PRという概念は一見マーケティングとは関係ないのではないかと思われがちです。しかし、マーケターにとって、PRの視点というのは非常に重要になるもの。この連載では、そんなPRについて、日本を代表する戦略PR専門家である本田哲也氏に伺います。記念すべき第1回目となる今回は、基本中の基本! PRと広告の違いについてお聞きしました。

本田哲也氏 プロフィール

セガ・エンタープライゼスの海外事業部を経て、1999年に世界最大規模のPR会社フライシュマン・ヒラード・ジャパンに入社。2006年、スピンオフのかたちでブルーカレント・ジャパンを設立し代表に就任。P&G、花王、ユニリーバ、アディダス、サントリー、トヨタ、資生堂など国内外の企業との実績多数。また外務省のアドバイザーやJリーグのマーケティング委員などを歴任。海外での活動も多岐にわたり、2015年には世界的なアワード『PRWeek Awards 2015』にて「PR Professional of the Year」を受賞。世界最大の広告祭・カンヌライオンズでは、公式スピーカーや審査員を務めている。2019年より、株式会社本田事務所としての活動を開始。

書籍

2009年に「戦略PR 空気をつくる。世論で売る」(アスキー新書)を上梓し、マーケティング業界にPRブームを巻き起こす。その他にも「その1人が30万人を動かす!」(東洋経済新報社)、「ソーシャルインフルエンス」(アスキー・メディアワークス)、「最新 戦略PR 入門編」「最新 戦略PR 実践編」(アスキー・メディアワークス)、「広告やメディアで 人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。」、「戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。

Twitter@hondatetsuya70

PRの混同は就職活動が全ての原因 !?

ferret:PRというとアピールするというイメージがありますが、本当の意味は何なのでしょうか?

本田氏:日本でPRというと、就職活動のときに使われる自己PRという言葉が浸透していますよね。今は多様化してきましたけど、大体の場合は就職活動の際に自己PRしてくださいと言われます。

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自己PRは言葉としてはいいのですが、定義はアピールという言葉に近くて、自分で自分のことをいかに売り込めるか、つまり自己アピールなんですよね。
自己アピールっていうのはまさに自分を魅力的に見せるかとか、いかに自分を説明するかという意味ですから、自己PRって呼び方はよくないです。

例えば、昭和の日本のテレビ番組とかも、PRタイムというものがありましたが単なる宣伝の時間でした。本当の意味で言うと、PRを英単語的に分解するとPublic Relationsだってことを知っていて説明できる人は一握りだと思うんです。「Public=世の中、社会」「Relations=関係」なので、「社会と関係をつくる」とか「関係構築すること」、言い換えると「社会とのお付き合い」ではないでしょうか。

もっと平たく言うと世間とのお付き合いということですから、言葉の本来の意味は、自己PRが指す「自分をいかに売り込むか」とは違います。

両者ともメディアとの関係性が重要だが関わるところが違う

ferret:日本では広告代理店の業務とPR会社の仕事内容が混同されているイメージなのですが違いを教えてください。

本田氏:PR会社と広告代理店の共通していることで言えば、両方とも必ず有名なメーカーやブランドだったりのクライアントがいます。ほとんどの場合がクライアントのために、クライアントの商品や企業、サービスとか、もし自治体がクライアントだったら観光資源とかになりますけど、何かのモノとかコトをうまく売り込んであげたり伝えてあげたりよく見せてあげたりすることは共通です。

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では、違いは何でしょうと言ったときに、そこが広告とPRの違いになります。広告は、基本的に媒体、メディア、テレビや新聞、雑誌、ネットニュースなどの売り出されている枠を購入して、そこにコンテンツとかクリエイティブを掲載していく。だから代理業なんですよね。

今、広告代理店の仕事はすごく多様化していますから一概には言えませんが、基本を一言で言うと今の話です。なので、構造的には不動産業に似ていて、クライアントのために、広告を展開したり言いたいことを言う場所をまず買ってあげるということをやります。これをいわゆる媒体購入(media buying)と言いますけど、買う前提でそこにすばらしいクリエイティブ、コンテンツなどを多くの人がつくりあげていくんですね。

