私が大学の教員として日々接している学生を見ていると、努力に見合った成果を挙げられていない学生が目につきます。

これだけ努力したらもう少し報われてもいいのに……。そんな風に思える学生がたくさんいるのです。「努力に見合った成果を得よう!」私が顧問を務めている東京電機大学サッカー部で訴えている言葉です。

それでは、努力に見合った成果を得るためにはどうすれば良いのでしょう。今回は、成長のカギとなる「出来事を一般化、汎用化、抽象化していく思考」についてお話しします。

全力投球のはずが、すべて「中途半端」に

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学生にとって重要なこと、力を入れたいことはたくさんあるでしょう。私自身も学生時代に色々なことに打ち込んだ経験が、あとから様々なところで役に立ったと思う節があるので、たくさんのことにチャレンジしてほしいと伝えています。

日々の生活を覗いてみると、勉学はもちろんのこと、アルバイト、部活(サークル)、遊び(恋愛)、就活(インターン)の5つが代表的です。

その中でも、マジメな学生たちが陥りやすい傾向があります。彼らは5つのことすべてに全力投球するがあまり、100ある力を20ずつ注いでしまうのです。

これは一見、持てる力を100出し切っているように見えますが、1つ1つのことには20しか割けず、言い換えればすべて「中途半端」となっているのが現実なのです。それではせっかくの取り組みが水の泡です。

私は、「頭の中に変換装置を持てば、5つのことすべてに100のエネルギーを注げるようになる」と学生たちに伝えています。それでは一体、その変換装置とは何なのでしょうか。

全ての現象を一般化、汎用化、抽象化していく思考を持つ

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東京電機大学はそれほど運動部が盛んな大学ではありません。理工系大学ですから勉強の比重が高い大学です。それでも限られた時間でサッカーをやろうと志した学生たちですから意欲はあります。

とはいえ、プロになるような選手は出てきません。1限から4限までミッチリと詰まった講義・実験・演習の正課を終えた後、サッカーの練習を2時間やって、さらにアルバイト、課題のレポート、通学には往復3~4時間。

遊びに行きたい日もあるでしょうし、就活やインターンに行く日もあるでしょう。私の周りの学生たちは、24時間では足りないような生活をしているのです。

そこでふと、サッカーのワンシーンに目を移してみましょう。「ボールを奪われたら奪い返さなければいけない」という、サッカー選手なら誰でも知っているようなことができない瞬間が散見されます。

疲労の限界で、あと1歩走ったらぶっ倒れてしまうような状況には見えません。おそらく心の中で「ま、いっか」と思ったのだと思います。

その「ま、いっか」は、実は24時間のいたるところで存在しています。

「玄関で靴を揃えたほうがいいことは知っているけど……」
「落ちているゴミは拾った方がいいのはわかっているけど…」
「遊びに行く前に課題を終わらせた方がいいのはわかっているけど…」

「ま、いっか」

となるわけです。

その日常の「ま、いっか」とサッカーの「ま、いっか」、まったく同じだと思いませんか?「心が身体を支配している」わけですから、24時間のなかで「ま、いっか」を撃退していくことでサッカーにも好影響が出てくるわけです。

そうすると、今まで日常とサッカーを切り離して努力してきたわけですが、両方が繋がっていることに気づいた時点から1つの努力で両方とも改善していけることになるのです。

似たような事例はいくつでもあります。ボールを失った瞬間に天を仰ぐ選手がいます。本来は自分で奪い返すのが原則かもしれませんが、相手に30mのキックをされてしまったら、自分で取り返すことはもはや不可能です。

そんなとき、諦めてしまう選手は社会人になったらどんな仕事ぶりか、想像してみましょう。

取引先との間で重大なミスを犯してしまった瞬間、取り返しのつかないことに気づき、茫然として立ち直れず、諦めてしまうかもしれません。一方で、優秀なサッカー選手なら、ボールを失った瞬間に自分の責任で奪い返しにいき、それでも遠くに蹴られてしまったら、傷口が広がらないよう危険な順に防ぐべく仲間に協力を呼びかけるなど、優先順位を付けて対処するはずです。

きっと、優秀なビジネスパーソンも、まずは上司に報告、先方への謝罪と状況の説明、同時にこれ以上傷口が広がらないよう同僚に協力を呼び掛けるなど、ミスに気付いた瞬間から優先順位を付けて対応に当たることでしょう。

つまり、サッカーで起こった現象をサッカーだけのことと思わず、日常の他の場面でも似たようなことが起こっていないか、一般化、汎用化、抽象化していく視点を持ち合わせていると、たった1つの気づき・努力でたくさんのことに波及効果が生まれるのです。

スポーツを通して得た気づきや学びを実社会に置きかえて話すことができれば、就職活動の面接にも自信を持って臨めるでしょう。しかし、残念ながら実際にはすべてを別個のものとして努力してしまい、1つひとつに20のエネルギーしか割けずに終わっていることがとても多いのです。

ですから、私はサッカーで起こった様々なプレー現象を、実社会のとある場面に置き換えて学生に説明するように心がけています。