半沢直樹が人気を集める5つの理由

【1】最初からクライマックス

2013年のドラマ第1話は、半沢直樹が上司から「君のせいじゃないのか」と理不尽に責められる絶体絶命のピンチから始まります。ドラマは第1話でいかに視聴者の心を掴むかが重要なので、最初からクライマックスのような盛り上がりを見せることで、一気に視聴者を引きこんでいるのです。
多くの人が感情移入できる「理不尽な上司」を敵として描いているのもヒットの理由。視聴者に「こういう理不尽な上司っているよね」と感じさせることで、半沢直樹が視聴者の代理戦争をする形になり、より強い共感を生み出しています。

【2】テーマがわかりやすい

「多くの人がサービスを利用している銀行を舞台に、だれしもが興味のあるお金をめぐる人間同士の争いを見せる」というシンプルかつストレートな構造はとてもわかりやすく、多くの人の興味関心を引きつけます。
組織内のいさかいにフォーカスし、大企業の闇を暴く構造になっているのも日本人受けするポイントです。協調性の高さゆえに同調圧力が強い日本社会、さらに年功序列など旧態依然の縦社会を貫く日本の大企業で、正義の男・半沢直樹が下克上とばかりに噛みつく姿を見ると、胸がすく人も多いでしょう。

【3】逆転劇をハイスピードで展開

ドラマでは次々に悪い役が登場し、約1話ごとに理不尽な逆境と痛快な仕返しを繰り返すハイスピードなテンポ感でストーリーが進んでいきます。これがもっとスローテンポだったら、倍返しするまでのストレス期が長すぎて視聴者離れを招いていたでしょう。特に若年層のデジタルネイティブ世代は展開が遅いと飽きてしまうので、スピード感が欠かせません。
絶体絶命のピンチを迎え、次回は倍返し!すぐにまた新しいトラブルが起き、次回は倍返し!と続いていき、常に次回が気になる構成です。この小気味いいテンポ感が視聴者に定期的な刺激を与え、最終話まで離脱させることなく引きつけました。小説2冊分を1クールのドラマに凝縮させたことによりハイスピードな展開を実現しています。

【4】水戸黄門式の勧善懲悪ストーリー

半沢直樹の「逆境から理不尽な相手に立ち向かい、勝利する逆転劇」は日本人が好む勧善懲悪(善良な人や善良な行いを奨励し、悪者や悪い行いを懲らしめる)で、時代劇さながらの仇討ちストーリーです。
「現代版の水戸黄門」とも言われていて、歴代ドラマの視聴率第2位が水戸黄門(43.7%、1979年)、第3位が半沢直樹(42.2%、2013年)と人気も肩並び。悪役がいかにも悪代官らしい「とにかく悪い人物」として描かれているのが共通点です。テレビ世代の50代以上を取り込むにはぴったりでしょう。

【5】歌舞伎さながらのキャッチ―な演出

半沢直樹と言えば顔芸。豪華俳優陣の「やり過ぎ」とも思える熱演をかなりのアップで見せていて、視覚的にもキャッチ―な高いエンタメ性があります。香川照之さん、片岡愛之助さん、市川猿之助さん、尾上松也さんなど、遠くから見てもわかりやすい激しい表情での演技に長けている歌舞伎俳優を多数キャスティングし「ドラマ版歌舞伎」とも言われています。
片岡愛之助さんが演じる黒崎はオネエ言葉でセクハラをするなど、近年のLGBT運動を鑑みると問題のあるキャラクターですが、全体的に過剰でキャッチ―なおもしろ演出をふんだんに散りばめている半沢直樹だからこそ容認される部分もあるのでしょう。職場で「土下座しろ!」と強要するのもかなり過激ですが、テレビ受けするキャッチ―な演出として受け入れられています。