人気コミック雑誌「少年ジャンプ」誌上で連載されているスポーツ漫画「ハイキュー!!」。今、この作品に世間の大きな関心が寄せられています。この記事では、人々が「ハイキュー!!」に魅了される理由とは一体何なのか、そのヒットの背景をWeb上での検索動向や、コンテンツマーケティングの観点から読み解いていきます。

8年の連載に幕を下ろす「ハイキュー!!」に、大きな関心が集まる

「少年ジャンプ」で2014年4月から連載が始まった人気スポーツ漫画「ハイキュー!!」。このたび、2020年7月20日発売の同誌上で漫画の連載が完結し、8年の連載に幕を下ろしました。

「次回完結」と発表された7月13日には「ハイキュー!!」の名がTwitterトレンド入りし、同タイミングでGoogleの検索ボリュームも急激に増加しています。

[図1]Googleトレンド「ハイキュー!!」2020年7月11日〜18日のチャート
1_googleトレンド_ハイキュー!!_過去7日間のチャート.png

さまざまな数字から見る「ハイキュー!!」の人気度

「ハイキュー!!」はどれほどの人気を誇る作品なのか、さまざまな数字から見てみます。

コミックス全45巻の発行部数は3800万部

「ハイキュー!!」コミックス全45巻の累計発行部数は3800万部。これは、「ワンピース」や「ドラゴンボール」「鬼滅の刃」には及ばないものの、一般的にヒット漫画としてよく知られる「のだめカンタービレ」や「Dr.スランプ」「聖闘士星矢」を上回るボリュームであり、多くの人がこの作品に魅了され、愛読していることが伺えます。

参考:歴代発行部数ランキング|漫画全巻ドットコム

テレビアニメ化、そして劇場版アニメも累計4本公開

[図2]「ハイキュー!!」連載開始からのGoogle検索ボリューム推移
2_ハイキュー!!_検索ボリューム.jpg
コミックスの累計発行部数で人気を誇るだけでなく、2014年4月よりテレビアニメ化もされており、これまでに合計4シリーズが放映されています。

[図2]を見ると、テレビアニメ放映開始のタイミングで一気に知名度、及びファン層を広げたことが、Google検索ボリュームの推移からもわかります。テレビで放映されるということは、普段「少年ジャンプ」や漫画を読まない層も、作品やキャラクターに触れることになります。学園スポーツ漫画という世界観もあり、あらゆる年齢層が、親子でも一緒に楽しめる作品ということで「子供が見ているから親も一緒に見て楽しむ」といった広がり方も含め、自然と多くのファンを獲得していったと考えられます。

アニメ版は「劇場版」にも展開し、こちらも順次4作品が全国の映画館で公開されました。2019年9月に公開された「ハイキュー!!才能とセンス」は上映箇所が全国20スクリーンとそれほど多くはありませんでしたが、1スクリーンあたり100万円の興行収入と高い注目を集めました。

参考:【週末興行ランキング】「ハイキュー!! 才能とセンス」圏外15位ながら高いアベレージを記録|アニメハック

2.5次元ミュージカル市場にも参入

テレビアニメ化、劇場版アニメ化だけではなく、近年人気の「2.5次元ミュージカル市場」にも参入しています。この「2.5次元ミュージカル」というのはアニメや漫画を原作とするミュージカル公演の総称のこと。アニメや漫画のキャラクターの特徴を活かしつつ、生身の役者が舞台上で演じる、というもので、アニメファンを中心に人気を博しています。

「ぴあ総研」のリサーチ結果によれば、この「2.5次元ミュージカル市場」となるものは順調に成長を続けており、2018年には前年比45%増の伸長を記録。「ハイキュー!!」もその中の主要人気タイトルの一つとして挙げられており、多くの人が「ハイキュー!!」の2.5次元ミュージカルを楽しみに、劇場へ足を運んだと推測できます。

参考:前年比45%増。成長を続ける2.5次元ミュージカル市場/ぴあ総研が調査結果を公表|ぴあ

さまざまなメディアで人々を魅了する、「ハイキュー!!」の世界観とは

前述のように漫画、アニメ、舞台とさまざまなメディア展開を通じてファンとの接点を深め、多くの人々を魅了している「ハイキュー!!」。そのあらすじ、キャラクター、世界観とは一体どのようなものなのでしょうか?

