先日発生した、西日本豪雨災害(平成30年7月豪雨)では、人的被害や住宅全壊、半壊など、多くの被害が発生しています。

この災害においてTwitterはどのような役割を果たしたのか、あるいは果たせなかったのでしょうか。幾度となく災害のたびに取りだたされるのは、災害時のTwitter配信には効果があるのかという点です。時には、救助活動を阻害する可能性も議論されています。

今回の災害時になされたツイートの実態を見ることにで、Twitterが社会に与える功績と今後の課題について考えてみました。

参考:
災害情報 総務省消防庁

ハッシュタグで見るツイートの状況

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まずは、TwitterやFacebookで話題となっている投稿を検索できる「Yahooリアルタイム検索」を使って、西日本豪雨災害の発生後にどの程度関連するツイートが投稿されているのかを検索してみます。

上記のグラフは、平成30年6月25日から7月23日を選択してYahooのリアルタイム検索で「#西日本豪雨」または「#豪雨」のハッシュタグが含まれるツイートを検索してみた結果です。ノイズとなる検索結果は十分に除去できていないので、あくまで概況を知るためのものになります。

この検索から、西日本豪雨災害について43,937件のツイートが投稿されたことがわかりました(公式RTは除く)。最も投稿された日付は7月17日で、4,683件も該当ツイートが投稿されています。

豪雨災害の規模が大きかったのは、6月28日から7月8日です。その間のツイート数は2,258件となっています。このことから、実際には災害の危機が去ってからのほうが、このハッシュタグでより多くのツイートが続いていたことになります。

また、「感情の推移」を分析したグラフも見てみます。当然ですが「不快」と判断される感情のツイートが勝っています。「不快」のピークは2つあり、雨が降り出した6月26日と徐々に雨の激しさが増して被害が広がっていった7月4日です。

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次に「#救助」または「#救助要請」のハッシュタグが含まれるツイートについて見てみます。

こちらでは23,939件のツイートが該当しました。該当ツイートが最も多かったのは7月8日の14,574件。このうち6月28日から7月8日に該当するツイートは14,883件です。ほとんどのツイートは豪雨がピークを迎えていた時に発信されていたことになります。

「感情の推移」を見ると最初は「不快」が多いのが、徐々に「快」が「不快」を圧倒していっていきます。これはおそらく、豪雨初期には救助を求める切羽詰まった悲鳴に近いツイートであったものが、徐々に救助に向かう側のツイートや、救助に成功した安堵感や救出された喜び、感謝などの感情を込めたツイートが増えていったためだと思われます(もちろん、豪雨関連以外のツイートも増えていきます)。「不快」のピークは7月5日であり、「快」のピークは7月11日でした。

参考:
Yahoo!リアルタイム検索~Twitter(ツイッター)、Facebookをログインなしで同時に検索!

Twitter拡散の効果とデメリット

これらの救助要請に関するツイートのうち、どれだけが実際に消防や警察に届き、どれだけの効果をあげたのかについての分析はまだこれからということになると思います。とはいえ中には、Twitterで拡散されたおかげで命が救われた例もあります。

倉敷市真備町では、80代の祖父母の住む家が水没しかかっているという救助要請ツイートが拡散されることによって、実際にボートの救援を受けられたそうです。「祖父母の命を救うことができた」とツイートを投稿したユーザーはお礼を述べています。

一方で、2017年7月の北九州北部豪雨では、朝日新聞デジタルが記事中に「#救助」と入れたまま記事を配信したことがあります。これが大量にリツイートされることにより、救助タグが埋もれる事態になってしまいました。当時は、「災害時にメディアが混乱させてる」と問題視する声が上がっています。このような事態を避けるため、NHK生活・防災公式アカウントは、あえて「ハッシュタグ シャープ救助」と表記し混乱を避けたことで称賛を受けました。

「#救助」や「#救助要請」は、人命に関わる緊急性の高いツイートにつけられることがあります。場合によっては、生死の明暗を分けることもあるでしょう。投稿には慎重になるべきですが、正しく拡散されれば通報に繋がる可能性もあります。

さらに救命要請ツイートで問題となるのは、大量にリツイートされた同じ場所の「#救助要請ツイート」を見た人たちが、一斉に警察や消防に電話で重複して通報してしまう可能性です。それでなくてもパンク状態にある救援を求める通報を、ツイートを閲覧した人たちの通報で妨害してしまうことも考えられます。

多い場合は9,000回以上のリツイートされている救助要請ツイートを、一定数の人たちが実際に緊急要請を電話でしたとすれば、かなりの数の通報が行われたことになるでしょう。投稿も通行も善意からの行動かもしれませんが、当該の地域や他地域の救助活動を妨げる可能性も否定できません。

救命要請ツイートは投稿するときも、それを拡散する人々も「そのツイートは事実かどうか」「むやみやたらと通報していないか」など注意を払う必要があるでしょう。

Twitterライフラインの試み

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引用:Twitterライフライン(@TwitterLifeline)さん | Twitter

Twitterでは、 救援要請ツイートが適切に拡散されるよう、Twitterライフラインアカウントでは上記のような呼びかけをしています。

同時に、

「Twitterで緊急救助を求める場合には、#救助 ハッシュタグとともに要請内容、写真、住所または位置情報など、具体的かつ正確な情報をつけましょう。救助が完了したら、報告ツイートするとともに、救助要請ツイートを削除してください」

とも呼びかけています。

これはTwitter社が推奨する救助の呼びかけのフォーマットだということです。こうした教訓を学びながら、救助要請ツイートの拡散に関して配慮する取り組みは、効果的な緊急ツイートの拡散と実質的な効果を生むために、今後ますます必要になるでしょう。

まとめ:マイナス面も理解した上でのTwitter運用を

西日本豪雨におけるTwitterの役割を、ごく一部のデータに注目して見てきました。実際にツイートされた多くの救助要請の1つひとつについての効果やデータを分析するには、時間をかけて調査する必要があります。

TwitterやSNSが災害時の緊急連絡手段として、優れているのは確かなことです。しかし、時にはそれがマイナスに働いてしまうことがあることを忘れてはなりません。

現時点では、災害時のSNSリテラシーはまだまだ発展途上です。それがさらに向上していけば、私たちはこの巨大なメディアでさらに多くの人の命を救えるでしょう。継続した根気強い調査と分析が必要です。