企業が活動を行ううえで必要不可欠な基幹システムと、それ以外の業務システムを統合したシステムのことを「ERP」といいます。

ERPには、大きく分けて「クラウド型」と「オンプレミス型」の2種類が存在します。それぞれの意味はなんとなく理解できていても、実際に導入した際のメリットやデメリットまで深く把握できている方は少ないかもしれません。

そこでこの記事では、クラウドERPとオンプレミスERPの違いに加え、導入のメリット・デメリットを詳しくまとめました。ERPにはさまざまな種類が存在するので、比較検討の際にきっと役立つでしょう。

目次

  1. クラウドERPとは?
    1. クラウドERPの種類
  2. ERPでできること
  3. クラウドERPのメリット
    1. 導入コストが低い
    2. 迅速に導入できる
    3. グローバルな対応が可能
    4. 時間や場所を選ばず操作できる
    5. バージョンアップが容易にできる
    6. 子会社との連携が容易にできる
    7. スピーディーな経営戦略に役立つ
    8. セキュリティ面が強力
  4. クラウドERPのデメリット
    1. システムレベルが各ベンダーのサービスに左右される
    2. オフライン環境では作業ができない
    3. カスタマイズが難しい
    4. ランニングコストが高くつく場合もある
  5. まとめ

クラウドERPとは?

クラウドERPとは、簡単にいうと、ERPに搭載された機能をクラウド環境で使えるようにしたものです。また、業界最大規模のICTアドバイザリ企業であるガートナー ジャパンでは、オフプレミス(構外)で稼働し、月額課金制や従量制課金での利用形態で提供されているものをクラウドERPと定義しています。

一方、オンプレミス型とは、自社でサーバーを用意し、ソフトウェアをインストールして利用する形態のことです。

ERPが登場したのは、1990年代。当時は通信インフラが未発達だったことから、オンプレミス型のERPが主流でした。しかし、テクノロジーの進化とともにインフラ環境が整ってくると、クラウド環境で提供されるクラウドERPが増加。現在では「オンプレミス型は時代遅れ」と言われることもあるほど、クラウドERPの普及が勢いを増しています。

参考:
オンプレミスERPを使い続ける会社が負ける日 - 日経ビジネスオンラインSpecial

オンプレミス型はクラウドERPと違って仕様が自動的にアップデートされず、自社でバージョンアップを行わない限り、古いままのシステムを使い続けることになります。慣れ親しんだシステムを使い続けるため、操作に悩むことはない一方で、時代の進化に付いていけず、結果的に不便さを抱えることになってしまいます。

また、オンプレミス型の場合、導入までに1年以上の期間を要することも多く、高額な初期費用もかかります。こういった理由から、オンプレミス型からクラウドERPに乗り換える企業が徐々に増えているのが現状です。

2016年5月、ガートナー ジャパンが日本全国の従業員数20人以上のITユーザー企業約2,800社を対象に行った調査では、「オンプレミス型との併用も含めると、5年後・10年後にはクラウドERPを導入する企業の割合が急激に増加する」との結果が出ています。

参考:
「10年後はクラウドERPに置き換える」3割--ガートナー調査 - ZDNet Japan

クラウドERPの種類

一般的にクラウドERPは、以下の3つの種類に分けられます。

【プライベートクラウドERP】
既存のオンプレミス型のERPを、Amazon AWSなどのデータセンターなどに実装して使用する方法。データセンター内に自社専用のスペースを保有する形態になります。

【パブリッククラウドERP】
ERPを提供する各ベンダーのデータセンター上で構築されたERPを利用する方法。一つのサーバーをIDやパスワードによって振り分け、複数の企業で使い分ける形態になります。

【ハイブリッドクラウドERP】
従来、オンプレミス型で提供されていたERPの機能をクラウド環境で使用できるようにしたアプリケーション。オンプレミス型とクラウドERPの連携も可能で、さらには、プライベートクラウドとパブリッククラウドを組み合わせる形態もあります。

どのクラウドタイプを使用するかは、企業の規模やどんなシステム環境を構築したいかによって決めると良いでしょう。

ERPでできること

ERPに備わる機能としては、主に以下のようなものが挙げられます。

・生産管理
自社商品の生産計画や原材料の調達管理、在庫の管理などが含まれます。
・販売管理
商品やサービスの受注、売上、出荷、請求を管理する機能等が含まれます。
・品質管理
品質保証など、商品等の品質に関する機能です。
・資産管理
自社で保有するシステムや機械など、資産となるものを管理する機能です。固定資産だけでなく、リース契約の資産に対応するERPもあります。
・プロジェクト管理
プロジェクトの進捗、コスト、収支等を管理する機能です。実行予算の立案や作業担当者アサイン、収支予測等、幅広く対応しているERPもあります。
・人事管理
社員の所属部署、各々が持っているスキルや経験、給与といった人事関連の情報を管理する機能です。
・債権/債務管理
請求、回収、支払い等の債権/債務に関する機能です。
・原価管理
原価計算や原価差異分析、予算管理等の原価にまつわる機能です。
・顧客管理
顧客の住所、氏名、電話番号、購入履歴といった情報を管理する機能です。
・ワークフロー
経費関連の申請・承認、人事・総務関係の申請・承認、社内稟議の申請・承認等を行うワークフローを提供する機能です。
・マーケティングツール
各種SNSとの連携など、デジタルマーケティングの機能が中心です。
・BI(データ分析ツール)
データベースに溜まったデータをグラフ化したり、必要なデータのみを収集したり、任意の項目で分析を行ったりする機能です。

