飲食店などの店頭で、人型ロボットのPepperが予約受付をしている光景を見たことはありますか?独自の感情機能を搭載し、人とコミュニケーションがとれるPepperは、2014年にソフトバンクモバイルが発表し、一躍有名になりました。今では多くの企業で導入され、街で見かけても珍しくない光景になっています。

情報処理技術の発展と人手不足の深刻化が背景となり、ロボットのビジネス活用が進んでいます。今回は、私たちの身近なところで活躍するロボットの事例を紹介した上で、今後の展望を考えていきます。

ロボットの定義

経済産業省は、ロボットを「センサー」「知能・制御」「駆動系」の技術要素をもつ、知能化した機械システムと定義しています。

日本のロボットは、1980年代以降、製造業界を中心に発展してきました。特に自動車・電気電子産業においては生産性の高さをバネに大きく成長しました。現在でも、産業用ロボットの出荷額と稼働台数は世界トップクラスを誇っています。

参考:
平成17年5月ロボット政策研究会中間報告書~ロボットで拓くビジネスフロンティア~ |
ロボット政策研究会(経済産業省)

ロボット産業の将来

ロボット産業の将来市場予測.png

引用:
平成27年版情報通信白書|総務省

経済産業省は、ロボット産業は今後も急成長を続け、2035年には9.7兆円に達すると見込んでいます。中でも、これまでロボット産業を牽引していた製造業界以外の成長が大きいと予測しています。

次世代ロボット

日本で国として成長戦略も掲げられているのが、「次世代ロボット」です。次世代ロボットは、その用途から「次世代産業用ロボット」と「サービスロボット」の2種類に分けられます。

次世代産業用ロボット

産業用として、自動車のエンジン組み立てやエアコンの生産、建設機械の溶接・塗装などを行うロボットです。

これまでは、ある特定の種類を決められた時間で一定量生産(少品種大量生産)することが中心でした。しかし最近は、消費者のニーズも多様化してきています。そのため、様々な種類を状況に応じ、量を変えて生産できる技術(多品種変量生産)が求められています。

サービスロボット

文字通り、人の生活の中でサービスを提供するロボットです。掃除や留守番、警備や受付などに従事します。ロボット技術は、これまでは主に産業用として発展してきました。しかし最近では、人の生活に寄り添ったサービスを提供するロボット技術も注目されています。

その背景は前述の通り、情報処理技術の発展と人手不足の深刻化の2点です。センサーやAIなどの技術革新によって、自ら学習して更新していくロボットの実用化が進んでいます。一方で、少子高齢化により発生した、労働力不足と介護ニーズの増加という問題の解決策としても注目されています。

次世代ロボットの将来

2035年に向けたロボット産業の将来市場予測.png

引用:
2016年3月「サービスロボット」の最新動向|野村総合研究所

前掲した経済産業省の市場予測の内訳を見ると、圧倒的にサービスロボットの成長が期待されていることが分かります。2035年には、サービスロボットがこれまでロボット産業を牽引していた産業用ロボットを抜き、約2倍の規模になると予測されています。

今回は、これから私たちの日常生活でより身近になるであろう、サービスロボットに焦点を当ててみていきましょう。

サービスロボットが活躍する分野

経済産業省は、ロボットによる新たな産業革命を実現する上で、下記の5分野を重視しています。

・ものづくり分野
・サービス分野
・介護・医療分野
・インフラ・災害対応・建設分野
・農林水産業・食品産業分野

参考:
2015年1月ロボット新戦略|ロボット革命実現会議(経済産業省)

この中でも、特にサービスロボットが活躍している「サービス分野」をみていきます。

コミュニケーションロボット

サービス分野で活躍するロボットは、「コミュニケーションロボット」と呼ばれています。言葉や体で人とコミュニケーションをとります。中には、人の言葉や表情を読み取る機能を備えたロボットもあります。

コミュニケーションロボットの事例

世界で初めて人の感情を認識し、自らも独自の感情機能を搭載するロボットとして発明されたのが、Pepperです。ソフトバンクモバイルが2014年に発表し、一躍話題となりました。

