チーム浮沈のカギを握るのは主力ではなく脇役の存在

目標達成の裏でチームを支えたメンバーと誠実に向き合う方法_004.jpg

今ご紹介したいくつかのスポーツ事例から私たちが学べることは、スポットライトの当たらないメンバーの重要性です。彼らが高くモチベートされているチームこそ、一体感が出てくる可能性が高いように感じます。

ビジネスの現場では、「優秀な人の周りにこそ、人も仕事も集まる」と言われます。私自身も「大事な仕事は忙しい人に頼め」と教わったこともあります。確かに、仕事ができる人に重要な仕事をお願いしたくなるものです。

そうすると、暇な人は常に暇、なんてことになってしまいます。主役はいつもスポットライトを浴び、脇役は常に日陰の存在です。

では、どうしたら脇役も高くモチベートされた一体感のあるチームを作れるのでしょうか。

まず、スポーツの世界で成功している名将たちは、控え組への説明責任を果たしています。
なぜ控えなのか、という理由と将来への希望をセットで伝えます。理由については様々です。コンディションの調整不足なのか、対戦相手との戦術的な相性なのか、単純に実力不足なのか……。しかし、理由に加えて成長への道しるべを示すことが大切です。

「お前がここを伸ばせれば、メンバー入りの可能性も高まる」と、メンバーから外した理由とともに期待・希望も示すわけです。そして、外したメンバーのために監督自身が時間を割くことも重要です。

名将たちは控え組だけの練習にも熱い視線を注いだり、普段の居残り練習を最後まで見届けたりします。時には励ましやアドバイスの声もかけるでしょう。
わざわざ貴重な時間を割いて監督が控え組の練習を観てくれている、これだけで「自分も競争のテーブルに上がれるかもしれない」と思い、モチベーションも高まるはずです。

そうなると、控え組のレベルも上がり、選手層が厚くなります。**つまり、良い監督は一般的な監督とエネルギーを注ぐところが違うということでしょう。**普通の監督は主力メンバーが試合で結果を出すことばかりに気を取られ、ほとんどの時間を主力の指導に捧げてしまいます。

もともと実力のある主力選手たちが、常にきめ細やかな指導と期待を受け、一方で控え選手たちが放置され期待もされない、技術やモチベーションの差は開く一方です。

人の心の性質はスポーツもビジネスも変わりません。リーダーはつい、力のあるメンバー、結果を出してくれるメンバーに手厚く指導してしまいがちです。結果を出してくれれば、リーダーとしての自分の立場も守られますから、それは当然のことと言えます。

しかし、よく言う「一体感」という得体のしれないモノは、実は日陰の存在が作り上げているものなのです。

本当に良いチームを作り上げるためには、少し実力が足りない、やる気を落としているメンバーといかに向き合い、彼らを大切にできるかです。チームの浮沈のカギを握っているのは、主力ではなく脇役なのかもしれません。
  

まとめ

最後に、私自身の実践例をご紹介します。

私の勤務する東京電機大学サッカー部に、高校まで水泳をやっていた学生が入部してきました。当然サッカーは上手くありません。

そんな彼は、サッカーで貢献できないことを悩み、何かみんなの役に立てることはないか、とアンテナを立てていたそうです。そこで彼が気付いたことは、「ビニール袋」と「ボックスティッシュ」をカバンに入れて持ち歩くことだったのです。汗でびしょ濡れの練習着を持ち帰る際「だれかビニール袋もってない?」とか、花粉の季節に「誰かティッシュ持ってない?」という声が飛び交っていたロッカールームからヒントを得たそうです。

彼のその日陰の努力を知った私は素直に感謝し、心から尊敬の念を伝えました。これは、「見えない部分を観ようとした」という意味で、私がリーダーとしてひとまわり成長できた瞬間だったと思います。

皆さんのビジネス現場ではいかがでしょうか。

結果を出してくれる優秀なメンバーと向き合う時間が長く、それ以外のメンバーを放置していませんか。なかなか日の当たらないメンバーとも対話をし、アドバイスを欠かさず、地味な仕事にも感謝を示し、見えない部分を観ようとする努力が必要だと思います。

リーダーがオフィスにいない時間にも頑張ってくれているメンバーが必ずいます。そんな姿を知らないリーダーでは困りますので、きちんと情報を上げてくれる腹心が必要かもしれません。

普通のリーダーは、誰にでも見える部分でメンバーを評価します。しかし、「この人は普通のリーダーとはちょっと違うな」と尊敬を集めるスポーツの名将たちは、見ようと思わなければ見えない部分をつぶさに観察しているのです。