7月27日。米株式市場でTwitter株が前日終値比で21%と大幅に急落し、注目を集めました。

2018年4〜6月期決算は、最終損益が1億ドルの黒字。売上高は前年同期比24%増の7億1100万ドルと市場予想を上回りましたが、不正アカウントを一気に閉鎖したことにより月間利用者数(MAU)が減少したことから市場で失望売りが広がったと見られています。時価総額は256億8100万ドル(約2兆8500億円)となり、前の日より66億ドル(約7,300億円)減少しました。

またFacebookも7月26日には株価が1日で19%も急落し、時価総額で13兆円が一瞬で吹き飛ぶ事態になりました。これまで市場をリードしてきた両社に何が起きているのでしょうか。

これらは一時的な現象にすぎないのか。それとも何かが始まっているのか考えてみました。

Twitterのロックアカウント一斉削除

Twitterは2月にも複数アカウントで同じ内容をツイートをすることを禁止し、同時に大量のbotを削除しました。

この時にも、botを中心にフォロワーを増やしていた意図的なアカウントや、フォロワー数の多いアカウントが一斉にフォロワーを減らし、アクティブユーザー数の大幅な減少を招きましたが、今回ほどの大きな急変はありませんでした。

今回の事態は、7月11日に行われたフォロワーカウントについての方針の変更(Confidence in follower counts)によるもので、ロック(一時的な制限)を受けているアカウントが一斉に大量削除されました。Twitter社によれば平均で4アカウントほどフォロワー数が減るということでした。

ロックアカウントとは、運営判断で停止されているアカウント。ロック状態になると、アカウント保持者がログインすることはできずサービスは実質利用停止の状態です。

ロックの対象となるのは、アカウント当初とツイート内容が激変しているもの、突然大量のリプライやコメントを始めたもの、あるいは内容的に問題があるとされるツイートを大量に行っているものなどで、これらは乗っ取られた可能性があるか、迷惑行為を行っているとされているアカウントと見なされます。

一旦ロックされた場合には、運営サイドからアカウントの保持者に本人確認のメールが届くため内容を確認して対応、パスワード変更などすれば数日後にはロックは解除されます。

しかしながら、それでもロックされ続けているアカウントは、この確認作業ができていないアカウントと考えられます。偽アカウントやSPAM専用で作られているアカウントなど、いわゆる水増しアカウントの可能性が高いものということになります。

参考:
Confidence in follower counts

主要アカウントでどれくらいフォロワーが減ったか

実際にTwitter社により一斉削除を行うと発表された2018年7月11日以後、大手アカウントではどのくらいのフォロワーが減少したのでしょうか。

SNS分析ツールの「POST365」を使って調べてみました。100万以上フォロワーのある企業アカウントの中で、7月11日から18日までの間にフォロワーの減少率が大きかった上位10アカウントです。

もっともフォロワー減少率が大きかったのは朝日新聞アカウントで、1.92%のフォロワー(約23,000アカウント)を減らしました。続いてGooglePalyアカウントで1.67%のフォロワー(約116,000アカウント)を一気に減らしています。こうした急速なフォロワー数の減少が市場に不安感を巻き起こし、株価急落の一因となったことは確かでしょう。

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ロックアカウントの削除により、フォロワー数が減少すること自体は、決してマイナス要因ばかりではありません。下駄をはかされていたような状態だったアカウントの正しい情報発信力が可視化されるからです。

とはいえ、先のフォロワー減少率の高かった主要10アカウントだけでも、総計で106万3000余りのフォロワーが一気に減ったことになります。

これは想定していたよりも遥かに、「ロックアカウントTwitterの正しい情報発信力に寄与しているとは思われないフォロワー)」の数が大きかったことが、Twitterの成長性への不安を抱かせる結果になったものと思われます。

逆に言うと、これまで市場はTwitterを評価する際に、もっぱらユーザーやフォロワー数に注目し、このような「幽霊アカウント」に対して無頓着だったことの反動が来たとも言えるでしょう。

急成長の時代を経て、こうしたアカウントを削除する時代に入ったところで、Twitterの発信力と成長力がさらに厳しく評価される時代に入ったと言えます。

Facebookの成長鈍化と困難な道

一方で、Facebookの暴落の原因とされている主たる要素は、まずユーザー数の伸びが明らかに鈍化していることです。

2Q(4-6月)の1日あたりのユーザー数(DAU)は14億7100万人・前期比1.5%増、月間ユーザー数(MAU)は22億3400万人で前期比1.7%増となりました。

