アメリカ・サンフランシスコで誕生した、RaaS領域の新たな小売店「b8ta(ベータ)」。2020年8月1日には日本に初上陸した2店舗が営業を開始し、大きな話題を呼んでいます。b8taに代表されるRaaSとはどのような業態なのか、b8taが日本の小売店に与える影響にはどのようなものが考えられるか、詳しく解説します。

b8ta(ベータ)とは?

b8taとは、最新のガジェットやD2C製品などを中心に提供する小売店業態のストアです。アメリカ・サンフランシスコ近郊のパロアルトでオープンした同社は、「Retail Designed for Discovery.」というミッションを掲げ、一貫して「小売業を通して顧客に新たな発見を提供する」ことを重視。

そのため、小売店でありながら必ずしも「購買」を目的としているわけではありません。あくまで新たな商品との出会いの場として自社の店舗を活用してもらい、顧客に体験機会を提供することを目的としているのが既存の小売店との大きな違いです。

また、ストアで取り扱う商品は他の企業から販売を委託された商品ばかり。ストアの中にさまざまな企業のブースが展開されているようなイメージを持つと分かりやすいでしょう。

b8taは出店してくれた企業に、ブースだけでなく「販売員の育成や管理」「来店者の行動分析から得られるマーケティングデータ」「在庫管理」「物流サポート」「POS」などを提供します。こうしたビジネスモデルはRaaS(Retail as a Service)と呼ばれるものです。

b8ta(ベータ)のビジネスモデルとは?

先述したとおり、b8taのビジネスモデルは、既存の小売店のビジネスモデルとは一線を画しています。

ストアに並べられた商品が購入された場合にも、出店した企業に購入価格と同額を支払っているため、手数料を徴収しているわけでもありません。

気になる収益は、サブスクリプションサービスとして6ヶ月間の契約を結び、月額30万円の契約金を支払ってもらうことで担保します。月額料金を支払った企業は、先述したように販売員やマーケティングデータなどのサービスと一緒に、商品の売上を受け取れる、という仕組みです。

特筆すべきは、b8taが店舗に設置しているカメラやタブレットの機能でしょう。店舗のカメラやタブレットを通して「顧客の年齢層や性別」「商品に関心を持つ顧客の数」「販売員のコメントなどの定性的なデータ」を収集し、出店した企業にすべて提供しているのです。

これまで市場調査を兼ねてクラウドファンディングなどで新商品を宣伝・販売する企業は多くありましたが、これからはb8taを通して宣伝・販売を行う企業も増加していくのではないかと予想されます。

b8ta(ベータ)の日本の店舗は?

b8taが8月1日にオープンしたのは、有楽町(有楽町電気ビル1階)と新宿(新宿マルイ本館1階)の2店舗です。

いずれも一等地なので多くの来客が見込めます。月額30万円で出店できるだけでなく、さまざまなオプションも付随しているb8taは、D2Cを検討している企業にとって非常に魅力的な選択肢になるでしょう。

販売員の育成や管理、テナントの確保など、小売業の展開にはあらゆるリスクやコストがかかります。そのリスクとコストを排除したb8taのビジネスモデルは、まさに「かゆいところに手が届くサービス」なのです。

b8ta(ベータ)にみるRaaSの未来像

b8taは日本進出にあたって、ベンチャーキャピタルと合併してb8ta Japanを設立しています。その際に出資をしたのが「丸井グループ」「三菱地所」「カインズ」「凸版印刷」などの大手企業です。これほどの期待を受けるb8taや、RaaSという業態とは、どのようなものなのでしょう。

「体験を売る小売業」という考え方

そもそも、小売の主戦場がリアルからネットへ移り変わっている現代において、リアル店舗の存在意義は必然的に「モノ」ではなく「コト(体験)」へと変遷していかなければなりません。そうしたミッションを強く掲げて小売業の新たなスタンスを示しているのがb8taなのでしょう。

また、D2Cの波にあわせてメーカーやブランドが出店しやすいだけでなく、メリットを得られるようなソリューションを提供している点からは、RaaSの可能性をさらに強く感じさせられます。

今後は、b8taの日本進出を皮切りに、国内でもさらに顧客の体験を重視する流れが強まっていくと考えられます。日本の小売業の多くは、RaaSの考え方を取り入れ、モノではなくトキやコトを売るための変革を求められるでしょう。