核となる言葉の鉄則は「シンプルである事」

前回の記事で紹介した「プレゼンテーションのビジョン」は「究極の理想」を現すマインドセットであり、プレゼンテー主音における「核」は、その「究極の理想」を相手にしっかりと植え付けるための言葉選びということになります。

「核」となる言葉選びの鉄則は、「シンプルであること」です。良いプレゼンテーションは、「伝言ゲームを成功させること」だと私は定義しています。

伝言ゲームは、「最初と最後の人が全く違うことを言ってしまうことを楽しむゲーム」なのですが、プレゼンテーションにおいては「最初と最後で言っている内容が同じ」であり、さらに素晴らしいプレゼンテーションでは「最後の人までたどり着いたときには、様々な要素が付け加わって熱量がさらに上がっている」ことではないかと思っています。

の話をするときによく引き合いに出すのが、織田信長さんです。彼は、天下統一という野望を掲げて合戦を繰り返していました。

ただ、彼がいくらやる気満々だったとしても、兵隊さんたちがやる気がなければ合戦に勝てるわけはありません。その時に、やたらと周りの人たちを脅しまくっても上手くいく可能性はあまり高くならないように思えます。

信長さんは“恐ろしい人”の代表のように描かれることが多いですが、「相手に恐怖を与える」というだけでは、戦国武将のトップスターにはなれなかったでしょう。

その思考の延長で、人を動かすためには2つの「きょう」があると私は考えています。一つ目の「きょう」は「脅迫」。二つ目の「きょう」は「共感」です。

「脅迫」は、実に効果抜群です。
銃を突き付けて「金を出せ。出さないと殺す。」とプレゼンテーションすれば、「いや、殺されては困るのでお金出します」という、望んでいた結果を得ることができます。

しかし、これには持続性はありません。たいていの場合はその後で警察に通報されるでしょうし、翌日丸腰の状態で出くわせば逆襲に遭うリスクもあります。

一方、「共感」は持続性抜群です。
前述のキング牧師のスピーチでは、「I have a dream」という、ともすればふわっとした印象の言葉が共感を呼ぶことになります。

あの時代、アメリカは人種差別時代の真っただ中であり、黒人の立場は極めて低く設定されていました。その状態を改善したいという強い思いを「夢」という言葉で表現したのです。

不満を口にするのではなく、「こんな未来にしたい」という希望を「I have a dream」というシンプルなフレーズに込めることで、多くの人々に広く伝わることになったのです。

おそらく信長さんも、自分の周辺の家臣に対して「天下を取ることでどんな明るい未来があるのか」ということをシンプルな言葉に落とし込んで伝えたのではないかと思っています。

そうすることで、家臣からその配下の人たちへと伝わっていき、結果的に信長さんのカリスマ性がさらに高まっていき、合戦の最前線に立つ人たちの勇気を奮い起させたのでしょう。

ある文献では、信長さんが戦列の前を馬で通り過ぎるだけで、兵士たちの士気が最高潮に高まったと述べられています。

伝言ゲームが成功している結果として、「姿を見せるだけで喜ばれ、命がけで戦う勇気を与える」という究極の状態になったのではないでしょうか。

自発的な行動を引き出すのが“ファン心理”でありプレゼンの「核」となる

「共感」を言い換えると「ファン心理」になります。ファンになると、いろいろなことが自動化されます。

たとえばあるミュージシャンのファンになったとします。そうなると、そのミュージシャンに頼まれたわけでもないのに音楽をダウンロード購入したり、ライブのチケットを買って出かけたりするわけです。

これは、ファンが勝手にやっていること、すなわち「自動化された」ことになります。なんとなく自動化というと「人を機械みたいに言って失礼だな!」と憤慨する人もいそうですが、自動化というのは「自ら動く」と書くわけですから「やらされているわけではなく、自分の判断で動いている」という状態であるともいえるわけです。

つまり、自発的な行動を引き出すのがファン心理であり、プレゼンテーションの「核」が持つ力でもあるのです。ファンを作るためには、魅力的な言葉を紡がなくてはなりません。

しかし、それは決して難しい言葉を使うことを意味しません。むしろ、難解な言葉を使うことは「なんとなくすごそうだけど、自分にはわからないや」という感じで、聴衆を遠ざけてしまう可能性があります。