旅館やレストランなどの予約サイトを運営する一休.comは、2013年より営業主体の経営からデータドリブン経営へと大きく方針を変更し、2017年の取扱高は前年比45%増と大きく業績を伸ばしています。

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取扱高の推移

この変革の背景には現 代表取締役社長の榊 淳氏の入社がありました。

データドリブン経営へと舵を切っていきたいが、なかなか思い切った決断ができず結局変化がないと悩みを抱える企業も多くある中で、榊氏はどのように経営方針を変え、現場を変えていったのでしょうか。

今回は、株式会社一休の宿泊事業部で営業職として活躍していた現CHROである植村弘子氏に当時の現場での状況をお聞きしました。

メールマガジン・広告メニューを大幅に削減・廃止

ferret:
まず榊さん入社時の植村さんの役割や業務についてお聞かせください。

植村氏:
当時は宿泊事業部の営業として勤務していましたので、掲載いただくホテルや旅館へ出向いて、営業活動をしていました。勤務歴もそこそこでしたので、いわゆるベテランとしてチームを引っ張る立場でしたね。

その宿泊事業部の本部長、つまり直属の上司として榊がコンサルタントとして入社してきました。

ferret:
榊さんはまず何から取り組まれたのでしょうか?

植村氏:
色々ありましたが記憶に強く残っていることとして、まずメールマガジンの変更から始まりました。

当時はメールマガジンの文面も営業メンバーで持ち回りでつくっていたんです。全国のおすすめホテル・旅館の情報をプランと一緒に配信していました。宿泊だけでなく、レストランや号外のメールもあり、それらを毎日60万人の会員に向けて配信していたんです。

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私達は、全国のホテルや旅館を実際に訪れて、その魅力を知っているので、その素晴らしい宿泊施設に安く泊まれる情報があるのであれば、その情報をユーザーの方に伝えないのは悪だと思っていたんです。そうしてあれもこれもと増やしているうちに、おびただしいコンテンツ量と配信数になっていました。

ferret:
確かに「お得な情報は伝えなきゃ」と考えてしまいますね。
当時から情報量が多いなとは思っていたのでしょうか?

植村氏:
当時は感覚的になんとなくユーザーは喜んでいるのではと思っていました。退会者数などの数字も出してはいたのですが、目をそらしていましたね。とにかくこのお得な情報を伝えることがユーザーのためだと信じていました。

ferret:
そこからどのように変わっていったのでしょう?

植村氏:
まず榊から「何考えてんの?」と一喝されました(笑)ユーザーにとっては自分に関係のない有益ではない情報が届くのはストレスでしかないだろうと。

そして一気にメールマガジンの配信数を強制的に制限されたんです。過去の配信データを元にターゲティングした配信を行い、「この内容のメールを送っていいのは◯人だけ」と大幅に配信数とコンテンツ量が削減されました。

ferret:
どのようなターゲティングだったのでしょう?

植村氏:
まずは居住地や好みからでしたね。東京のユーザーに北海道のホテルの情報ばかりを送らない、旅館とホテルのどちらをよく利用しているか、などでターゲティングされていきました。

ferret:
お聞きした感じだと、そこまで特別なことはしていないように感じました。

植村氏:
そうですね。ただ当時の現場はマーケティングについては何も分かっていませんでしたし、こういったロジックがわかっていても、かなり不安でした。配信量は減り、当時は宿の方によく伝えていた「メルマガにも掲載しますので…」といった営業トークも使えなくなり、本当にこれでいいのだろうかとずっと思っていました。

配信数だけでなく、メールマガジンの広告メニューと、一休.comのトップページバナー広告枠も廃止されました。「サイトのトップページやメールマガジンは、東京の一等地と同じくらい重要な場所なのに、そこにユーザーが喜ばないかもしれないようなものを置くな」と言われたんです。

当時はそこそこ売れていた人気メニューだっただけに、営業としては不安が山積みでしたね。

ferret:
それだけ現場が不安になるほどの大改革を行い、結果としてはいかがでしたか?

植村氏:
メールマガジンについて言えば、明らかにCVRが向上し、退会者はほとんどいなくなり、逆に会員数がどんどん増えていったんです。「この前のメールを間違えて削除してしまったので、再送してほしい」といった反応までありました。

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結果を見て、びっくりしましたし、これまでもユーザーのためだと信じてメールマガジンをつくっていたので、正直ショックでもありました。ただ、そこで初めて数字をみて分析することって大事だなと肌で感じましたね。

ferret:
人気のメニューを廃止すると売上にも影響がありそうな気がしますが、そこはいかがでしたか?

植村氏:
私もそこが不安だったのですが、結果としてCVRが増加したので、そこまで影響はなく、その後も順調に売上やユーザー数が伸びていったんです。

データに基づいたハイレベルな提案へ

ferret:
メールマガジン以外にも変化はありましたか?

