情報発信に取り組む際に、メッセージを効果的に伝えるためにはどのような工夫が必要でしょうか。洗練された文章表現や、読まれやすいタイトルの付け方なども重要ですが、記事の根幹をなすのは「ロジック」だと考えています。

メッセージを伝えるのに十分な根拠が揃い、ロジックが通っていれば、多くの人に納得してもらいやすい記事に仕上げることができます。

では、論理的な文章を書くためには何を学べばいいのでしょうか。今回は現役のコンサルタントとして働きつつ、ロジカルシンキングやロジカルライティングの講座を開いている田辺元 氏にお話を伺いました。

田辺元 氏プロフィール

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田辺元
東京大学大学院・工学系研究科卒業。新卒で外資系コンサルティングファームに入社、現在5年目。製造業や通信業を中心に、新規事業立案や全社マーケティング戦略策定、事業戦略策定等のプロジェクトに従事。また、NPO法人PIECESにて理事を務める。

Twitter@hajime_tnb

伝えたいメッセージを支える2種類の論理構造

モリ:
今回は説得力のある文章を書くために必要なことをお伺いしていけたらと思います。

田辺 氏:
説得力のある文章を組み立てるには、まずは記事で伝えたいメッセージを決めること、そしてメッセージを支える論理構造を明確にすることが大切なんです。その論理構造には2パタ―ン存在するんですよ。

モリ:
2つのパターンとは、どのようなものなのでしょうか。

田辺 氏:
「帰納(きのう)型」と「演繹(えんえき)型」ですね。帰納型は、並列に論拠を揃えることでメッセージを支える論理構成で、演繹型は、原理原則や成功事例などの”定理”や”一般解”をまず述べることで、メッセージを支える論理構成です。

モリ:
「帰納」と「演繹」は耳にしたことのある人も多そうです。文章を執筆する際に、2つのパターンはどのように活かせるのでしょうか。

田辺 氏:
言葉の説明だけではわかりにくいですよね。具体的な問題を設定して、考えてみたいと思います。

質問1:あなたはメディアの運営をしています。後輩2人(田中くん/高橋くん)に、「次の記事で取り上げるテーマについて考えてみてほしいんだよね」と頼んだら、次のようなメッセージが届きました。2人の主張を簡潔にまとめてください。

【田中くんから届いたメッセージ】
お疲れ様です!テーマについて調べてみました。最近だと、Fintechとか盛り上がってますよね。市場が成長しているみたいで、いろんなサービスが続々と出てきてます。マネーフォワードとかの家計簿アプリに始まり、自分が投資すべき金融商品を提案してくれるロボアドバイザーのWealthNaviとかも面白そうですよね。これまで銀行に行かないとわからなかったことを、アプリが教えてくれるらしいんですよ。

あと、欠かせないのが今はBitcoinじゃないですかね。ブロックチェーン技術は革新的ですし、最近だと、どこかの国が自国の通貨として正式に認定する話もあるとかないとか。仮想通貨を使うと、どこの国にいても関係なく、決済だったり送金ができるようになるらしいじゃないですか。

とにかく、Fintechは人々の生活とか、ビジネスをかなり変えそうですよね。ただ、その割に、金融はけっこう難しい話が多いですし、そこに技術が絡むからもっと難しくなるので、興味持ってる人が多いわりに、ちゃんと理解できてる人あまりいないっぽいんですよね。しかも、ちょっとググってみたんですが、Fintechについてわかりやすくまとめている記事が見当たらないんですよ。

【高橋くんから届いたメッセージ】
お疲れ様です!次のテーマについて調べつつ、考えてみました。最近のバズった記事を見ると、炎上したものも多かったのですが、いい意味でバズったものだけに絞って見てみると、○○tech系のまとめ/解説記事が多そうなんですよね。

特に、Fintechは結構バズる率が高いです。ちなみに、今のこの媒体のKPIは、ひとまずPV数ですよね?なので、Fintechのまとめ記事を書くのがいいと思ってます。検討くださると幸いです!

