「商品の購入販売などの経済活動は人間の感情の影響を受ける」という考え方を前提にした学問を行動経済学といい、マーケティングの分野でも役に立つ理論が多く研究されています。

そのような理論の1つである「理由に基づく選択理論」では、顧客は総合的な価値で商品を購入するのではなく、理由さえ納得できれば商品を購入するとされています。

今回は「理由に基づく選択理論」の意味と実際の事例を解説します。
自社の商品と他社商品を顧客が比較するとき、たとえ総合的な性能が劣っていても一つの理由が優れていれば選んでもらえるかもしれません。
行動経済学の理論をうまく活用して、自社の売り上げに貢献しましょう。

「理由に基づく選択理論」とは

「理由に基づく選択理論」とは、エイモス・トヴェルスキーなどの心理学者が発表した論文「Reason-based choice(理由にもとづく選択)」にて提唱された理論です。

では、どのような内容を示した理論なのでしょうか。

人間は商品の購入や事務仕事、朝食の取り方まで、全ての行動において選択をしながら生きています。

例えば道を歩いていて喉が乾いたら「自販機で飲み物を買おう」「喉は乾いたけど、飲み物は買わない」のように2つの選択肢が考えられます。
その際に、あなたならどのように考えますか?
ある人は「脱水症状にならないためにも喉が乾いたなら飲み物を飲むべきだ」と答えるでしょうし、またある人は「喉が乾いたぐらいでお金を使うのはもったいないから飲み物は買わないべきだ」と考えるでしょう。

喉が乾いたからといって自販機で購入する必要はありません。
もし同じ価値を求めるなら、スーパーまで歩いていって同じ商品を安く買うこともできます。
けれど「脱水症状にならないためにはいますぐ飲み物が必要なんだ」と考えれば、多少割高でも自販機で飲み物を購入するでしょう。
その際には血圧や体内水分率を見た上で、脱水症状に近づいていると判断しているわけではありません。

このように「人間は行動を選択する時には選択肢に納得できる理由やストーリーが必要であり、選択に納得できればたとえ矛盾があっても構わない」という心理が存在します。

この心理を「理由に基づく選択理論」と言います。

「理由に基づく選択理論」の実証実験

理論の証明のため、以下のような実験が行われています。

 子供の親権で争っている2人の人物のうち、1人は平均的な属性の親(平均年収・平均的仕事時間・比較的安定した生活)、もう1人は極端な属性の親(収入が平均以上・子どもとの関係を密接にするのようなプラスの属性の親、仕事での出張は多く不在がち・健康上問題があるのようなマイナス属性の親)として設定する。
被験者に対しては、2人のどちらに親権を与えるか問いかける。

結果として、平均的な親とプラス属性をもった親では、プラス属性に親権を与えるべきと64%が回答しました。また、平均的な親とマイナス属性をもった親では、平均的な親に親権を与えるべきと答えたのは45%に留まっています。
この時、肯定的な意見にしろ否定的な意見にしろ、極端な属性をもった親の方がより多く回答を得たことになります。

つまり、人は総合的に見て「良い」と判断される人物よりも、自身が納得する理由が1つでもある人物を選択する傾向にあると言えます。

例えば、2万5000円という高価格ながら10万台を超える大ヒットとなった「BALMUDA The Toaster(バルミューダ・ザ・トースター)」というトースターがヒットしたのも「理由に基づく選択理論」が働いたからかもしれません。
このトースターはスチーム機能を利用してパンが美味しく焼けることに特化した商品で、ほかの商品のような機能性はありません。

ですが、消費者は「パンが美味しく焼ける」という理由に基づいて、他の機能は劣るバルミューダ・ザ・トースターを選択しました。
このように、消費者にとって購入する理由が存在すれば、そこに合理的な価値判断が働かないこともあるのです。

参考:
なぜ2万5000円の高級トースター「バルミューダ」は売れるのか? (1/2)

人は自分の見たいことしか見ない:確証バイアス

では、本当に人間は矛盾がある状況であっても、納得さえできれば選択してしまうのでしょうか。
それを証明する理論の1つに「確証バイアス」という理論があります。

確証バイアスとは一度先入観を持ってしまうと、その先入観を補強する情報にばかり見えてしまうという現象です。逆に先入観を否定する情報は無意識に見ないようにしてしまいます。そのため、自分の都合の言い情報しか目が入らず、先入観が変わることはありません。

例えば「女は無駄話ばかりだ」という先入観を持っている人は、女性たちが立ち話をしているのを見て「やっぱり女は無駄話ばかりしている」と感じ、逆にその女性たちが無言で作業をしている時間を意識することはありません。

「理由に基づく選択理論」においても、人は1つの好ましい理由を見つけた時に、ほかの好ましくない理由はシャットダウンしてしまうとされています。
逆にいえば、好ましい理由さえあれば、それ以外の欠点はさして重要じゃなくなります。

この理論を応用すれば、特化したアピールポイントを1つ用意することでヒットとなる商品も生まれるかもしれません。

参考:
[人は都合の良い情報しか見えない?「確証バイアス」を理解して効果の出るHPを作ろう!]
(https://ferret-plus.com/4754)
[不況でも、なぜ高級ブランド品が売れるか|PRESIDENT Online]
(http://president.jp/articles/-/8184)
[ブランド店の接客の本質はソリューション営業]
(http://blog.oflex.jp/blog/%E3%81%8A%E5%BA%97%E3%81%AE%E6%8E%A5%E5%AE%A2%E3%82%82%E5%B1%9E%E4%BA%BA%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E3%81%8B%E3%82%89%E6%9C%AC%E9%83%A8%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%81%AE/)
[リスク選好のプロセスにおける能動性:理由に基づく選択をてがかりに]
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbef/6/0/6_101/_article/-char/ja/)
[ひとは仲間として極端な人物を好むだろうか?: 理由に基づく選択説とネガティビティ・バイアス説からの検証]
(http://ci.nii.ac.jp/naid/110007575216)

まとめ

理由に基づく選択理論は、「人は納得できる効能やストーリーが存在すれば、総合的な価値に関係なく商品を購入する」というシンプルな理論です。
例えば、商品が割高で品質が高いわけでもない店であっても、店員さんが好きだからという非合理的な理由で通いつめることもあるでしょう。

自社の商品をアピールする際にも、顧客に納得してもらう理由を用意することが重要です。
たとえ、客観的には評価の低い商品であっても、特定の人にとって強く惹かれる理由であれば選択されるかもしれません。

実際に、文具を中心に展開するメーカーである株式会社キングジムは「100人に1人『絶対買う』というユーザーがいたら」商品開発を行うという姿勢で、多くのヒット商品を生んでいます。
たとえ機能を絞っても、使いたい理由さえあればユーザーは購入するという証明と言えるでしょう。

行動経済学では今回ご紹介した理論のほかにも、マーケティングに役に立つ理論が多く存在します。
ヒットの理由を学問として解き明かすことで、自身のノウハウにも結びつけていきましょう。

参考:
[売れる企業の作り方 - キングジムに学ぶ商品企画の4つの法則]
(http://news.mynavi.jp/articles/2012/09/25/kingjim/)