社内外のプレゼンテーションで、せっかく作りこんだ資料が見てもらえない、うまく話が伝わらず提案が通らない、といった経験をされた方は多いでしょう。

説得力のある話し方をするには、どのような点を意識すればいいのでしょうか。

第一印象から相手の興味を惹き付け、プレゼンを最後まで聞いてもらえる話し方のポイントについて、株式会社トークナビ代表取締役でアナウンサーの樋田かおり氏に伺いました。

プロフィール

樋田 かおり 氏
日本テレビ系列 青森放送にアナウンサーとして入社。テレビ・ラジオの放送現場を経験した後、2015 年、「声で、未来を変える」をビジョンに、株式会社トークナビを設立。アナウンサーを講師とするプレゼンやコミュニケーションの社員研修、社長の話し方マンツーマンレッスンなどを展開。 ビジネスパーソン向けにオンライン学習サービスで公開する「伝わる話し方」や「聴き方」の動画講座は、アナウンサー社長の実務家講師として好評を博し、計2.5万人以上に受講されるロングヒットとなっている。

著書:「社長の伝え方には会社を変える力がある」 (青春出版社)
「人見知りアナウンサーに学ぶ ドキドキに負けない話し方」(文響社)
動画講座:https://www.udemy.com/user/tong-tian-kaori/

目次

  1. プレゼンの内容以前にまず「発声」が大事
  2. 興味をもってもらえる話し方のコツ
  3. プレゼン時の緊張を和らげるための方法

プレゼンの内容以前にまず「発声」が大事

ferret:
樋田さんの運営されている会社では、ビジネス研修のひとつとしてプレゼン研修を提供されています。研修ではまず何からお伝えするのでしょうか。

樋田:
プレゼンの準備をする際に、話す内容や資料の作り込みに時間をかける人が多いものの、そもそも話すときの声が出ていないと情報が相手に伝わりません。そのため、プレゼンの内容以前にまず正しい発声を身につけることが大切です。

例えば、声が小さいと自信が無さそうに見えたり、大きすぎると品が無く聞こえたりするなど、言葉が同じでも発声の仕方で印象は変わります。

印象をよくするポイント①:しっかりと声を出す

樋田:
印象をよくするためには、まず声をしっかり出すことです。胸を張った姿勢で話すようにすると、声が通りやすくなります。猫背の姿勢だと空気が通らず声が小さくなってしまうため、姿勢を正すことが大事です。

自分が話している姿をスマートフォンで撮影して確認してみると、しっかり声が出ているかをセルフチェックできます。

プレゼンのコツ:声をしっかり出す

印象をよくするポイント②:高低アクセントを意識する

樋田:
美しく聞こえる日本語のルールとして「高低アクセント」を意識すること、つまり抑揚を付けることもポイントのひとつです。
棒読みのように平坦に話すのではなく、ひとつの発話の中で山なりのカーブを描くように抑揚をつけることが大切です。

プレゼンのコツ:高低アクセントを意識する

また、プレゼン全体を通しての抑揚を意識できると、さらに説得力が高まります。プレゼンの中で最も伝えたい部分、歌で言うとサビにあたる部分が一番盛り上がるように、声の抑揚を意識すると効果的です。

印象をよくするポイント③:母音をはっきり発音する

樋田:
日本語は、母音と呼ばれる「あいうえお」の音がはっきりしていると聞き取りやすくなります。

例えば、「おはようございます」と発音する時は、最初の「お」をきちんと発音することがポイントです。母音がはっきりせず、「はようございます」と聞こえる話し方だと、やる気のないような印象を与えてしまうため注意が必要です。

プレゼンのコツ:母音をはっきり発音する

母音の発音は、口の形を意識すると明確になります。「あ」は指を三本縦に置いて口を開く、「い」は口角を上げる、「う」は口をすぼめるなど、顔の周りの表情筋を正しく使うことが発音のコツです。

これらのポイントは、一回の研修では改善されても、その後練習せずに時間が経つと元に戻ってしまいます。より良い話し方を身につけるためには、日頃の習慣として声の出し方を意識して、「注意すればできる状態」から「意識せずにできる状態」にすることが大切です。

興味をもってもらえる話し方のコツ

ferret:
正しい発声や発音を身につけた上で、相手に興味をもってもらうためには、どのようなポイントがあるのでしょうか。

冒頭15秒の第一印象で最後まで聞いてもらえるかが決まる

樋田:
プレゼンの中で、最初の挨拶と、最後の挨拶は特に印象に残りやすいポイントです。聞き手に与える第一印象は、最初の15秒で決まります。第一印象で嫌われてしまうと、プレゼンの内容がうまく伝わりません。

