実用化はもう目の前?「自動運転」に関する基礎知識と動向の事例4選
近年は私たちの生活に大きなインパクトを与えるテクノロジーが多く登場しています。
そんな中で、“移動手段の劇的な変化”を起こすであろう発明が「自動運転」です。
しかし、自動運転について詳しく知らない方は多いのではないでしょうか。
例えば「ドライバーの不要な車」と聞くと、まだまだ夢のような話に思えるかもしれません。ですが、かなりのスピードで実用化に向けた動きが進んでいます。
2018年1月にラスベガスで行われたテクノロジーに関する大規模なイベント「CES2018」においても、多くの自動運転に関する技術が参加者を賑わせ、より一層開発の動きが加速すると予想されます。
今回は、そうした注目のテクノロジーである自動運転に関してご紹介します。
かつて、スマートフォンがそうであったように、ビジネスにおいても他の業界に大きなインパクトを与える技術ですので、理解を深めておいて損はない領域といえるでしょう。
自動運転に関するレベルとは何か、重要な技術や企業の動向についてなど、どういった現状や取り組みがあるのかを知り、最新の流れを追っていきましょう。
自動運転とは
自動運転とは、現在人間が行っている様々な運転に関する操作を、システムに任せることを言います。この技術によってドライバーは運転操作から解放され、より快適に遠方への移動が可能です。
後述しますが、自動運転には「レベル」というものがあり、0から5の6段階に分けられています。このレベル分けの基準になるのは、車に搭載される技術の種類や、システムの運転操作への関与度です。
レベル2まではいわゆる運転支援システムで、あくまでもドライバーによる運転が前提です。システムが運転を代行する「自動運転」はレベル3から先のことを指します。
参考:自動運転の基礎知識 | フォルクスワーゲンの先進技術 | テクノロジー | フォルクスワーゲンについて | フォルクスワーゲン公式
自動運転のレベル
次に、自動運転のレベルについて詳しく解説します。
このレベルは、内閣のIT総合戦略本部が作成した「官民ITS構想・ロードマップ2017」で公表されている資料を参照しています。
レベル0
これまでの一般的な乗用車を指します。システムが運転操作には関与せず、ドライバーがすべての操作を行う状態です。
レベル1
レベル1においては、システムが部分的な運転支援を行います。
運転操作は、加速や減速といった前後方向での車両の制御と、ステアリングによる左右方向の車両制御がありますが、このいずれかをシステムがアシストします。
具体的には、定速走行や、先行車との車間距離の自動調整を可能にする技術(前後方向での移動のアシスト)や、車線を適切に維持する技術(左右方向での移動のアシスト)などがあります。
ただし、前後左右の運転支援が連携していないため、あくまでも部分的なアシストに過ぎません。
レベル2
レベル1では別々に行われていた加減速、ステアリングなどの運転支援の機能が相互に連携した状態です。
複数の操作をシステムが同時に行うことができるため、部分的な自動化が実現した状態と言えます。
とはいえ、あくまでも「部分的」であり、安全運転に際して、状態を監視する義務など、主体はドライバーにあります。そのため事故が起きた際、責任はドライバーに存在します。
レベル3
高速道路での運転など、特定の条件においての自動運転が実現している状態です。
*特定の条件下においては、運転操作の責任は自動運転システムに委ねられています(自動運転モード)。*地理、交通状況など、一定条件下での自動運転のため、ドライバーは必要です。
条件を満たさない場所や、自動運転モードが継続困難な状況が発生した場合は、ドライバーに運転操作が引き継がれます。
レベル4
レベル3同様に、特定の条件においての自動運転が実現しています。
さらに、緊急時の対応も自動運転システムによって行われるため、ドライバーの対応は不要です。
よって、システムが利用できる状況下においては、ドライバーの運転操作は不要になります。
レベル5
あらゆる条件において、自動運転のシステムが利用可能な状態を指します。ドライバーの存在は完全に不要です。
この状態においては「運転席」という概念がなくなるため、座席の配置など、車内のデザインが大きく変わることが予想されます。
参考:
官民 ITS 構想・ロードマップ 2017(pdf)
知っておきたい用語
自動運転車には、従来の自動車とは大きく異なる技術が求められます。そのため、自動運転の動向を知る上で、どのような技術が注目されているのかを知ることは大切です。
そこで、注目される技術をまとめてみました。
1. ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)
自動的に適切な車間距離を調整、維持してくれる技術です。先行車がいない場合は、予め設定しておいた速度で定速走行します。
先行車がいる場合は、搭載されたレーダーによって車間距離を測定。速度を調節し、適切な車間距離を維持します。
参考:
バレーノ 快適装備 | スズキ
ACC〈アダプティブ・クルーズ・コントロール〉 | 安全運転支援システム Honda SENSING | Honda
2. ドライバーモニタリング
生体情報を検知するバイタルセンサーを用いて、ドライバーの身体状態を推定します。具体的には、運転中の眠気や疲労、緊張などを検知します。
この技術は、運転が部分的に自動化されるレベル3の実用化に際して重要です。
