2. 情報発信の目的を決めて打ち手を最適化する

望月 氏が、2つ目に挙げたのは「情報発信の目的を決めて打ち手を最適化する」です。

大前提として、多くのNPOはリソースが限られている中で、情報発信や広報といった業務は、メインの事業に関する業務やその他のバックオフィス系の業務(人事・経理など)に比べて後回しになってしまいがちです。そして、それは仕方のないことだと望月 氏は話します。

「しかし問題なのは、情報発信にかけられるリソースが相対的に限られているにも関わらず、無駄に使い潰してしまっているケースがあまりにも多いことです。新しく登場したツールや他の団体がやっている取り組みに惑わされて何となく後追いで始めたり、あるいは過去に何となく始めた施策を継続してしまったりということが頻繁に起きています。」(望月 氏)

リソースが限られているからこそ、「何のために情報発信をするのか」という目的の設定、そして「その目的に対して最適な打ち手は何か」を考え続けることが大事だと望月 氏は言います。逆に言えば、その目的に照らして意味のない施策は潔くやめることも大事だということです。

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「私が情報発信の支援に入るときは、トレーニングジムの利用者とトレーナーのような関係性になると思っています。もし利用者がトレーナーに対して『筋肉をつけたい』とだけ言ったら、それは見た目にもムキムキになるようにしたいのか、それとも夏までに足が細くなるように見せたいという意味なのか、その目的を明確化するための質問をすると思います。そこを明確化せずに、例えばやみくもに腕立て伏せをするという打ち手を選んでしまっていては、なかなか思い通りの効果は出ません。NPOの情報発信についても同じです。ただでさえ忙しいNPOは、情報発信の目的を掘り下げ、打ち手の優先順位を明確化する作業が何より重要です。」(望月 氏)

さらに、目的が定まらないまま情報発信をしてしまうことの副作用は、結局「成果」が出ないことで、現場も経営者もモチベーションが下がってしまうことだと望月 氏は言います。

「最悪なケースは間違った情報発信の結果、『自分たちの思いを分かってくれない社会が悪い』と、社会に責任を転嫁して失望してしまうことです。そうなってしまったが最後、どこにも辿り着けなくなってしまいます。」(望月 氏)

3. 情報発信そのもののポテンシャルに注目する

望月氏が3つ目のポイントに挙げたのは、「情報発信そのもののポテンシャルに注目する」です。これまでの2つとは、少し違った視点からのポイントです。

望月 氏が編集長として関わる、日本の移民文化・移民事情を伝えるWebマガジン「ニッポン複雑紀行」では、情報発信自体を「事業」として捉えているそうです。

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「ニッポン複雑紀行を一緒に作っている難民支援協会では、『難民を受け入れられる社会を作る』というミッションを達成するために新しい形の情報発信が必要だということ自体が団体の中で意思統一されていました。NPOの場合、対人支援をメイン事業としているところも多いと思いますが、そのメイン事業をレバレッジするためだけに情報発信をするのではなく、人々の物の見方や文化を変えるための情報発信それ自体を並行して重要な事業と捉えるという新しい選択肢も出てきていると思います。」(望月 氏)

望月氏と難民支援協会の間でニッポン複雑紀行で発信した記事について振り返るときは、単にPVなどの把握しやすい数値を見るだけでなく、記事の方向性が正しかったか、SNSなどでどんな反応があったかなどを総合的に話し合っているそうです。

管理しやすい数値目標を設定して内部の一担当者や外部のパートナーに丸投げするのではなく、何のために事業として継続的な情報発信をするのかという根本に立ち返りながら、日々改善をしていく。あくまで数値にこだわりつつ、同時にその情報発信によって社会にどんな影響があったかは数値以外のところにも現れる、そのことを知っておかなければならないと望月 氏は指摘します。

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「ひとつの社会問題に対してずっと現場の近くで見続けているのはNPOぐらいしかありません。しかし、その優位性にNPOが気付けていないことも多い。NPOが適切な情報発信をすることで、世の中を一歩ずつ変えていく前提となる情報の広がりを起こせる可能性があります。新聞や雑誌といったメディアに頼るだけでなく、NPO自身が情報発信の力を身につけることで、社会の地殻変動を引き起こすポテンシャルも十分にあると感じています。」(望月 氏)