これまで企業は、商品の利便性や消費者へのメリットを訴求するコミュニケーション活動を主に行ってきました。しかし、そのコミュニケーション手法は一方通行的で、価値観が多様化した現代において、見直されつつあります。そんな中で現在注目を浴びているキーワードが「ナラティブ」。ナラティブという概念が重要になる今、企業はどのように消費者や世の中とコミュニケーションをしていくべきなのでしょうか。

2020年1月28日、東京ビッグサイトで開催された「マーケティングテクノロジーフェア 東京 2020」での本田哲也氏によるセミナー「ナラティブの時代:戦略PRで企業は何を語るべきか?」の内容をお伝えします。

マーケティングコミュニケーションはナラティブ型に

ナラティブという言葉は、情報感度が高い人にとってこの1、2年の間によく聞くようになった言葉でしょう。ナラティブという言葉を辞書で調べると「朗読による物語文学。叙述すること」と出てきます。ストーリーも物語という意味ではありますが、どう違うかというと、ナラティブは「語ること」というニュアンスが強いです。

私はPRの専門家ですから、ナラティブ策定のお仕事をよくいただきます。しかしナラティブというのは、そのままWebサイトにあげたり、広告クリエイティブにしたりすることではありません。ナラティブ自体は世の中に出ることはあまりないんです。

なぜナラティブがマーケティングコミュニケーションにおいて重要かというと、情報が複合的に伝わるからです。これまで企業はステークホルダー向けに情報を発信したりお客様向けの情報をつくったりしていました。しかし株主宛に情報を発信したつもりが消費者に伝わったり、SNSでネガティブな話題が出て株価に影響したりするなど、個別のターゲットに対して施策を行う時代ではなくなってきました。そのため、全体的なナラティブ(語り口)が必要になってきたんです。

アメリカの調査では、企業や商品がそのメリットなどを発信するよりも、企業が何を語り発信するかで商品のファンになるというデータも出ています。企業が情報をただ発信しておけばいいという時代は終わり、複合的にその企業が何を語っているのかで売上にも直結し、ブランドイメージにもつながっていくという時代に移りました。つまりマーケティングコミュニケーションはナラティブ型に移行しているのです。

商品やサービス、企業にとってパーセプション(認識)のチェンジが重要

ナラティブに続いて、本日のもう一つのキーワードが「パーセプション」です。パーセプションを直訳すると「認識」。どのように見られるかということです。知られているかということよりも、どのように認識されているかの方がこれから商品やサービス、企業にとって大きな課題になってくるでしょう。パーセプションが変わるとどうなるかということを、身近な例で説明します。

サンリオピューロランドと聞いて、皆さんが想像するのはディズニーランドやユニバーサル・スタジオ・ジャパンなどのテーマパークだと思います。もっと具体的なイメージだと、屋内型のテーマパークだと認識されているんではないでしょうか。実態はちょっと違います。乗り物などのアミューズメントもありますが実際は劇場です。日々行われているのは宝塚歌劇に近く、キティちゃんなどのキャラクターのみならず、ショーにイケメン男性が登場して、それ目当ての女性ファンが集まっていたりしています。テーマパークというより、今は劇場に近い。サンリオピューロランドは今右肩上がりに業績が回復しています。「屋内型テーマパーク」というパーセプションはもはや旧来のものです。

もう一つの例が、日本人で知らない人はいない森永ラムネです。最近、リバイバルヒットしたのをご存知でしょうか? 理由はラムネが二日酔いに効くと言う口コミがSNS上で話題になり、お医者さんも森永ラムネが二日酔いに効果があることを認めました。森永製菓株式会社が戦略的に仕掛けたのではなく、最初はSNSで自然と広がりました。日本人にとって、森永ラムネというのは「子どものお菓子」というパーセプションでした。そのため、大人は森永ラムネを手にしません。しかし二日酔いに効くということからパーセプションが変化しました。森永製菓株式会社も商品開発に着手して大人向けの「大粒ラムネ」を販売し始めたんです。2018年3月に大人向けに発売をスタートした「大粒ラムネ」は当初の年間販売計画数量を発売後1ヵ月ほどで売り切ったそうです。何が変わったかというと認識です。認識が変わると新しいターゲットに売れ始めました。今の話に、「認知度」は全く関係ないということにお気づきいただけたかと思います。

参考:なぜ大人向け「大粒ラムネ」は爆発的にヒットしたのか?「森永ラムネ」ブランドの挑戦 | リクナビNEXTジャーナル

既存の認識を社会の中で変えていくのは難しい場合があります。広告宣伝プロモーションだけでは難しい。客観的な要素を加えないと、パーセプションは変わっていきません。今は広告宣伝に注力して認知を上げていくだけでは、モノやサービスは売れにくい。認識つまりパーセプションの問題であることが非常に多いです。令和時代のマーケティング課題の一つはパーセプションをどうコントロールするかということだと思います。