一方、PR会社もメディアとの関係性はすごく大事なんですけども、実は向き合っているメディアの人たちや部門が違います。広告代理店は、枠を購入するので商取引ですよね。
広告代理店が買っているのでメディア側は営業になるわけです。テレビ局にも雑誌社にもネットメディアにも事業部と営業部があって、自分たちのメディアとしての枠を売っていてこれは商取引になります。

PR会社はメディアを売る人ではなく、雑誌や記事、番組をつくっている人たちが向き合う人になります。なぜならPRは媒体を買うことが前提ではないので、「売りますよ買いますよ」という話では一切ないわけです。その代りに行われるのは、「この情報いいと思いません?」「新しいですよ」などニュースや話題についての取り引きをPR会社はしています。

媒体側の人は、毎日「新しいネタはないかな」「こういうことを取材したいんだけど、どっかにいい情報はないかな」「こんな特集を組むんでこういう人を取材したいな」と何か情報を求めています。そういう人たちと情報のやりとりをするのがPR会社の仕事です。

PR会社も広告代理店も向き合う相手はメディアの会社だったりしますけど、相手となる部門が異なることが大きな違いです。

自由度が高く幅広く仕事が行えるのがPR会社

ferret:お話を伺っているとPR会社は自由度が高く、幅広い仕事を行えるイメージを抱きました。

本田氏:PRのおもしろいところなのですが、PRの仕事は、マスコミや出版社とばかりやりとりしているのかというと必ずしもそうではないんです。

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例えば何かコトを起こしたいときに、学会やNPOとかと連携することも多いんです。もっとダイナミックな場合だと、学会そのものをつくったり、NPO自体を立ち上げてしまうこともあります。

取り上げてもらう前に、情報を発信するところを自ら立ち上げてしまうんです。だから新しい団体をつくるっていうのがすごくあるんですよね。

ちょっと話が逸れちゃうかもしれないけど、アメリカには国や地方議会に働きかけを行うことを表す「ロビイング(ロビー活動)」という言葉があります。ロビイングを行う時も、やっぱり一企業が働きかけるより業界団体やNPOとかが働きかけた方が当然聞き入れてもらいやすい。
なぜなら、中立的になるからです。一企業の私利私欲のためではないとなるから、ロビイングを行うんだったら中立組織をつくっちゃった方が早い場合があるわけですね。だからアメリカではPR会社がそういうものをつくったりするっていう事例があります。

賛否両論あるんですけどね。でもそのくらいの自由度は高いと思います。

今はPRの人たちが強みを活かせる時代になっている

ferret:現在、日本の消費者の価値観は多様化していると言われています。そんな日本において、PR会社というのは活躍の場が広がりやすくなっているのですか?

本田氏:一般の方がそもそも見る情報や消費する情報が増えすぎているというのが現状です。情報が増えすぎたということと、どこで見るかどこで接するか、消費するかっていうのが多様化しています。消費者への情報や消費する場が広がって多様化しているから、自由度高く情報を届けられるやり方の方がいいわけです。

昔は大体家にいてテレビを見て、CMもみんな見て、おもしろいCMがあったら次の日学校で話題になっているっていう状況でした。情報も情報の接点であるタッチポイントも限られている場合は、広告が最もいいわけです。

広告がダメになったというわけではなく、今は消費者の価値観や消費する場、受け取る情報のタッチポイントが広がって多様化したから、どういう風に情報の球を当てていくかがそもそも難しくなってきたので、より自由度の高いやり方が必要となります。となるとPR会社のチャンスは大きいと思いますね。さっきの話の繰り返しになりますが、必ずしも媒体を買うとかじゃないからです。だからあえていうと、PR会社が今までやってきた土俵が世の中的には近くなったっていうことでしょうね。

だからと言っていきなりPR会社が大儲けになるとか、PR会社の人の引き合いがすごくなるというのではなく、PR会社も今の世の中でうまくやらなければいけない。強みを活かせるような世の中にはなっています。

後編に続く(9月公開予定)

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