消費動向の変化を受けて、これからの予測

前項までで述べてきた消費動向の変化をまとめると、以下のようになります。

・サービス業は緊急事態宣言解除後、緩やかに回復傾向
・「外出型」の消費行動は速いスピードで回復
・「外食」は緊急事態宣言解除後、伸び率が比較的大きい
・「喫茶店・カフェ」「居酒屋」は、4月後半を底に伸長
・「旅行」「交通」「娯楽」の伸び率はそれほど急激ではない
・「酒屋」(巣ごもり需要の一例)は5月後半以降ダウン
・「デジタル消費」は「コロナ以前」より消費動向が拡大

ここで注目すべきは、「外出型消費」の中でも「近場の買い物・外食」には積極的である反面、「遠出を伴う旅行」「密のリスクを伴いそうな娯楽」には消極的で、消費者の行動としてはやや足踏み状態である、という点です。

そして、「デジタル消費はコロナ以前より消費動向が拡大」という点も特筆すべき点でしょう。

次項からはこれらの点に着目して、今後の消費動向の方向性を考察していきます。

旅行は「近場」「プライベート化」

まず、消費者が現時点でまだまだ躊躇しているのが「遠出を伴う旅行」。遠出の際に公共交通機関の利用を伴うことで「ソーシャルディタンスを確保できない」「密になりやすい」というリスクも孕んでいます。

そこで、今後は「近場への、マイカーでの旅行」が注目されそうだ、ということが一つの予測として挙げられます。

また、他の宿泊客との接触を避けることができる「コテージの利用」「一棟貸しの宿・別荘」なども注目されていきそうです。

その他、「マイカー移動」かつ「他人との接触を避ける」「プライベート空間を確保する」という要素の組み合わせで言うと「オートキャンプ場で、キャンピングカーでの宿泊」というのも要注目です。

このように、アフターコロナの旅行スタイルは「行き先は近場」「ソーシャルディスタンスを確保し、高度にプライベート化」というものが新常態になっていくのかもしれません。

参考:コロナで夏の国内リゾート変化 旅先「近く」、人との距離「遠く」|日経ビジネス
"アフターコロナ"の旅行はより贅沢なものになるだろう —— ホテル業界と航空業界の専門家が予想|Business Insider Japan
キャンピングカー、売り上げ好調 新型コロナ追い風|Yahoo!ニュース

ドライブインシアター

「オートキャンプ」のスタイルとも近い娯楽の在り方として、「ドライブインシアター」が再注目されつつあります。車を多数停めることができる、広い公園に大きな野外スクリーンを設置して、お客さんは各自のマイカーの車窓から映画を楽しむ、というスタイルです。

「ドライブインシアター」とは1990年代ごろまでカップルやファミリーの娯楽として親しまれていましたが、シネコンの台頭により一時はその文化が衰退していました。

しかし今、このウィズコロナの時代に「ソーシャルディスタンスを確保し、プライベート空間を守りつつ外で娯楽を楽しめる」という様式として、再注目されているのです。

参考:車から映画を鑑賞するドライブインシアターが復活!47都道府県で開催。Drive in Theater Japan Tour開始決定!|PR TIMES

ワーケーション

もう一つ、新たな旅行スタイルとして「ワーケーション」も注目され始めています。「ワーケーション」とは「Work(仕事)」+「Vacation(休暇)」の造語で、旅先のホテルや旅館、温泉、コテージなどに滞在しながらリモートワークを行う、それと並行して休養も楽しむ、というスタイルです。

コロナ禍で日本国内でも急速にリモートワークが広がり、この「ワーケーション」の需要も高まると予測できます。

都心の「密」を回避し、閑静な地方都市にしばらく滞在。ソーシャルディスタンス、プライベート空間を確保できる宿で仕事に集中して、一段落したら周辺の観光・散策・グルメや、温泉を楽しむ。

これからは、そんな新たな旅のスタイルも広まっていくかもしれません。

参考:ワーケーションができる宿泊施設を探せる「Workations(ワーケーションズ)」を2020年7月末にリリース|時事ドットコムニュース

無観客ライブ有料配信

「密になるリスクを避けたい」「デジタル消費の伸長」という消費者心理・行動に鑑みると、これからエンターテインメントの分野では「無観客有料ライブ配信」が新常態になっていくと考えられます。

2020年6月25日、人気バンド「サザンオールスターズ」がデビュー記念日に横浜アリーナで無観客ライブ配信を開催し、大きな注目を集めました。

有料の視聴権は3600円。通常、横浜アリーナの収容客数は17,000人ですが、視聴権を購入してライブ配信にアクセスした人は18万人に上り、6億5000万円の視聴権売上を記録したそうです。

通常の横浜アリーナでは、飲食しながらライブを楽しむということはまずありませんが、観客は自宅の画面前でご飯を食べながら、あるいはお酒を飲みながら、アリーナライブとはまた違った、それぞれに思い思いのくつろぎ方で、プライベートな空間にてライブを楽しむこともできます。

画面の向こうでは40台ものカメラがステージのあらゆる角度を隅々まで鮮やかに映し出し、市販のライブDVDや、豪華なセットを組んで収録されるテレビの歌番組以上のクオリティだったそうです。

この前後で、国内では「有料ライブ配信」を実施できるプラットフォームや、「有料電子チケット」を発券できるサービスが続々と登場。

音楽ライブの「有料ライブ配信」も、これからのエンターテイメントの新常態となっていきそうです。

参考:サザン無観客配信ライブ、18万人アクセス6億5000万円!|ITmedia NEWS
サザンオールスターズの横アリ無観客ライブが「特別」だった理由|CINRA.NET