「強いチーム」と聞くと、どのようなあり方を想像するでしょうか。

リーダーシップという言葉が普及した今、強い決断力のある人物がたくさんの人をまとめているチームはイメージがしやすいと思います。

しかし、強いリーダーの存在だけでは強いチームをつくることはできません。

ここでは、メンバーがリーダーを自主的に支え、チームに貢献するというフォロワーシップのあるチームについて、2010年ワールドカップの日本代表を例に紹介していきます。

厳しい環境でも成果を出した日本代表

2010年に開催されたサッカーの南アフリカワールドカップで日本代表チームは、直前の低調な戦いぶりを批判してきたメディアを黙らせるような目覚ましい大躍進を見せました。

カメルーン、オランダ、デンマークとのグループリーグを2勝1敗の2位で通過し、決勝トーナメントにおけるパラグアイとの1回戦では、PK戦にもつれ込む激闘の末に敗れはしたものの、史上初のベスト8進出に最も近づきました。

スポーツに「たられば」はありませんが、もしもあのPK戦に勝っていたら、岡田監督の公言していたベスト4進出まであと1勝というところまできていたわけです。

その後、当然のように岡田監督のチームづくりは注目を浴びます。
いかに選手をまとめていくかに注目が集まりますが、同時にスタッフのチームワークづくりも欠かせません。

初戦が重要、と言われるワールドカップ、初戦のカメルーン戦の勝利は様々な要因が考えられますが、その1つとしてスタッフのチームワークによって手繰り寄せられた側面もあったのです。

リーダーを支えるフォロワーシップ

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皆さんは、フォロワーシップという言葉を耳にしたことはありますか。

リーダーシップはよくご存じだと思いますが、フォロワーシップは耳馴染みがないかも知れません。

フォロワーとはリーダーを補佐する部下やメンバーのことを指し、フォロワーシップとはメンバーがチームへ貢献するために自主的に考え、リーダーに協力する姿勢のことをいいます。

カーネギーメロン大学のロバート・ケリー教授は、組織成果のうちリーダーの影響力が及ぶ範囲は1~2割程度で、残りの8~9割はフォロワーの力に左右されると述べた上で、フォロワーシップの構成要素は「貢献力」と「提案力」であると言っています。

私たち日本人の場合、強いカリスマ性を持った1人のリーダーを待望し、そのリーダーに対してフォロワーがサポートにまわる構図、つまり「貢献力」の高さに特徴があるのではないかと思います。

しかし、「これではうまくいかないのではないか」「こんな情報もある」「もっとこうしたほうがいい」といった批判力、提案力も兼ね備えていなければならないということを示しています。

リーダーとフォロワーの勇気と覚悟

さて、話は戻って2010年ワールドカップのサッカー日本代表には、杉田正明氏(当時三重大学、現日本体育大学)というスタッフがいました。陸上競技で高地トレーニングを研究している先生です。

初戦のカメルーン戦が行われる会場のブルームフォンテーンは標高が高いため、高地順化の専門家として招へいされました。

その杉田先生は、大事な大事な初戦カメルーン戦3日前を「休養日」にするよう監督に提案したのでした。

毎日の血液や尿の採取、コンディションチェックのアンケートなど参考に、選手の疲労回復を考え根拠に基づいて提案したのです。

私が、当時のことを岡田監督に尋ねると、

『私が「休んだら必ずコンディションが上向くのだな?」と聞いたら「必ず良くなります」と断言したから提案を受け入れた。もしも「たぶん」とか「通常は」などと言われたら休む勇気はなかった

と、当時の心境を教えてくださいました。

また、杉田先生にも尋ねると「サッカー界で試合直前に休むのは異例のことだったようだが、監督が大きな決断をしてくださった」と当時を振り返っています。

勝利という共通の目標を持ったスタッフ陣が、1つのチーム(リーダーとフォロワー)として機能したエピソードです。

スタッフにもチームワークが必要で、そこが弱いと選手たちに影響を及ぼすことは明らかでしょう。

しっかりとした根拠をもって専門家として提案した杉田先生の勇気と覚悟、それにしっかりと耳を傾け、自らが選んだスタッフを信頼し、直前の休養を決断した岡田監督の勇気と覚悟、立場は違えどそれぞれに「勇気と覚悟」が必要だったのです。

選手を支えたスタッフたちの貢献がもたらした勝利

スタッフのチームのことを”Team behind the team”などと呼ぶことがあります。

主役となる選手たちの背後にあるチームという意味です。
主役のチームが躍動するうえで、背後のスタッフチームが機能していたことがわかります。

いい準備ができている自信があったにも関わらず、初戦前夜は「もしも試合中に選手たちの足が止まってしまったらどうしよう・・・」と不安がよぎり、杉田先生は眠れなかったそうです。

しかし、高地に順応した選手たちは最後まで足が止まらず「走るサッカー」を体現し、見事カメルーンを1-0で撃破しました。

初戦が大事と言われるワールドカップで大きなアドバンテージを得た日本代表は、史上初の自国開催以外でのベスト16進出を果たしたのでした。

カメルーン戦後の選手からは、「高地とは思えなかった」「全然きつくなかった」という言葉も出てきたそうです。

初戦の重要性は誰もが認識しているなかで、あまり知られていない話があります。

南アフリカワールドカップで監督やコーチたちの頭を最も悩ませたのは、2戦目(オランダ戦、0-1)が平地、勝負のかかった3戦目(デンマーク戦、3-1)が再び高地という日程でした。

2戦目に平地を挟んだ状況で、いかに高地順化した状態を維持するかが大きなテーマだったのです。それも杉田先生をはじめとしたスタッフの周到な準備によって、見事な勝利につながったのです。