D2Cは2000年代後半より徐々に増えてきたビジネスモデルで、インターネットの普及やEC市場の拡大によって需要が急激に伸びています。こ

の記事では、D2Cとはどんな形の取引のことを意味するのか、メリット・デメリット成功事例などを紹介します。

目次

  1. D2C(DtoC/ディーツーシー)とは?
  2. D2Cのメリット
  3. D2Cのデメリット
  4. D2C成功のために押さえておきたい6つのポイント
  5. D2Cの成功事例
  6. D2Cにおける顧客ファーストの戦略を練ろう

D2C(DtoC/ディーツーシー)とは?

D2Cとは「Direct to Consumer」を省略したマーケティング用語です。企業対企業での取引を表すBtoB(Business to Business)や、企業対消費者を表すBtoC(Business to Consumer)と並列関係にある用語で、製造者が直接消費者と取引を行うビジネスを指します。

D2Cと従来の取引形態との違いは?

インターネットが発達する前までは、製造者が消費者と取引を行うには、チャネルとなる卸売業者を経由して商品を販売することが一般的でした。

しかしインターネットの普及によって、そこに「通販」という取引方法が追加され、通販サイト等を通じた取引が可能になりました。Amazonのようなプラットフォームを介さず、自社サイトでの集客・販売も可能となり、企業が消費者と直接取引を行えるようになったのです。

D2CとSPAの違いは?

SPAとは「Speciality store retailer of Private label Apparel」の略で、日本語に訳すと「製造直販」または「製造小売」という意味になります。

問屋や小売業者を通さず、製造者が直接消費者に自社製品を販売するビジネスモデルです。SPAの業態の企業としては、ユニクロや無印良品、JINSなどが有名です。

D2CとSPAの違い.png

● D2Cのメインチャネルは自社ECサイト

商品の企画から製造・販売までを担っているという点で、SPAとD2Cはよく似ています。両者が異なるのはメインの販売チャネルが実店舗であるかECサイトであるかという点です。

SPAでは実店舗での対面販売を基本としています。販売チャネルの一つとしてECサイトも持っていますが、補完的な位置づけです。

それとは逆に、D2CはECサイトでの販売をメインの販売チャネルとしています。D2Cの業態を取りつつ、実店舗やポップアップストアを展開しているブランドもありますが、その目的は売上や認知のアップよりも、顧客とのコミュニケーションである場合が多いです。

以下にD2CとSPAそれぞれの例を挙げてみましょう。

● 代表的なD2Cの例

アパレル:Ameri VINTAGE(アメリヴィンテージ)

代表的なD2Cの例_Ameri VINTAGE.jpeg

出典:Ameri VINTAGE

アイウェア:On My Glasses(オーマイグラス)

代表的なD2Cの例_On My Glass.jpeg

出典:On My Glasses

● 代表的なSPAの例

アパレル:UNIQLO(ユニクロ)

代表的なSPAの例_UNIQLO.jpeg

出典:UNIQLO

アイウェア:JINS(ジンズ)
代表的なSPAの例_JINS.jpeg

出典:JINS

D2CとSPAは同じように見えるかもしれません。D2CとSPAの違いについてさらに詳しく解説します。

● D2Cはブランドの世界観を重視

SPAは商品の開発から販売までを自社で行うことで、消費者のニーズやトレンドを捉えた商品を低価格でスピーディーに供給できるという強みがあります。効率的な販売と利益率の高い事業モデルが、SPAの特徴と言えるでしょう。

対してD2Cではスピーディーな供給や低価格よりも、自社の世界観やブランドイメージ、ストーリーの構築を重視しています。商品の製造・販売では流行やトレンドを追うのではなく、自社の一貫した世界観やブランドストーリーに基づいて商品やサービスを提供します。

これに共感した消費者が商品を購入してくれるため、価格競争や効率的な販売が難しい企業でもニッチな顧客層にアプローチすることができます。

D2Cのメリット

D2Cのメリットとして、主に以下の4つが挙げられます。

メリット❶ 手数料などの諸経費が発生しない

D2Cの大きなメリットとしてあげられるのが、中間マージンや手数料などの諸経費が発生しない点にあります。

例えば、Amazon(大口出品プラン)では、毎月4,900円の登録料に加えて、購入された商品の約8〜15%が販売手数料として発生します。また、楽天では初期出店料・月額出店料・システム利用料・クレジットカート決済手数料・アフィリエイト手数料などの手数料が発生します。

