実例から読み解くカスタマーサクセスの本質!顧客の成功に伴走する取り組みとは?
カスタマーサクセスを実践している企業は、今やソフトウェア業界にとどまりません。かつては、SaaSのような継続的に利用してもらう必要があるビジネスモデルの企業が実践する例が多かったのですが、今では売り切り型のビジネスモデルの企業が実施して成功している例も数多く見られます。中には、カスタマーサクセスを担う特定の部門を持たない企業や、カスタマーサクセスであると自覚せずに実践している企業も存在します。
このように、カスタマーサクセスとは様々な企業が様々な形で実践しており、その輪郭は非常に不明瞭であると言えます。方法論の体系化も十分に進んでいるとは言い難いでしょう。しかし、こういったカスタマーサクセスだと称される行為の中心部には、間違いなく共通項が存在しています。そして、その共通項こそがカスタマーサクセスの本質であると言えます。
本記事では、カスタマーサクセスの本質とは何か、という点について詳しく解説したいと思います。
カスタマーサクセスとは理念である
カスタマーサクセスとは、「自社のサービス・プロダクトを通じて、顧客が望んだ便益を得られるように、積極的なアプローチを取り続ける」という“理念”のことです。
ここで強調すべきなのは、カスタマーサクセスとは“理念”である、という点です。もう少し平易に“考え方”、あるいは、もっと具体的に“顧客への向き合い方”、と言い換えても良いかもしれません。いずれにせよ、カスタマーサクセスとは特定の行為や特定の部門など目に見える表面的なものを指す言葉ではない、と理解していただくことが大切です。
理念であるがゆえにさまざまなやり方がある
カスタマーサクセスは、様々な企業が様々な手法で実施しています。例えば、以下に挙げる取り組みは全てカスタマーサクセスであると言えます。
①タイヤメーカー
鉱山用や運送用といった特殊車両に対し、ローテーションや空気圧の調整などを適切なタイミングで行うために、タイヤやホイールの状態をリアルタイムで把握・管理する
②CRMプラットフォームを提供するソフトウェアベンダー
顧客にビジネスの基礎スキルを教えるために、アカデミーやユーザコミュニティを展開する
③教育コンテンツサービスを提供する企業
提供価値を最大化するために、先生一人一人の課題に合わせた提案型営業やプロダクト開発を行う
もし、カスタマーサクセスを特定の行為や部門の名称だと捉えていたら、これらの行為を全てカスタマーサクセスであると認識することには違和感があるかもしれません。しかし、これらの行為は間違いなくカスタマーサクセスであると言えます。なぜなら、行為の根底にある“考え方”、もっと具体的に言えば“顧客への向き合い方”が共通しているからです。そして、この“考え方”、“顧客への向き合い方”こそがカスタマーサクセスにおいて最も大事なことなのです。
まずは、カスタマーサクセスとは理念であり特定の行為や特定の部門など目に見える表面的なものを指す言葉ではない、という点を押さえることが大切です。
その本質は「顧客の成功を第一の目的とする」というスタンスにある
それでは、カスタマーサクセスにおいて最も大事な、“考え方”、“顧客への向き合い方”とは一体どんなものなのでしょうか。
端的に述べると*「顧客の成功を第一の目的とする」*という姿勢になります。カスタマーサクセスとは直訳すると「顧客の成功」になりますが、その名称自体にカスタマーサクセスという理念の本質が宿っているのです。
当然の話ですが、概念と行為の発生順は必ず行為が先になります。行為が先に発生し、後からその行為を称するための概念が生まれる、という順になります。カスタマーサクセスという概念にも必ず基になった行為があり、それらの行為には概念として抽象化するに足る共通項があったということになります。そして、その共通項こそ、「顧客の成功を第一の目的とする」という姿勢なのです。事業を大きな成長へと導いたカスタマーサクセスの成功例には、間違いなくこの姿勢が徹底されています。
前述の具体例の根底にも、共通する姿勢が見られる
ここで、先程の段落で挙げた例を振り返ってみましょう。それぞれの取り組みに対し、「なぜこのようなことをするのか」という理由を付け加えてみました。すると、根底には「顧客の成功を第一の目的とする」という姿勢が共通していることがわかると思います。
①タイヤメーカー
鉱山用や運送用といった特殊車両に対し、ローテーションや空気圧の調整などを適切なタイミングで行うために、タイヤやホイールの状態をリアルタイムで把握・管理する
→なぜなら、顧客が求めているのは、鉱山会社であれば「効率よく鉱物を掘って出荷する」、運送会社であれば「荷物を正確に効率よく運ぶ」ことであり、その成果を実現するためにはタイヤの販売だけでは十分でないから
②CRMプラットフォームを提供するソフトウェアベンダー
顧客にビジネスの基礎スキルを教えるために、アカデミーやユーザコミュニティを展開する
→なぜなら、顧客が求めているのは「効率的・効果的なマーケティングや営業」であり、その成果を実現するためには自社ツールの使用法を教えるだけでは十分でないから
