職場が仲良し集団である必要はありませんが、人間関係がギスギスしていたら、仕事が円滑に進むはずがありません。

もともと個性や考え方の異なる人たちが集まってチームが形成されている以上、もちろん衝突することもありますが、健全なチームならギスギスすることはないはずです。

では、健全なチームとは一体どのような状態を指すのでしょうか。

今回は、スポーツを例に、チームのビジョン・目標を共有したメンバーがどのようにして1つにまとまっていくのかというのを、ビジネスシーンで応用できるように解説していきます。
  

理想のチームはリスペクトと成長意欲の集合体

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人それぞれ好みや価値観が異なり、正解は決して1つだけではありません。

ただ組織形成する上で「自分の意見こそが正しい」と強く想うメンバーばかりがいたら、チームは1つにはまとまりません。

企業であれば、(ミッションやビジョンをきちんと共有した上で)異なる意見を尊重し、そこから様々なことを学び、成長につなげる姿勢を持っている、そんなメンバーが集まっているチームが理想です。

お互いにリスペクトの心を持ち、チームのコンセプトを意識した上で、成長のためならば時には勇気を持って意見をぶつけ合うことができれば最高です。

一方で、不健全なチームは保守的で個人的な感情や都合が優先されています。そこには、リスペクトも成長意欲も存在しません。例えば、思うことがあっても発言せずに保身を優先したり、人間関係や勢力図を意識した発言をしたりするなど、常に風向きを気にしながら水面下での政治的な駆け引きが横行しています。

健全なチームであるために、発言者は次に挙げる3つのポイントを押さえておくとよいでしょう。

(1)
チームのミッションやコンセプト(最上位にあるもの)を意識していること
(2)
チームの成長につながる発言すること
(3)
相手の人間性を否定するのではなく、あくまで"異なる意見を主張しているだけ"というスタンスを取ること

また、受け手側にもポイントがあります。相手が反対意見を言ったとしても「自分に対して個人攻撃(人格否定)をしているわけではない」という理解を持つことです。良いチームは、仮に意見が対立したとしても、そんなことでは人間関係は壊れないのです。

そんな「心の安全」が担保されていなければ、言わなければならないことも「関係が悪くなるかもしれないから言わないでおこう」と表面上の平和ばかりを重視するようになり、結果的にはお互いの関係性もギスギスしてしまいます。
  

影響力を意識した行動がチームを1つにする

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練習中の些細なトラブルが大喧嘩に発展

「仮に衝突したとしても人間関係が壊れない」
これを私が身をもって体験したのは、イングランドでのサッカー現場でした。

とある日の練習、パスがズレた、ズレていないという些細なことをきっかけに2人の大柄な黒人選手がつかみ合いの喧嘩になりました。

日本人なら表面的な平和を最優先し、そんなことで喧嘩に発展することはないため、私はハラハラしながら見守りました。周囲のメンバーがなだめて収束しましたが、「これからしばらく2人は気まずい関係が続くのだろう……」と私は心していました。

しかし、練習後の昼食で、2人は隣の席に座って笑顔で話をしていたのです。

その光景は、私にとっては一生忘れることがないと思います。これこそ、私がチームビルディングを志す1つのきっかけにもなりました。
  

大喧嘩から一転!関係が悪化しなかった背景にあるものとは

2人に詳細を聞いてみると「練習中のあの場面は意見が食い違ったけど、人としてはこいつのことが好きなんだ」と、先ほどの衝突が嘘であるかのような一言が返ってきました。

「意見が対立しても人間関係が壊れない」「意見の食い違いを人格否定につなげない」「その安心感がなければ議論は深められない」ということを私自身が身を持って学んだ瞬間であり、そんなフェアで清々しいチームを創っていきたいと決意したできごとでした。

とは言っても、私たち日本人には激しい議論をする文化がありません。頭で理解してすぐに実行できるわけではないので、ある程度の作法は心得ておきたいところです。

そこで提案したいのが「伝え方」の工夫です。批判・攻撃・文句、感情の吐き捨てをやめて、提案・アドバイスに切り替えてみるのはいかがでしょうか。

例えば、下記のとおりです。

「何でこんな簡単なこともできないんだよ!私の言ったとおりにやってくれ!」ではなく、「私の場合はこうやったら上手くいったよ、ぜひ試してみて」という具合です。まったく印象が違ってきてしまいます。

オブラートに包んで遠回しに話すのもよくありませんが、相手に対して完膚なきまで叩きのめすような言葉、口調は控えなければなりません。仮に正論で相手を論破したとしても、その相手はきっとあなたのことを嫌いになるでしょう。

伝え方だけではなく、受け止め方も大切です。「お前だけには言われたくない!」「お前だってできていないだろ!」といった感情論、「俺に恥をかかせやがって!」という不要なプライド、「勝手に言わせておこう」「聞き流そう」という防御・無視・無反応はやめ、言いづらいことを面と向かって言ってくれる仲間の勇気に感謝の気持ちを持つことです。
  

チーム内の誰かにストレスが集中していないかをケアする必要性

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色々なことが言い合える関係性が築けたとしても、チームが大勢の集合体である以上、全員がストレスを感じずに行動するということはとても難しいことです。

ストレスは水と同じで、高いところから低いところへと流れていくものです。つまり、チーム内では自然と序列の低い方へとストレスは吐き出されていくのです。立場が上の方ほど、無自覚なことが多いので気を付けなければなりません。

もし今、職場が「快適だ」「居心地がいい」「ストレスがない」「特に不満はない」と思って働けているとしたら、チームメイトの誰かがそのストレスを一手に引き受けているかもしれない、ということを気にかけましょう。
  

要注意!ストレスをケアするにはどうしたらよいのか!

