日本におけるオンラインBtoBマーケティング元年と言われた2018年。今後もますますの発展が見込まれています。本連載はそんなBtoBマーケティング領域で活躍するマーケターのリアルな失敗談や成功談などに、『ferret』運営会社の株式会社ベーシック 代表取締役である秋山が迫ります。

記念すべき第1回目にお話を伺うのは、コンサルティング企業としてBtoBマーケティングの最前線を行く、株式会社才流の栗原氏です。前編では栗原氏のこれまでの経歴や失敗談などを語っていただきます。

プロフィール

栗原 康太

株式会社才流 代表取締役社長
東京大学文学部行動文化学科社会心理学専修課程卒業。 2011年にIT系上場企業に入社し、BtoBマーケティング支援事業を立ち上げ。事業部長、経営会議メンバーを歴任。2016年に「才能を流通させる」をミッションに掲げる、株式会社才流を設立し、代表取締役に就任。100社以上のBtoBマーケティングプロジェクトに携わる。

秋山 勝

株式会社ベーシック 代表取締役社長
高校卒業後、商社に入社。2001年、IT系上場企業に移り、Webマーケティング分野の新規事業企画などを手がける。2004年に「世の中の問題を解決する」をミッションに、株式会社ベーシックを創業。設立以降、50を超えるサービスを生み出し、10件以上のM&Aの実績を持つ。

自社のノウハウをコンテンツ化するなんて非常識!からスタートしたBtoBマーケティング

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株式会社才流 栗原康太氏

秋山:
僕自身は営業出身なので、以前は「BtoBの法人営業ってアウトバウンドしてなんぼ」って思っていました。でも世の中的には、「コンテンツマーケティングが重要だよね」って考えが、BtoCから始まってBtoBにも広まってきましたよね。栗原さんはどのあたりで潮目の変化を感じられていますか?

栗原氏:
僕の前職はガイアックスという会社なのですが、そこがBtoBマーケティングの歴史ではいい変遷を辿っていると思います。ガイアックスは1999年に創業した会社で、その頃僕はいなかったんですが、当時はアウトバウンドでの飛び込みとテレアポとトップ商談で契約を決めてきていたそうです。しかし、それだと業績が安定しないので上場後の2006〜2007年頃に、アウトバウンド型からインバウンド型にシフトしようという意思決定をして、2006年〜2008年ぐらいにかけてリスティング広告SEOWebサイトCVR改善などのデジタルマーケティング施策を行うようになりました。

おそらく世の中的にそのやり方をやっているBtoB企業は、当時あまりなかったと記憶しています。一部のBtoB企業が、リスティング広告SEOで、成果を出し始めたのがその頃でした。

そのような中、ガイアックスは『ソーシャルメディアラボ』というWebメディアを2010年に立ち上げました。BtoB企業のコンテンツマーケティングの走りだったのではないかと思います。*BtoBの会社が自らが得たノウハウを外に出してコンテンツ化していくということがそもそも前例になかったので、世の中の潮流がガラッと変わっていった印象があります。*その証拠に以後いろんなメディアが乱立していきました。

秋山:
古くでいうと海外SEO情報ブログとか、SEO Japanとかありましたよね。2003年くらいから一部のわずかなIT企業がやはり中心でしたが、ノウハウを出していたとは記憶しています。ただ、どちらかというと海外の最先端の情報をなるべく早く掴んで和訳してっていうのが非常に多かったですよね。国内で自らの社名やサービスを明らかにしながら自社のノウハウを明確にコンテンツ化していくのは、だいぶ後になってからでした。

栗原氏:
2008年とか2009年とかBtoBマーケティング支援の営業をしていても、毎回「うちはBtoBなんで」って言って断られていたので、インターネットでやれることがないと皆さん思っていたような気がします。

2010年頃からは『はてなブックマーク』『Twitter』『Facebook』などのソーシャル要素のあるサイトやプラットフォームが出てきて、取り組みが世の中に出やすくなりました。ただそれも個人のノウハウやつぶやきが多かったのでBtoB企業にコンテンツマーケティングの価値が認識されるのにはずいぶん時間がかかった印象があります。

オールド型営業が替わる!インターネットによって商談成立の成功事例が多数

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株式会社ベーシック 秋山勝

秋山:
企業の商談きっかけや意思決定の中にインターネットが役に立つっていう理解はなかなか得られないことが多いですよね。

栗原氏:
基本は営業で売ってなんぼみたいな……。その他は、テレアポ、郵送DM、ファックスDM等、どれも直接的な営業行為が中心。そんな印象でした。

秋山:
まさに営業行為を効率的にサービス化したのはベルフェイスさん。お問い合わせをいただいてからお互いの関係をより深めるというインサイドセールスのやり方がちょっとずつ広まってきたっていうのはあります。