③教育コンテンツサービスを提供する企業
提供価値を最大化するために、先生一人一人の課題に合わせた提案型営業やプロダクト開発を行う
→なぜなら、先生が求めている成果は「生徒に学習習慣がつく」「成績が向上する」「指導に良い評判が立ち入学希望者が増える」などそれぞれ異なり、それらを実現するためには画一的な営業やプロダクト開発では十分でないから
もしかしたら、これらの例を紹介した際に、売り上げの最大化には繋がらない非効率な取り組みではないか、と感じた方もいたのではないでしょうか。確かに、リアルタイムでタイヤやホイールを把握・管理するのは非常にコストがかかりますし、ビジネスの基礎スキルの不足は顧客の問題だと片付けられる話です。また、先生ごとに営業や開発を対応させるのは難易度が高いので、画一化した方が売り上げの最大化につながるでしょう。
しかし、これらの行為が*第一の目的としているのはあくまで「顧客の成功」*です。決して「自社の成功」ではありません。だからこそ、顧客の問題と片付けられる範囲にまで踏み込んでサービスを提供しますし、一見すると自社の売り上げの最大化に遠回りな営業方法やプロダクト開発の手法を取るのです。
そして、自社の成功は、顧客の成功を実現した先にあります。この順番が入れ替わることは絶対にありません。カスタマーサクセスによって真に成功した企業ほど、この順番を理解しているので、徹底して顧客の成果の創出にコミットするのです。
逆に言えば、根底に「顧客の成功を第一の目的とする」という理念がなければ、カスタマーサクセスとは言えません。例えば、世に言うカスタマーサクセスらしき行為として、購入後の手厚いサポートや特別な顧客体験の演出、アップセル・クロスセルの働きかけ、サービスのバンドル化などが挙げられるかと思います。そういった行為の第一の目的が「自社の成功」になっていたとしたら、それらはカスタマーサクセスではありません。カスタマーサクセスの目的は、あくまで顧客の成功であり、自社の成功が実現するのは顧客の成功を実現した後です。
カスタマーサクセスとは決して目新しい概念ではない
ここまで、カスタマーサクセスとは理念であり、その本質は「顧客の成功を第一の目的とする」ことだと説明しました。このような説明を聞くと、「カスタマーサクセスって結構当たり前のことで、そんなに目新しい考えではないかも」という感想を抱いた方も多いかもしれません。実は、その感想はかなり的を得ていると言えます。なぜなら、かつての顔の見える商売で大切にされてきた考え方には、カスタマーサクセスの本質と通底するものがあるからです。
昭和の商店街でもカスタマーサクセスは行われていた
昭和の商店街での光景を思い浮かべてみてください。八百屋の店主は、お客さん一人一人の顔から家族構成、好きな料理まで知っていて、その時々に合わせておすすめの野菜や調理方法を教えてくれます。会ったことのない父親の好きな料理まで知っていて、必要な場合はわざわざ取り寄せてくれたりもします。
このような光景は、体験したことがある方ならもちろん、体験したことがない方でも、ドラマやアニメなどを通して容易に想像がつくのではないでしょうか。
八百屋の商売は、決して売って終わりのものではありませんでした。どうしたら自分のお店の野菜を使用して美味しい料理が作れるか、ひいてはお客さんが喜んでくれるのかを第一に考えていたものです。言い換えれば、「顧客の成功」を第一に考えていたということです。この考えは、明らかにカスタマーサクセスとその本質を共有しています。
カスタマーサクセス(Customer success)という言葉はアメリカで生まれたものであり、SaaSやサブスクリプションの文脈において注目を集めるようになりました。このような成り立ちを見ると、ソフトウェア業界に限定的な新手のバズワードのような印象を受けてしまうかもしれませんが、その実情は全くもって異なります。
カタカナでのラベリングの下にある「顧客の成功を第一の目的とする」という考えは、決して奇をてらったものではなく、むしろ商売の基本だと言っても差し支えありません。そして、基本であるからこそ、あらゆる企業にとって意味を持つような普遍的な威力を持っているのです。
事業を成功へ導くカスタマーサクセスの共通点
このように、カスタマーサクセスの本質とは「顧客の成功を第一の目的とする」ことであり、事業を成功に導くようなカスタマーサクセスを実施している企業は、必ずこのスタンスを徹底しています。そして、思考の起点が「顧客の成功を第一の目的とする」で共通しているからこそ、派生する具体的な行為にもいくつかの共通点が見られます。これらの共通点を押さえることで、よりカスタマーサクセスという考え方の中心を手触り感を持って理解できるようになるでしょう。
①顧客の課題に深くまで切り込む
顧客にとっての成果を実現するためには、そもそも何が顧客にとっての課題なのかを定義できなければなりません。しかし、多くの場合、顧客は自分自身の課題を認識しきれておりません。なぜなら、課題を抱えていることがデフォルトの状態になっており、敢えて課題であると自覚していないか、あるいは、何らかの代替手段を用いてすでに対処してしまっていることが多いからです。
