない存在である「お金」。電気や水道と同じように、あらゆる経済活動を回す基盤である「通貨」としての役割はもちろん、年末年始は贈答品やお年玉など「コミュニケーションツール」としての役割を果たすこともあります。しかし、毎日向き合っているからこそ、当たり前になり過ぎて意外とその本質が見えていないということもあるかもしれません。

今回は、創業融資支援とデジタルマーケティングのサポートという一見異質な2つのサービスを組み合わせ、数多くの創業者の「夢」をカタチにしてきた株式会社SoLaboの代表取締役 田原広一氏に、目からウロコの「お金」の話を伺います。「いつかは独立」を考える起業志望の方はもちろん、今どき経営者にはすでに常識となっている「お金のリテラシー」を知っておきたいビジネスパーソンも必見の内容です。

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株式会社SoLabo 代表取締役 田原広一 氏

プロフィール:
創業融資支援とデジタルマーケティング事業を組み合わせ、潰れない会社作りを全力でサポートする株式会社SoLabo代表。これまでの日本政策金融公庫の融資支援実績は1600件以上にのぼる。融資支援事業以外にも「創業融資ガイド」「inQup」「資金調達ノート」の3つのメディア運営も手がけ、月間の合計は60万PVに達する。創業期の資金調達サポートの他に、オウンドメディアによる顧客のお問合せ増の施策も手がけている。

創業融資支援 × デジタルマーケ支援のビジネスが生まれたワケ

ferret:2015年にSoLaboを立ち上げられたということですが、既に毎月1,200件の相談が寄せられていると聞きました。その要因として御社の独特の立ち位置やスタンスがあると思います。

田原氏:一般的に税理士業界では創業期の顧客は儲からない、と言われています。小さな組織のうちは税理士の必要性もわかりにくいですし、動く金額も少ないので請け負っても適当にやる人が多いのです。そしてその企業が成長してくると税理士の顧問契約を切り替えられてしまう。

私も最初は経験を買うつもりで請け持っていたのですが、案件を重ねるうちに創業期の経営者は共通して「いかに資金を調達するか」に関心が高いことが分かってきました。その分野に特化した人はおらず、また知り合いの経営者からも勧められて確信が持てたので、創業時の融資に特化したサービスにすることに決めました。

うまく融資をとりつけてビジネスが回り始めると、次に相談されるのが「いかに売上を最大化できるか」ということ。他の税理士は過去の数字を家計簿のようにまとめるのは得意ですが、未来の売上を作っていくことは不得意です。

そこで、友人の経営する広告代理店に「出来高払いでいいから働かせてください」と頼み込んで、オウンドメディア運営やリスティング・SEOなどのノウハウを吸収し、その知識を顧客へのアドバイスに活用するようになりました。

もちろん自社でもオウンドメディアを立ち上げて運営しており、そこが現在でもSoLaboの安定的な問い合わせの基盤になっています。最低限のリスティング広告費だけで毎月問い合わせが増加し、それらをこなしていく中でノウハウやネットワークができてくるので、次第に効率的に融資が通せるようになってきました。

ferret:もともと「創業融資専門」という独自のポジションがある上に、圧倒的な「量」を経験することで御社ならではのノウハウが築かれていったということですね

田原氏:そうですね。たとえば融資機関といっても日本政策金融公庫や、信用金庫、信用組合、地方銀行、都市銀行など様々な種類がありますし、それぞれの本社や支店ごとにも微妙にポリシーが違います。ある支店で赤字=NGであっても、他の支店では売上が継続的に伸びていればOKという評価をしてくれるところもあります。様々な案件を通じてそれらの特性を理解できているのも当社の強みのひとつといえます。

また、だいたいの金融機関では創業時の支店決裁の限度額は1,000万円程度で、それを超えると本社決裁が必要になります。本店決裁になるとどんな人が判断するのかが見えなくなるため、確実な資金調達ができなくなってしまいます。創業時から無理に本店決裁に進めても99%NGとなります。そんな場合は無理に通さず、支店決裁額のMAXまで融資希望額を下げてみるよう提案してみたりして、いつも対面していて志向性やポリシーが分かっている支店の担当者とその上の支店長の決裁範囲の中で確実に融資をとりつけるよう計らったりもします。

通すだけでなく、融資額をあげるのも仕事

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田原氏:融資というのは、ある意味採用に近いと思っています。融資の可否や金額は単純に自己資金が多いことやビジネスモデルが優れているからという理由だけで判断されるわけではありません。そんなことよりも実はその人がこれまでの人生の中で積み重ねてきた「経験」こそが判断材料になることが多いです。

これまで一度もメディアを触ったことのない人がいきなりメディア事業を立ち上げる、と言い出しても、どれだけ面白そうなメディアであったとしてもそこに投資しようという人はいません。採用の場面でも未経験者よりも経験者の方が、評価が高いですよね?融資の審査上でも、経験者の方が圧倒的に審査では有利になります。また、公庫の場合は当人だけでなく伴侶、つまり配偶者の勤務先も重視されます。「いい奥さんのおかげで借りられた」なんていうケースだってあります。

ferret:なるほど、 本人が気づいていない価値を替わりに見つけて、融資機関にプレゼンするのも仕事なんですね。

田原氏:そうですね。まずは融資機関が見た時のその人のポテンシャルを最大限引き出すこと。そしてそれを支社の方針や担当者の志向を考慮し、一番評価してくれるところに相談すること。それによって融資額をなるべく多く引き出すことも我々の仕事です。

ferret:田原さんの話を伺っていると、お金に関する常識がどんどん塗り替えられていってワクワクします。これまでの数々のアドバイスの中で、お客さんによく驚かれることを教えていただけますか?