レベル3の技術においては、条件を満たさない場所や緊急時において、自動運転システムからドライバーへの操作の引き継ぎが発生します。その際にスムーズに引き継ぎを行うためには、ドライバーの状態を把握することが重要であるため、このドライバーモニタリングが注目されています。
参考:
世界初!自動運転レベル3がいよいよ登場、注目の"クルマ向けAI/IoT技術"とは? : FUJITSU JOURNAL(富士通ジャーナル)
ドライバーモニタリング | 注目の研究紹介 | 研究開発 | 研究開発・デザイン | パイオニア株式会社
3. OTAアップデート
OTAとはOver th Airの略で、すなわち無線によるソフトウェア更新の技術を指します。
スマートフォンなどにも用いられています。
従来、自動車の制御ユニットを更新するためには、車両をディーラーに持ち込み更新して貰う必要がありましたが、この技術によって自宅などでソフトウェアの更新が可能になります。
自動運転技術が高度化していくにつれて、ソフトウェアの品質維持、向上がますます重要になっていきます。人命に関わる自動車においては、ハッキングなどのセキュリティ対策の観点からも、ソフトウェアを最新に保つことが非常に大切なのです。
しかしながら、従来のような持ち込みでの更新ではユーザーが面倒に感じ、更新を怠る可能性があるため危険です。さらに今後は、ソフトウェアの品質維持・向上はもちろんのこと、スマートフォンのように新機能の追加も行われていくことが予想されます。
そのため、OTAによるソフトウェアの更新が重要な役割を果たすのです。
参考:
OTAによる自動車ソフトウェア更新技術-高信頼かつ短時間で-:研究開発:日立
4. Cloud-to-Car
車とクラウドを連携させる技術です。
車に搭載されたセンサーが感知した情報を、車からクラウド上に送信します。そして解析されたデータがクラウド上から車に送信されるという仕組みです。
車とクラウドが互いに情報収集・学習したデータを活用し合うことで効率よく学習、データ収集ができます。
この技術の応用事例としては、自動運転において重要なクラウド地図の作成が挙げられます。
前述したように、レベル3以降のシステムを搭載した車はドライバーの運転操作を完全に代行する場面が出てくるため、より安全性が重視されます。その場合に重要なものの一部が、高精度な地図と交通情報の即時的な更新です。
Cloud-to-Carの技術によって、世界中の車両から大量のデータを収集して精度の高い3次元地図の作成が可能であり、リアルタイムで周囲の交通情報を同期できる環境を整備することが可能です。
この領域に関しては、さまざまな企業が協調して精度の向上に努めています。
参考:
クラウド・車載機器の連携が生む「新・企業相関図」 :日本経済新聞
関連企業の動向
これまで技術的な部分について述べてきましたが、ここからは関連企業の動向を見ていきます。現在自動運転に関してどのような取り組みが進んでいるのか、その参考としてご覧ください。
テスラ
自動運転に関して、多くの人が連想する企業の1つがテスラではないでしょうか。
CEOであるイーロン・マスク氏は、天才経営者として世界的に有名です。テスラは、2000年台後半から電気自動車(EV)に絞ったラインナップで自動車を販売し、アメリカを中心として大きな支持を集めました。
EVで注目を集めたテスラは、自動運転においても精力的に動きを見せています。最新モデルであるModel 3を含む全てのモデルが、自動運転機能に対応しているとのことでし。
すでにハードウェアは、将来的に実現が予想される完全自動運転にも対応しており、法整備の進み具合やソフトウェアのアップデートによって完全自動運転が実現する予定としています。
普及時期はまだ確かではありませんが、今後の動向に注目です。
その反面、テスラの自動運転車で起きた事件も忘れることは出来ません。2016年に起きた、自動運転によるアメリカ初の死亡事故。その車がテスラ製のものでした。
その後アメリカの国家運輸安全委員会(NTSB)の捜査が行われることになります。2017年1月には「欠陥は見つからなかった」との報告があり、技術的な不備ではなかったことが認められました。
しかし同年9月、NTSBは「設計上の不備が一因である」との見解を示します。
すなわち、自動運転に適さない環境でも自動運転システムが使用可能である設計が問題であるとの結論。NTSBは、全ての自動車メーカーに適切な条件以外で自動運転システムが作動しないような措置を取るように勧告しました。
この事故を受けてテスラは、システムの警告に反応しなかったドライバーは自動運転の機能を使用できなくなるアップデートを発表しました。
この事故は、世間に大きな衝撃を与えました。*画期的な技術である自動運転ですが、それと同時に技術的な課題も大きい分野です。*人命に関わる技術であるだけに、テスラのみならず、他の自動運転関連企業においてもこうした課題と慎重に向き合う必要があります。
参考:
テスラ「自動運転」事故、リコール求めず 米運輸省 :日本経済新聞
テスラ車の「自動運転による米国初の死亡事故」、その詳細が判明|WIRED.jp
テスラ車の16年死亡事故、オートパイロット機能に一因-米運輸安全委 - Bloomberg
GM(ゼネラル・モーターズ)
アメリカの*GM(ゼネラル・モーターズ)*は、2019年までにレベル4の自動運転量産車「クルーズAV」を実用化する方針であると発表しました。