自社マーケットでの取引を行うD2Cであればそういった手数料は発生せず、かかるとしても決済システムの導入による手数料のみであるケースがほとんどです。

手数料を考慮する必要もないので、通販サイトでの販売価格よりも料金を下げることも可能になり、多くのユーザーに使用してもらえるチャンスが広がります。

メリット❷ 幅広いマーケティングやキャンペーンが実施可能

自社マーケット内の取引であれば、通販サイトにおける制約もないので、独自のマーケティングキャンペーンを実施できる点もメリットとして挙げられます。

インフルエンサーやアンバサダーを起用してのマーケティングでは、D2Cの環境を構築した上で実施されることが多く、幅広い施策が行えるようになります。

メリット❸ 顧客情報を収集・分析できる

D2Cでは卸売業者や小売業者を通さず、自社のECサイトを通じて直接消費者に商品を販売できるため、直接顧客のデータを収集・蓄積できます。

購入した商品の履歴はもちろん、自社サイトにアクセスした人の閲覧回数や滞在時間、離脱ページ、決済を完了した割合といった顧客の消費行動に関するデータ全てを取得できます。こうしたデータはECサイトの改善や売上向上施策に役立てられるでしょう。

メリット❹ 顧客と直接コミュニケーションを取れる

D2Cでは中間業者や大手ECプラットフォームではなく、自社ECサイトを運営しているため、顧客との距離が近くコミュニケーションを取りやすいこともメリットの一つです。

ECサイトでのアンケートやフォーム設置だけでなく、SNSを通じて顧客と直接やり取りをすれば、顧客のニーズや求められている商品をリアルタイムで把握することができ、それを商品開発にも活かせるでしょう。

D2Cのデメリット

対して、D2Cには以下のようなデメリットもあります。

デメリット❶ 構築にコスト・リソースが必要

先ほど中間マージンや手数料が発生するとして紹介したAmazonや楽天は、一見無駄な料金を支払っているようにも思えますが、D2Cの環境を構築するにはそれなりのコストが必要です。

D2C環境を自社で内製する場合も、制作会社に外注する場合も、サイトデザインや設計などでリソースも必要になりますので、コストに加えてリソースも確保しなければいけません。

D2C環境を構築するだけのコストとリソースが確保できない小さな企業にとっては、Amazonや楽天といった通販サイトに手数料を支払ってでも、使用する選択肢を取らざるを得ないシチュエーションが少なくありません。

デメリット❷ ブランド認知が必要

ひとつ目のデメリットで紹介した通り、D2Cの環境構築にはコストとリソースが必要になるため、そのコストとリソースを回収できるだけの売上が見込めなければ、なかなか踏み出すことは難しいと言えるでしょう。

D2Cの環境を構築後に認知拡大を行っていくのであれば、初期投資を回収する見込みが立てられないため、多くの場合でD2C環境の構築はブランドが一定以上の認知をされていることが条件になります。

デメリット❸ 新規顧客の開拓にコストがかかる

自社の商品を多くの人に認知してもらうにはどうしたらよいかということは、どのような企業にも共通の課題と言えるでしょう。たとえどんなに良い製品を持っていて、どんなに魅力的なキャンペーンを行っていても消費者に認知されていなければ意味がありません。

自社のECサイトをメインチャネルとして商品を販売するD2Cでは、認知度を高めるための高度な集客技術やマーケティングノウハウが必要です。

また、インターネットで検索した際にECサイトを上位表示させるためのSEO対策はもちろん、TwitterやInstagram、YouTubeといったSNSやオウンドメディアの運用も欠かせません。

すでに自社にマーケティングやメディア運用に長けた人材がいれば別ですが、そうでない場合はマーケティングを専門とする会社に施策を依頼する必要があります。

デメリット❹ 一定の売上を上げるまでに時間がかかる

D2Cは商品やブランドの世界観を構築することから始まり、認知を高めるマーケティングやSNS運用を行って自社製品のファンを育てるといったプロセスがあるため、売上という見える形で成果が出るまでにはどうしても時間がかかってしまいます。

顧客に製品のファンとなってもらいリピーターとして定着させるためには、中長期的な戦略も必要です。もともとのブランド認知度が乏しい会社や、事業を始めたばかりのスタートアップ・ベンチャー系企業は成果を上げるまでに時間がかかるということは事前に知っておいたほうが良いでしょう。

