皆さんにこれからご紹介するのは、プロスポーツチームの実話です。

長いシーズン(リーグ戦)も終盤に差し掛かり、そのチームは優勝を狙える順位にいました。そこで再度結束を高めようと、監督が練習前に全員を集めてミーティングを開きました。

「いいか、ここからは総力戦だ!お前たち全員の力が必要になる」

ミーティングで全選手にそう言い放った監督は、前節の控え選手は先に退室して体を動かすように命じました。

前節の出場選手だけが部屋に残された状況で、監督からは驚きの言葉が飛び出しました。「いいか!さっきは総力戦だと言ったけれど、優勝に向けた重要な残り数試合、本当に必要なのはここにいるお前たちだ」

チームにとって良かれと思っての監督の行動だと思いますが、結果的にチームの士気を著しく低下させてしまいました。さて、どうしてチームの士気は低下してしまったのでしょうか。
  

シーズン大一番!鼓舞すべきはチームを影で支えるメンバー

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当然、先に退室した控え選手たちは、部屋に残された主力選手たちのことが気になるので、どんな話があったのか聞き出すはずです。

結果的に、控え選手たちはショッキングな真実を知ることになるわけです。

そこからチームは、控え選手の不満と監督に対する不信感が噴出し、一体感を損なって大失速、目前まで迫っていた優勝を逃すことになりました。

監督は全員の士気を高め一体感を持たせるために「総力戦だ」と言い、特に期待している主力選手と強い信頼を築くために「本当に必要なのはお前たちだ!」と言ったのかも知れません。しかし、その二枚舌が逆にチームの一体感を損なわせ、大きな代償を払うことになりました。

「総力戦だ!」と言われたことで皆にチャンスがあると期待させておきながら、実は固定メンバーで戦うという真実を知ったメンバーのショックは計り知れません。これは、リーダーが完全に人の心を読み違えた事例と言えます。

考えてみてください。優勝に手が届くところまできた時、主力組が手を抜くことはあり得ません。つまり、極端に言ってしまえば、そのメンバーたちを集めて、あえて士気を高めるミーティングをする必要などないということです。一方、そんな時に疎外感や無力感を持ちやすいのが控え選手だと思いませんか。仮にチームが優勝した時、控えメンバーたちも同じ温度で喜びを爆発させることができるチームが、本当の良いチームなのです。

普通のリーダーは、優勝目前となれば主力組に目が向いてしまいがちですが、このタイミングでは控え組を気にかけることが最優先だったと思われます。

きっと、スポーツの現場ではなく、冒頭のようなシチュエーションは皆さんのビジネスの現場でもあるはずです。ぜひ、実際の業務と重ね合わせて読み進めてみてください。
  

好成績を収めた裏には「チームのためにハードワークする」仲間の姿が

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第2回ワールドベースボールクラシックで連覇を達成した日本代表

直接ご本人からうかがった話ではなく書籍を通して知った話ですが、野球のワールドベースボールクラシック(WBC)第2回大会の原辰徳監督は、日本代表のメンバー選考の際、チーム内で厳しい立場に置かれても常にハードワークしてくれる選手から選んだそうです。これは、出場できない選手が(良い意味でも悪い意味でも)チームに与える影響の大きさを理解しているからこそできることです。

結果として、第1回大会優勝国と言うプレッシャーを跳ね除け、見事2連覇を果たしました。
  

W杯本番で優勝候補の一角「南アフリカ」を撃破したラグビー日本代表

また、日本ラグビー界に功績を残したエディー・ジョーンズ元ヘッドコーチも、「下位10%の選手たちに指導の時間を割く」と言っています。

さらに、「上位評価の選手はスタッフに任せておいてもいい」「下位評価の選手の突き上げによって勝利に近づく」とも言っています。

引用元:
ラグビー日本代表ヘッドコーチ エディー・ジョーンズとの対話「コーチングとは 信じること」
  

2002年W杯日韓大会で初のベスト16進出を果たしたサッカー日本代表

これはサッカーも同様です。過去の記事でも触れたことがありますが、日本サッカー界が世界の舞台で結果を残している時は、決まってキャリアのある大ベテランが控えメンバーにまわって、縁の下の力持ちとしてチームを支えています。

現サッカー解説者でアテネ五輪代表監督も務めた山本 昌邦 氏は、2002年日韓共催ワールドカップの際、フィリップ・トルシエ監督を支えるコーチでした。山本 氏がトルシエ監督からメンバー選考を相談された際、ベテランに域に達していた中山 雅史 選手と秋田 豊 選手を推薦したそうです。