参考:
ソフトバンク、家庭向けの人型ロボット「Pepper」を2015年2月に発売|日経BP社

その後、米IBMやマイクロソフト、本田技研工業株式会社(ホンダ)などと提携し更なる開発を重ねています。今では、日常のあらゆる場面で活用されるようになりました。

家庭での活用

Pepperは一般家庭向けにも販売されています。家庭では家族一人ひとりの顔と名前を認識し、挨拶や会話も楽しめます。本体料金に加え、月額利用料がかかります。

300種類以上のアプリケーションが用意されており、家庭でのニーズに合わせ自由にダウンロードして使用できます。天気予報やニュース、ゲームやクイズなど、機能は様々です。クラウドを利用して自動で機能の追加・改善も行っています。

会社での活用

株式会社みずほ銀行

みずほ銀行は、2015年から一部の店舗でPepperを導入しています。受付を待つ間、受付カードの番号でおみくじのゲームができる、何度か質問に答えると最適な保険を紹介してくれるといったアプリケーションを独自で開発しています。

今後は、来店した外国人客への多言語対応や、豊富な知識が必要な金融商品への質疑応答などへの活用を検討しています。

参考:
株式会社みずほ銀行様導入事例|ソフトバンクロボティクス株式会社

株式会社シーライン東京

東京湾クルージングを運営するシーライン東京では、待合室にPepperを設置しています。乗船までの流れを案内することで初めての乗客の不安を取り除き、待ち時間で利用できる記念撮影やドリンクバーへ誘導します。

これまでは待合室での案内はスタッフが行っていたのですが、出航時刻が近づくと忙しくなり、十分な案内が難しくなっていました。Pepperに任せることで、スタッフの負担軽減にもつながっています。

参考:
株式会社シーライン東京様導入事例|ソフトバンクロボティクス株式会社

コミュニケーションロボットの今後

企業の導入意向はまだ低い

コミュニケーションロボットの導入意向.png

引用:
コミュニケーションロボットの企業需要動向(2016年1月)|株式会社MM総研

MM総研の調査によると、導入を検討している企業は10.1%ほどでした。コミュニケーションロボット自体の認知度は60.7%で、「認知はしているものの踏み出していない」企業が多いことが分かります。その理由としては、「活用用途が見出だせない」「導入コストが高い」などが挙げられました。

今後、コミュニケーションロボットの活躍の場が増えることで企業の活用用途が明確になり、技術改善の過程でコストも削減できるようになれば、導入を検討する企業も増えていくと予想できます。

参考:
コミュニケーションロボットの企業需要動向(2016年1月)|株式会社MM総研

一般消費者のニーズは多様化していく

コミュニケーションロボットの認知度.png

引用:
「コミュニケーションロボット」に関する一般消費者意向(2015年10月)|株式会社MM総研

一般消費者のコミュニケーションロボットの認知度は68.4%で、3人に1人は知っているという結果になっています。そのうち最も認知度が高かったロボットがPepperでした。次にRobi(ロビ)、3番目はRobi jr.(ロビジュニア)でした。

コミュニケーションロボットに求める形や機能に関しては、偏りなく分かれています。一般消費者の多様化するニーズにどこまで応えられるかが、今後のコミュニケーションロボットの普及の鍵となりそうです。

参考:
「コミュニケーションロボット」に関する一般消費者意向(2015年10月)|株式会社MM総研

まとめ

政府や企業は、少子高齢化と人口減少による労働力不足の問題を解決する重要な施策として、ロボットの活用を積極的に進めています。世の中への普及により導入コストが抑えられるようになれば、個人事業の小さなお店でも気軽に取り入れられるようになるでしょう。

また、コミュニケーションロボットの進歩により、人とロボットの距離はどんどん縮んでいます。これから私たちの生活になくてはならない存在となっていくことが考えられます。人とロボットが共存する世界に向けて、これから動向を見守ってみてはいかがでしょうか。