実店舗を持たない企業やスタートアップ企業でも、ブランドイメージをダイレクトに消費者に伝えられ、低予算から始められるD2Cビジネス。デジタルマーケティングとEC販売で完結できるため、商圏が従来の実店舗型ビジネスよりも広く、手数料や中間マージンを介さない分利益率の高い経営ができるなどメリットも大。スタートアップ企業のビジネスチャンスとしてだけでなく、投資先としても注目を集めています。

では、日本ではいったいどのようなD2Cビジネスが成功し、その共通点にはどんなものがあるのでしょうか?一緒に見ていきましょう。

D2Cビジネスとは?

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D2Cとは「Direct to Consumer」の略。商品企画・開発段階から販売まで消費者とダイレクトにつながるビジネススタイルのことを指します。SNSの普及により、消費者が気軽に企業・ブランドと繋がれるようになった今、D2Cビジネスは特にミレニアル世代にとって当たり前の存在になりつつあります。

D2Cビジネスの第一の特徴は、販売の中間マージンや手数料がかからない、オンライン販売にすれば家賃やイニシャル投資が最小限に抑えられるなど高い利益率を確保できる点。また、デジタルマーケティングを通じて、顧客のみならず、見込み客のデータ蓄積も可能です。ブランディングという観点からは、ブランドイメージや企業側のメッセージをダイレクトかつ明確に伝えられるという点が大きな特徴と言えるでしょう。

日本のD2Cビジネス事例

アメリカでも多数のスタートアップ企業が高額な資金調達を成功させているD2Cビジネス。日本ではいったいどのような戦略を選択した企業が成功へのステップを進めているのでしょうか?

まずは、業界ごとにD2Cビジネスを成功させた企業の事例を見てみましょう。

コスメ「PHOEBE BEAUTY UP」

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画像引用:DINETTE株式会社プレスリリース

2019年9月に「株式会社ポーラ・オルビスホールディングス」などの出資を取り付け、1.3億円の資金調達を実現したことでも話題になった「PHOEBE BEAUTY UP」。コスメ動画メディアを運営する「DINETTE」によるD2Cのコスメブランドです。

2ヶ月に1回、4,980円でまつ毛美容液が手元に届くサブスクリプションモデルからスタートした同ブランドは、インフルエンサーを積極的に活用。消費者が思わずInstagramなどSNSにアップ/シェアしたくなる可愛いパッケージにより、独自の世界観を醸成しています。

「PHOEBE BEAUTY UP」の一番の特徴は、マーケットインで商品を開発、これまでになかった低価格帯と高価格帯の間にあるまつ毛美容液をサブスクリプションで展開しているところ。メイクや美容のハウツー動画を配信していた「DINETTE」のメディアを通じ、これまでになかった分野・商品で成功を収めています。

参考:
プレスリリース「SNSで話題!コスメD2C「DINETTE」が累計1.3億円の資金調達を実施。プライベートブランド「PHOEBE BEAUTY UP」をD2C界ナンバー1のコスメブランドへ。」
メディア運営がD2C事業参入への鍵だった、コスメで世界を目指すDINETTE株式会社 尾崎社長に聞く

フード「SAKE100」(Clear Inc.)

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画像出典:日本酒ベンチャーの株式会社Clearが、"高価格オリジナル日本酒"を販売するEコマース「SAKE100」をリリース

フード業界でも、サブスクリプションでおやつを定期的に宅配する「snaq.me」などユニークなD2Cビジネスが次々と生まれています。その中でも、先ほど紹介したDINETTE社の「PHOEBE BEAUTY UP」のように、メディア事業から生まれたD2Cビジネスという点で注目したいのが「株式会社Clear」による「SAKE100」です。

「SAKE100」は、"100年誇れる1本を。"というテーマを掲げる高付加価値の日本酒ブランド。各地の酒造と共同開発した高価格で良質な日本酒を販売しています。

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画像出典:SAKETIMES」2020年5月の純PVが100万を突破、今後の日本酒専門WEBメディアとしての展開に関して

同ブランド一番の注目ポイントはメディア事業。「SAKE100」を運営する株式会社Clearのメディア「SAKETIMES」は、日本酒専門Webメディアとして2014年にスタート以来順調にPV数を伸ばし、2020年5月には月間100万PVにまでのぼるメディアとなっています。

D2Cビジネスの1つの特徴がデジタルマーケティングの駆使ですが、そう言った点ではメディア事業で培った発信力がうまく作用しているモデルと言えるかもしれません。

実際「SAKE100」で発売されている日本酒は高価格。1本16万円以上する日本酒もあります。また、『百光 2020 Formula』は予約者限定販売とするなど、商品のプレミア感の醸成をいかに作るのか、の手法にも着目したいところです。

日本酒販売単体で利益を上げるのではなく、日本酒のある暮らし・ライフスタイルの提案を物販・メディア事業など複合的なD2Cビジネスで展開している好事例です。実際同社では、YouTubeによる動画配信などメディアの分散化や、“「美味しい」の体験を提供するECの開設”なども今後行っていく方針を示しています。

アパレル「COHINA」(Clear Inc.)