お金の新常識①:「借り入れは悪」は間違い

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田原氏:日本人は「無借金経営」と聞くと無条件に良いことだと思いがちですが、実は全然良くありません。「借金をすることは悪である」を最初に教わるのは親や学校の先生から。先生は自分で独立したり投資した経験がないので、そういうのも当然かもしれませんが。

ferret:ほとんどの日本人は、その時に教わったお金観から一切更新されていませんね。

田原氏:お金は、借りた方が人も事業も成長します。融資機関から「信用」されて融資を受け、それをしっかり返す。それを続けることが社会的な「信用」を積み重ねることにつながります。お金を借りないことの最大のリスクは、この社会的信用が積み重ねられないというところにあります。融資機関からの信用を高めていくと、次の大きな勝負どきにさらに大きな資金を持ってチャレンジできます。

お金の新常識②:軌道に乗るのを待たず、「創業初期」に借りたほうがいい

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田原氏:起業して一年くらい経った事業主ならみんなうなづいてくれるんですが、実はお金は「創業初期」に借りるのが大事です。理想を言えば、創業後3ヶ月以内には融資を受けておいてほしいですね。創業して半年も経つと、試算表の提出が求められます。試算表が黒字の状況であればいいのですが、創業後半年間は赤字の会社が多く、融資機関の目もシビアになってきます。

創業後3ヶ月程度のタイミングで融資を申し込んでいれば、まだスタートしたばかりなので創業後の実績である試算表の提出を求められることもないです。しかし創業後、時間が経過してしまうと試算表の提出が求められます。創業したばかりの事業主は黒字転換まで時間がかかるケースが多いので、創業後時間が経過してから融資手続きをすると借りにくい状況になっている方が多いのです。

多くの人は借りざるを得ない状態になってから借りようとする。でも、自分が貸す側の立場なら分かりますが、困ったときに借りに来るような相手には貸したくないですよね。

実際統計上も、起業する会社のうち一年目の決算書は6割から7割は赤字なのだそうです。だから「創業して、落ち着いたら融資を受けよう」は一番やってはいけません。創業したらとりあえず融資を受ける!という判断が大事なのです。

お金の新常識③:最小限ではなく「最大限」借りられるだけ借りる

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田原氏:我々の仕事は、単に融資をとりつければ終わりではなく、支援した事業主が継続的に成長できる基盤を整えることです。そのためにも無理のない事業計画を一緒に作るのですが、これは堅実な事業計画を好む低金利の銀行・信用金庫や日本政策金融公庫から評価されるポイントでもあります。

ferret:なるほど、確実に成長できるプランを描きつつ、融資機関からの評価も上げていくわけですね。

田原氏:そうです。なるべく多くの融資を受けられるようにするのも、健全な事業継続のためには大切です。同じ経営者でも手元に100万円がある心境と、1,000万円の心境とではまるで違います。手元の資金繰りに困ると、人はちゃんとした判断ができなくなります。そんな時には普段なら絶対のらない話にだまされてしまったりします。

ferret:なるほど、起業した人が本来の自分の能力や才覚を発揮しきって挑戦するためにも、「最大限」借りておくというのが大事なのですね。

田原氏:そうです。「借りられる時にMAXまで借りる」が原則です。ちゃんとした金融機関で借りれば、金利はたかが2%~3%です。それで1,000万円を手元に置いて、安心してビジネスに集中することができれば、金利分以上の成長はできますよね。事業の成長に集中する環境を整えるためにも、借りられるタイミングでMAXまで借りておいたほうがよいですね。

「創業初期に借りる」を文化にしたい

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ferret:最後に、これからのビジョンについてお聞かせください

田原氏:ここまでお話してきたことは、多くの日本人が誤解して損していることです。本当はしかるべき金融機関からの融資であれば、お金を借りたほうが事業はつぶれにくくなるのに、なぜか「無借金経営」を目指してしまう。

日本に元気な企業や経営者がもっと増えるには、「融資は必ず受ける」「創業初期にMAX借りる」ということを常識として根づかせる必要があると思っています。

ferret:なんだか起業というのは自分とは縁遠い世界だと思っていましたが、今日のお話で俄然興味が湧いて来ました。本日はありがとうございました。

写真:片岡龍太郎