キュレーションメディア、オウンドメディア、バイラルメディア、など、あらゆる形態のWebメディアが濫立している今、改めてメディアの在り方を考える必要がありそうです。
他媒体との差別化が難しい今、どうすればユーザーに選んでもらえるメディアになるのか、良いメディアには何が必要なのか。明確な答えを出せる方はほとんどいないのではないでしょうか。

今回は、D2Cソリューションズ主催のメディアイベントに登壇したBuzzFeed Japan 創刊編集長の古田大輔氏とライターのヨッピー氏による「良いメディアと悪いメディア」をテーマにしたディスカッションの様子をお届けします。

登壇者紹介

古田大輔氏

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BuzzFeed Japan 創刊編集長。早稲田大政経学部卒業後、2002年朝日新聞入社。京都総局を振り出しに、社会部記者、東南アジア特派員、デジタル版編集などを担当。
2015年10月にBuzzFeed Japan創刊編集長に就任。

ヨッピー氏

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大阪出身のフリーライター。「オモコロ」や「トゥギャッチ!」など様々なWebメディアで活躍中。TwitterIDは@yoppymodel

ダメなメディアと良いメディアの決定的な差は「信頼度」

ヨッピー氏:
良いメディアかどうかって、僕は*「信用があるかないか」*だと思います。信用があると何でもできますよね。
信用があればお金を稼げるし、人も集めることもできる。

見ている側からしても、例えば老舗WebメディアであるデイリーポータルZに書いてあることなら、「本当なんだろうな」って思うんですよ。
それは僕がデイリーポータルZを信用しているからなんですけど。

言っちゃあなんですけど皆さんだって、デイリーポータルZと日刊ゲンダイ、それぞれが「この店がめちゃくちゃ美味いぞ!」って書いてあったら、デイリーポータルの方を信じると思うんですよ。
それこそがメディアの価値だと思いますね。

古田氏:
僕がBuzzFeed Japanを立ち上げる時、大事だなと感じたのが*「人と理念」*です。

BuzzFeed創設者のジョナ・ペレッティは、BuzzFeedで働く目的を「世の中にポジティブなインパクトをもたらすこと」と定義しています。
その定義に合わないコンテンツは出しません。

ポジティブインパクトってなんだろうなと日々ディスカッションしたり考えたりしているわけです。
必ずしも真面目なコンテンツじゃなくてもいい。ばかばかしくても何か伝わるものがあればいい。

なにかしらの目標意識がないと数字に弄ばれてしまうんですよね。特にWebメディアの場合、全ての結果が数字で見えてしまいますから。

そして、理念を1つ1つのコンテンツに落とし込む時、大事なのって「人」だと思うんです。

文章でも動画でも、コンテンツ作るのって大変じゃないですか。それをやるのって人なんですよね。
BuzzFeedはほぼすべてのコンテンツを内製しています。
日々コンテンツを作って、改善案を議論して、を繰り返しています。

ヨッピー氏:
それもやっぱり、信頼を得ることにつながりますよね。

古田氏:
そう思います。
BuzzFeed Japanは、楽しくて、信頼されて、シェアされることを目指しています。

すごくおもしろいコンテンツでも、作り話だったり、パクリだったりしたらシェアしたくないじゃないですか。

信用があるからこそシェアされる。
そういうメディアになりたいと思います。

ヨッピー氏:
そうですよね。バカバカしい内容でも、例えばパクリメディアがやってる事なら「ヤラセじゃない?」とか「本当かよ」って思いながら読まなきゃいけないけど、デイリーポータルZがやってるんなら、「嘘はないんだろうな」って安心して読めるんですよ。
なんなんですかね。僕さっきからデイリーポータル信者みたいになってますね。

本当の「バイラルメディア」とは?