モリ:
どちらも「Fintechの記事を書くべき」と主張していますね。

田辺 氏:
メッセージは同じですが、この2人はメッセージを支える根拠の示し方が異なるんです。どのような構造になっているのか、図で考えてみましょう。

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田辺 氏:
田中くんの示し方は帰納型ですね。論拠を4つ並列で並べています。論拠をいくつか並べることで、メッセージをサポートするやり方です。論拠が少ない場合と比べて、メッセージに対する納得感がありますよね。

モリ:
一方で高橋くんは、ひとつの論拠からメッセージを示していますよね。

田辺 氏:
高橋くんの示し方は演繹法ですね。「Fintechの記事はバズりやすい」という既に実証されている前提を提示し、それに今回の状況を組み合わせることで、メッセージをサポートしています。演繹法は、前提となる”定理”や”一般解”が存在すれば非常に強力で、一気に正しさを示すことができます。ただし、この”定理”や”一般解に相当する部分の納得感が崩れると、論理が全て破綻するため、注意が必要ですね。

モリ:
図にするとわかりやすいですね。

田辺 氏:
メッセージやそれを支える根拠同士の関係を明確化した図を「ピラミッドストラクチャー」と呼びます。図式化すると論理構造が分かりやすくなるため、ピラミッドストラクチャーを用いることがあるんですよ。慣れてくれば、頭の中だけでも論理展開を組み立てられるようになりますが、最初は書き出して整理することをオススメします。

【田辺さんによるポイント整理】
・帰納型…並列に論拠を揃えることでメッセージの正しさを示す論理構造。読み手も論拠を一つずつ理解していけばいいので、伝わりやすいという特徴がある。
・演繹型…原理原則や成功事例などの”定理”や”一般解”をまず述べ、それに該当の事象が当てはまることを示すことで、メッセージの正しさを示す論理構造。この原理原則の納得感があれば非常にシンプルに正しさを示すことができる。だが、少しでも納得感に欠けるとメッセージの正しさが全て崩れてしまう。

いきなり論拠となる情報を集めるのではなく仮説を立てる

モリ:
実際に文章を書く時は、「伝えたいメッセージが決まっている」こともあります。メッセージを伝えるために、色んな情報をリサーチしたけれど上手くまとまらない、という悩みをよく聞きます。

田辺 氏:
論拠となりそうな情報をいきなり調べるのではなく、まずは仮でいくつか論拠を書き出してみることが大事です。

モリ:
仮の論拠を書き出すというのは?

田辺 氏:
なかなかイメージがつかないですよね。それでは、別の問題に挑戦してみましょうか。

質問2:あなたは親戚の高校2年生の子に、「将来は、優秀な研究者になりたい。どうすればよいか?」と聞かれました。それに対して「とにかく東大に入るべき」と思っているとします。その親戚の高校生に納得してもらうために、どのように説明しますか。データも併せて提示してください。

モリ:
説得の仕方は色々なパターンがありそうですね。

田辺 氏:
そうですね。あくまで例題なので、実際に東大に入ることが正しいかはさておき、この場合の伝えたいメッセージは「とにかく東大に入るべき」です。まずはこのメッセージをサポートする論拠を仮で置いてみる。たとえば、「研究開発の施設が他の大学よりも充実している」ということが言えれば、メッセージを補強することができますね。論拠の仮説を複数あげ、その仮説が正しいかどうかをリサーチしていきます。

モリ:
仮説を出した後に、「研究開発の施設が他の大学よりも充実している」が正しいかを調べていくわけですね。

田辺 氏:
そうです。いきなり調べ始めてしまうと、時間が無駄になってしまうこともあります。まずは仮説を立てて、どういった情報を調べなければならないかアタリをつけることが大切です。

