日本の人口の2人に1人が50歳以上となりつつある今、100兆円を超える規模ともいわれるシニアマーケットが注目されています。2024年には70代のスマートフォン所有率が80%を超えたという調査結果も。デジタル接触機会が多く、健康志向が高く活動的な令和シニア」と呼ばれる彼らのインサイトを捉えることはマーケターにとって必須といえるでしょう。

そこで、「令和シニア」に向けたデジタルマーケティングを研究する専門組織「令和シニア研究所」リーダー 吉川さん(株式会社Hakuhodo DY ONE)、「新しい大人文化研究所」所長 安並まりやさん(株式会社博報堂)のおふたりに、今後のマーケティング活動において重視すべきポイント、「令和シニアのインサイトについてわかりやすく教えていただきました。

「令和シニア研究所」 吉川さん、「新しい大人文化研究所」 安並まりやさん

注目のターゲット「令和シニア」とは

ferret:
吉川さんがリーダーを務める「令和シニア研究所」(2024年5月設立)と安並さんが所長を務める「新しい大人文化研究所」(2011年設立)はともに博報堂DYグループですが、両プロジェクトの接点、関係性について教えてください。

安並:
博報堂は2000年に広告会社として初めて高齢社会を考え実行する「エルダービジネス推進室」を創設しました。これを母体にして、2011年に「新しい大人文化研究所」を設立しました。

博報堂はフィロソフィーに「生活者発想」を掲げています。シニアを単なる消費者として捉えるのではなく、変化の激しい社会の中で主体性を持って生きる「生活者」として捉えているのです。

シニアを「生活者」として分析しながらその知見をマーケティングやコミュニケーション等のクライアントワークに活かすといった、研究とプラニングの両輪を回していく活動をしています。

また、博報堂には「シニアビジネスフォース」というシニアビジネスを開発・実施するワンストップ専門部隊がありまして、吉川さんとはその定例会を通して情報等共有をしたり、ディスカッションをしていました。

「新しい大人文化研究所」(株式会社博報堂)所長 安並まりやさん

プロフィール

安並 まりや 氏
株式会社博報堂 新しい大人文化研究所 所長
2004年博報堂入社。ストラテジックプラナーとしてトイレタリー、食品、自動車、住宅、人材サービス等様々なマーケティング・コミュニケーション業務に携わる。2015年より新大人研の研究員として、シニアをターゲットとしたプラニングや消費行動の研究にも従事。共著『イケてる大人 イケてない大人―シニア市場から「新大人市場」へ―』(光文社新書)。

吉川:
シニアビジネスフォースで最新のシニアビジネスについてより詳しく学びたいと思い、半年ほど参加しました。

シニアの方は同じ年齢でも人によって環境が異なります。たとえば65歳の方が複数いるとしましょう。1人ひとりの経済状況も違いますし、住んでいるエリアもさまざまです。働いてるかどうか、お子さんが独立されているかどうかなども多様です。

安並:
令和シニアは人生を重ねるごとに多様化する因子が増えていきます。

吉川:
個々にいろんな事情があって、同じ年齢というだけで特徴づけるのは難しく、N=1(一人の顧客のデータ)マーケティングで見ていく必要があります

ferret:
グループのシナジーが生きそうですね。「令和シニア研究所」を立ち上げたきっかけはどんなことだったのでしょう。

吉川:
シニアマーケットに対して“デジタルの観点”を加えることでさらに発展するのではないかと感じ、新しい特徴を併せ持ったシニア層に向けたデジタルマーケティングを研究する専門組織「令和シニア研究所」を2024年5月に立ち上げました。

きっかけは新型コロナウイルスの流行によって、シニア層の間でスマートフォンの普及が急速に進んだことが大きいですね。たった一つのスマートフォンからインターネットやSNSへ接続する中で、60代以上の検索行動、またはSNSで見られるアクチュアルデータ、Googleアナリティクスなど、シニア層の行動傾向の大きな変化が見られました。

「令和シニア研究所」(株式会社Hakuhodo DY ONE)リーダー 吉川さん

プロフィール

吉川 真紀子 氏
株式会社Hakuhodo DY ONE 令和シニア研究所リーダー
運用型広告のデザイナー・ディレクターを経て、2014年からHakuhodo DY ONE(旧アイレップ)でクリエイティブディレクションに従事。 10年以上の運用型広告の経験を活かしHakuhodo DY ONEの獲得系運用型広告の第一人者として、プロトタイピング型テレビCM開発のアップデートに関わる。 獲得型CMと認知型CMのプランニングの違いや、データがクリエイティブにどこまで立ち入るべきかデータから何を抽出するべきかを見極めるティッピング・ポイントを見極め、確実に成果につなげる、科学するテレビCM・動画・静止画広告を創出できることが強み。

従来のシニア層へのマーケティング活動は基本的にはオフラインで、セグメントを行わないマスマーケティング的な側面が強かったのですが、2024年1月の調査では70代へのスマートフォン所有率が8割を突破した……というケースもありました。

ferret:
「令和シニア研究所」のネーミングともなった「令和シニアについて大きな特徴をご説明いただけますでしょうか。

吉川:
基本的にはインターネット等々にしっかり接触している方々、インターネットを活用されているシニアと定義させていただいてます。

安並:
デジタルに慣れ親しんだシニアのボリュームゾーンは前期高齢者(65歳以上75歳未満の高齢者)ですね。まだまだ主導的にものを選んだりものを買ったりする年代ですし、近年データとしても見え始めてきた世代でもあります。

「令和シニア」とは

吉川:
2000年に入ってインターネットが急速に普及しましたが、その頃40代だった方々が今のシニア層なんですよ。アナログも知っていながらデジタルを仕事のツールとして使い始めた世代ですね。