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ヨッピー氏:
僕、バイラルメディア好きじゃないんですよね。
功罪の「罪」の部分があまりにも大きすぎると思っていて。
彼らがやっていることに、さっき言ったような信用がないんですよ。

デマを平気で記事にしちゃうし、当事者に話を聞いたり裏を取ったりもしない。
それだと書いてあることに対して「これは本当なのかな?」って考えながら読まなきゃいけないじゃないですか。

それに、やってる事が焼き畑農業なんですよね。
一次ソースを流用してお互いにパクりあって、誰もオリジナルのコンテンツを作らず、ただの消耗戦にしかならない。
真面目にやってる人達がバカを見るような仕組みが良いわけないんですよ。

古田氏:
BuzzFeedは世界で最初のバイラルメディアだと言われていますが(笑)、ヨッピーさんの言っていることはすごくわかります。

「バイラル」という言葉が日本にやってきた時、間違った定義付けがされてしまったのかなと思います。
とにかくソーシャル上でシェアされる簡単なコンテンツを作ればいいんだという。
そこからパクリ記事を量産するメディアが生まれてしまった。

BuzzFeedは、しっかりライターを雇って自分たちでコンテンツを作っていたんですよね。
そのなかでBuzzFeedが見つけた法則があります。

BuzzFeedはTwitterやインスタグラムに掲載されている一般人の写真を使った方がライブ感があって読まれることもあると気付きました。
それを日本では、「あ、SNSの画像を使えばタダで画像を使える」と単純に表層的なパクリをするメディアが出てきた。

そうして、日本ではバイラルメディアという言葉が地に落ちてしまった。

初めてBuzzFeed編集長のベン・スミスと話した時、*「日本では、バイラルメディアって評判最悪らしいね」と言われました。
僕は、
「でも、バイラルって本当はいいことだよね」*と言いました。Web上でまるでウィルスのように情報が広がっていく。
これって考えてみたら、Webの本質を突いている素晴らしいことなんだと。これが地に落ちているなんて腹立たしい。

なので、僕らは本当の意味でのバイラルメディアを確立したいと思っています。

ヨッピー氏:
日本でなんで「バイラルメディア」っていう言葉に悪い印象を持つようになったかって言うと、僕が思うには、日本にはデイリーポータルZみたいなソーシャルからアクセスを集めるメディアが既にあったんですよね。

僕が所属しているオモコロもそうですけど、SEOなんて考えたこと全然ないですからね。SEOを一切無視するっていう斬新なやり方でやってきたので。
そういうのを考えずに、僕らがおもしろいと思うネタをWebに載せていたら、2ちゃんねるで話題になったり、SNSが出てきてからはSNSで拡散されるようになった、っていう。

こういう仕組みのWebメディアって、いわゆるバイラルメディアじゃないですか。
それを10年も前、SNSが無い時代からやってたんですね。掲示板の書き込みでガンガン拡散していく。
こういう流れが起こったのは、ひょっとするとアメリカよりも日本の方が早かったんじゃないかなって。

日本にはもともと、本来の意味でのバイラルメディア的なものがあったから、「バイラルメディア」という新しい言葉が入ってきた時「簡単なまとめ記事を載せるメディア」だって誤解されたんじゃないのかなと。

古田氏:
僕も日本の方が、実はバイラルメディアに関しては早かったんじゃないかなと思います。

僕の記憶に残る一番古いバイラルメディアは、大学生の時に読んでいた「侍魂」ですね。

もう20年近く前、当時、まだソーシャルメディアのようなネットワークがなかったから、皆メールで「この記事は面白いよ」と送り合っていたんですよね。
あれが本当の意味でのバイラルメディアだと思っています。

良い意味でのバイラルを取り戻していきたいですね。

コンテンツを見た人が幸せになるかどうかで判断する

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古田氏:
僕は、*「とりあえず批判しとけ」*みたいなメディアはあまり好きじゃないです。

ヨッピー氏:
それって日刊ゲンダイのこと?

古田氏:
(笑)
批判すると、一定数の読者のパイは絶対とれるんですよ。
どんな事柄に対しても批判したい人は絶対いますから。

意見を先鋭化させたり、ある程度燃やしたりしておけば一定のビューはくるので、小規模メディアなら数字は取れて、食っていけちゃうんですよね。
*でもそれって日本社会にとってプラスになるの?ならないよね?*って思うんですよね。
誰も幸せにならない。

これはWebメディアに限らない話です。
僕は新聞記者を13年ぐらいやってきましたが、新聞コンテンツもどこかに批判を一言入れないと気が済まない、みたいな記事が少なくない。
「そういうのいらなくない?良い話は良い話のままで良いじゃん」って思います。