では、どうやって解決すればいいのでしょうか。

「仕事そのものが大変なわけではないが、相談もなく押し付けられることにストレスを感じた」

そんな経験はありませんか。つまり、私たちは「我慢や苦労を誰にも気付いてもらえないことにストレスを抱える」傾向があります。「相談する時間もなく、面倒な仕事を押し付けてしまって本当に申し訳ないね、いつもありがとう」という一言をもらえるだけで、ストレスは半減します。チーム内でストレスがどこに吐き出されやすいか、そんなことにも気を配ると皆が働きやすくなります。それは普段のビジネスシーンにおいても同様で、気付かないうちに私たちはストレスを与えているかもしれません。

例えば、社屋の清掃をしてくれている方々にも対しても同じことが言えます。ゴミの出し方のマナーやトイレの汚れなど、思い当たる節はあるはずです。「掃除をするのが仕事だろ」という横柄な態度ではなく、「いつも清掃ありがとうございます。私たちに何か要望があれば気軽に言ってくださいね」という一言は大事だと思いませんか。

また、これは知人の男性看護師から聞いた話ですが、病院の看護師という職業柄、どうしても女性の多い職場になるそうです。そうなると本人としては(勝手に)肩身が狭い思いをしてしまうそうです。もちろん、女性看護師が意図的にそういう雰囲気を作り出していることはないはずですが、女性がほとんどを占めるなかで男性の肩身が狭いのは何となくうなずけます。

職場で高い所の電球が切れた時、その男性看護師は「今回も俺が電球を取り替えたほうがいいのかな」と思うそうです。逆の例もあります。男性が多い職場では、「これは女性の私がやるべきことかな」と(いう無言の圧力を勝手に)感じることがあるそうです。肩書によってヒエラルキーがはっきりしがちなビジネスの世界では、特に気を付けたいポイントの1つです。
  

2002年日韓W杯こそヒエラルキーを上の立場から崩した成功事例

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ここからは、そのヒエラルキーを上の立場の人から崩していくことで成功した事例を紹介します。

サッカー日本代表が世界舞台で好成績を残している時、ある1つの共通点があります。それは、抜群のキャリアと影響力を持つベテラン選手が決まって控えメンバーに入ってチームを支えているという点です。

2002年日韓共催ワールドカップベスト16進出は最たる例です。
その時は、日本がワールドカップに初出場した1998年フランス大会を経験している中山 雅史さんや秋田 豊さんが控えメンバーでベンチにいました。2人の大ベテランは、控えメンバーに課される辛いサーキットトレーニング等をいつも先頭に立って全力で取り組み、チームを鼓舞していました。

秋田さんは2002年のできことを回想しながら、私に次のように話してくれました。

「初戦のベルギー戦、スタメン出場の森岡(隆三)選手がケガした際、同じポジションなので自分が出場するつもりでいたけど、宮本(恒靖)選手が途中投入された。その時に俺は完全にバックアップ要員なんだと自覚した。一晩じっくり考えて、気持ちを切り替えるスピード感が大事だと思い、翌日から違う役割を率先して引き受けた。控え組のモチベーションをどう維持するかが一番大切だから、中山さんと話し合って全力で盛り上げた」

ここで中山さんと秋田さんが真逆の行動を取っていたら、その影響力の大きさがマイナスに働き、チームを壊すことになっていたはずです。若手へのアドバイスや控え組の鼓舞など、全力でプラスの働きかけをしたことがチームの大躍進を支えていたのです。

そのほか、中国で苦闘の末に優勝した2004年アジアカップ、ワールドカップベスト16進出を果たした2010年の南アフリカ大会なども同じです。

2010年南アフリカワールドカップでは、川口能活 選手や中村俊輔 選手などがベンチを温めましたが、それだけのキャリアを持つ選手が、出場する選手のために率先して動いたという話があります。リーダー的存在が自らの影響力を自覚し、チーム優先の精神で後方支援をし続けたことが、日本の活躍の原動力なのだと思います。大ベテランも試合に出たい気持ちは変わりません。

このように、弱い立場にストレスが吐き出されないための気遣い、若手が存分に実力発揮できる環境づくり、ベテラン組が先頭に立ってチームのあるべき姿を示そうとする誇り、チームの勝利を優先した行動がチームワークを生むのです。
  

まとめ

議論しても壊れない人間関係、その上でチーム内の影響力を自覚して自ら正しい行動を選択する、そんなメンバーが集まった時、チームは初めて良い方向に動き出します。

チームワークは些細なことで劇的に変化することがあります。だからこそ、職場で地味な役回りを淡々とこなしてくれているメンバーに、ねぎらい気持ちを伝えてみてはどうでしょうか。もしくは、たまには地味な仕事を率先して引き受けてみるのもいいかもしれません。

すでにそのような状況が身のまわりに広がっている方、現在管理職に就かれてチーム(組織)をマネジメントする立場に就かれている方は、ぜひ本記事をお役立ていただけると幸いです。