アパレルは、D2Cビジネスの中でも特に勢いがある業界です。元AKB48の小嶋陽菜さんがプロデュースするブランド「Her lip to」では、人気商品ともなると発売開始1分で完売となるほど。吸引力のあるインフルエンサーや芸能人によるアパレルD2Cブランドは、ことさら成功しやすい分野かもしれません。

けれど、上記のようなインパクトと求心力のあるインフルエンサーがいない場合でも、十分D2Cビジネスのチャンスはあります

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画像引用:COHINA公式サイト

例えば、身長155cmの小柄女性をターゲットにした女性向けアパレルブランド「COHINA」もそのひとつ。“低身長で似合う服が見つけられない”という潜在的なニーズを掘り起こし、見込み客を小柄女性と明確に設定。Instagramを一つの、メディアとして活用しています。

中でも注目したいのがIGTVからの発信。着こなしのコツやコーディネートの提案、アイテムの履き比べなどを積極的に配信しています。2020年7月時点で、同ブランドの公式Instagramアカウントには14万人ものフォロワーがついています。

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画像引用:小柄女性向けブランド『COHINA』自粛モードでもつい買っちゃう!テレワークやおうち時間に大活躍な小柄さんジャストサイズのワンピース、パンツが登場

こうした環境を生かして、「COHINA」ではフォロワーとのコミュニケーションも活発に行っています。例えば商品開発時にはフォロワーからの意見を募集するなど、双方向型のコミュニケーションで顧客を獲得。新型コロナウイルス流行による外出自粛が続いた2020年春には、COHINA公式Instagram利用者2,000名を対象にアンケートを実施。その結果を受けて、外出自粛期間中でも着たくなるアイテムの提案などを行っています。このスピード感は、アパレル業界に限らず、どの分野でも真似したいD2Cビジネス成功のカギと言えそうです。

“低身長で似合う服が見つからない/わからない”という課題を解決する形で生まれた課題解決型D2Cモデルとなる「COHINA」。成功の秘訣としてコンセプトのユニークさばかりに注目してしまいがちですが、デジタルマーケティングを当たり前のように行っていることを忘れてはいけません。

参考:
日経XTREND 「小柄な女性向けアパレルD2C 商品1点から1年で月商5000万円に」
日経XTREND「1分で完売 元AKB48小嶋陽菜が作る「D2Cブランド」人気の秘密」
小柄女性向けブランド『COHINA』自粛モードでもつい買っちゃう!テレワークやおうち時間に大活躍な小柄さんジャストサイズのワンピース、パンツが登場

D2C成功企業の共通点とは

ここまで日本のD2Cビジネス事例を3つ見てきました。ここからは成功している事例からその共通点を探ってみましょう。マーケターや企画担当者は、いったいどんな点に気をつけながら、D2Cビジネスを考えれば良いのでしょうか?

独自の価値観・世界観

まず第一に言えるのが、独自の世界観や今までになかった価値観の提案を明確にできているか、というポイントです。D2Cビジネスの特徴の一つが、ブランドイメージやブランドの考えをダイレクトに消費者に伝えられるところ。この特徴を活かさないのはあまりにももったいないでしょう。

また、大手企業や中間業者を挟んでしまってはなかなかできなかった、新たな社会課題や問題にフォーカスした価値観・ライフスタイルの提案ができるのもD2Cビジネスの特徴です。“こんなサービス/商品があったらいいのに”、“こんなことに困っている”という消費者の気持ちをキャッチし、価値観として提案できるかどうか、企画段階から考えてみましょう。

コンテンツの充実

D2Cビジネス成功において、特にスタートアップ時には独自の価値観や世界観を提供するツールとしてSNSやオウンドメディアが中心となります。もちろんポップアップショップなどの展開も手法としてはありますが、これはデジタルマーケティングの環境が整ってこそ機能するもの。

そう言った意味では、いかに充実したコンテンツを訴求し、購買へとつなげられるかの導線設計がカギとなるでしょう。

SNSの活用

購買への導線設計に加えて、ユーザーとのつながりを維持するための窓口として、多くのブランドが活用しているのがSNSです。Instagramのショッピング機能「ShopNow」の活用は、SNSを見て「欲しい!」と思ったユーザーのパルス消費を促すのにも非常に有効。

SNSは今や商品のPRの場でもあり、ユーザーとのコミュニケーションの場でもあり、購買の窓口でもあり得るのです。こうした機能をいかに効率的に活用できるかどうかも、大きなポイントとなってくるでしょう。

まずは“何を売り出したいか”の整理から

日本でも見逃せない存在となっているD2Cブランドたち。これからD2Cビジネスを検討している方は、自分たちが何を売り出し、どう見せたいのかを整理してみましょう。

今回紹介した成功の共通点を意識して、ビジネスモデルを考えてみてください。

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