D2Cのマーケティングの中長期的な施策は以下の記事も参考にしていただけます。

関連記事:広告クリエイティブ改善で重要なことは? 専門家に聞くマーケティング改善案【D2C業界編】

D2C成功のために押さえておきたい6つのポイント

D2Cマーケティングを成功させるために押さえておきたい6つのポイントを紹介します。

1. D2Cに向いている製品を選ぶ

D2Cを成功させるためのポイントの一つとして、取り扱う製品がD2Cに適しているかどうかということを考えておく必要があります。

一概には言えませんが、もともとECサイトでよく売られている製品はオンラインでの販売形態に適しており、自社ECサイトでも扱いやすくD2Cに向いている製品であると言えるでしょう。

例えば、経済産業省の令和3年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)では、以下の分野の商品は取引市場規模が大きくオンライン上での取引が活発になっています。

物販系

  • 食品、飲料、酒類
  • 生活家電、AV機器、PC・周辺機器等
  • 書籍、映像・音楽ソフト

サービス系

  • 旅行サービス
  • 飲食サービス
  • チケット販売

2. コンテンツマーケティングを行う

自社サイトを立ち上げただけで勝手に顧客が集まり、商品が売れていくということはまずありません。D2Cでは商品の開発から広告・販売まで全てのプロセスを担うため、消費者に認知させ、自社製品のファンを作るための施策も自ら行う必要があります。

自社サイトを通じたブランディングだけでなく、自社の顧客層に求められる情報を掲載したオウンドメディアやメルマガ、認知を広げるためTwitter・Instagram・YouTube・LINEなどのSNSを利用した情報発信が効果的です。

自社製品の認知向上に役立つコンテンツマーケティングはD2Cに欠かせない施策です。

3. 製品や会社のストーリー・世界観を大事にする

D2Cでは他の企業にはない自社だけの独創的なストーリーや世界観でファンを増やしていきましょう。ただ商品そのものの機能を安く売る、早く売るというだけでは大手ECプラットフォームや他のECサイト、実店舗と差別化できず顧客が流れて行ってしまいます。

継続して商品を購入する顧客を定着させるためには、自社の世界観や歴史、ブランドストーリーを打ち出し、顧客へ製品の機能・価格以外の価値を提供していく必要があります。

4. SNSを活用する

自社サイトやオウンドメディアだけでなく、SNSでの情報発信もD2C成功には重要な施策です。Twitter・Instagramを通じて製品情報を提供したり、YouTubeのライブ配信をしたりして顧客へダイレクトにアプローチを行うことができます。

また、消費者が他の人にも共有したくなるような製品作りや広告メッセージを考えることもSNSを通じたマーケティングでは有効でしょう。

SNSを活用し直接顧客と双方向のコミュニケーションをとることで、広告宣伝効果だけでなくユーザーニーズの汲み取りや製品作りのヒントも得られます。

5. 支払い方法は複数用意しておく

自社ECサイトの決済手段はできるだけ多くの選択肢を用意しておきましょう。顧客の支払い方法のニーズはさまざまです。購買意欲が高まっているのに、決済手段が少ないせいで購入を諦めるといったケースが発生してしまうのはとても勿体ないことです。

特にニーズの高いクレジットカード決済は必須として、電子マネー決済・コンビニ決済・代金引換・銀行振込、できれば後払いやネットバンキング・キャリア決済にも対応できることが理想的です。

6. 商品発送はスピーディーに

全てのプロセスを自社で担うD2Cでは、もちろん商品発送も自社で行います。顧客は「欲しい」と思ったタイミングで商品を購入するため、なるべく早い商品発送・到着が期待されます。

事前に流通体制を整理しておき、できる限りスムーズな梱包・配送対応を行うよう心掛けましょう。購入した顧客に発送状況について都度メールなどで通知したりサイト上でチェックできる仕組みがあるとなお良いでしょう。

以下の記事ではD2C成功の秘訣やおすすめ資料を紹介しています。ぜひ参考にしてください。

関連記事:
D2Cビジネス成功の秘訣とは?事例やKPI設定、サブスクリプションモデルの成功要素を解説
D2C担当者向けのおすすめ資料まとめ!戦略や施策のポイントから成功事例まで