Facebookのユーザー前期比はこれまで3%前後で推移してきていますので、1%台という数字は2012年にFacebookが上場を果たしてから最低の数字です。売上高も前年同期比42%増の132億ドル、純利益は31%増の51億ドルでしたが、売上高は市場予測の133億ドルに達しませんでした。

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画像引用元:株価暴落とフェイク対策、フェイスブックの迷走はソーシャルメディアの潮目か

さらにFacebookには相次いで逆風が押し寄せています。3月に発覚したケンブリッジ・アナリティカによるユーザーデータ大量流出事件の影響からようやく株価が回復したところで、マーク・ザッカーバーグCEOが米国メディアRecordの取材で、ホロコースト否定論に味方するかのような発言を行ったことから、米英のユダヤ人団体が非難声明を出す事態になりました。

参考:
Facebook「ホロコースト否定論」投稿への見解、ユダヤ人のザッカーバーグCEOが言及

ザッカーバーグ自身がユダヤ人であることから、余計にこの問題は大きくなったようです。ホロコーストを否定する団体の投稿を削除することをザッカーバーグが拒んでいることに激しい抗議が寄せられたために、ホロコーストを否認する考えを是認しているわけではないことを強調する発言をせざるを得なくなりました。

また特定の集団の中で起こる暴力や憎悪を認めるような「一線を越えた」投稿は削除されるとしましたが、これでは不十分と考える人たちの抗議は続いています。Facebookでは不適切な内容を含む可能性のあるコンテンツをチェックするため、世界中で何千人ものモデレーターが人工知能の力を使って監視を行っています。

ザッカーバーグを含む経営幹部は、同社が「真実の仲裁人」になることは控えたいと主張してユーザーに「自己判断」を求めており、ザッカーバーグの発言もこの方針に沿ったものと思われますが、月間アクティブユーザー数20億人とも言われる巨大な世界メディアであるFacebookの姿勢としてそれで済むのかどうか。難しい局面に立たされています。

GDPRとFacebook

ヨーロッパのデータ保護規制「GDPR」もFacebookを悩ませる一因と言えるでしょう。

2018年5月25日にEU諸国で適用開始されたこの規則は、これまでユーザーの個人情報を牧歌的に扱って来たFacebookを直撃することになりました。GDPRはEU圏内の個人情報を扱う全世界の企業が対象となり、またその個人情報の取り扱いに関して違反を行ったと見なされる場合に課せられる高額な制裁金が企業を震え上がらせています。

欧州委員会の弁護士ベルンハルト・スキマ(Bernhard Schima)はGDPRが施行されると同時にFacebookを提訴。さらにプライバシー保護のための非営利団体noybのマックス・シュレムス氏は発表文で「Facebookはこれまで、同意しないユーザーのアカウントを強制ブロックさえしてきた。つまり、最終的にユーザーはアカウントを削除するか、同意ボタンを押すかを選ばなければならなかった。それは自由な選択とはいえず、北朝鮮の選挙プロセスを思わせるようなものだ」と痛烈に批判しました。

参考:
GDPR施行、“同意の強制”でさっそくFacebookとGoogleに対し初の提訴 | TechCrunch Japan

GDPRを遵守しなかった場合には、最大で歳入の4%の罰金が課されることになります。市場はFacebookがGDPRによって個人情報を自由に行使できなくなり、新法の遵守を確実にするために弁護士を雇う費用を追加した場合、広告利益を減少させる可能性があると見ているようです。

参考:
EUで施行されるGDPRとは?日本の企業も知らなきゃ損するホームページのプライバシー保護|ferret [フェレット]

まとめ:改めて「SNSがもたらす価値」とはなにか考えてみよう

言わば順風満帆とも言える成長期を経て、世界のSNSを牽引して来た2大巨塔であるTwitterとFacebookが直面している問題について見てきました。そこで突きつけられているのは、広告収入を得るために猪突猛進で空前の成長を遂げて来たこれまでの手法に、2社だけではなくSNSマーケティング全体が考えなければならない問題を孕んでいるということでしょう。

享楽的な個人情報を無頓着に晒してくれるユーザーがこれからも無限に現れると考えることは楽観的に過ぎますし、人ではないbotが縦横無尽にアカウントを量産して、「偽の情報価値」を野放しに量産して来た時代も終わりを告げる日が近いだろうということです。

マーケティングに関わる全ての人たちが、いま起きていることに対して注意深く目を配り、新しい時代のSNSの価値について考え直さなければならない時期が来ていると思います。