消費の形態が変化するにつれ、現代では「モノ」ではなく「コト」や「トキ」を売るのが重要となっています。企業のマーケティング部門でも、顧客満足(CS)や顧客体験(CX)という言葉を耳にしない日はなくなりました。この記事ではユーザーの心理から逆算して、現代社会で効果のあるCXとは何か、CXをどのようにデザインすればよいのか、という点について解説します。

本当に効果のあるCXとは?

CXは闇雲に顧客へ価値を提供するだけでは高まりにくく、非効率的になってしまいます。自社で「できること」と「できないこと」を明確に切り分けて「どんなユーザーにどんな価値を提供したいのか」を絞り込んでおくことが重要です。それを明らかにするためには、大きく2つの軸を定めておく必要があるでしょう。

効果的なCXのために必要な2つの軸

現代の消費においては「顧客体験(CX)が重要である」という文言をよく耳にしますが、CXをデザインするためにはまず2つの論点を明らかにしておかなければなりません。

・自社が掲げるMVV(ミッション・ヴィジョン・バリュー)
・ターゲットとなるユーザーが求めているもの

この2点を軸にして組み立てられるのが事業です。事業を通して、顧客にどのような体験を施すのか、という点をデザインしていくのが実践的なCXと言えます。

適切なCXのデザインをイメージするために、カフェを例として考えてみましょう。内装や立地、商品、接客のレベルをどこまでも突き詰めれば必然的にCXは高いレベルに保たれますが、残念ながらビジネスにおいては予算という天井が存在します。

つまり何かを高める代わりに何かを犠牲にする思考が必要で、もっと言えば「何を高めるか」を決めるのが成否の鍵を握っているのです。

カフェを開く際には「どんなカフェにしたいのか」「来店したお客さまにどんな価値を提供するのか」というコンセプト決めが必要です。必然的にこの時点で自社のMVVも定まりますし、提供すべきCXの実態も固まってきます。

仮に「どこよりも美味しいコーヒーを届けたい」というコンセプトを持っているのであれば、原価率の高いコーヒー豆を仕入れたり、器具にこだわったりといった施策が必要になるでしょう。そちらに予算を割く代わりに、家賃を抑えるために立地を少し犠牲にしたり、内装はコストのかからないシンプルなもので落ち着けたり、といった決断が求められます。

ここまでは自社のリソース配分の問題であり、顧客のあずかり知るところではありません。しかし、この軸がぶれてしまうと本質的なCXの改善には繋がらず、顧客に感動や満足を与えられない可能性が高まるのです。

ターゲットのペルソナに合わせてCXをデザインしていく

ここまでコンセプトを詰めたら、ターゲットとなるユーザーのペルソナを想定していきます。ペルソナに合わせてCXをデザインすることで、自社が届けたい価値、つまりMVVを実現するための道筋とCXがブレずに噛み合うので、「CXを高めて業績や集客アップ」実現に繋がるのです。

ここでは「コーヒー通のビジネスマンA氏」と簡単にペルソナを立てます。CXのデザインは、A氏が<来店前><来店から退店まで><退店後>の行動と心理を具体的にイメージしていくことで組み立てられます。

<来店前>のA氏の心理として、「仕事の合間に美味しいコーヒーで一息つきたい」という仮説を立てておきましょう。このニーズを満たすためには、「このお店に入ったら美味しいコーヒーが出てくるだろうし、落ち着いて一息つけそうだ」と思わせるような店構え、立地、宣伝方法が必要です。実はこの時点からCXのデザインが始まっているのです。

<来店から退店まで>のA氏の心理が、「ふかふかのソファーでコーヒーを飲んで脱力したい」というものだとしたら、カフェ側が取るべき対応はソファーの質を高めたり、おすすめのコーヒーを勧めてあげることだったり、店内のBGMの音量を低めに設定しておくことかもしれません。

<退店後>のA氏の心理が「これからもうひと仕事頑張りたいな」というものだとしたら、気分転換のためにガムを渡してあげる気配りは嬉しいものでしょう。

このようにCXの向上とは、ユーザーが商品やサービスを通して得る「満足度」を高めることではなく、商品やサービスに触れる前から始まっているものであり、商品やサービスに触れている間はもちろん、触れた後も余韻を持って心に残るものでなければなりません。商品やサービスの質を高めるのはCS向上に繋がりますが、CXを高めたい場合は、顧客の心理を先読みして、こちらが準備万端の状態で待ち構えた上で「顧客がそれと気づく暇を与えずに、価値の提供を行っていくこと」が大切なのです。