栗原氏:
そうですね。このインサイドセールスとコンテンツマーケティングには密接な関係があると思っています。何らかの目的があってインターネットで検索した時に一定のノウハウが出てくる。例えば「SEOでもっと成果を出したいけれど、どうしたらいいのか?」と考えて、「SEO アップデート」等と検索した時に、詳しい解説があってそれが特定の会社が発信した情報だとわかる。この時に検討者は「あ、この会社なら大丈夫だ!」と考えてその会社に興味を持つ。この行動なくしてインサイドセールスって生まれないわけです。

*コンテンツをタッチポイントにしてサービスを理解してもらう。*この自然な購買きっかけを促す役割は非常に大きいと思いますし、事実、何かを検討する過程でまずはノウハウを検索したいというニーズは年々高まっていると思います。

秋山:
高まっていますね。購入者側もインターネットで何か検索すれば一定の情報が得られると学習し始めたのが大きいと思うんですよ。BtoCの方が圧倒的に早かったですけど、BtoBに関しても複数の企業が情報発信を熱心に行ったことによって購入者側の成功体験が増えたんですよね。

様々な商材でインターネットを介して商談が成功して、次のサービスを探してみようと思って調べてみたら、発信している企業が複数あるという状況が連鎖的に起きている気がします。

栗原氏:
連鎖的にとは正にこのコンテンツマーケティングの領域が「成長期」に突入したと言えると思います。企業がデジタル系のチャネルで案件が取れるということに気づくと、そこに予算を投下するのでまたインターネット上に情報が充実していく。そうするとユーザー側も情報があって判断基準になるので、インターネット上での情報収集・購買行動が増えていって、企業側としてはさらにデジタル系のチャネルから案件が取れるようになる。今では、CMもBtoB企業のものが増えてきました。ちょっと前まではこんなにBtoBマーケティングが盛り上がるなんて考えもしませんでした。

秋山:
少し前まで、タクシーに乗るとそれこそ薄毛治療薬、ダイエットとかコンプレックス商材の広告が多かった。でも今はタクシーの中で流れる広告BtoB系のサービスで溢れています。

栗原氏:
確かにそうですね。一社やり始めるとやってみようという会社がたくさん出てきて、連鎖的に投資していくため、市場ができていきますからね。

早さよりも戦略設計が重要!コストと労力を無駄にする悪いBtoBマーケティングとは

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秋山:
そうなってくると「自社もすぐに取り組まなくては!」と焦る企業も増えていると思います。けれども栗原さんは、「すぐ取り組むことよりも、ある程度戦略的に体系立てて進めることが重要だ」とおっしゃっているじゃないですか。それはなぜですか?

栗原氏:
僕は前職でマーケティング担当をやっていたんです。サイトを作ったり、リスティング広告を打ったり、セミナーや展示会をやったり、ブログを書いたり……。MAツールも導入して、BtoB企業としてリードを増やすミッションの元、一通りやれることは結構やりました。ただ当時は何やればいいか今振り返ればわかってなかったんですよね(笑)。どこにどれくらい投資するべきか、どれくらいのリターンを得られるか、どんな順番で施策を進めて良いのか……。戦略的な思考が欠如していました。

正確に言うと、どう戦略を構築していいかわからなかったんです。だから結構お金を無駄にしたんですよ。80万くらい使ってコンバージョン0件とか……。当たり前ですけど上司にすごい怒られましたね。一方で成功した施策もありました。当時は世の中に成功事例も少なかったから許されましたが、これだけマーケティングの領域のノウハウが確立されている昨今では、遠回りしてわずかな成功施策を見つけるために時間もお金も浪費する状態は非常に効率が悪いと言えます。だからこそ一定のセオリーに基づいて物事を進めていくことの重要性が身に沁みます。

また今の環境はマーケターにとってチャンスが広がっていると思うんです。BtoCも含めていうと、昔はテレビ・新聞・ラジオ・雑誌とかお客様とのタッチポイントが限定的だった。今だとこれがたくさんありますよね。PC、スマホ、Twitter、Facebook、各種アプリなどのデバイスやメディアが出てきています。工夫すれば以前よりも格段にコストを圧縮してタッチポイントを創出できます。

その一方で難易度も高まっている。当然ながらタッチポイントの選択肢が4つしかないときから比べると、戦略とか計画、つまり*「どの順番でどのメディアにどれくらいの予算と労力をかけるか」の取捨選択が重要*になります。これは2008年くらいのWebサイトの改善、SEOリスティング広告を打つくらいしかやれることがなかった頃から比べても格段に複雑化していますね。それだけ戦略の重要度が増しているわけです。

手法ドリブンに陥っていないか?マーケターに求められる本当のスキル

秋山:
スタートがご自身の原体験で、同じ道を歩んでいかれるであろうお客様が目の前にたくさんいらっしゃるんですね。ただ、お客様は新しいことをやりたがるっていうのも傾向としてあるじゃないですか?手法ドリブンになってしまうことについて栗原さんはどうお考えですか?