王道の学園スポーツ漫画だが、決して順風満帆ではない「リアルな青春」

舞台は、架空の高校「烏野高校」。かつてはバレーボールの強豪校でしたが、もはやそれほど華々しい舞台とは言えず、「地に落ちた強豪校」とも囁かれる学校です。

主人公の少年「日向翔陽」はバレーボール選手としては小柄ながらも、天性の運動能力や持ち前の明るさ、ポジティブさでバレーボールの道を志します。中学時代からバレーボールに挑戦したかったものの、そこでは部員が居ないという逆境。やっとの思いで、たった一度きりの公式戦に挑みますが、そこで対戦校の冷徹なエース「影山飛雄」に惨敗してしまいます。

後に日向は、「烏野高校」入学とともに改めて熱い想いを抱いてバレーボール部に入部します。ところが、そこで驚くべきことにあの憎きライバル「影山飛雄」と偶然にもチームメイトとして一緒に活動していくことに。

太陽のように明るく情熱的でポジティブな「日向」と、冷徹なエースだがどこか孤独感や不器用さが滲み出る「影山」。二人はまさに「影」と「日向」、「陰」と「陽」のようなコントラストで描かれ、いつも練習中に衝突したり、いがみ合いが絶えません。

そんなライバル関係を続けながら、物語の進行と共に、互いに人として成長していき、やがてはバレーボールプレイヤーとして「黄金コンビ」へと進化を遂げていく様子が綴られます。

二人をめぐるチームメイト、先輩、マネージャー、コーチ、さらには対戦相手となる他校のバレーボール部員たちも、それぞれに個性豊かな面々ばかり。

チームで春高バレーを目指すものの、なかなか優勝を果たせなかったり、メンバー内で衝突したり、いがみ合ったり、モヤモヤ、イライラしたり。王道の学園スポーツ漫画ではあるものの、そこには決して順風満帆ではない、リアルな青春の姿が描き出されています。

漫画やアニメ、ミュージカルといった架空の物語に対して読者や視聴者は「痛快さ」や「勧善懲悪」を求める部分もありますが、「決して順風満帆ではないストーリー」にどこか自分自身とも重なるリアルさを感じて、思わず深く感情移入してしまう側面もあるのではないでしょうか。

そのようなストーリーやキャラクターに、多くのファンを引きつけている理由があると考えられます。

参考:ストーリー紹介|ハイキュー!!.com

読者が主人公たちの成長を見守る感覚

先述したように「ハイキュー!!」の世界観とは、決して「順風満帆」「痛快そのもの」ではなかったり、キャラクターたちもどこか影を抱えていたり、舞台となる高校も、かつて強豪校だった栄光をどうにかして取り戻そう、といった再奮起からのスタートです。

そこで読者視点、ファン視点として仮説を立てられるのが「共に成長を見守る」「『推し』を育てる」といった心理です。

ランキングサイト「みんなのランキング」で「ハイキュー!!人気キャラクターランキング!最も愛された登場人物は?」という一般ユーザーからの投票結果を見ると、1位を獲得したのは決して主人公の「日向翔陽」ではありません。まるでアイドルグループの総選挙さながらに、じつにさまざまな理由で脇役キャラクターたちもファンからの愛着を得ているのです。

例えば、1位を獲得した「影山飛雄」に寄せられたユーザーコメントを見てみましょう。

イケメンで高身長でスポーツできて完璧かと思えば、バレーの頭はいいのに勉強はだめ…とかもう可愛すぎるw
中学の時色々あったけど、今はもう孤独王様じゃなくなってチームに溶け込めてるから…もう嬉しいです泣((母性が