植村氏:
営業スタイルも大きく変わりましたね。

私の営業に同行された際に、商談が終わってから「どうでしたか?」と聞いてみたんです。そしたら「ハイレベルな提案が無いですね」と一蹴されたんです。いわゆるベテラン営業マンとしての自負も多少あったので、その理由を聞いてみると、「データに基づく提案が無い」と。

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ホテルの宿泊プラン例

例えば、宿泊施設は一休.comに掲載する際に宿泊プランの価格を決めています。その価格をこちらから提示することも多かったのですが、それが肌感覚でしかなかったんですね。

榊いわく、その施設の全部屋数や空き部屋数、他施設とのシェア率などを過去のデータに基づくと、適正な価格を提示できるし、ユーザーはいくらのプランならクリックするのか数字として出すのもそこまで難しくないだろうと。1万5千円が適正な価格と考えられる宿を1万円で掲載するのは宿にとって損だし、2万円で掲載するのはユーザーにとって損ですよね、と言われてハッとしました。

ferret:
そこから営業スタイルも変わっていったのですね?

植村氏:
そうですね。きちんとこれまでのデータを元にした提案をすることで、営業活動は大幅にレベルアップしましたね。

改革には強制力が不可欠

ferret:
メールマガジンや営業スタイルの変化など、かなり強制力を持って取り組まれたように感じたのですが、なぜ現場は受け入れることができたのでしょう?

植村氏:
正直、受け入れるかどうかの選択が与えられる余裕もないくらいに強制的だったんです。

でも、今ではそれくらい強制的に変えてもらってよかったなと思っていますね。どうしても人って昔の良かったところだけを思い出して、昔の習慣に戻ってしまうと思うんです。少しでもこの隙があると、ここまで変わることは難しかったかなとも思いますね。

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今でも覚えているのが、お得意先のホテルでの商談に榊が同行した際に、榊からデータの資料を見せながら、提案をした際に、先方からお叱りを受けたことがあったんです。先方のホテルとはお付き合いも長かったので、「いきなり入ってきて上から偉そうにデータだけで提案をするな」と。

その場は、私から謝罪をして、その場を収めたのですが、榊はそのデータに基づく姿勢をその後も崩さなかったんです。そうするうちに様々な場面で、先方から「あの資料が欲しいんだけど」といった声が届くようになっていきました。

結局「少しやってみよう」くらいの心持ちでは組織や人は変わらないから、それくらいの思い切りと強制力が必要なんだなと痛感しましたね。

まずトップから動いて現場を牽引

ferret:
それほどに強烈だったのですね。
現場での反発などはありませんでしたか?

植村氏:
最初は戸惑いと不安しかありませんでした。ただ、榊は自身がデータサイエンティストなので、自分でデータを取得し、分析してどんなコンテンツやどんな情報がユーザーにとって必要なのかを提示してくれるんです。営業で必要なデータも全部自動で取得できるシステムを開発してくれたり、現場は何をすべきかが明確でした。結果も榊からレポートされるので、言われるがままやってみたら結果がついてきた、という感じですね。やっぱりみんな結果が出るとやる気になりますよね。

ferret:
それくらい自分からまず動く、というのが重要だったんですね。

植村氏:
そうですね。マーケティングのスキルがある方って、方針だけを決めて実際に手を動かすのは現場に任せる、というケースが多いと思っているのですが、実際にその意思決定者がどんどん動いていくと、現場も「どこへどうやって進んでいくべきか」が明確ですよね。

あとは一貫して「ユーザーファースト」に徹底的にこだわった点も大きかったです。メールマガジンの配信数削減も、広告の停止も、すべてユーザーにとって有益かどうかで決めていたんです。そこにこだわった結果、数字が伸びてきたので、それ以降も「ユーザーファーストかどうか」を元に自走して意思決定を行える組織になっていきました。

ferret:
あくまで基本は「ユーザーファーストかどうか」なのですね。

植村氏:
そうですね。数字として大きく成長していますが、特別なことや画期的なことはしておらず、ユーザーに向き合って、筋トレのように小さなあたりまえを積み重ねていった結果だと思っています。

ferret:
その積み重ねが今の成長につながっているのですね。本日はありがとうございました!

植村弘子氏プロフィール

新卒でエスビー食品株式会社に入社。コンビニエンスストアチェーン本部セールス 兼 PBブランド商品企画を担当。
2006年10月より株式会社一休にジョイン。一休レストラン、一休.comのセールスを経て、カスタマーサービス部門でコールセンターの立ち上げ、改革を実施。
2016年4月より執行役員CHROに就任、2016年7月から現職の執行役員CHRO管理本部長。