モリ:
調べてみて、その論拠を示せなかった場合はどうするのでしょうか。

田辺 氏:
その時には、他の論拠によってメッセージを示すことができないか、視点を変えて考えます。メッセージの正しさを示せそうな論理展開を思いつけば、その論拠が正しいかを判断するためのfactを探すために、リサーチをします。基本的にはこの繰り返しですね。

ただ、どれだけ調べてもメッセージの正しさを示せるfactが出てこない場合には、そもそものメッセージが誤っている可能性があります。その時には、得られている情報から考えられるメッセージを仮説として置き、同じようにそれを示すための論理構造、必要な論拠を考えます。そして再び、factを探すためにリサーチを行います。

モリ:
サービス開発における、仮説検証のプロセスと近い印象を受けました。

田辺 氏:
近いと思います。「こういうfactがあるんじゃないかな?」と考えながらリサーチを繰り返したり、得られたfactから「正しいメッセージはこうなんじゃないかな?」と考えて更新したりというサイクルを回していきます。

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モリ:
仮説を設定する時に気をつけるべきことは何かあるのでしょうか?

田辺 氏:
ある程度、現実的に示せることや、人が納得してくれるであろう論拠を基にして論理を組み立てることが求められますね。少し調べたくらいでは示せない場合でも、複数の情報を組み合わせることで、かなりの部分は論拠を作ることができたりもします。ですが、それでも示すのが困難な事象はあるかと思います。無理やり理屈をこねくり回しても、人が納得してくれなければ全く意味がないですしね。

モリ:
他に気をつけることはありますか?

田辺 氏:
帰納法の場合、論拠を揃える際に大事なのは、MECE感をもたせることです。MECEとは漏れなくダブりなくの意味です。よくロジカルシンキングなどの本に載っているので、ご存知の方も多いかもしれません。

あくまでも目的は、人に納得してもらうことであり、一分の隙もなく論拠を積み上げることではありません。読み手が「論拠に抜け漏れがないな」と感じられれば十分です。

モリ:
どうすればMECE”感”を出せるのでしょうか?

田辺 氏:
状況に応じて適切なフレームワークを使うことです。既存のフレームワークがある場合にはそれを使えば良いですし、ない場合には、自分で作ります。

たとえば、上記の帰納型ではヒト・モノ・カネの観点で論拠を揃えています。これは、いわゆる経営の3要素のフレームワークを適用していますが、オリジナルな枠組みとして「入学前 / 在学中 / 卒業後」のようなものを自分で作って論拠を揃える考え方もあり得ると思います。ポイントは、既存のフレームワークを無理やり当てはめることを考えるのではなく、人が納得してくれそうな適切な枠組みを考えることですね。

モリ:
たしかに上記の例では、時系列順に入学前、在学中、卒業後の3つの観点から論拠が揃えられていると、納得感が高くなりそうですね。

【田辺さんによるポイント整理】
 ・メッセージをサポートする論拠を仮で置き、その仮説が正しいかどうかを示すために、factを探す。見つからなければ、他の仮説を設定して、再度リサーチを行う。このような仮説検証のサイクルを回すことが重要。
 ・帰納法の場合、論拠を揃える際にMECE”感”を持たせることで、メッセージに説得力を持たせられる。そのためには、適切な枠組みを考えることが重要。

大事なのは実践を通じて身につけていくこと

「伝えたいメッセージを軸に論理構造を整理することや、仮説検証のサイクルを回すことは、いきなりできるようにはなりません。ですが、訓練次第では誰でも身につけることができると考えています。実践を通じて学んでみてください」と、田辺さんは最後に語りました。

今回は、ロジカルシンキングの技法を使うことで、伝えたいメッセージに説得力を持たせる方法を学びました。

記事を書く際にリサーチに時間がかかるという方は、仮説思考を意識してみてください。リサーチ時間の無駄を省きつつ、伝えたいメッセージを説得力を持って伝えられる文章が仕上げやすくなるはずです。文章を書く際に、ぜひ意識してロジカルシンキングの技法を活用してみてください。