その他にも、独自の機能を備えたERPもあります。また、ほとんどのERPで、必要に応じてこれらの機能をカスタマイズできます。

クラウドERPのメリット

一般的なクラウドERPのメリットを紹介します。

導入コストが低い

オンプレミス型はハードウェア、ソフトウェアといったインフラ整備のための初期投資として、多額の資金が必要になります。一方で、インターネット経由で利用するクラウド型は、その分大幅にコストが削減できます。

初期投資が無料かつ、使用した分の支払いのみという月額課金制のクラウドERPもあるので、小規模・中規模の企業にとっては大きなメリットといえるでしょう。

迅速に導入できる

従来のオンプレミス型では、サーバーの設置からソフトのインストール、各種設定と、導入までに1年を超えるほどの長期間を要していました。

一方、クラウド型は煩雑な作業がほとんどなく、オンプレミス型に比べて大幅に導入期間を短縮できます。スピーディーなビジネス展開が必要になる現代には、理にかなったシステムといえます。

グローバルな対応が可能

各国の言語や通貨、商習慣に対応しているERPも多くあり、海外に支店を持つグローバルな企業でも問題なく利用できます。将来的に海外展開を予定している企業にもおすすめです。中には、現地の税務報告書にまで対応している有能なERPもあります。

どの国に対応しているかは、ERPによって異なるため、事前に確認しておきましょう。

時間や場所を選ばず操作できる

インターネットを経由して使用するクラウドERPは、インターネット環境さえあれば、時間や場所を選ばずシステムにアクセスできます。パソコンだけでなく、スマートフォンなどのマルチデバイスに対応するシステムも増えています。

リモートワークや隙間時間の活用が可能になり、より柔軟に、よりスピーディーにビジネスを進められます。

バージョンアップが容易にできる

オンプレミス型ではソフトウェアのバージョンアップやデータのバックアップを自社で行う必要があり、多くの労力や費用がかかってしまうことから、やむなく同じシステムを長く使い続けることも少なくありませんでした。

一方、クラウド型はバージョンアップやバックアップの作業をベンダーが負担してくれるため、利用者側が労力や費用を負担することなく、常に最新のバージョンを利用できます。

子会社との連携が容易にできる

従来のオンプレミス型の場合、「本社には大規模なERPが最適だが、子会社には不向き」といったケースも多々見られました。その点、クラウド型は低コストで導入でき、必要な機能だけを選ぶこともできるため、子会社との連携も容易にできます。

子会社との連携ができることで、子会社の社員が売上を集計し本社に報告するなどの日々の業務負担も軽減され、作業の効率化が図れます。

スピーディーな経営戦略に役立つ

データを一元管理できるクラウドERPでは、データベースの情報がリアルタイムで更新されます。そのため、常に最新の情報をダッシュボードやレポート等によって可視化することができ、スピーディーに経営戦略を立てるのに役立ちます。

セキュリティ面が強力

クラウドERPのインフラは、提供されるベンダーのデータセンターなどにあり、それらは最新のセキュリティ対策によって守られています。各ベンダーは多くのセキュリティ認証を取得しているため、安全にシステムを利用できます。

ただし、クラウド型はインターネットを介して利用するため、情報漏洩のリスクが100%ないとは言い切れません。ERPを選ぶ際は、機能やコストだけでなく、セキュリティ面も慎重にチェックするようにしましょう。

クラウドERPのデメリット

基本的にメリットが多く挙げられるクラウドERPですが、いくつかのデメリットも存在します。

自社の規模や業種によっては不向きである場合もありますので、あわせてデメリットもチェックしてみてください。

システムレベルが各ベンダーのサービスに左右される

システムの稼働は各ベンダーが行っているため、たとえば停電や自然災害などのトラブルがあって使用できなくなった際などの対応は、各ベンダーに委ねられます。ベンダーのサービスの質が高ければ迅速に対応してくれるはずなので、事前にサービスの程度や範囲に関する情報を確認しておくと良いでしょう。

オフライン環境では作業ができない

クラウドERPを導入する場合、自社のインターネット環境を十分に整えておく必要があります。例えば、通信障害などが起こってしまうとシステムにアクセスできなくなり、そのたびに作業がストップしてしまいます。そのため、事前に通信障害が起こった場合を想定して予備のインフラを用意しておくなど、対策を講じておく必要があります。

カスタマイズが難しい

クラウド型の場合は、基本的にベンダーが提供している機能の中から、必要なものを選んで使用することになります。そのため、自社の業務にぴったりと合ったカスタマイズをすることが、難しくなる傾向があります。とはいえ、柔軟なカスタマイズに応じてくれるERPもありますので、事前にどういったカスタマイズが可能なのかを確認しておきましょう。

ランニングコストが高くつく場合もある

データのバックアップ費用やバージョンアップ時の対応など、ランニングコスト自体はオンプレミス型でもかかりますが、クラウド型の場合は、企業の規模が大きくなるほど、ランニングコストが上がります。

小規模な企業であれば、トータル的にクラウド型のほうがコストを抑えられることが多いのですが、大規模な企業の場合はかえってコストが高くつく場合もあるのです。今後の運用期間も踏まえたうえで、どちらがコストダウンできるか比較しておきましょう。

まとめ

かつて日本で主流だったオンプレミス型は、長い導入期間・莫大な初期費用・手間のかかる保守等の理由から時代にそぐわなくなり、徐々にクラウドERPを提供するベンダーが増えてきています。

とはいえ、クラウドERPのメリットだけに目を向けていると、思わぬところに落とし穴が存在する可能性もあります。ERPを導入する際やベンダーの切り替えを検討する際には、自社で必要な機能や将来的なカスタマイズの可能性に加え、システム運用に割ける予算やリソース、各ベンダーの特徴やサービスの範囲など、あらゆる情報を洗い出したうえで、じっくりと比較検討しましょう。