日本の農家は、就業者の減少と高齢化が問題になっています。

農林水産省の統計資料によると、平成12年の総農家数が312万戸に対し、平成27年には215.5万戸で約100万戸減少しています。平均年齢も平成12年が62.2歳から平成27年では65.9歳と高齢化傾向にあり、今後もこの傾向は強まると予想されています。

実は、こうした農業における課題を、IoTやAI(人工知能)の技術を使って解決しようという試みが行われ始めています。それが、「アグリテック(Agritech)」です。
農業の効率化と熟練農家のノウハウを可視化するという目的のもと進められています。

今回は、「アグリテック」とはなにかを解説し、現在行われている取り組みの事例をご紹介します。

参考:
農家に関する統計|農林水産省

アグリテック(Agritech)とは?

「アグリテック(Agritech)」とは、AIやIoTのテクノロジー技術を用いて農業における課題(高齢化・就業者不足)を解決しようとする試みです。スマート農業やIT農業とも言われています。

アグリテックの試みは大きく2つに分類できます。それが「農業の効率化」と熟練農家の定性的な「ノウハウの可視化と分析」です。

「農業」を効率化する試み

農業の効率化を図る試みは、就業者の不足を解決すると期待される試みです。就業者の代わりになるものや農具の代わりになるロボットやIoT機器を用います。低コストで効率的に収穫量を増やすことを目的としています。

「熟練農家」のノウハウを可視化・分析する試み

熟練農家のノウハウを可視化・分析する試みは、農業に従事する就業者の高齢化に伴い、引退や死亡などによるノウハウの消失を解決すると期待されています。

農家は、環境の変化や作物の育ち方に対して、「勘」や「経験」や「個人の技術」に頼る部分が多いため後継者が育ちづらいという現状があります。それに対して、AIやIoT機器(センサー)により可視化と分析(学習)を行い、農業従事者の育成に役立てることを目的としています。

次に、アグリテックの現状の取り組みについてご紹介します。

アグリテックの現状の取り組み

農林水産省による推進

農林水産省によってアグリテックを推進する「スマート農業の実現に向けた研究会」が発足されました。

具体的には、行政、民間企業がともに気象データ、地理情報などのデータを共有し、誰でも農業に従事できるようなプラットフォームの立ち上げなどが計画されています。

また、AIやIoTを用いたスマート農業を行政と民間企業が連携し研究を進める試みも検討されています。

参考:
スマート農業の実現に向けた研究会|農林水産省

有識者らによるアグリテックのイベント

有識者によってアグリテックの重要性や市場への可能性を議論・公演するイベントも開催されています。それが、日本経済新聞社が主催する「アグリテック・サミット」です。

有識者との交流や、農業従事者やスタートアップ企業の技術を発表なども行われており、アグリテックに関する情報が共有される機会として機能しています。

参考:
AG/SUM AGRITECH SUMMIT(アグサム/アグリテック・サミット)

アグリテックの製品と事例

アグリテックに用いられる製品や具体的事例をご紹介します。

圃場のモニタリングシステム

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みどりクラウド

圃場(田畑・農園etc.)の気温や湿度、日射量、CO2濃度、土壌水分などの環境をスマートフォンでモニタリングできるシステムがあります。それが、「みどりクラウド」というシステムです。

コンセントに専用端末を接続するだけで使えるため、IT機器の取り扱いに慣れていない農家でも利用できるのが特徴です。周囲の農家とのデータ共有もでき、クラウドに情報を蓄積できることから、利用するほど環境のデータが揃うという仕組みです。

農業センサーシステム

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SenSprout

農家の定量的なノウハウを可視化する目的で開発された農業センサーシステムがあります。それが、「SenSprout」です。土壌の水分量の計測と温度を測定しデータ化を行えます。

設定した水分量や温度から逸れるとアラートが飛び、すぐに対応できるという仕組みです。また、圃場ごとにデータをまとめて管理でき、農家同士でのデータの共有も行えます。

ロボットトラクター

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ロボットトラクター|ヤンマー

農業の就業者の代わりに自動で動作するトラクターがあります。それが、発動機や農機を手がけるヤンマーが開発した「ロボットトラクター」です。2台のトラクターを1人でコントロールできるため農業の効率化を図れます。

また、GPSと障害物センサーを搭載しているため、無人走行でも安全に利用できるという特徴があります。

農業技術の学習支援システム

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NEC 農業技術学習支援システム

熟練の農家が個々に持っているノウハウをICT技術によって「可視化」し、若手の従業者ないしは新規従業者の学習を支援するシステムがあります。それが、NECソリューションイノベータの「NEC 農業技術学習支援システム」というソリューションです。

農家から集めたノウハウをデータにすることで可視化し、それをカリキュラムとしてタブレット端末で学習できる仕組みです。

植物工場

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植物工場|MIRAI株式会社

環境に左右されない農業の実現を目的とした「植物工場」という試みがあります。「MIRAI株式会社」が手がける植物工場が代表的です。人工光や空調を活用し、室内でありながら農作物が育つ環境を整えるという仕組みです。

台風や大雪など天候に左右されないほか、害虫被害や植物のウイルス感染も防げるのではと期待されている試みの1つです。

まとめ

アグリテックは、AIやIoTなどテクノロジーを活用して農業の効率化とノウハウの可視化を図る取り組みです。農林水産省も推進を図っているように、政府本格的な取り組みが始まっています。

就業者の減少とそれに伴うノウハウの消失にも対応できるよう、農業を自動化できるロボット開発や、環境を分析するセンサー技術なども開発されています。スタートアップ企業から大手メーカーも参入しており、今後の普及にも期待できるでしょう。