2015年4月に起こった首相官邸への墜落事件をはじめ、無人航空機の「ドローン」が頻繁に話題にのぼるようになりました。

撮影技術の進歩と操作能力の向上により空撮や配達など様々な操作を行えるようになったドローンは、ビジネスにも大きな影響をもたらすと言われています。
特に、ネットショップを運営している方にとっては、国内ネットショップ最大手であるAmazonがドローンによる宅配事業の取り組みなどは見逃せない話題でしょう。

今回は、ドローンを用いた宅配事業の現状と今後の課題を解説します。
ネットショップビジネスでの新たな展開を期待されつつも、法規制などの課題も浮き彫りとなっているドローンについて、あらためて現状と今後の課題点を把握しましょう。

参考:
首相官邸にドローン ヘリポートに墜落か確認急ぐ(2020年8月17日時点でページが存在しないためリンクを削除しました)
30年に千億円市場 業務用ドローン、普及のシナリオ
産業用無人飛行機・ヘリコプター(ドローン)の市場予測(2023年7月30日時点でページが存在しないためリンクを削除しました)

ドローンとは

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ドローンとは小型の無人航空機で、小さなヘリコプターのような外観をしています。
プロペラの出す音がミツバチの雄蜂(英訳:drone)に似ていることから、ドローンと呼ばれるようになったと言われています。

2015年4月にカメラや発煙筒を積んでいたドローンが首相官邸に入り込んだ事件をきっかけにメディアで多く取り上げられ、その存在は広く認知されるようになりました。

マルチコプターとも呼ばれ、ラジコンの飛行機や農薬散布用のヘリコプターなどとは異なり人間による操縦がなくても自律的な飛行が可能であることが特長です。

参考:
飛行ルールの対象となる機体|国土交通省
ドローンの語源と由来!ドローン空撮事業を始めた社長が語る現在のドローンについて

小回りが効き、障害物を避けながら空を飛ぶことが可能なため、空からの撮影やレーダーによる土地測量に活用されています。
それだけでなく位置情報を把握するGPS機能やセンサー技術の進化により、さらに高機能で自由な操作が可能となっていくでしょう。

参考:
ドローンによるレーザ測量 日本初の実用化
大前研一「ドローンが生み出す新たな市場。進化する位置情報技術」

ドローンによる宅配事業の事例

2013年12月、世界的なネットショップ大手のAmazonがドローンでの配送サービスを構想していると発表し、話題となりました。

参考:
Amazon、ドローンでの配送サービス「Prime Air」構想を発表

それ以後、GoogleやKDDIなどがドローンによる配達事業への参入を発表しています。

従来、ネットショップにおける配送は、郵便や宅配業者を利用して行われてきました。
物流倉庫から出荷された品物はトラックに詰め込まれ、運転手を介して利用者に届けられます。

そのような過程を省き商品を倉庫から直接無人機を利用して配送する仕組みは、配送時間の短縮や配達員の人件費の削減へとつながります。

以下より、Amazonと千葉県の政令都市である千葉市の取り組みから、ドローンを利用してどのような配達が行われるのかをご紹介します。

Amazon Prime Air

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Amazon Prime Air

ネットショップ大手のAmazonは配送プランの1つとして、ドローンによる配達システム「Amazon Prime Air」を計画しています。

対象となるのは5ポンド(約2.3kg)までの重さの商品で、配送センターから30分圏内の地域への配送を見込んでいます。
Amazonはこのような制限があっても、取り扱っている商品の約86%をカバーできると発表しており、実際に運用されることとなれば大幅な配達時間の短縮となるでしょう。

公式ページではアメリカやオーストリア、イスラエルにある開発センターを中心にテストを繰り返していることを明かしています。
2016年12月にはイギリスのケンブリッジで初めてドローンによる配送を行い、実現化に向けて着々と体制を整えています。

それだけでなく、2016年12月末には飛行船を改造した飛行倉庫の特許を申請しています。
もしこれが実現することとなれば、ドローンの欠点である飛行時間の短さに左右されることなく、より広い地域への配達が可能となるでしょう。