ヨッピー氏:
メディアの人は、めちゃくちゃ大きい事を言うと「日本の平和」みたいな、普遍的な社会的意義みたいなものを目指してほしいですよね。

自分が仕事することで一人でも幸せになるといいなと思っていて。
その結果としてお金がついてくるのが一番理想ですよね。
その方が最終的には儲かると思います。

古田氏:
僕らも、そういうやり方でメディアを成り立たせたい。
で、僕らがうまくいって、「ああいうやり方が儲かるんだな」って皆が感じてくれたらいいなと思います。

マスメディアとWebメディアの壁

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ヨッピー氏:
新聞からWebメディアに参入してみてどうでした?色々違う部分があるので、何か苦労とか聞けたら。

古田氏:
まずは、取材1つするのにすごく苦労するんですよね。
朝日新聞の場合は、日本人で知らない人はほとんどいないのでどんな場所でも大体入っていけるんですけど、政府や地方自治体、企業でも広報までは通してもらえる。

でも「インターネットメディアのBuzzFeed Japanです」って言うと「はい?」って返されちゃうんですよね。
東京都議会だと「インターネットメディアは報道機関とみなしておりません」て入れてもらえませんでした。
そういうことが日常的にあって。

先日オバマ大統領が来日した時に、僕はホワイトハウスの記者団に入れてもらったんです。
オバマ大統領にはついていけるけど、東京都議会には入れないんですよ(笑)

あとは、日本新聞協会で講師したことが何度かあるんですが、新聞協会で開かれる記者会見には、*「中には入ることができるけれど、会員じゃないから質問はNGです」*って言われちゃうんです。
講師したこともあるのに、質問できないのはどういうことなんだろう。

こういう状況を見ると、Webメディアって日本ではまだ受け入れられてないんだなと感じますよね。

公開前の記事は取材相手に確認してもらうのは常識?NG?

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古田氏:
BuzzFeed Japanの編集部の3分の2はWebメディア出身者なんですが、僕が彼らと一緒に仕事をして一番最初にびっくりしたのが、*「取材相手に公開前の記事を見せてはいけない」と言うと「なんで?」*と言われたことなんですよね。

ヨッピー氏:
それは僕もなんで?って思いましたね。僕も毎回見せるようにしているので。

古田氏:
我々は客観的に記事を書きますよね。時には、相手にとって嫌なことも書くわけです。
それを公開前に見せてしまうと、相手が「ここを変えて」と言ってくる可能性がある。

単なるミスの指摘ならいいんですが、文章表現を直そうとしてくる場合があるんです。
なので、新聞社時代は、公開前に取材相手に記事を見せるのはご法度だったんです。

でも、それを普通にやっているWeb記者が多かった。

うちの編集部のとあるライターは、なぜWebメディアは公開前の確認を入れているのかというと、1回でもミスがあればクライアントが広告を出してくれなくなるからだと言っていました。

Webメディアは体力がないから、1発のミスが命取りになる。だから見せるんだという話になったんですよ。

その時、僕は「じゃあ今までWebメディアで読んできた記事のほとんどはチェックが入っていたのか」と恐ろしくなりましたよね。
これも、最終的に誰も幸せにならないことだと思うんですよ。

もし自分が読んでいる記事が全部チェックされて無害化されているものだったら、嫌じゃないですか?
僕はすごく嫌です。
やっぱり僕はライターの人たちが自由に書いたものを読みたいんです。

公開前のチェックが当たり前になっている中で、僕らは原則的には事前確認は断るというポリシーを貫いている。そこは苦労していますね。

ヨッピー氏:
僕は、インタビューでもなんでも必ず記事をチェックしてもらうようにしていますね。

ただ、原稿を事前に見せても戦う手段はあるんですよね。
例えば、広告依頼された商品のダメなところを書いて、クライアントから「そこは書かないで」と言われた時は喧嘩しますね。これは事実だろうと。

それでも「書かないで」と言われたら、*「じゃあ広告費はいりません。こう書こうと思ったのに書かないでと言われたんで、お金を返して普通に記事を書くことにしましたっていう記事を書きますね」*と返せば、まあ折れてくれますね。
でもそれぐらいやらなきゃダメだと思うんですよ。