D2Cの成功事例

いずれも自社ECサイトでのD2Cを展開し、マーケティング施策やキャンペーンによって成功を収めた事例ですので、ぜひ参考にしてください。

BULK HOMME(バルクオム)

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出典:BULK HOMME

メンズ用化粧品で多くの支持を獲得している「BULK HOMME」は、D2Cの成功事例の代表と言っても過言ではありません。同社はSNSやSEOの分野でも幅広く展開しており、サッカーフランス代表のキリアン・エムバペ選手をグローバルアンバサダーに任命するなど、幅広いマーケティングを行っています。

SNSやSEOで自社のECサイトに集客し、初回限定の特別価格で商品の認知拡大、定期購入コースによる囲い込みと、D2Cの特性を最大限に活かした手法と言えるでしょう。

Allbirds(オールバーズ)

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出典:Allbirds

海外でのD2Cで有名な成功事例が、「Allbirds」。同社は、商品はもちろんのこと、その経営戦略も認められたこともあって調達資金は30億円を超えるほど、大きな注目を浴びているECサイトです。

天然のウール素材で軽量化されたスニーカーなどを販売しており、Instagram(インスタグラム)の広告運用によって多くのユーザーを獲得しています。

Allbirdsの商品発表時には、Instagramに商品のポストを投稿、そこに寄せられた顧客からの要望(コメント)を全て追いかけ、新規製品の発売時にはアップデートされた内容に仕上げられているケースも。

SNSと自社マーケットを連動させ、顧客の満足度を高めていく形を作り上げた事例です。

ROCKETS OF AWESOME(ロケッツ・オブ・オーサム)

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出典:ROCKETS OF AWESOME

サブスクリプション型のD2Cを成功させているのが「ROCKETS OF AWESOME」。好みの洋服の系統などを登録すると、子供の身長・体重や季節に合わせた洋服の全身コーディネートが年に4回、同社から直接送られてくるサービスです。

気に入らなかった商品は返送することができますので、洋服で悩むことなく新しい服を購入できるので、日々忙しい家庭を中心に人気を集めています。

ROCKETS OF AWESOMEは創業から半年で23億円の資金を調達したスタートアップ企業ですので、革新的なサービスを提供できれば一概にD2Cビジネスはブランド力が必要とは言えないことがわかります。

BASE FOOD(ベースフード)

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出典:BASE FOOD

BASE FOODは1食で1日に必要な栄養の1/3を取ることのできる完全栄養食のパンやパスタを販売している食品ブランドです。「主食だけで簡単に美味しく健康維持ができる」といったコンセプトが支持され、2023年4月現在で販売総数1億食を突破しています。

BASE FOODはTwitter広告に加えてInstagramでは顧客に向けアレンジレシピも紹介。購入後のライフスタイルや食生活を顧客がイメージしやすくしています。

また自社サイトの「商品開発ストーリー」でブランドストーリーを公開しているほか、「お客様の声」では、顧客とのコミュニケーションをマーケティングにも上手く活用しています。

土屋鞄製造所

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出典:土屋鞄製造所

土屋鞄製造所は1965年創業の老舗企業です。鞄をはじめとした革製品は全て職人の手作りで、上質な製品作りをポリシーとしています。実店舗は首都圏を中心に海外へも展開。ECサイトと実店舗を上手く組み合わせた製品展開を行っています。

自社ECサイトでは重厚なブランドヒストリーを掲載した「読み物」コンテンツや実店舗のイベント告知、また販売している製品の製造過程を紹介するYouTube動画など製品のファンを育てる仕掛けが随所に凝らされています。

また、アフターサポートとして自社製品の修理相談フォームも設置されています。販売後のフォローに至るまで自社で全て請け負う、革製品を扱う企業ならではのきめ細かい顧客対応を可能にしています。

D2Cの成功事例はこちらの記事でも紹介しています。

関連記事:D2Cブランドの成功事例16選!日本で成果を出すための施策も紹介

D2Cにおける顧客ファーストの戦略を練ろう

D2Cでは、企業と顧客の間に他の会社やサービスを挟まないため、従来のBtoCよりも幅広いマーケティングの展開が可能です。料金を抑えられることよりも、その幅広く便利なサービスがユーザーの満足度を高め、結果的に良いサービスとして継続利用にもつながります。

ただし、D2Cにおいても顧客ファーストで経営戦略を考えていくことが重要となるでしょう。