Indeedによれば、国内のUXデザイナーの求人情報は5,000件以上にものぼり、とりわけWebサービスやアプリ開発ではなくてはならない存在となりました。アクセンチュアのUXデザイナーは最大年俸1900万円で募集されており、いかにこのポジションが重要であるかが分かります。

しかし、一口にUXと言っても、ユーザー目線ではなく企業の売り上げ目線でUX設計を行う場合、「ダークUX」に陥りやすくなってしまいます。果たして、「ダークUX」とはどのようなUX設計のことを言うのでしょうか。

今回は、意図せずとも使ってしまう「ダークUX」を避けるための3つのポイントを、実際のダークUXの使用例とともにご紹介します。ダークUXを使い続けてしまうと、最悪の場合ブランドイメージに傷をつけてしまうので、細心の注意を払いましょう。

「ダークUX」とは?

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イメージ画像 / BURST

ダークUXとは、デザイナーのちょっとした怠慢や気配りの欠如から出現する、使い勝手の悪いUXのことです。

デジタルエージェンシーのSigmaは、「単に悪いUX(Bad UX)は知らず知らずのうちにやっているが、ダークUXの場合ユーザーよりもブランドの利益を優先する形でユーザーに影響を与えている」と述べています。つまり、ダークUXは居心地の悪いユーザー体験を提供していることを知りながらも、横目で見ているだけの悪質なUXだと定義することもできるでしょう。

ダークUXは、意図的にデザインされたものです。同時に、ユーザーは必ずしもそれらが「悪い」UXになっているとは気づいていませんが、実際のところユーザーにとって役立つ(ユーザーファーストになっている)とは限らない、そんなデザインでもあるのです。

参考:
Online retail and dark UX patterns: One year on... - News - Sigma

ダークUXが意図せず使われているケース

ダークUXは、ユーザーに絶妙な具合で注意を惹きつけることが多いようです。

ケース1:料金表

Webサービスの中には、*「フリープランは無料」*を謳っているサービスも多くあるでしょう。まずは無料で使ってみたい、あるいは使えるならずっと無料でもいい、そんな風にユーザーは考えるはずです。

しかし、例えば次のようなデザインのホームページはどうでしょうか?

サブコピーには*「ベーシックプランは常に無料です」と書かれていながらも、料金表では視覚的に「ベーシックプラン」があることを認知することができません*。

料金表にはそれぞれ「30日無料トライアルを始める」と書かれたボタンがあるにもかかわらず、ベーシックプランを始めるボタンはどこにもないのです。ちなみにベーシックプランは右上にあるボタンから「サインアップ」を行うことで始められるという仕様になっている場合です。

このケースでもお分かりの通り、Webサービスの中には、無料プランはどのように始めたらよいのか分からない、そんなダークUX設計になっているものもあります。一方、無料プランもしっかりと料金表に含めて、無料で試してみたい人に堂々と無料でスタートしてもらう、律儀なサイトもあります。どちらがユーザーファーストになっているかは、一目瞭然でしょう。

ケース2:部屋の予約

続いては、ホテル予約サイトを例に考えてみましょう。多くのホテル予約サイトには、ユーザーの心理状況を揺さぶる工夫がいくつも行われています。

例えば、「残りあと●部屋!」「過去24時間に●件の予約がありました」と、気になる人気状況を表示しています。これだけならありがたい状況なのですが、ホテル一覧の数件目などにあえて「当サイトの最後の1部屋が本日完売しました」と表示し、予約できないホテルを掲示している場合があります。

地域や時間帯問わず、必ず満席の予約できないホテルを表示しているサイトもあるかもしれません。

人気ぶりをアピールするのは大切なことですが、予約できないホテルを意図的に上位に表示させるのは、果たしてユーザーファーストと言えるでしょうか?ユーザーよりもブランド利益優先になっている、ダークUXの典型だと言えます。