心理学の研究から提唱されている「メラビアンの法則」によると、コミュニケーションで相手に影響を与える要素の比率は、表情やアイコンタクトなどの視覚情報が55%、話す速さや声のトーンなどの聴覚情報が38%、話している内容などの言語情報はわずか7%です。そのため、良い第一印象を与えたい場合、見た目や話し方に注意する必要があります。

メラビアンの法則

どのようなプレゼンでも第一印象を良くするために、30秒バージョンと1分バージョンの自己紹介を用意し、練習しておくことがおすすめです。

「現在、過去、未来」の要素を含めて構成を作る

樋田:
効果的なプレゼンの構成は、内容や相手によって異なるものの、基本的な型として「現在・過去・未来」という流れを入れると伝わりやすくなります。

例えば、現在取り組んでいることについてプレゼンをする場合、現在のことだけを話すと会社概要のような説明になりがちで、印象に残りません。人となりも見えず、誰が話しても同じような内容になってしまいます。

「現在こんなことをしています」という内容の後に、「これを始めたきっかけは~」などの過去の話に触れ、さらに「今後はこうなっていきたいです」といった未来の話を入れると、聞き手にとって分かりやすいストーリーとして印象に残すことが可能です。

結論から手短に伝える

樋田:
プレゼンの場面だけでなく、社内で忙しい上司に話す時間を取ってもらいたい時などにも、話し方が大切です。

自分の話をなかなか聞いてもらえない場合、日頃の関係性の中で「話が長い」と思われて敬遠されている可能性があります。そのような状況を解決するには、結論から話すようにすることが重要です。

例えば、「2つの案があって、どちらがいいか選んで頂きたいのですが、お時間ありますか?」などと切り出すと、要件が明確に伝わります。一方、「相談したいことがありまして、」などの話しかけ方では、相手にとってどの程度時間がとられる要件かが分かりません。聞く気を持ってもらえるように、結論から手短に伝えることを心がけましょう。

相手に応じて適切な間を取る

樋田:
どの程度の間をとって話すのが良いかは、相手によって変わります。相手が忙しい人の場合は短めの間で話す、相手が新入社員ならしっかり間をとり、相手が理解できているかどうか反応を見ながら話すなど、状況を見て間を調整することが大切です。

プレゼンでも、自分が用意した原稿をただ読むだけでなく、場の状況に応じてしっかり間を取るようにすると説得力が高まります。オフラインのセミナーなど、相手が反応できるような状況であれば、何か問いかけて挙手してもらうなどの巻き込みをするとより効果的です。

プレゼン時の緊張を和らげるための方法

ferret:
プレゼンの本番で緊張してしまう方も多いと思います。どのような対策があるでしょうか。

本番を想定したイメージトレーニングを行う

樋田:
本番で緊張してしまう原因として、普段練習している時と違った環境になりしゃべれなくなってしまうことが挙げられます。そのため、普段から本番の状況を想定したイメージトレーニングをしておくことが、緊張を和らげるためのポイントです。

例えば、30人の参加者の前で話している状況や、無表情な人が目の前にいる状況など、本番をイメージしてプレゼンの練習を繰り返しましょう。

褒めてもらって自信をつける

樋田:
本来は話せる力があるのにもかかわらず、話すことが苦手だと自分自身で思い込んでいるケースもよくあります。そのような思い込みを取り除くためには、成功体験を積むことが効果的です。他の人にプレゼンを聞いてもらい、良かった部分を褒めてもらうようにすると自信が付き、緊張が和らぎます。

また、自分の声のトーンにコンプレックスがある場合でも、発声練習を積み重ねると変えることが可能です。あまり知られていませんが、見た目の印象を髪型で変えられるように、声のトーンもプロによる指導と適切な訓練で変えることができます。

ただし、声の高低をどう変えるのが良いかは、その人自身の理想像次第です。声の高さや抑揚、間を含めて、総合的に説得力のある話し方を身につけていくことをおすすめします。

聞き手のことを考えて伝わるプレゼンを準備しましょう

ferret:
最後に、プレゼンの機会が多い営業担当者やマーケティング担当者の方へ、メッセージがあればお願いします。

樋田:
「プレゼンテーションが苦手」という意識こそが、行動を妨げてしまっている要因です。伝えたい相手のことを思って、事前の準備をすれば、プレゼンはうまくいきます。「自分が話したいこと」ではなく、「聞き手が聞きたいと思っていること」を考えて原稿を書き、プレゼンの準備をしてみてください。

株式会社トークナビ代表取締役でアナウンサーの樋田かおり氏