飲食店内で漂う料理の匂いや街中での排気ガスの臭い、社会には様々な「香り」が漂っています。人によっては香りによって不快感を覚えたり、心地よさを感じることもあるでしょう。なかには香りに惹かれて商品を購入することもあるかもしれません。

こういった香りをマーケティングとして戦略的に用いることを*「香りマーケティング」*といい、アパレルブランドやアミューズメント施設を中心として取り入れられています。

今回は空間における香りマーケティングとの効果と事例について解説します。
「香り」は心地よい空間作りだけでなく、消費者に商品購入を促したり、ブランドの統一したイメージを持たせる効果が期待されています。
では、なぜ「香りマーケティング」が注目されているのでしょうか。効果や事例を通して学んでいきましょう。

香りマーケティングとは

研究者及び関連事業者で構成された香りマーケティング協会では、香りマーケティングとは*「企業活動において、香りを利用し活かすことによってマーケティング活動を実施し、新たな価値を創造する活動やプロセス」*であると定義付けています。

普段何気なく感じている「香り」ですが、その種類は無数に渡ります。
生活の中で気をつけてみると、蕎麦屋のつゆの香りから化粧品売り場特有の匂いまで、多くの「香り」に触れているのに気づくかもしれません。

匂いのついている有機化合物は40万種以上あり、社会は無数の香りで溢れています。
「香りマーケティング」では、そういった匂いを匂いを意図的に操作することで、消費者に新しい価値を生み出します。

参考:
[香りマーケティングとは|香りマーケティング協会]
(http://fragrance-marketing.org/abt_fma/index.html)
香料の化学|日本香料工業会

「香り」による効果とは

ネオマーケティングが実施した調査によると*「他人がつけている日用品・化粧品の香料が気になったことはありますか」という質問に対して「よくある」「たまにある」と答えた人は、全体の62.1%*にものぼり、過半数の人が香りを意識した生活を送っています。

では、なぜ人は香りを意識してしまうのでしょうか。

例えば、電車で隣に座った人が汗をひどく嗅いていて、酸っぱい臭いが漂ってきた時、あなたならどう思いますか。
臭いは脳の中で感情を作り出す大脳辺縁系へ働きかけるため、瞬時に快不快を感じると言われています。
そのため、他人の匂いに対して意識してしまうのでしょう。

また、香りは感情に訴えかけるだけでなく、顧客の購買意欲に影響をもたらすという研究結果も報告されています。

下記の表はラスベガスのカジノで週末及び土曜日に特有の香りを使用し、スロットマシンの利用額にどのような変化が起きたかをまとめたものです。

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引用:[マーケティングにおける感覚的訴求の効果]
(http://ci.nii.ac.jp/els/110008916522.pdf?id=ART0009874601&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1489539704&cp=)

実験結果では、香りを使用した週末はそうでない週末に比べ45.11%、土曜日では53.42%もの利用額の増加が見られました。

この時に使用された香りの種類は非公開となっているため、香りがどのように消費者に作用したかはわかりません。
ですが、香りが消費者の感情や購買意欲に訴えかけるのは確かなようです。

参考:
「香りに関する調査」
第1回 広がる企業の「香り」活用~ホテルやショールームからオフィス、店舗まで

香りマーケティングの事例

香りを使ったマーケティングは洗剤や封筒などの製品に匂いをつけることで商品の価値を生み出すだけでなく、施設のエントランスでアロマを吹きかけたりといった空間に対しても行われます。

空間に対して行われたものを中心に、4つの事例を見ていきましょう。

1.LIZ LISA

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https://www.lizlisa.com/

ファッションブランドのLIZ LISAでは、ブランド独自の香りを調合し店舗共通で利用しています。
ローズを中心に10種類ものエッセンシャルオイルをブレンドした香りで、ガーリッシュなブランドのイメージに合わせて調合しています。

こういったブランド独自の香りは*「ブランドセント」または「signature scent」*とも呼ばれ、顧客にブランド特有のイメージをつけるために利用されています。

参考:
[第2回 恐るべき「香り」の販促パワー、顧客との距離を着実に縮める]
(http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20110117/257378/?i_cid=LfPrv-00003Hf4)

2.Thomas Pink

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http://www.thomaspink.com/

英国シャツ専門店の「Thomas Pink 」では、店内に洗濯したてのコットンの香りを噴射することで消費者の購買意欲を高めています。

このように商品に関連した匂いを強めることで、店内に違和感なく匂いをつけることができるでしょう。

参考:
[マーケティングにおける感覚的訴求の効果]
(http://ci.nii.ac.jp/els/110008916522.pdf?id=ART0009874601&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1489539704&cp=)

3.ANA

ANAラウンジサービス|ご予約_旅の計画|国内線航空券予約・空席照会|ANA.png
https://www.ana.co.jp/serviceinfo/domestic/inflight/guide/lounge/

ANAでは全国14箇所の空港内特設ラウンジにて、ヒノキやローズマリーなどを特別に調合した香りを利用しています。

ラウンジ以外にも機内で乗客に配るおしぼりおよび匂いを楽しめるアロマカードに同様の香りを採用しています。
乗客にとってリラックスできる空間を演出することで、ブランドとしての価値を高めています。

参考:
[ANA オリジナルアロマ 10ml|アットアロマ]
(https://store.at-aroma.com/products/detail.php?product_id=333)

4.アトレ

アトレ__atre_.png
http://www.atre.co.jp/

JR東日本グループの駅ビル「アトレ」では一部の店舗のパウダールーム(化粧室)でアロマを使用しています。

照明やBGMだけでなく季節ごとに合わせて香りを切り替えることで、駅を普段から利用している顧客にも飽きられないようにしています。

参考:
[第3回 伸びる企業が注目する、「香り」のブランド価値向上力]
(http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20110125/258196/)
[導入事例【アミューズメント施設】]
(http://fragrancediffuser.jp/case03.html)

まとめ

香りマーケティングとは*「企業活動において、香りを利用し活かすことによってマーケティング活動を実施し、新たな価値を創造する活動やプロセス」*を指します。
消費者にとって「香り」は商品の購入を左右する要素であるだけでなく、空間に対するイメージを印象づけるものでしょう。

日本アロマ環境協会によるとアロマを用いた空間サービスの*国内市場規模は2015年時点で15億円となり、前年比136%*と大きく伸びています。
商品を販売するだけのモノ消費ではなく、体験を売る「コト消費」が注目を浴びるなか、空間のイメージに関わる香りも今後ますます活用されていくでしょう。

参考:
2015年のアロマ市場規模は3,337億円~既存の大市場へ外縁が広がり、市場が拡大~