日常の中で、小さな不満や不便を感じる場面は多いと思います。しかし、こうした課題に対して常に自覚的であると、非常に強いストレスを感じ続けることになります。そのため、不便や不満を感じてもその時々でうまく対処するようになりますし、あまりにも日常的に生じている課題に対しては、そういった課題があることが当たり前になり、敢えて課題であると自覚しないようになります。すると、結果として「課題と言われれば課題だが、それには気づいていない」という状態になってしまいます。
しかし、このような無自覚の課題を解決してくれる体験価値は、とてもインパクトが大きいものです。カスタマーサクセスを実現している企業はこのような体験価値を提供しており、そのために顧客の無自覚の課題にまで切り込み、顧客自身もうまく言語化できていないような課題を見つけ出しています。
②サービス・プロダクトを提供した後も、伴走し続ける
顧客にとっての成果を実現するためには、顧客との関係をサービス・プロダクトの提供で終わらせてしまっては不十分です。多くの場合、顧客は得たい成果が目的としてあり、その成果を得るための手段としてサービス・プロダクトを購入しているのです。つまり、顧客にとっては、サービス・プロダクトを購入すること自体は価値ではなく、それらを用いて目的を達成できることが価値なのです。
そのため、サービス・プロダクトとは目的達成のための手段に過ぎず、サービス・プロダクトを提供するだけでは、顧客の成果にコミットしているとは言えません。カスタマーサクセスを実現している企業は、顧客が成果を実現できるまで粘り強く伴走し続けます。その意味において、サービス・プロダクトの提供は、顧客との関係の終着点ではなく始発点であると言えます。
③一部門に閉じるのではなく、企業全体で取り組む
顧客にとっての成果を実現するためには、カスタマーサクセスの取り組みを一部門に限定することは合理的ではありません。そもそも、顧客からは企業内部の事情は見えていません。企業からしたら、設計・構築・製造するのはプロダクトで、宣伝・広報を行うのはマーケティングで、販売を行うのはセールスで、お問い合わせに対応するのはカスタマーサポートで、というように部門が分かれていることを意識するかもしれませんが、顧客からしたら全て一つの企業です。
そして、顧客が求めていることは、あくまで自分自身の成果のみです。「プロダクトの使用方法がわからないけど、お問い合わせセンターの受付はエンジニアではないからわからないのは仕方ない」といった考慮は働きません。企業に求められているものは非常にシンプルですが、シンプルであるがゆえにシビアなのです。
そして、このシンプルにしてシビアな要求に最大限応えるためには、企業が持ちうるリソースを全て使用することが合理的です。顧客と直接的な接点を持つ部門だけに任せていては、顧客の体験価値を最大化することはできないでしょう。カスタマーサクセスを実現している企業は、必ず企業全体で顧客の成果に向き合っているのです。
最後に
初めにお話した通り、カスタマーサクセスと称される行為は企業によってかなり異なります。なぜなら、「顧客の成功を第一の目的とする」という“理念”に基づいているからです。つまり、目的とする顧客の成功が違う以上とるべきアプローチも変わるということです。このことから、カスタマーサクセスとは、表層的な行為や部門のことを指すのではなく、表層的な行為や部門の根底に存在する理念のことである、という点がおわかりいただけるのではないでしょうか。
一見すると異なる行為でも、根底には共通の“理念”があり、その“理念”の本質こそが「顧客の成功を第一の目的とする」ことなのです。そして、この本質を理解しなければ表面的な施策に終始することになり、顧客の成功、さらには自社の成功も実現できないでしょう。
コミューン株式会社 金谷颯太郎
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- SaaSとは、Software as a Serviceの略で、ユーザーにソフトウェアの「機能」をインターネット経由で提供することを言います。
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- マーケティングとは、ビジネスの仕組みや手法を駆使し商品展開や販売戦略などを展開することによって、売上が成立する市場を作ることです。駆使する媒体や技術、仕組みや規則性などと組み合わせて「XXマーケティング」などと使います。たとえば、電話を使った「テレマーケティング」やインターネットを使った「ネットマーケティング」などがあります。また、専門的でマニアックな市場でビジネス展開をしていくことを「ニッチマーケティング」と呼びます。
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