ケース3:アカウントの削除

迷惑メールが多い、サービスを使っていないなどの理由で、Webサービスを退会したいケースを考えてみましょう。

ある通販サイトでは、アカウントの開設は非常に簡単に行うことができますが、アカウントの削除に関してはボタンなどが一切ありません。アカウントの削除を行いたい場合には、問い合わせページでカスタマーサービスに問い合わせを行わなければなりません。また、アカウントの削除には1週間程度要する場合もあります。

このように、明らかにユーザーにとって不便であるにも関わらず、あえてサービス側が知りつつ不便なUXのままにしているケースは多々あります。

なぜダークUXが使われてしまうのか?

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ダークUXが使われてしまう理由は何でしょうか?その答えは非常にシンプルです。それは、サービス提供者がユーザーに特定の行動を仕向けようとしているからです。

例えば、上の3つの例では、*「売り上げを上げたい」「せっかくWebサイトを訪れたユーザーを手放したくない」*という気持ちが容易に読み取れるでしょう。とりわけ、UXよりも売り上げが至上命題となっているトップダウン型の組織の場合、それがダークUXとして現れやすくなります。

ダークUXは短期的にはそれほど深刻な状況を引き起こしませんが、長期的な視点ではブランドイメージを傷つけていることは間違いありません。もし、サイトが潜在的にこのようなユーザーを欺くUXを使っているのであれば、ユーザーはブランドに対する信頼を簡単に放棄してしまいます。ブランドイメージを積み上げるのには長い時間がかかりますが、ブランドイメージが壊れるのはほんの一瞬です。

ダークUXは、ユーザーがAからBまで最短距離で行きたいのを、妨害するか、Cという全く別の地点に誘導するようなものです。厳しい言い方をすれば、倫理的に見て顧客視点に立っているのか疑わしくなるほどに、ブランドイメージを傷つけているのです。

ダークUXを避けるための3つのシンプルなポイント

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1. 明瞭で分かりやすく

上に挙げた3つの例は、ダークUXの例として顕著かもしれません。しかし、私たちは色々なところでダークUXを使いがちです。

例えば、規約を同意する場合に「同意する」ボタンを配置する場所や、通販サイトで買う料金の表示の仕方などです。ボタンを分かりにくい場所に配置したり、割引率を隠したりしていませんか?

2. 画面はシンプルに

結果的にダークUXになってしまうケースもあります。それは、画面にボタンやリンクが山ほど並んでいて、どれを押せばいいか分からなくなってしまう場合です。

ログインしたい、購入したい、比較したい、とユーザーが思った時に、*すぐに行動できる画面設計になっていますか?*もし答えがノーであれば、画面デザインを見直す必要があるかもしれません。

3. 常にユーザーファーストで

クリスマスセールやバレンタインセールに、通常の割引率と全く同じなのに、あたかも「特別割引」のように見せてはいませんか?

自社の売り上げ、利益を優先するあまり、ユーザーを欺いてしまうと、ユーザーに気づかれた瞬間にブランドイメージを破壊してしまうことを悟らなければなりません。少なくとも、ユーザーを欺くことのないようにしましょう。

まとめ

ダークUXは、単にUXチームに人員が避けず、UX設計に手が回っていないからではなく、意図的にユーザーの利便性を阻害することを指します。以下は、ダークUXとしてよく知られているものですが、いくつか当てはまるものはありませんか?

・ユーザーが負担する費用の隠蔽
・有料プランへの執拗な勧誘
・分かりにくいマイクロコピー
・広告だと分かりにくい広告
・料金比較の妨害
・メールマガジンの配信停止方法の不明記

残念ながら、こうしたダークUXは、デザイナーよりも、むしろマネージャークラスか経営者クラスによって引き起こされる場合も多々あります。ユーザーの声にしっかりと耳を傾け、ユーザーのためになることをすれば、ダークUXを使わずとも売り上げを上げることはできるでしょう。