先に述べたように、レベル4の自動運転車は、場所は限られるもののドライバーによる運転が不要になるシステムです。
そのため、クルーズAVにはハンドル、アクセル、ブレーキペダルなどのマニュアル操作用の設備は搭載されていません。まさに次世代の車という印象です。
GMは、自動運転の実用化に際して、車の衝突事故をなくすこと、電気自動車による環境負荷を減らすこと、そして道路渋滞を解消することや、運転が困難な人でも利用できる車を作ることを目指すとしています。
参考:
GM、初の自動運転量産車「クルーズAV」の2019年実用化を発表
ハンドルもペダルもない自動運転車、米GMが19年に実用化へ
Waymo
Googleの持株会社Alphabet傘下であるWaymoも、自動運転に力を入れています。
2018年に完全自動運転者によるタクシーサービスをアリゾナ州フェニックスにて開始することを発表しています。
アリゾナ州が自動運転に関する厳しい法規制を設けていないこと、フェニックスが渋滞や悪天候に見舞われにくい環境であることなどが実現を後押ししたと言えるでしょう。
参考:
ついに未来がやってきた。2018年からアメリカで自動運転タクシーが初サービスイン! | ギズモード・ジャパン
トヨタ
ここまでは、海外企業の動向を見てきましたが、日本企業の動向にも注目してみましょう。日本を代表する自動車メーカーであるトヨタも、自動運転に関して動きを見せています。2018年1月、ラスベガスにて開催された、テクノロジーにまつわる最大級のイベント「CES2018」にトヨタが登場しました。
その際トヨタの社長豊田章男氏から、モビリティ・サービスのプラットフォーム事業を今後の事業の中心に据える旨の発言がありました。
イベントで「e-Palette Concept」として、自動運転車が発表されました。1車種で、ライドシェアやデリバリー、宿泊などの様々なサービスを提供するためのプラットフォームの役割を果たす車です。
ユーザーのニーズに合わせて役割を柔軟に変更するこの車は、次世代の自動車の形であるといえるでしょう。
サービスのパートナーとして、AmazonやUberなど多数の企業も参加しており、車に対する新たな価値が生み出されることが期待されます。
参考:
CES:トヨタはモビリティー企業を目指す――e-Palletは都市交通の新たなプラットフォームに | TechCrunch Japan
トヨタ自動車、多目的電動モビリティのイーパレットコンセプトをCESで発表 | MOTOR CARS
日本での実現はいつになる?
これまで技術的な可能性と、企業の取組について見ていきました。
生活の大幅な変化を予想させる自動運転ですが、日本においてはいつ頃実現するのかが気になるところでしょう。
「官民ITS構想・ロードマップ2017」によれば、国として2020年までに限定地域でのレベル4の自動運転(無人の自動運転車両による移動サービス)を実現させ、2020年以降、高速道路でのレベル3自動運転(自家用車)を実現させることなどを目標に掲げています。
こうした目標達成のためには、「システムによる運転」を想定した法制度の整備や、AIの技術力強化のための走行映像データベースの整備、その関連データの拡充、情報通信のインフラ整備などが必要になってきます。
2020年は東京オリンピックの年ということもあり、この年が自動運転社会実現の第一歩として、注目の年になると言えるでしょう。
参考:
官民ITS構想・ロードマップ2017(pdf)
高度自動運転の実現に向けた制度整備大綱の位置付け(pdf)
まとめ
今回は、自動運転のシステムを定義するレベルや、自動運転に際して重要な技術、そして企業の取り組みについて紹介しました。実際に見ていくと分かるように、自動運転の普及を目指す動きはかなりの速度で進んでいます。
日本に関しては、東京オリンピックが開催される2020年をまず1つの節目として、大きく環境の整備が進んでいくといえるでしょう。
私達の生活を大きく変えるであろう自動運転の技術。普及が進むにつれて他業界にも大きな影響を与えることが予想されます。そのときにビジネスパーソンとして適切な対処を取れるよう、これを機に今後の動向に注目してみてはいかがでしょうか。
- Googleとは、世界最大の検索エンジンであるGoogleを展開する米国の企業です。1998年に創業され急激に成長しました。その検索エンジンであるGoogleは、現在日本でも展開していて、日本のYahoo!Japanにも検索結果のデータを提供するなど、検索市場において圧倒的な地位を築いています。
- フォーム
- フォームとは、もともと「形」「書式」「伝票」などの意味を持つ英単語です。インターネットの分野では、パソコンの操作画面におけるユーザーからの入力を受け付ける部分を指します。企業のホームページでは、入力フォームが設置されていることが多いようです。
- シェア
- シェアとは、インターネット上で自分が見つけて気に入ったホームページやブログ、あるいは、Facebookなど自分自身が会員登録しているSNSで自分以外の友達が投稿した写真、動画、リンクなどのコンテンツを自分の友達にも共有して広めたいという目的をもって、SNSで自分自身の投稿としてコンテンツを引用し、拡散していくことをいいます。
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