個々の意思が反映されないチームではメンバーの責任感は生まれない
責任感を高めるための好循環を生み出す
このように考えると、責任感はすべて個人レベルの問題と言い切ることはできず、チームの体質が影響しているということをご理解いただけるのではないでしょうか。
さらに付け加えると、このようなチームでは面と向かって議論することをリスクだと感じます。評価を下げられるのではないか、今後の風当たりが強くなるのではないか、と不安が先行し、保身に走り出します。保身の末路として、最悪の場合は蹴落とし合いに行きつくことさえあり得ます。
自分の正当性を示したいという思いから、仲間の失敗を見つけてはコソコソと批判し、少しでも自分が優位に立とうとするなど、チームワークとは真逆の行動を起こすメンバーも出てこないとは言い切れません。
そんな状況を打開するためには、責任感を高めるための好循環を生み出さなければなりません。まずは、チーム内に「安心感」を浸透させることです。お互いがリスペクトの関係で結ばれることです。そこから、発言の仕方や受け止め方などの意識改革をして、安心感のあるチームをつくっていくのです。
安心感のあるチームではお互いに否定から入らず、意見の多様性(食い違いや衝突)には寛容、というよりむしろ歓迎します。その結果、皆が真剣な議論に参加できます。
自分自身も議論にのめりこみ、議論を重ねてたどり着いた決定事項に対しては、納得感が高まるはずです。納得感のある方針・計画には希望や期待があり、達成したいという思いが強くなっていくと期待できます。
「議論」という言葉にアレルギーがある人の多くは、議論=勝敗という感覚があるからでしょう。本当の議論とは相手を論破し、従わせることではありません。お互いが意見を出し合い、両者納得の第3案を生み出そうすることが議論に必要なマインドなのです。そこで生み出された第3案にこそ責任感が育つのです。
議論を重ねて生み出された計画には自分の意思も反映されているため、「俺のプロジェクト」という感覚になり、「絶対に成功させたい」という思いが高まります。すると、「このプロジェクトには俺の思いが詰まっているんだから、みんなもちゃんとやってくれよ!」と気持ちになり、仲間への関心も高まります。計画どおり順調に仕事が進んでいるか、仲間の仕事ぶりまで気になってくるのです。メンバー相互にチェック機能が働くステージです。結果的にメンバー全員がお互いに関心を寄せあうチームとなり、チェック機能も向上し、妥協を許さない強いチームへと発展していくことでしょう。
自らの意思で動いた高校野球選手
2018年夏の甲子園大会の準々決勝、近江高校vs金足農業高校では、9回裏のサヨナラ2ランスクイズで金足農業高校が勝利し、一躍メディアを賑わせました。1-2であとのない金足農業はノーアウト満塁からスクイズ、そしてまさかの2塁ランナーまでがホームに生還し試合が決まりました。野球の専門家からすれば、ノーアウトという状況を考えるとリスクを負う状況ではなく、セオリーとは異なる選択だという見解です。
2018年8月19日の朝日新聞朝刊によると、スクイズを決めた斉藤選手や監督さえも2ランスクイズ(逆転)までは想定しておらず、「同点になったな」と思ったそうです。つまり、2塁ランナーの菊池選手自らの意思でホームを狙ったということです。また、この緊迫する状況で打席が回ってきて見事にバントを成功させた斉藤選手はこの大会でノーヒットでしたが、日ごろの練習の8割をバントに費やし、あらゆる状況を想定して10種類、「1発で決めなければいけないから難しいけれども、あの場面で決める自信があった」とも書かれていました。
結果論になってしまいますが、仮にトップダウン(監督の指示)で2ランスクイズを実行した場合、2塁ランナーは不安や迷いの中で走ったかもしれません。そして、もしも失敗したときは、「監督に言われたからやった」だけのことであり、悔しさは残る一方でそこに責任感はないはずです。
また、バントを成功させた選手は、自らの意思で納得いくまで日々バント練習をし続けたからこそ、失敗の許されないシーンで自信と責任感を持って打席に入れたのではないかと思います。もしも監督に怒られるのが嫌で仕方なくバント練習をしていたとしたら、あの大舞台で自信を持って打席に立つことは難しかったのではないでしょうか。
つまり、自分の意思が反映されている事については責任感が高まる、すべてが「俺たちのプロジェクト」として進行しているのだと思います。
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