影山飛雄は不器用な男の子だなあと思います。
日向との速攻コンビは本当に凄いし、本当にこんな選手がいたら皆が欲しがるような子だなと思いました。
でも人との関わりが苦手に感じます。
それを日向が打ち消すようにわいわいしてる2人があたしは好きです。

引用:ハイキュー!!人気キャラクターランキング!最も愛された登場人物は?|みんなのランキング

こういった一般ユーザーのコメントを見ると「ちょっと不器用なところが好き」「どこか影のあるところに惹かれる」「それを応援したい」「共に見守っていきたい」といった視点で登場人物を見ている様子が伺えます。

「共感コンテンツ」という捉え方

このように「ハイキュー!!」が人々を魅了する要因の一つには、「共感コンテンツである」という側面が挙げられるのではないでしょうか。

「共感コンテンツ」については以前に当メディア・ferretで、菅本裕子(ゆうこす)氏による登壇イベントレポート内にて以下のように紹介しています。

・「わかるわかる、それいいね!」というコンテンツ
・「本当は思っているけど、自分じゃ言えないんだよね」というコンテンツ
ゆうこす流、共感されるSNSの作り方

ゆうこす流、共感されるSNSの作り方

SNSアカウントを作成し企業活動に利用するソーシャルメディアマーケティングは、多くの企業で取り入れられています。10代~20代の若者にSNSで圧倒的な支持を誇るゆうこすこと、株式会社KOS 代表取締役 菅本裕子氏(以下、菅本氏)が語る「SNSで共感を生むコミュニケーション」についてレポートします。

これを「ハイキュー!!」のストーリーや登場人物に当てはめて考えてみます。

熱い闘志や夢を抱いて前進しようとしても、なかなか思い通りにはならないリアルさ。そんな状況の中、仲間同士でイライラやモヤモヤをぶつけ合いたくなってしまう、傷や痛みを伴うような青春の苛立ち。

そんな場面が次々に描き出されていくところに、「わかるわかる!」「自分でも同じようなモヤモヤを抱えたことがあったけど、この作品がうまく表現してくれてる!」と「共感」を抱いた読者やファンが多く、漫画、アニメ、映画、舞台といったさまざまな接点を通して強い感情移入を深めていったユーザー像が浮かび上がってきます。

ヒットコンテンツの背景には「共感」がある

ヒットコンテンツの背景には「共感」がある。「ハイキュー!!」をめぐるさまざまなデータの考察から、そんな結論が導き出されました。

この「共感コンテンツ」という考え方は、SNS上のコンテンツ拡散についても必要な要素である、と言われています。企業のWeb担当者や、SNS担当者の方はぜひこの「共感コンテンツ」という着眼点も念頭に置き、これからのコンテンツ投入の参考にしてみてはいかがでしょうか。

ヒットの裏側を探るシリーズはこちら

「あつまれ どうぶつの森」爆発的大ヒットの要因とは?

「あつまれ どうぶつの森」爆発的大ヒットの要因とは?

ビジネスパーソン、特にマーケターなら今の市場のトレンドを知ってヒット要因を理解し、自社のビジネスのヒントにしたい、と考えている人も多いのではないでしょうか。今回は、現在大ヒット中のゲームソフト「あつまれ どうぶつの森」のヒット要因をさまざまなデータから読み解きます。

『ONE PIECE(ワンピース)』を超える異例の売上。『鬼滅の刃』が大ヒットした理由

『ONE PIECE(ワンピース)』を超える異例の売上。『鬼滅の刃』が大ヒットした理由

『週刊少年ジャンプ』(集英社)にて連載された、吾峠呼 世晴(ごとうげ こよはる)による漫画『鬼滅の刃(きめつのやいば)』が、異例の大ヒットを遂げています。では、この『鬼滅の刃』は、いつ、どのようにして、このような大ヒットとなったのでしょう?今回はGoogleの検索ボリュームをもとに、ヒットの要因を探ります。