栗原氏:
マーケターがやることと、ツールとか手法が解決してくれることの2つがあると思います。例えば、MAツールでいうとシナリオの自動発動、メールの効果測定やスコアリングなどはツールがやってくれる。一方マーケターがやらなければいけないことも、まだまだ残っている。例えば、「どの顧客セグメントを対象にするかの分析と決定」「予算取りをする」「コンテンツを作成する」「社内・社外の関係者とやりとりする」とか。重要な意思決定から地味なことまで、マーケターの能力によってプロジェクトを左右する領域がたくさんあるんです。

ツールが全てをやってくれるという感覚ではダメで、ツールによって楽になった分、どのようなメッセージをどんなお客様に打つのか、タッチポイントとして、セミナーが良いのか展示会が良いのかなど、本来マーケターがやるべきことに時間を使うことが重要です。

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秋山:
セオリーを学ぶことでツールを選ぶことがうまくなるのかと思ったのですが、今の話を聞いているとツール選びってそんなに重要じゃないんでしょうか?

栗原氏:
はい、僕自身の考えでは「一定の機能さえ実現してくれていればツールはどれでもいいのでは?」というのが本音です。

秋山:
究極のところそうなりますよね。
営業でも正に同じです。例えば会社の看板・提案書がしっかりしていることでセールス上のパフォーマンスが出るかっていうとそうではない。当たり前だけど、お伺いする先のお客様がどういう状況で、何を解決したいのかコミュニケーションを介して理解していって、ベストプラクティスとして何かを提供できて初めて「お互い進もう!」となる。

ただマーケティングの難しいところは、その「相手」がマーケティングしている時はバーチャルだということ。そこにいるようでいないから、物に頼りたくなっちゃう。

栗原氏:
そうなんです!現実逃避の一つの要素としてツールがあると思いますね(笑)

秋山:
使いたくなるっていうミーハーな気持ちも共感できますけど、自分の経験の中でもそれをやってる間は結果はでません。当たり前だけど、もっとシナリオ練ろうよ、場合によってはお客さんやターゲットと思われる人に会いに行こうよ、と思います。百聞は一見に如かずなので、その方がリアリティあるものが作れますよね。

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栗原氏:
ツール重視になりがちな人の会社の傾向としてどういう状況が起きるかというと、LPやWebサイトが全然イケてない。なぜかというと「マーケターがやるべきこと」をやれていないんですよ。ターゲットが絞られていない状態でツールなどをどんどん入れると訳がわからないメッセージやLP、広告になります。営業資料もお客様の課題から発せられていない。「うちの会社はこれができます」というメッセージばかりです。

ただ、「ターゲットを決めましょう」と言っても、皆あんまやらないんで(笑)。解決策としては、「良いLPを作りましょう」「良い営業資料を作りましょう」「良いキーワードで出稿できるようにお客様先にインタビューしに行きましょう」というように、一つひとつわかりやすい成果物のために向かっていくことです。当たり前ですけど、各々が解決すると段々いろいろ良くなっていく。

これ、マーケターとしての正しい思考の習慣を身に付けるってことだと思うんです。自分が言いたいことより、相手が知りたいことをどう伝えるか。そのために試行錯誤をする癖をつけていくべきだと思いますね。

秋山:
まさにそうですね。BtoBってお互い組織同士で取引するわけじゃないですか。なので当然のことながら、決裁のプロセスも理解しなくてはいけない。例えば、「上長に自らの検討を報告して稟議を上げる」この構造は基本的にどの会社も同じだと思うんです。だから「上長説明に必要なものって果たしていったい何でしたっけ?」「担当者が稟議を上げにくい状況ってなんでしたっけ?」ということを整理していけば、自ずと重要コンテンツが決まるはずなんです。

栗原氏:
決まってきますよね。明らかに決まってきます!

秋山:
それがスムーズに整理されている状態っていうのは、結果的にはユーザーフレンドリーだと思うんですよね。担当者からしたらありがたい。

栗原氏:
話を広げれば、マーケターだからという話ではないと思うんですよね。一(いち)ビジネスパーソンとしてのスキルセットとして、営業は自分が言いたいことじゃなくて、相手が喋りたいことを聞いてあげるのが大事だと思うんですよね。営業の受注率とかテレアポの商談獲得率のデータとか見ると、自分がほとんど喋っている人って受注できないし、アポも取れない。けれども自分の喋っているパーセンテージが10%〜20%で相手が多く喋っていて、自分は話を聞いてる人はアポがとれやすい。これってマーケターだから、営業だからというのは関係なく、後者の方がビジネスパーソンとして基本的には成果が上がりやすい、という特性ですよね。

秋山:
もっと言うと人としてってことですよね。家庭円満の秘訣は奥さんの話を聞いてあげること的なそういうことだと思うんです(笑)。すぐ解決しにいかずに、ただ聞いてほしいだけだというのを受け入れるっていうのは、企業担当者も同じだと思うんですよ。

まとめ

前編では栗原さんがこれまで触れられてきたBtoBマーケティングの話や歴史、手法とツールについてお話をしていただきました。後編では、これからのマーケターに必要になるスキルやマインドなどを伺います。

株式会社才流 代表 栗原氏が見てきた「BtoBマーケティング」とは?【後編】