結果として2人は出場機会こそ多くありませんでしたが、チームを後方からサポートし、ワールドカップ初の予選突破という快挙を支えたのです。

参考:
自らの影響力を意識したベテランの行動でチームが1つにまとまった!2002年日韓W杯の成功事例から紐解く|ferret
  

チーム浮沈のカギを握るのは主力ではなく脇役の存在

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今ご紹介したいくつかのスポーツ事例から私たちが学べることは、スポットライトの当たらないメンバーの重要性です。彼らが高くモチベートされているチームこそ、一体感が出てくる可能性が高いように感じます。

ビジネスの現場では、「優秀な人の周りにこそ、人も仕事も集まる」と言われます。私自身も「大事な仕事は忙しい人に頼め」と教わったこともあります。確かに、仕事ができる人に重要な仕事をお願いしたくなるものです。

そうすると、暇な人は常に暇、なんてことになってしまいます。主役はいつもスポットライトを浴び、脇役は常に日陰の存在です。

では、どうしたら脇役も高くモチベートされた一体感のあるチームを作れるのでしょうか。

まず、スポーツの世界で成功している名将たちは、控え組への説明責任を果たしています。
なぜ控えなのか、という理由と将来への希望をセットで伝えます。理由については様々です。コンディションの調整不足なのか、対戦相手との戦術的な相性なのか、単純に実力不足なのか……。しかし、理由に加えて成長への道しるべを示すことが大切です。

「お前がここを伸ばせれば、メンバー入りの可能性も高まる」と、メンバーから外した理由とともに期待・希望も示すわけです。そして、外したメンバーのために監督自身が時間を割くことも重要です。

名将たちは控え組だけの練習にも熱い視線を注いだり、普段の居残り練習を最後まで見届けたりします。時には励ましやアドバイスの声もかけるでしょう。
わざわざ貴重な時間を割いて監督が控え組の練習を観てくれている、これだけで「自分も競争のテーブルに上がれるかもしれない」と思い、モチベーションも高まるはずです。

そうなると、控え組のレベルも上がり、選手層が厚くなります。つまり、良い監督は一般的な監督とエネルギーを注ぐところが違うということでしょう。普通の監督は主力メンバーが試合で結果を出すことばかりに気を取られ、ほとんどの時間を主力の指導に捧げてしまいます。

もともと実力のある主力選手たちが、常にきめ細やかな指導と期待を受け、一方で控え選手たちが放置され期待もされない、技術やモチベーションの差は開く一方です。

人の心の性質はスポーツもビジネスも変わりません。リーダーはつい、力のあるメンバー、結果を出してくれるメンバーに手厚く指導してしまいがちです。結果を出してくれれば、リーダーとしての自分の立場も守られますから、それは当然のことと言えます。

しかし、よく言う「一体感」という得体のしれないモノは、実は日陰の存在が作り上げているものなのです。

本当に良いチームを作り上げるためには、少し実力が足りない、やる気を落としているメンバーといかに向き合い、彼らを大切にできるかです。チームの浮沈のカギを握っているのは、主力ではなく脇役なのかもしれません。
  

まとめ

最後に、私自身の実践例をご紹介します。

私の勤務する東京電機大学サッカー部に、高校まで水泳をやっていた学生が入部してきました。当然サッカーは上手くありません。

そんな彼は、サッカーで貢献できないことを悩み、何かみんなの役に立てることはないか、とアンテナを立てていたそうです。そこで彼が気付いたことは、「ビニール袋」と「ボックスティッシュ」をカバンに入れて持ち歩くことだったのです。汗でびしょ濡れの練習着を持ち帰る際「だれかビニール袋もってない?」とか、花粉の季節に「誰かティッシュ持ってない?」という声が飛び交っていたロッカールームからヒントを得たそうです。

彼のその日陰の努力を知った私は素直に感謝し、心から尊敬の念を伝えました。これは、「見えない部分を観ようとした」という意味で、私がリーダーとしてひとまわり成長できた瞬間だったと思います。

皆さんのビジネス現場ではいかがでしょうか。

結果を出してくれる優秀なメンバーと向き合う時間が長く、それ以外のメンバーを放置していませんか。なかなか日の当たらないメンバーとも対話をし、アドバイスを欠かさず、地味な仕事にも感謝を示し、見えない部分を観ようとする努力が必要だと思います。

リーダーがオフィスにいない時間にも頑張ってくれているメンバーが必ずいます。そんな姿を知らないリーダーでは困りますので、きちんと情報を上げてくれる腹心が必要かもしれません。

普通のリーダーは、誰にでも見える部分でメンバーを評価します。しかし、「この人は普通のリーダーとはちょっと違うな」と尊敬を集めるスポーツの名将たちは、見ようと思わなければ見えない部分をつぶさに観察しているのです。