そもそも、記事を書くのにあたって、悪い部分を隠したりウソを書いたりすると、テレビや雑誌と違ってWebだと絶対誰かが気付いてツッコんできますからね。

ちゃんと公平に、オープンにした方がむしろ好感度が上がるんですよ。
10全部褒めたら「あ、これは広告なんだ」って取られてとたんにウソ臭くなりますけど、2のネガティブな部分をちゃんと書けば残り8の良い面が引き立つっていうのは絶対あると思います。「ネガティブ絶対NG!」っていうのは古い広告の慣習に捉われすぎです。

古田氏:
僕、人づてでヨッピーさんのそのやり方を聞いて、それはすごいなと思いました。

思うのは、「ここ変えろよ」って言ってくる人は、ライターを見下してると思うんですよね。
だからそれに対しては皆で戦おうよって思いますね。

影響力最強のテレビにWebは勝てるのか?

古田氏:
日本のメディアだと、テレビが強すぎるなあと思うんですよね。
Webメディアがテレビと同等の影響力を持ったらいいなあと思うんですが、どうしたらいいと思いますか?

ヨッピー氏:
この前、ジモコロというWebメディアで取材していた静岡のタケノコ王がテレビに出てたんですよ。
タケノコ王を一番最初に見つけたメディアはおそらくジモコロなんですが、そのタケノコ王の人気がすごいんですよ。第4弾!とかってなってて。

元々、Webってテレビの話題を追いかけるのが主流でしたけど、最近はWebで受けたコンテンツをテレビが追いかけるという流れも出てきましたよね。
実際、テレビ、新聞などいろんなメディアがありますが、発信するまでのタイムラグを考えるとどう考えてもWebが一番早いので、Webの一次ソースを、他メディアで二次三次と利用していく流れは加速していくと思います。

そういうやり方で影響力を強める事は出来るかなとは思っているのですが、Webメディアが直接一億人に読まれる状態にはどうあがいてもならないと思います。
テレビみたいに数社で独占できるような状態にはなりませんから。

でも、Webですごく良いコンテンツを作って、それが雑誌や新聞、テレビに取り上げられて影響力を増していくのかな、って。
なので、あまり気後れせず「俺はWebの人間だ」と頑張っていけばいいんじゃないかなと。

7/28追記: ヨッピー氏の発言内で「クワガタ王」と記載していましたが、正しくは「タケノコ王」でした。お詫びして訂正します。

古田氏:
おっしゃる通りだと思います。
今、テレビの企画を見ててもWebから持ってくる場合が多いですよね。
ただ、それをテレビみたいにとんでもない数のユーザーが一気に見る状態にはなっていないと。

アメリカだと、BuzzFeedの動画視聴時間が、10代20代のテレビ視聴時間をを超えちゃったんですよね。
なぜかというと、Facebookでシェアされるからです。テレビの番組はFacebookではシェアされないじゃないですか。
皆ずっとFacebookを見ているから、視聴時間でBuzzFeedが勝っちゃったんですね。

僕は世界各国のBuzzFeed編集長と議論しながらいろんなデータを見比べているんですが、日本て、他国と比べてシェア数が少ないんですよ。
シェアボタンを押すという文化が広がらないと、アメリカのような状況にはなれないと思っています。
どうしたらいいんでしょうね。

ヨッピー氏:
こればっかりは難しいですよね。アメリカはチャンネルが多いから視聴率1%いけばいいけど、日本だと10%を取る番組が多いからそれを超えるのは難しいだろうなと。
あとAbemaTVもそうですけど、テレビ局がWebに介入してきたら相当強いですよね。
BuzzFeed Japanも、「イッテQ」みたいな番組がWebでコンテンツ作り始めたら勝てないかもしれないですよね。

古田氏:
そうですね。
僕日曜の19〜21時はテレビから離れられないですもん。
「鉄腕ダッシュ」と「イッテQ」見るから。

本当おもしろいですよね。丁寧に作られていますし。

ヨッピー氏:
あとは、Webの人間がテレビにいくこともあると思いますね。
それこそ、デイリーポータルZの皆さんが「タモリ倶楽部」的な番組やってたって全然違和感ないですもん。
テレビとWebの垣根がなくなっていくといいなって思います。