参考:
Amazonが無人飛行機で自宅前まで注文から30分でお届けしてくれる「Amazon Prime Air」がよくわかるまとめ
Amazon Prime Air、ドローンによる配達に見事成功...だが道のりはまだ険しい
Amazon files patent for flying warehouse|BBCNEWS

千葉市

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先端技術を活用したドローンによる宅配サービス・セキュリティ|千葉市*(2020年8月17日時点でページが存在しないためリンクを削除しました)*

ドローンによる配達事業に注目しているのは、Amazonのような企業だけではありません。

産業分野における国際競争力の強化を目的とした国家戦力特区の1つである千葉市では、ドローン宅配等分科会を設置し、産学官連携のプロジェクトを進めています。

プロジェクトには日本でのドローン研究の第一人者である千葉大学野波特別教授を中心に、 NECなどの通信事業者やウェザーニュースのような気象予報に関する事業者が加わっています。

東京都沿岸部に所在する市川市の倉庫群から千葉市美浜区に立ち並ぶ高層マンションへ配送を行うほか、不審者や侵入者に対するセキュリティサービスも見込んでいます。

ウェブなどを介した遠隔での服薬指導を行い、処方医薬品を薬局からドローンにて配送するシステムも検討しており、医療分野での活躍も期待されます。

参考:
ドローン19年宅配実用化へ 千葉市舞台に「空の産業革命」第一歩

ドローン運用に残された課題とは

配送時間の短縮や人件費の削減だけでなく、医療分野でも注目されるドローンによる配達ですが、実際に配達に用いられるようになるには課題も多く残っています。

安全上の問題

自動車や飛行機など、人の手やシステムによって動くものには必ず衝突の危険があります。

ドローンはセンサーやGPS機能を利用して障害物を避けるようなシステムが組み込まれていますが、絶対にものにぶつからないという確証はありません。
商品を運ぶ以上、盗難を目的として第三者に攻撃される可能性もあります。

そのような衝突を避けるためにも、海外ではNASA(航空宇宙局)が航空管制システムの開発を発表しています。
また、アメリカのFAA(連邦航空局)では、55ポンド(約25kg)以下の小型ドローンの運用規則を定めています。

運行規則では、ドローンの飛行できる場所の条件や時間帯の制限を規定しています。ドローンによる配達システムを実現するためにはこのような規則をどのように乗り越えていくかが鍵となるでしょう。

国内では2016年12月現在航空法において無人航空機の飛行ルールが定められており、配達システムのような品物を落下させる方法を行う場合は国土交通大臣の承認を受ける必要があります。

国内外ともにドローンの飛行の安全性をどのように確保するだけでなく、行政への働きかけを含め、配達を行える環境の整備が課題となるでしょう。

参考:
FAA、小型商用ドローンの運用規則を発表
無人航空機(ドローン・ラジコン機等)の飛行ルール|国土交通省
日本のドローン第一人者野波教授が語るドローンの未来(2023年7月30日時点でページが存在しないためリンクを削除しました)

プライバシー保護の問題

ドローンの配達事業においては、安全面だけでなくプライバシーや肖像権を脅かす危険性も指摘されています。
空を自由に飛ぶことができるドローンは天井が吹き抜けになっている施設や高層マンションなどの上空でも撮影が可能です。そのため、盗撮や軍事情報の搾取など使用用途にとっては大きな犯罪につながること懸念されています。

このような懸念はドローンを運用している企業だけでなく、社会全体で克服すべき課題と言えるでしょう。

参考:
「ドローン」による撮影映像等のインターネット上での取扱いに係るガイドライン|総務省

まとめ

ドローンによる宅配サービスは、配送時間の短縮に大きな効果をもたらすとされています。ですが、一方では鳥や建造物など様々な障害物に衝突した場合や第三者による攻撃で墜落してしまう危険性が指摘されています。

AmazonやGoogleなどがドローン事業に本格的に参入している中、国内外問わず、配達を行うための法整備は遅れているのが現状です。
ネットショップ市場の進展を考えていく上でも、今後のドローンビジネスの動きに注視していきましょう。